METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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七人の戦術人形 part3

 襲撃を仕掛けたエグゼとAK-12が戻ると、ハイブリッドたちを迎え撃つための準備は既に整っていたようでトラップの敷設を任されていたレックスが二人を出迎える。エグゼが信頼を置くトルーパーの一人とはいえ、元を辿れば鉄血をベースにした量産型の戦術人形だ。AR小隊やAN-94がちゃんと指示に従うか不安であったが、どうやら杞憂だったらしい。

 ただエグゼに従うよりもレックスの指示には協力的な態度を示していたことが分かると、途端にエグゼは不機嫌になるのだが…。

 

 それはともかくとして、先手を打つことに成功した二人が戻るや否や敵は村に向けて攻撃を開始した。

 足の速い歩兵部隊が迫撃砲の照準を村に合わせ砲撃を開始、迫撃砲より放たれる砲弾が村の遮蔽物に隠れる彼女たちの頭上から落下し建物を吹き飛ばしていく。

 レンガ造りの家屋の壁に背をつけて屈むM4は迫撃砲の砲弾がいつ自分の真上から振って来ないか不安でたまらない様子であった…しかし、ふと見た先でエグゼがニヤニヤしながら見ているのに気付き、途端に不愉快そうに表情を歪めるのだった。

 

「なに笑ってるんですか!?」

 

「なにビビってんだよ、こんなの無人地帯(ノーマンズランド)での戦いに比べりゃしょぼいもんだろう?」

 

 M4にとっても忘れたくても忘れられない無人地帯(ノーマンズランド)での激戦、鉄血とMSFの双方に挟まれて孤立無援の中凄まじい砲撃の雨に晒された記憶は今でも鮮明に思いだせる。確かに、エグゼの言う通りその時に比べればこの砲弾の規模は遥かに小さいのだが、だからといって全く脅威なわけではない。

 

「このままじっとしてれば迫撃砲の餌食になる!」

 

「落ち着けよアホ、どうせ当たりゃしない」

 

 M4とは対照的にエグゼは壁に寄りかかったままリラックスしている様子だ。それを信じられないという目つきでM4は見ていたが、村に撃ちこまれていた砲撃の音が止んだのに気付き、次なる戦闘を意識する。

 遮蔽物から顔を出して敵の様子を伺うと、ハイブリッドの歩兵たちが散開し村に侵入しようとしてくるのが分かる。しかし敵の数は思っていたほど多くはなく、常に大群で動くハイブリッドを想定していたM4としては拍子抜けだ。

 

 油断しているのか、それとも小手調べか…相手の出方を伺うべきか悩むM4はエグゼの方に目を向けたがさっきまでそこにいたエグゼの姿はない。すぐに視線を敵に戻したM4が見たのは、得物のブレードを肩に担ぐ猛然と敵に突っ込むエグゼの姿だった

 エグゼの突撃に気付いたハイブリッドがすかさず発砲してきたが、エグゼは自慢の脚力で大きく跳躍して銃撃を躱すとともに一気に敵との距離を詰めた。感情のないロボット同然のハイブリッドが焦ったかどうかは定かではないが、エグゼの素早さに反応しきれず、ブレードの一撃により真っ二つに斬り裂かれた。

 

 そのままエグゼはそばにいた別のハイブリッドも瞬時に破壊し、物陰から飛び出してきた敵もブレードの刺突で破壊された。しかし敵はさらに出現し、エグゼを接近させないよう距離をとって攻撃を仕掛けてくる。

 

「来いよ! こうして生で戦うのは久しぶりなんだ、滾らせろよな!」

 

 自身に攻撃を仕掛けてくるハイブリッドに向けてエグゼは獰猛に笑い、久しぶりに感じる戦場の空気を感じて酔いしれているようだ。言葉通り、ここ最近は直接的な戦闘に関わっていなかったこともありエグゼは興奮している様子。

 見据える敵に向けて突撃しようとしたところ、狙っていたハイブリッドの歩兵たちが突然側方からの銃撃を受けて破壊される。

 ハイブリッドらの不意を突いたのはM4だ。

 彼女は這いつくばるハイブリッドに対してとどめを刺すと、勢いよくエグゼのそばに走り寄りそのままエグゼを殴りつけた。もちろんエグゼも思い切り殴り返し、M4は鼻血を流して倒れこむ。

 

「おいいきなり殴ってくんなよ?」

 

「くぅ、痛っ……このメスゴリラ…! 敵を罠で迎え撃つ作戦だったでしょ!? なにやってんの!?」

 

「敵を見ろよ。奴ら罠を警戒してる動きだ、こっちからも迎え撃つ姿勢を見せなきゃ敵の群れを釣れないぜ?」

 

 敵は罠を警戒している。

 迫撃砲による砲撃も、小規模な分隊を送りだしてきたのも警戒の現れだ。村に用意した罠を分隊程度の敵に向けるわけにはいかない。罠をより効果的に炸裂させるには、敵の大部隊を村に引きずり込まなければならない。

 

「とにかく、他のみんなと合流しないと…!」

 

「せいぜい足を引っ張らないよう頑張りな」

 

「うるさい! 鉄血のクズ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小手調べの砲撃はしのいだけど、この先の作戦とかもちろん立ててるのよね?」

 

「ええもちろん。あなたが囮になって私たちは逃げる」

 

「その神算鬼謀、さすがだAK-12!」

 

「クソの役にも立たないアドバイス感謝するわ、反抗期小隊!」

 

 何か名案でもあるかと思って一緒にいた反逆小隊の二人に質問したが、本気なのか冗談なのか分からない返答を聞いて、AR-15は今すぐ目の前の二人を敵に放り込んでやりたい気持ちに駆られる。

 畑の柵を踏み倒して村に侵入しようとする敵に向けて引き金を引く。

 AR-15の射撃は正確に敵の関節部を狙い撃ち、体勢を崩すことに成功するも小口径の銃弾では仕留めきることが出来ない。被弾を想定している正面部は間接部ですら小口径の銃弾を弾く堅牢さを有している。徹甲弾を持たない彼女たちにとって本来なら相性の悪すぎる相手だ。

 

「もう一度聞くわ反抗期小隊! 何か手はあるの!?」

 

 いまだ涼しい表情で敵を伺うAK-12にAR-15は苛立ちを感じさせる声で怒鳴る。

 

「ご心配なく。活路はあなたの相方と、MSFのぴょんぴょんカエルちゃんが開いてくれるわ」

 

「ぴょんぴょんカエル?」

 

 この期に及んでふざけた言葉を口にするAK-12に我慢の限界が来た。しかしAR-15の怒りがAK-12へとぶつけられる寸前に、彼女たちの近くで爆発が起こるのだった。飛来する瓦礫に頭を下げてやり過ごし、そっと敵の方を伺う…。

 畑の方から侵入していた敵がほぼ全て破壊されていたのだ。

 半身を失い這って動く敵が数体居たが、それは屋根裏からひょっこりと顔を出したSOPⅡの射撃でとどめを差されるのだった。

 

「SOPⅡ! はぐれたと思ったらそんなところに!?」

 

「にゃははは! ここからならみーんな丸見えだもんね!」

 

 屋根裏から顔を出すSOPⅡは楽しそうに笑いながらグレネード弾を装填すると、別方向から侵入する敵の集団に向けて榴弾を撃ちこむ。しかし今度現われた敵は数が多く、仕留めきれなかった後続の兵が仲間の残骸を踏み越えて殺到する。

 そのうちの一体は重厚なシールドを備え付けた火炎放射器を持ち、その噴射口をSOPⅡの隠れる民家へと向けるのだった。

 

 ヤバいと思ったSOPⅡがすぐさま頭をひっこめるが、敵の火炎放射が瞬く間に民家を火で覆い尽くす。

 仲間のピンチにAR-15は叫び、民家に火を放つ敵兵に向けて銃撃するが盾となるように立ちはだかる前衛に弾かれてしまう。

 そんな時、離れた家屋の屋根から突如として姿を見せたレックスが驚異的な跳躍力で敵の頭上を跳び越えながら、空中から何かを敵に向けてばら撒く。ジャンプした勢いのまま燃え盛る民家に転がり込んでいったレックスは、数秒後SOPⅡを抱きかかえて脆いガラス窓を突き破って脱出した。

 まんまと逃げおおせたレックスに狙いを定めるハイブリッド兵、しかし奴らが引き金を引く前にレックスは起爆スイッチを押し、先ほど空中から撒いた爆弾で敵をまとめて爆殺した。

 

「お怪我は?」

 

「ありがとうレックス! あやうくバーベキューになるところだったよ!」

 

「笑い事じゃないわSOPⅡ! もう少しで死ぬところだった!」

 

「後にしましょう。敵の後続が迫っています、仕掛けた罠を発動させるときです」

 

「ええそうね、他の仲間と合流して―――伏せてっ!」

 

 何かに気付いたAR-15が咄嗟にそう叫ぶと、次の瞬間辺りが一瞬眩い閃光が覆い凄まじい衝撃が彼女たちを襲う。咄嗟に伏せた彼女たちは衝撃波によって吹き飛ばされ、散り散りとなってしまう。

 

 

 

「うぅん……なんなのよ…! AN-94、大丈夫?」

 

 一緒に吹き飛ばされたAN-94に声をかけるも返事が帰って来ない。AK-12のすぐそばで倒れる彼女に大きな外傷はないが目を開けたまま微動だにしない。AK-12が何度か彼女の頬を叩くと、ようやく反応しAN-94は驚いたような表情を浮かべる。

 

「一体何が?」

 

「忌々しいマクスウェルの砲撃に違いないわ。今のでだいぶ罠が吹き飛ばされた」

 

 あらゆる兵器を一撃で葬り去るマクスウェルの砲撃、幸いにも直撃を免れたが凄まじいエネルギーが炸裂したことによる衝撃波でAN-94のメンタルモデルが一瞬乱れてしまっていたようだ。AN-94を立ちあがらせて村の奥に後退していく…村の民家を粉砕したマクスウェル戦車が喧しい駆動音を鳴り響かせながら、柵や民家の壁を強引に踏みつぶし前進してくる。

 ハイブリッド兵が戦車の周りに集結し、戦車の死角をカバーするように進む…敵は目につく家屋に火を放ち、隠れ場所をしらみつぶしに破壊していくのだった。

 

 

「マクスウェルは恐ろしい戦車よ。あれにかかったら正規軍の高価な兵器も一瞬で消し炭にされる、一方的な存在よ……っていうのは過去の話、今は対策も十分に研究されてる。さて、反撃の時間よ…みんな位置についた?」

 

 

 あらかじめ配った小型の無線機を用いてAK-12は仲間たちへと合図する。

 先ほどのマクスウェルの砲撃から辛くも逃れた3人も無事配置につく…エグゼとM4と連絡が取れないのは気掛かりだったが、AK-12は当初の予定通り作戦を進めるのだった。

 マクスウェル戦車が村の中央通りを進み、両側に背の高い雑草が茂る道へと差し掛かった時、AK-12は仕掛けられた地雷を起爆させた。地面に埋設された地雷を繋ぎ合わせた即席爆弾がマクスウェルの履帯を切り、随伴歩兵を爆風で吹き飛ばした。

 

「今よみんな、お待ちかねの蹂躙タイム」

 

 AK-12が合図する間もなく、隠れていたSOPⅡが草むらから飛び出し至近距離からハイブリッド兵の頭部へ銃弾を叩き込む。一体を倒すとすぐさま茂みに身を潜める一撃離脱戦法をとり、AR-15が追撃しようとするハイブリッド兵の足を止める。

 

「油断しないで、マクスウェルはまだ生きてるわ!」

 

 履帯を切られたマクスウェルだがその強力な砲は未だ健在だ。

 さらにご自慢のシールドも健在であり、側方面からAN-94が撃ちこんだ対戦車ロケット砲を受けてもびくともしていない。主砲以外にも厄介なのが戦車の機銃だ、凄まじい連射力を持った機銃による射撃は遮蔽物をも吹き飛ばす威力を持つ。

 この忌々しいマクスウェルを破壊するにはシールドが切れる一瞬を狙わなければならない。

 マクスウェルがそのエネルギーを主砲の射撃に回すとき、つまりは射撃体勢に入りレーザー砲が発射される十数秒の間に破壊しなくてはならないのだ。

 ということは、必然的に誰かがあのレーザー砲に狙われなければならない。

 そしてその役目を引き受けたのが、エグゼとM4だ。

 

 

「おら来いよくそマヌケ! 狙いはこのオレ様だろう!?」

 

「なんで、こんな事に…!」

 

 

 戦車の正面にエグゼが颯爽と登場し大声で挑発する。

 一緒に現われたM4は囮をエグゼ一人に任せようとしたらしいが失敗、エグゼに羽交い絞めにされて逃げることが出来ないようだ。エグゼの狙い通り、戦車の砲塔は正面のエグゼに向けられ、凄まじいエネルギーが収束させられていくのを感じ取る。

 車体の側面と後方を随伴歩兵がカバーし、ロケット砲を持った者が接近したとしても迎え撃つことが出来ると踏んで主砲の狙いをエグゼに絞っているようだが…マクスウェルはほぼ全ての戦車の弱点とも言える箇所だけはカバーしていなかった。

 

「レックス!!」

 

「了解コマンダー!」

 

 草むらを全力で駆け抜け、SOPⅡが踏み台代わりとなってレックスの跳躍力を最大限に発揮させる。マクスウェルのほとんど無防備な砲塔直上まで跳びあがったレックスは、空中で身を翻し、対戦車ロケットをマクスウェルの天板へと撃ちこんだ。

 貧弱な天板をロケットが貫き、車体内部で炸裂したロケット弾によって内部爆発を引き起こしマクスウェルの砲塔が分離し吹き飛んでいった。

 

「残党狩りだ! 全部ぶっ潰せ!」

 

 戦車の爆発に巻き込まれたのがほとんどだが、かろうじて生き延びた敵もその後集中砲火を受けて殲滅、村に攻め込んできたハイブリッドの部隊は壊滅した。

 マクスウェル戦車という普段ならまともに戦うことのない相手に戦ったためか、どっと押し寄せてきた疲労感に人形たちはその場に腰を下ろすが、エグゼは戦車の車体に駆け上がり車内を覗き込む。

 

 

「クソ、あのやろう逃げやがったか…!」

 

「どうしたの?」

 

「オレにケンカ売ってきた変なハイエンドモデルがいたんだがよ…」

 

 

 車内にあの謎のハイエンドモデル"レイダー"の残骸はない。

 悪態をついていると、鉄血が用いる通信を介してエグゼに声が届けられる…相手はあのレイダーだ。

 

 

『さすがだエクス姉ちゃん! 見事な戦いぶりだったよ!』

 

「テメェこのやろう! とっとと姿みせろ、ぶっ殺してやる!」

 

『落ち着いてくれ姉ちゃん、そう焦るなって。人生は長いんだ、これからゆっくり付き合っていこう』

 

「うるせえな、お前の首をねじ切ってやるよ」

 

『おー怖い、さすが姉ちゃんだ! アルケミスト姉さんやデストロイヤーお姉ちゃんに逢うのも今から楽しみだ! あたしもドネツクの鉄血の工場で生まれたんだ、そうさ、あたしも姉ちゃんたちと同じ家族なんだぜ? というわけで、また会える日を楽しみにしてるぜ!』

 

 

 一方的に通信が切られ、エグゼは舌打ちして苛立ちを露わにする。

 

 

「腑に落ちねえな……まあともかく、村は守れたってわけだが。こんな惨状じゃあ…」

 

 村は防衛したが酷く荒れたこの場所で再び同じ営みを続けることは困難だろう。ということでエグゼが考えたのはMSFで保護するか、あるいは……村にいる者のほとんどが子どもであることを思いだしたエグゼは、ため息を一つこぼし某暗黒大陸の成り上がり令嬢に連絡を取り、一報を入れておくこととしたのだった…。




久しぶり~


久しぶり過ぎて世界観わすれてもうたw

ということでシリアスは手放しておふざけワールドしましょう

全部ツイッターが悪いんです!
ツイッターで遊んでたら悪いお友だちができて、健全な犬もどきが大変な変態に染め上げられてしまったのです!


たぶんここ一か月の変化にびっくりすると思いますが、風変わりしても拙作をよろしくお願いしますw

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