METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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メンタルアップグレード

 部隊拡張、新兵の訓練、新兵器の性能テスト、軍事演習、戦地での活動……ここ最近は忙しさが舞い戻ってきたことで睡眠時間を削って仕事をこなしていたエグゼであったが、多忙な時期を気合と持ち前の体力で遂行し終えるとどっと押し寄せてきた疲労感に襲われて休暇を申請し受理された。

 以降の部隊の仕事についてはスコーピオンやスプリングフィールドらに任せ、エグゼは療養をとるために久しぶりにマザーベースへと帰ってくる。帰ってきた時間帯も夜ということで誰にも会うことは無く、くたびれた様子でエグゼはマザーベース内の自分の宿舎へと向かう。

 

 最後にマザーベースの宿舎を利用したのは数週間前、スコーピオンらと酒を飲みながらゲームをやってばか騒ぎしていた時だった。部屋はその時のまま荒れ放題、というわけではなく定期的に入る掃除専門の自律人形が雇われているおかげで隅々まで清掃が行き届いている。

 部屋の明かりもつけずにベッドにエグゼは倒れ込む。

 蓄積した疲労によって睡魔がほどなくしてやってくる。

 それに抗いもせず、まぶたを閉じて身体の力を抜く。心地よい安らぎを感じていると、何やらベッドの中に何かが潜り込んでくる気配を察する。華奢な体躯で身体にしがみついてくるその正体はエグゼも分かっており、彼女はその子を抱いたまま深い眠りにつくのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、誰かに身体を揺さぶられる感覚で目を覚ましたエグゼはカーテンの隙間から差し込む光に目を細め大きな欠伸をかく。それから寝返りをうって二度寝しようとするも再び身体を揺さぶられる。

 

「ママー?」

 

「うー…もうちょい寝かせろよ…」

 

「でもママ、ちょってこれみてー?」

 

「うーん……なんだよヴェル?」

 

「えへへへ、めんたまとれた!」

 

「あぁそう…………あ?」

 

 身体を起こしてヴェルを見てみれば、ヴェルは小さな手に奇妙な眼球をつまみあげて無邪気に笑っていた。

 寝起きで頭が回らないエグゼはぼうっとしていたが、不意に見たヴェルの顔…愛くるしい表情で笑っているが、本来あるはずの右目がなくなっており、何もない眼孔があった。

 思考が追いつかず、ただ笑顔のヴェルを眺めていたエグゼであったが徐々に意識が覚醒していくとともに、言いようのない不安と恐怖がこみあげる。そしてそれが最高潮に昂ると同時、エグゼの絶叫がマザーベースに響き渡る。

 

 するとすぐに、部屋の外からドタバタと何者かが駆けつけてくる足音が聞こえてきた。ドアを乱暴に開けて入って来たのはハンターとネゲヴだった。二人は腰を抜かして座り込んでいるエグゼをまず見て、それからベッドの上で不思議そうな表情で目玉を弄っているヴェルを見る。

 二人ともヴェルの片目がないことにすぐ気付き、また弄っている目玉がヴェルのものだとすぐに察した。

 

「どうしたんだヴェル!? 誰かに襲われたのか!?」

 

「まさかエグゼ! 児童虐待してるわけじゃないわよね!?」

 

「知るか! 起こされて見たら、こうなってたんだよ!」

 

 3人ともパニックに陥りぎゃーぎゃー喚き散らす。

 そうしている間に騒ぎを聞きつけた者らが部屋の外に集まりだした。

 

「と、とにかく一度ストレンジラブに診てもらおうか」

 

「そ、そうだな」

 

 エグゼとハンターはそれで納得しヴェルを再度見た…次の瞬間、目玉を弄っていたヴェルの片腕が突然ぼとっとその場に落ちるのを目の当たりにし、三人の顔から一機に血の気が引く。

 

「こんどはうでがとれたー!」

 

「すぐにストレンジラブのところに連れていくぞ!」

「おう!!」

 

 事態を重く見た3人はベッドの上に座るヴェルをすぐさま抱きかかえ、部屋の外に群がる野次馬たちを一蹴してストレンジラブの研究所へと向かう。その際、なんだかヴェルの片足も脱落したような気がしたが、それを確認する暇もなく猛ダッシュで研究所へと駆け込んでいった。

 朝っぱらから騒がしくやって来た事に不愉快そうなストレンジラブであったが、ヴェルの身体を見た瞬間彼女も驚愕する。だがそんな反応を期待していない3人はとりあえず一発ずつ殴ってストレンジラブに平常心を取り戻させ、身体のあちこちを欠損させているヴェルを預け研究所に押し込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義体の経年劣化だってぇ?」

 

 数時間後、研究所から出てきたストレンジラブが述べたヴェルの不調の理由にエグゼは不信感を露わにする。

 

「経年劣化ってどういうことだよ?」

 

「ヴェルが生まれた時、お世辞にもMSFの人形関連の技術はお粗末なものだったからな。逆に今までよく持ったと言っていい」

 

「確かに。トルーパーを見ても、前期型と後期型とで造りは違うからな。レックスのような改造で現行機に並ぶ戦闘力のある人形もいるが、それは一部の例外だしな」

 

 ハンターの言う通り、MSFの戦力の主軸となるヘイブントルーパーの中にも初期型と後期型とで信頼性や性能も多少変わってくる。

 特にヴェルの場合、MSFで試験的に行われたダミーリンクのプロトタイプという側面もあって技術的に未発達なところも多々あった。ヴェルの人格を構成するAIはストレンジラブの自信作ということであるが、ボディの方は実は脆い存在だった。

 

「それで、新しいボディを用意すれば済む話ってわけか?」

 

「そういうことだ、あまり深刻に考えないでほしい」

 

「ならいいけどよ」

 

「ついでといってはなんだが、ヴェルもたくさんの経験をして成長の時だと思うからな。メンタルアップグレードを施してやろうと思う」

 

「メンタルアップグレード?? なんだそりゃあ?」

 

「それについてはこの私が説明しよう!!」

 

 エグゼの疑問に颯爽と、どこからともなく現れたのはアーキテクトだ。

 つい反射的に殴ろうとしたエグゼであったが、隣にハンターがいてくれたのはアーキテクトにとって幸いだっただろう。しかしハンターがかばってくれたともつゆ知らず、アーキテクトはいつもの調子で語りだす。

 

「私たち人形も成長を遂げられる、ずばりメンタルモデルのアップグレードだね!AIの強化といってもいいけど、ヴェルちゃんの場合はこれまで見て経験して感じたことのデータを集約してメンタルモデルをアップグレードさせてみたの!」

 

「つまり、人間のように成長するようになるということか?」

 

「そうだよハンター! まあ、人間と同じってわけじゃないけどそれに近いのかな? それに合わせてヴェルちゃんの新しいボディも造ったし、きっと可愛くなっていると思うよ!」

 

「ちょっと待って、そんなことできるならさっさと私のこのガキくさいボディをどうにかしてよ」

 

「ん~、ネゲヴちゃんはそのままの方が可愛いから現状維持で!」

 

「くそ!」

 

 これまでに何度もネゲヴは子どものようなボディを交換したい旨を要求していたが、そのいずれもストレンジラブやアーキテクトにはねのけられているため今もちびっ子ボディのままだ。大人のセクシーな身体を手に入れてキッドをおとしたいという願いがあるのに、二人のアホ研究員のせいで願いは果たされないままだ。

 

「よし、そろそろ調整も終わっただろう。成長したヴェルちゃんに会いに行こう」

 

「ほんとに大丈夫かな?」

 

「信じろ、ハンター」

 

「お前らだから不安なんだよ」

 

 どうにも信用ならない二人をジト目で見つつ、研究所の中へと足を踏み入れていく。

 ヴェルが新しいボディを用意されている施設まで向かい、アーキテクトが端末を操作し施設の扉を開いた。

 

 扉を開いた先のベッドの上に、下着のみを身にまとった少女の姿をした人形が寝かされていた。

 容姿はエグゼと瓜二つ、今までのヴェルからは身長も大きくなり胸も女性らしく膨らみ大人の色っぽさと少女のあどけなさが混在する危うげな印象を抱かせる。アーキテクトの操作でメンタルモデル移植のためのケーブルが取り外されると、寝かされていたヴェルは目を開き上体を起こした。

 

 母親と同じさらさらとした黒髪はストレンジラブかアーキテクトの趣味なのかツーサイドアップで結われ、心配だった目はきちんと新調されて親譲りの綺麗な赤い目がキラキラと輝いている。

 生まれ変わったヴェルはしばらく自分の身体を確かめていたが、ふと自分を見るエグゼたちの視線に気付く…そのまま目をぱちぱちさせていたが、やがて顔を紅潮させてベッドから降りて近くにあったカーテンに身を隠す。

 

「おやおや、これは新発見だね! ヴェルちゃんは羞恥心を覚えたみたいだね!」

 

「羞恥心だって? 今更そんなの下らねえ……ほれヴェル、こっち来いよ。新しい身体見せてみろ」

 

「うっさい! もう子どもじゃないんだから、ガキ扱いしないで!」

 

「んなっ!?」

 

 帰ってきたのは、これまでヴェルが口にすることもないであろう言葉だった。

 まさかの返答にエグゼはだいぶショックを受けているようだ。

 

「だから言ったでしょ? 人間の成長とはちょっと違うって。どうやら新しいヴェルちゃんはツンデレちゃんみたいだねぇ~」

 

 アーキテクトが着替えがわりにサイズの大きい白衣を持って行くと、ヴェルは乱暴にひったくる。

 それからもツンツンとした態度をしたままであるが、性格面の急激な変化はヴェル本人も困惑しているのが見て取れる。それを察したハンターは、いまだショックを受けたままのエグゼの背中を押してヴェルに向き合わせる。

 娘の不安を取り除いてやれるのは親しかいない…ハンターの意をくみ取ったエグゼは小さく笑い、ヴェルに歩み寄るのだった。

 

「ヴェル、すっかり成長しちゃったな。もう子ども扱いしないからよ、これからもよろしくな」

 

「…ママ」

 

「でもな、お前はオレのかわいい子どもだしこれまで通りたくさん愛してやるからさ。お前もたくさん甘えていいんだからな?」

 

「ママ………いや、愛してるとかそういうくさいセリフいいから。ママそんな言葉使う人じゃないでしょ?」

 

「あぁ!? おいどういうことだ、ただの反抗期じゃねえかよ!」

 

「まったく、親も親なら子も子だな。エグゼ、お前がいつまでも反抗期卒業しないからヴェルもこうなるんだぞ?」

 

「うるせえ! ぶっ殺すぞハンター!」

 

「こら、そんな言葉を使うんじゃない。そういう事してると悪い成長してしまうぞ?」

 

 今朝までは無邪気な甘えん坊だったヴェルが、アップグレードで瞬く間に思春期少女の反抗期に早変わり。

 エグゼは一人ヴェルの対応に困り果てるのだが、そんなところへヴェルのアップグレードの話を聞いたスネークが任務から帰還し研究所へやって来た。

 

「話を聞いたぞ、メンタル…なんとかをやったらしいな? 調子はどうだ?」

 

「とんでもねえよ、すっかり反抗期の生意気なガキになっちまったぜ」

 

「そうなのか? ヴェル、あまりお母さんを困らせるんじゃないぞ」

 

 スネークがそう声をかけると、ヴェルは首を横に振り以前までのような愛くるしい表情で微笑みかけてスネークの手を握る。さっきまでエグゼに見せていたのとは真逆の態度に、エグゼは再度ショックを受ける。

 

「そんなことないよ、私いい子にしてるもん。それよりパパ、おかえりなさい」

 

「ああ、ただいま。なんだ、すっかりいい子に成長したじゃないか。エグゼ、あまり嘘は良くないぞ?」

 

「嘘じゃねえって!こいつさっきまでオレの事滅茶苦茶バカにしてたかんな! なあハンター!?」

 

「いや?」

 

「この裏切り者!」

 

 一人で大騒ぎしているエグゼは相手にせず、ヴェルは今まで通りスネークに甘えて見せる。

 急な変化はもちろんスネークも少し戸惑ったが、ちょっとやそっとでは動じないスネークはすぐに成長したヴェルを受け入れ、ヴェルもそんなスネークを今までどおりパパと呼び慕い懐いてみせる。

 

 問題はエグゼに懐くかどうかであったが、スネークが再び任務でマザーベースから離れたその日の夜、一人じゃ寝れないヴェルがエグゼのベッドに潜り込んできた話を聞いてこれまで通り上手くやれるだろうと一同思うのであった。




エクスキューショナー鹵獲が近いと思ってるのでテンション上がってます
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