METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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MSF健康センター

 マザーベースのサウナが故障し閉鎖された!

 

 唐突な出来事に、これまでマザーベースの浴場内に設置されていたサウナをこよなく愛していたスタッフ及び戦術人形たちは悲しみに暮れる。

 マザーベースのサウナはフィンランドのサウナを意識した造りであり、ヴィヒタを常備しロウリュをしながら高い温度と湿度で気持ちよく汗を流せるということで、とても人気のある設備であった。

 MSFスタッフたちの心身のケアを担う施設の閉鎖によって、スタッフたちの士気が下がったことは否定できないだろう。

 

 

「はぁ~~~…サウナ入りたいよぉ…入りたいよぉ…死んじゃうよぉ…」

 

 

 食堂にて、目の前のカレーライスを口に運びながら嘆くのは、マザーベースのサウナが大好きだった戦術人形の一人であるスコーピオンだ。

 あまり戦術人形の中でサウナを好むのはいなかったが、彼女と9A91時々マザーベースに遊びに来るスオミなどはサウナを愛していた。

 愛しすぎるあまり、スコーピオンは【MSFサウナ部】なるクラブを創設し、水着着用を条件に男女混合でサウナを楽しむイベントを組んでいたほどだった。

 まあ、それでも他の戦術人形たちにはあまり普及しなかったようだが…。

 

 

「サウナぁ…サウナ入りたいよぉ…」

 

「うるせぇなお前は、サウナが無くなっったくらいでピーピー泣いてんじゃねえよ…ったく」

 

 エグゼは他の多くの戦術人形同様、サウナには否定的な者の一人だった。

 曰く、あんな暑苦しい部屋でうーうー言いながら我慢比べみたいに入っているのはあほらしい、というのが彼女の考えであった。

 そもそもエグゼはあまり長湯しないので、シャワーで十分というスタンスだった。

 

「だいだいよ、サウナのなにがいいんだよ?」

 

「分かってないなエグゼ…サウナを入ることによって得られる効果はたくさんあるんだよ?」

 

「例えばなんだよ?」

 

「サウナの効果によって血行が良くなって自律神経を回復させたり疲労の回復、食欲増進とか色々メリットがあるんだから!」

 

「そりゃあ人間の話だろう? なんで戦術人形のお前が入るんだよ?」

 

「今言ったのは人間の効果だけど、戦術人形のあたしらがサウナに入るとね…いつもより元気が出るんだよ…」

 

「あぁ…?」

 

「サウナの効果によってメンタルモデルが安定して戦闘効率が上がるの」

 

「おう…」

 

「OSが活性化して処理能力も上がるし、電波の入りが良くなって通信精度も向上するよ!」

 

「なに…?」

 

「そして…サウナに入れば戦闘で受けたダメージも回復するのだ!」

 

「バカじゃねえのか? アホくさ…さて仕事行ってこよう」

 

「あぁ!待って、待てエグゼ! ほんとだよ、ほんとなんだってばぁ!!」

 

 スコーピオンのいい加減な話に付き合いきれなくなったエグゼはさっさと食堂を去ってしまう。

 結局親友にサウナの魅力を教えられることも出来ず、スコーピオンもまた気落ちした様子で食堂を後にするのであった。 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後のことだった。

 エグゼは部隊の訓練を済ませた後、疲れた身体をベンチに預けそよ風にあたっていた。

 先日の食堂での一件以来、スコーピオンとは会っていない。

 行方不明というわけではないのだが、サウナが無くなってしまったショックがとても大きいのかいつものうるさすぎるほどの元気さなく、とぼとぼ歩いていたという目撃情報だけがエグゼの耳に届く。

 

 流石にかわいそうなことを言ってしまったか?

 サウナの魅力は相変わらず分からないが、あの時少しでも励ましてやれば良かったなとエグゼは思い少し罪悪感を感じていた。

 

 そんな時だった、休むエグゼの前を9A91とグローザが横切り興味深いことを口にする。

 

「————楽しみね隊長さん、またサウナに入れるなんてね」

 

「はい、グローザ。ミラー副司令に感謝です」

 

 

 サウナ、確かに9A91はそう言った。

 休んでいたエグゼは二人を呼び止める。

 

 

「おいお前ら、今サウナって言ったのか? 修理でもしたってのか?」

 

「いいえエグゼ、新しいサウナが完成したんですよ。これからグローザと入って、後で隊のみんなと行くつもりです」

 

「新しいサウナ? 今からマザーベースに行くのか?」

 

「あら知らないの? まあ私たちもついさっき知った話だったけれど…副司令さんがずいぶん前から建設していたらしいのよ。スタッフの健康向上を目的とした設備【MSF健康センター】がね…エグゼも興味があるなら一緒に行かない?」

 

「いや…別に興味はねぇけどよ…スコーピオンのやつが知ったら大喜びするかもな」

 

「サソリさんならさっき話を聞くなり向かったわよ。ふふ、相当嬉しかったみたいね」

 

「マジかよ…そんなにサウナっていいものなのか?」

 

「もちろんですよエグゼ! こればかりは入っていただかないと素晴らしさを分かりませんが…きっと良い経験になりますよ!」

 

「そうか? まあ暇だしちょっと行ってみようかな?」

 

「その意気です同志エグゼ! ではすぐに向かいましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 MSF健康センター、それは前哨基地から数キロほど離れた海岸沿いの場所に存在していた。

 療養滞在のために宿泊施設も併設されている施設はなかなかに広い造りとなっており、いくら極秘に建造していたとはいえよく今日まで隠し通したものだと、エグゼは一人感心していた。

 グローザ曰く別に隠して建造していたわけではないのだが、この健康センター建設を推し進めていた副司令ミラーが熱中するあまり事後報告になってしまったとのこと。

 ミラーのバーガーショップのようにポケットマネーでの事業ではなく、MSFの予算を用いての建造だったため、一悶着あったようだが事なきを得たようだ。

 

 着いたところで早速入館手続きを行う三人。

 下駄箱に靴を置き、MSF所属ということで顔パスで受付を済ませたところ3人より一足早くやって来ていたスコーピオンを発見する。

 

「グローザに9A91…なんとなんとエグゼまで!やっとサウナに興味持ってくれたんだね!?」

 

「いや、別に暇だから来ただけだっての」

 

 きわめてテンションの高いスコーピオンに早くも食傷気味に陥るエグゼであったが、そんなのお構いなしだ。

 スコーピオンはただ、この新しいサウナの施設に仲間たちと再び入れることが心の底から嬉しいらしい。

 もともと仲間想いのエグゼのこと、サウナへの情熱に理解がなくとも親友の嬉しそうにしている姿を見ただけでも、今日ここへ来てよかったと思うのだった。

 一緒に入浴できる仲間も集まったということで、早速4人は大浴場へと向かう。

 

「む? なんだこの香りは?」

 

 大浴場へ入ってすぐ、エグゼは嗅ぎなれないいくつかの香りに気付く。

 何か入浴剤でも入っているのか、そう思うもまずは身を清めることが優先だ。

 サウナを楽しむにしても、お風呂だけを楽しむにしてもまずは身体を綺麗にしなければ何も始まらないのである。

 

「あーくそ…」

 

「あらどうしたの?」

 

 髪を洗うエグゼがこぼす悪態を、隣にいたグローザがたまたま耳にする。

 

「そろそろこの長い髪がうざったくなってきた…切ろうかな?」

 

「気持ちは分かるけれど、あなた長い方が似合ってるし…いつだったか切ろうとしたらアルケミストやハンターたちに怒られそうだったじゃない」

 

「そうなんだよ…姉貴も同じこと言って、マジになってキレるんだぜ? オレの髪なんだからオレの勝手だろって」

 

「あなたも大変ね」

 

 エグゼの不満を適当に受け流しつつ身体を洗い終えた4人。

 ちらほらとMSFの仲間たちも大浴場へ足を運んでくるようになってきたが、戦術人形は今のところスコーピオンら4人だけだ。

 

「おうスコーピオン、サウナ行くのか?」

 

「いやいや、まずは湯通しからだよ!」

 

「なんだ湯通しって?」

 

「サウナを楽しむ前に、お風呂で身体を温めることですよエグゼ。サウナの前に入浴を挟むことで身体を温め、発汗がしやすい状態にしてお肌がサウナの熱で傷んでしまうのを防ぐ意味があるんですよ」

 

「なるほどなぁ…つーかそもそも戦術人形のオレたちにそんな発汗とかそう言うのってどうなんだ?」

 

「細かい事を言ってはいけませんエグゼ、では後でサウナで合流しましょう」

 

 いまいち納得のいかない9A91の解説であったが、そそくさと彼女はグローザと共に気になるお風呂へと向かって行ってしまった。

 おまけに気付けばスコーピオンの姿も見当たらない。

 完全に一人放置されてしまったエグゼは身勝手な奴らだなと思いつつ、先ほどから気になっていることを確かめに向かう。

 

「入った時に気付いた香りはこの風呂からか?」

 

 エグゼが見つめる浴槽から漂う独特の香り。

 お風呂のすぐそばの壁にはこの香りの正体である10種の生薬についての説明が書かれている…なんといってもその濃厚さだ、お湯は生薬により茶色く濁っている。

 エグゼはもう一つ気になる香りがあるが、まずは目の前の薬草風呂を体験することとした。

 

「んん…ちょうどいい湯加減だが…おぉ…」

 

 ピリピリと肌に感じる刺激、それは生薬に含まれるトウガラシやショウキョウといったものによる効能だろう。

 38度のそこまで熱くはない温度の風呂であるが、生薬がもたらす温浴効果はなかなかのものである…真冬の寒い時期にこのような薬湯に浸かれば湯冷めもしにくいはずだ。

 とはいえあまり長湯しすぎてものぼせてしまうと判断し、そこそこにエグゼはその薬湯を後にする。

 

 そしてもう一つ、エグゼが気がかりだった香りの所在を確かめに露天エリアへ。

 その中の一つにそれはあった。

 

 真っ白に濁った露天風呂、その中でだらけ切った表情で浸かっているのはスコーピオンである。

 

「やっほ~エグゼ…気持ちいいよぉこのお風呂~」

 

「みたいだな、何だこの風呂? なんというか…変な香りだな」

 

「すごいよこのお風呂。さっきスタッフさんに聞いたらさ、源泉を輸入してきて使ってるんだって。場所はいまいち分からないんだけど、すごい硫黄の香りだよね。ところで、そろそろサウナ行く?」

 

 そう言いつつも、スコーピオンは既に湯船から上がっていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ行くか、サウナ」

 

「待ってエグゼ! まずは身体に付いた水をしっかりふき取って、タオルをしっかり絞ってから…それから入室だよ?」

 

「お、おぅ」

 

 言われた通り、エグゼはタオルで身体の水をふき取りタオルを絞ってからサウナへと向かう。

 途中スコーピオンが"二重扉じゃん!マジ最高"と言っていたが、エグゼには意味が分からなかった。

 

「うわ…すっげぇ…」

 

 入室てすぐにサウナの強烈な熱に迎えられる二人。

 普段体験しない高温にエグゼはすぐさま引き返したい気持ちに駆られるも、反対にスコーピオンは意気揚々とサウナの上段へと軽い身のこなしで上がっていった。

 サウナは上段に行けば行くほど暑い、それはなんとなくわかっていたエグゼは最下段の扉に近い位置に腰かけた…それでもサウナ慣れしていないエグゼには効く暑さだった。

 

「お、おい…サウナって、どれくらい入ってればいいんだ?」

 

「ん~、個人の体調にもよるけどだいたい6分から12分くらいかな? とりあえず8分くらい目指してみようか?」

 

「お、おぅ…」

 

 まあ8分くらいなら、そう思ったエグゼであったが…。

 

(あ、暑い…最下段でこれって、上段はどうなってんだ?)

 

 サウナ室内にかけられている温度計は90度を指している、下段となると80度前後であろうか…。

 

(ヤ、ヤベェ…マジで暑いぜ…でもそろそろ6分くらい経ったんじゃ……う、嘘だろ…!? まだ4分も過ぎてねぇ!)

 

 灼熱の空間の中で、体感時間が狂わされてしまっている。

 その後しばらくサウナの時計を眺めていたが、見ていればいるほど頭がおかしくなってしまいそうなほど時間がゆっくりに感じられる。

 ぎゅっと目を閉じてひたすら耐えてその時が来るのを待つのであった。

 

(暑い…死んじまう……あぁ、あと40秒…か?)

 

 もうすぐ目標としていた8分になろうとしていた。

 既にエグゼの体力は限界、これ以上は身体をおかしくしてしまうだろう…そんな時、ある考えがエグゼは思い浮かべる。

 

(そういえば…オレがサウナ入った時、どこに座るか迷ってた時間あるし…時計の時間を確認したのも座って少し経ってからだったよな…するとサウナ入って時計を確認した時、既に20秒くらい経っていたんじゃ…いや、そうだ、そうに違いない! だったらオレはもういいじゃねえか、今で8分だ!)

 

 強引な考えでサウナの目標タイムを達成し、エグゼはふらふらになりながらも勝ち誇った表情でサウナを退出した。

 その後すぐにスコーピオンも続く、最上段に座っていた彼女もなかなかに出来上がっている。

 サウナ初心者ながらも、サウナ好きはこの後水風呂に入ることはエグゼは知っていた。

 サウナを本格的に味わう前は、暑い空間で苦しそうに耐えてその後冷たい水風呂に入るなんて正気とは思えなかったが、今の火照った身体に水風呂はとても気持ちがいいだろうと思う。

 早速、水風呂に飛び込もうとすると…。

 

「ちょっと待ったぁぁ!!」

 

「なんだよ!?」

 

「サウナを出て水風呂に入る前に、必ず汗を流してから入る…サウナを愛する者すべてが守るべき鉄則なのである」

 

「わ、分かったよ…!」

 

 言われた通りに汗を十分に流し、恐る恐るといった様子でエグゼは入ろうとするが、躊躇なく水風呂に入ったスコーピオンを見てエグゼは意を決して飛び込んだ。

 

「つ、冷たい…!」

 

「水温15度、いい設定だねぇ~」

 

「正気かお前は!? やっぱりサウナ好きはいかれてやがる!」

 

「まあまあ、落ち着いてじっとしてなって」

 

 高熱の空間から冷たい水へ、急激な温度の変化に身体が追いつかないエグゼは水の中で自らの身体を抱きしめていたが…ふと、奇妙な感覚に身が包まれる。

 まるで身体の表面に膜が出来上がって冷たい水を遠ざけているかのような、そんな感覚だ。

 

「フッフフフ、どうやら気付いたようだねエグゼ。それは羽衣というのさ!」

 

「羽衣だって?」

 

「サウナで身体をしっかり熱した後に出来上がる状態でね、これが気持ちいいんだよねぇ」

 

 言われて、確かに今のこの状態は心地よいと思えてすら来た。

 その後、スコーピオンより水風呂はだいたい30秒から1分くらいという説明を受けて、スコーピオンが出るタイミングでエグゼも水風呂を上がった。

 

 サウナ、水風呂の後にスコーピオンが向かったのは露天エリアだった。

 再びお風呂にでも入るのかと思ったが、そうではなくスコーピオンは露天エリアの端に並べられていた椅子に腰かけ休憩をし始める。

 

「エグゼも座って休憩しなって、そよ風が心地いいよ?」

 

「おぅ」

 

 言われた通り、エグゼもスコーピオンと並んで椅子に腰かける。

 

 サウナで熱せられ、冷たい水風呂で引き締められた身体を、そっとそよ風が通り抜けていく。

 ぼんやりと見上げた空には二羽の鳥が悠々と飛んでいる…今自分がとてもリラックスした状態にあることをエグゼは感じとる。

 思えばここまで心と身体を落ち着けさせることが出来たのはいつぶりの事だろうか、思い出せないほど遠い昔のように思え、視界が何となくぼやけてきた…。

 

(ん……? 何だこれは…? なんだ、この感覚は…?)

 

 脱力状態にある身体に訪れる奇妙な感覚、じわじわと寄せてきたその感覚は一気に全身へ行き渡る。

 

(き、気持ちいい……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————っぷはぁ!! やっぱりサウナ上がりのビールは最高だね!!」

 

 サウナを心行くまで堪能したスコーピオンにとって、このキンキンに冷えたビールを一気に流し込むのも楽しみの一つだったらしい。

 少し遅れて合流してきた9A91とグローザもまたビールを流し込む。

 

「なあスコーピオン、水風呂上がって外で休んでた時なんか変な感覚が来たんだよ…すげぇ気持ち良かったって言う傘…」

 

「ほほう? エグゼそれは"ととのう"っていう感覚だよ、最初のサウナからそこに到達できるなんてエグゼは才能あるよきっと!」

 

「おまけになんかビールがいつもより美味いしよ」

 

「そうそうそう! それこそがサウナの醍醐味! サウナで活性化された味覚で食べる最高のサウナ飯! あぁなんかお腹空いてきちゃった!」

 

「なんだかオレも腹減って来たな…今は、ラーメンが食いたいぜ」

 

「あたしは麻婆豆腐!」

 

「わたしはカレーが食べたいですね」

 

「カツカレーをいただこうかしら?」

 

 

 

 こうして、エグゼというサウナに魅了される戦術人形が一人、スコーピオンの仲間に加わったのである。

 

 だがこれでまだすべてではない。

 

 MSF健康センターはまだ大きな秘密兵器を隠しているのであったが、それはまた別なお話…。




お久しぶりです



描けるかどうかは断言できませんが、AK-12をサウナにぶち込むお話は構想中


ほなまた…。

とくさんか?

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