「――――ボスニアの首都、サラエボを連邦の手から解放する」
パルチザンの主だったメンバーが集まる簡易司令室にてイリーナがそう宣言した時、長い革命の闘争がようやく報われ始めてきたことを感じ取り、彼らは若き指導者のその言葉を敬意をもって迎え入れる。
思えばこの国が内戦状態へ突入し、パルチザンが結成された当初はろくな装備も人材もなく、吹けば飛ぶような弱小組織だった。
そんな時に現われた若きイリーナを、単なる小娘だと嘲笑したこともあった。
だが現在のパルチザンのメンバーに、彼女を若いだけの阿婆擦れなどとあざ笑う者はいない。
「連邦政府に雇われた狼共が、我らが同胞たちを取り囲み飢えさせている。長い兵糧攻めでサラエボは疲弊し、戦意も誇りも打ち砕かれようとしている。忌まわしきウスタシャ共は愛すべき我らの同胞を虐殺して母なる大地を穢し、女子どもを凌辱し彼女たちの未来を奪い去った! だが同志たちよ、そのような日々も間もなく終わる!」
若き指導者の勇ましい言葉に、パルチザンの戦士たちも呼応する。
「クロアチア人も、セルビア人も、ボシュニャク人もかつては一つの民族だった。だが時代に翻弄され、大いなる力の前に同胞たちは引き裂かれた。"我々は皆古来の同胞、ゴート人ではなく、スラヴ人の一員だ"、同志たちよ、どうか憎しみを捨てて民族の悲劇を分かち合い、一つになろう。これは神の言葉ではない、わたしの願いだ」
パルチザンの中には、連邦の圧政や迫害に復讐心を持ち続ける者も少なくない。
一歩間違えればパルチザンも共産主義を掲げた過激な殺戮集団と化していたかもしれない。
実際のところ、イリーナはこれまでにウスタシャなどの過激な民族主義者を捕らえた際には、捕虜にもせず裁判もせずに一切の呵責もなく処刑したことがあった…それも己の手によってなされたときもある。
だがイリーナが、パルチザンが復讐心に囚われず革命の理想につき進み続けてこられたのは、そこに確固たる信念があったから。
「地獄すら我らの歩みを阻み得ることはできない。同志たちよ、勝利を我らの手に掴むその日まで共に戦おう――――」
サラエボを解放する、パルチザンの次なる依頼を待っていたMSFとしては、革命の理想に燃えつつもあくまで現実主義的な態度を崩さないイリーナの決定に驚きを隠せないでいた。
ボスニアの首都サラエボは、現在連邦内で最も激しい戦闘が繰り広げられている都市の一つだ。
連邦政府に雇われたPMCと民兵、それから連邦警察を合わせれば数万もの規模になる大軍だ…それが一か所に固まっているというわけではないが、現在のサラエボはパーフェクト・サークルと形容されているほど完璧に包囲されてしまっている。
真っ向から対峙すれば潰されてしまうだろう。
だが、イリーナは今回の作戦を思い付きで考えたのではなく、長い時間熟考し策を練った上での決定だと説明をした。
第一に、サラエボに包囲された反政府勢力をパルチザンの仲間として迎え入れる準備ができたこと。
第二に、包囲に加担する連邦軍の一部の将兵たちの離反を取り付けられたこと。
第三に、これ以上の時間の経過はサラエボ内の反政府勢力の疲弊と、連邦軍の本格的な介入の危機が増えるだけだと判断したためである。
大まかな作戦の概要を聞いたスネークであるが、その中でMSFが果たすべき役目というものが決して小さいものではないことを感付いていた。
「スネーク、あなた方には連邦軍の基地を攻略してもらいたい。正確には、連邦軍が所有する広域破壊兵器"ウラヌス"の攻略だな」
「情報が少ないな、そのウラヌスというのは何なんだ?」
「奴らの移動式要塞砲と言ったところか。その大きさゆえに組み立てに時間はかかるが、一度完成してしまえば長射程と圧倒的破壊力であらゆる兵器を粉砕する。それがサラエボを射程におさめる位置に配備されつつあるという情報だ、それを破壊してもらいたい」
「要塞砲か、ずいぶんと古典的じゃないか」
「核戦争のEMPでロクな誘導装置もない今、その古典的な兵器が戦場で猛威を振るっているのだよ。今はまだいいさ、もっとえげつない兵器を連邦は所持していたのだからな。まあそれはいいとして、ちょっと来てくれよ」
手招きされ、イリーナが乗って来たジープのところまで歩いていく。
積み荷として木箱がたくさん積まれているようだが…。
「サラエボの解放までは少し時間がある。少し一休みする時間があってもいいだろう。あなた方の兵士たちもさぞ気疲れしている者もいるはず、これはわたしからの贈り物だ」
木箱の一つを壊し、スネークの手もとに放り投げてきたのは透明の液体が入った瓶であった。
封を解いてみると、頭をくらくらとさせるような濃厚なアルコールの香りがスネークの鼻腔を満たした。
「全部酒か? どこで見つけたんだ?」
「廃墟の別荘に酒蔵があってな。相当の酒豪がいたらしい、地下室いっぱいの酒があったから拝借してきたんだ。うちの方にも配ったが、余ったからあなた方にあげよう」
「ありがたくいただくとしよう」
「ふむ。ところでスネーク、できればうちのスオミも混ぜてあげてくれないか? この間一緒に遊べて楽しかったらしいからな…いや、無理ならいいんだが」
「構わないさ、うちの人形たちも面倒見のいいのばかりだからな」
「ありがとう。ではスオミを呼んで来よう」
エグゼとスコーピオンは教育に悪いから論外だとして、9A91とは既に仲良くなっているしWA2000も初対面の人形を突き放すような態度はしないだろう。
それにこの手のお願いにはぴったりなスプリングフィールドも、最近医療班のスタッフを伴い現地に到着している。
9A91とWA2000がFOXHOUNDのメンバーとなり、スコーピオンとエグゼが攻撃部隊の要となっているが、スプリングフィールドは独自にスタッフの中から医療行為を行える戦闘員を選抜したメディカル部隊に配属された。
人を傷つけるよりも助けることを望む彼女に配慮したスネークの意思によるもので、同じメディックであるエイハヴにも衛生兵としての仕事も教育されている。
人員の補充が簡単にはきかないMSFにて、スプリングフィールドは自らに与えられた重要な役目にやりがいを感じていることだろう。
しかし、彼女に治療してもらおうと、些細なケガで駆けこんでくる兵士が多くなっていること、それが最近の悩みの種になっているようだが…。
そんなわけで、イリーナから持ちこまれた大量の酒は、ここ最近戦場で娯楽というものとほぼ無縁であった兵士たちに大歓迎される。
大きな作戦の前の休暇、ということではあるがスネークは節度を守るように、と前置きをしたうえでトラックに並ぶ兵士たちに自ら酒を配る。
「エッヘヘヘ、サンキュースネーク!」
「スコーピオン、飲み過ぎて暴れるなよ」
こっそり多く酒瓶をくすねようとするのを見逃さず、大きめの瓶を押し付け列から退かせる。
「エグゼ、お前が飲みたがるのは珍しいな」
「なんか今日は飲みたい気分だ。後でオレんとこに来いよなスネーク」
普段は酒を好まないエグゼも、この日ばかりは酒の味に酔いしれたいらしい。
追加の酒を貰おうともう一度並んできたスコーピオンを追い返すと、スプリングフィールドと9A91に挟まれて楽しそうに笑うスオミがやってくる。
"スネークさん、今日はわたしも一緒に混ぜてくれてありがとうございます!"
手帳に書いた文章を見たスネークは、そこへ返答の文を書き足す。
"こちらこそ、来てくれてありがとう。今日は楽しんでいってくれ"
満足げに笑うスネークだが、スオミは少し困ったような表情をしている。
「司令官、スオミは声が出せませんが耳は聞こえるんですよ?」
「ああ、そうだったな。オレとしたことが失礼したな、9A91、スプリングフィールド、この子を任せたぞ」
「はい。スネークさんも後で来てくださいね!」
やはりスオミを任せられるのは二人だけしかいないようだ。
声が出せないスオミとちゃんと向き合ってあげているし、変に気を遣わせずスオミの自然な笑顔を引き出させている。
これも二人のやさしさがなせるものなのだろう。
「スネーク、わたしにも頂戴」
次に現われたのはWA2000.
不機嫌そうな声と顔に若干気圧されつつ、酒を手渡す。
「どうした、何か悩み事でもあるのか?」
「別に…飲まなきゃやってらんないだけよ」
「そうか、ほどほどにな。オセロットが帰ってくる前に酔いつぶれては不味いだろうからな」
「え? オセロット、今日帰ってくるの?」
「ああ、少し遅くなるがな」
「あ、そう…そうなんだ……エヘヘヘ」
先ほどの不機嫌そうな表情はどこへやら…。
恋する乙女のように頬を赤らめ、酒瓶を大事そうに抱えどこかへ向かっていく。
「やあスネーク、お酒余ってない?」
「スコーピオン…お前も懲りないな。仕方ない、今回だけだぞ」
「さっすがスネーク、話しが分かるね! もう大好きったらありゃしないよ!」
「まったく、その代わり暴れるんじゃないぞ」
「分かってるってば。酒を飲んでも呑まれるなってね!」
「―――ヒック…うー、いいかスオミしゃん…あたひらの出会いはそらもーひとことで言い表せないわけよ…」
2時間後、そこにはへべれけになったスコーピオンの姿がある。
度数の強いウォッカを既に一本開け、既に二本目に突入している…。
酒に酔って陽気な気分で騒ぎ出したかと思うと、会って間もないスオミに絡んでいく。
スネークが危惧していたことが現実になってしまっている。
絡まれているスオミも困り顔で、スコーピオンの絡みからスオミを救おうとスプリングフィールドと9A91がどうにかしようとするが、追い返す度に忘れたころにやって来ては絡んでくる。
今スコーピオンはそれぞれの人形たちとの出会いを聞いてもいないのに語っているが、酔っぱらって言った事を覚えていないのだろう、もう何回も聞いた話しの内容に二人も気疲れしている。
「おいおい、スコーピオン酔い過ぎだろ。どれ、オレが良い覚まししてやろう」
「あたひに、さわんなーーッ!」
同じく酒に酔ったキッドがここぞとばかりにスコーピオンに手を出そうとしたが、それは見事なアッパーカットでキッドを一撃で沈める。
「ったく…キッド、あんたのさけはあたしがもらうかんね!」
のびてぐったりしているキッドから酒瓶をひったくる。
そこで何を悪い事を思いついたのか、唐突に悪そうな笑みを浮かべる。
「グフフフ、酒がないなら…うばえばいい! あたしやっぱてんさいだね!」
「スコーピオンさん…! これはもう、どうにかして気絶させるしかないですね!」
手のつけられなくなるほど酔っているスコーピオンに対処しようとするが、もともとタフなスコーピオンが酒で痛みに鈍感になっているためちょっとやそっとの衝撃では寝てくれない。
むしろ予測不可能な動きで組みつかれ、逆に拘束されてしまう。
「ちょっ、スコーピオンさん!? やめてください!」
「んー? こいつめーまたおっぱいおおきくなったなー!」
「人形のわたしが成長するわけないじゃないですか、もういい加減にしてください!」
「んーもうちょっと」
拘束され、人前で胸を揉みしだかれる。
人目が無いのならまだしも、周囲にはMSFの男たちがいる…羞恥心に耳まで真っ赤に染めるスプリングフィールドの姿に、周囲はヤジを飛ばして盛り上がる…。
だが…。
「いい加減にしろ」
「ほぇ?」
つまみあげられるようにスプリングフィールドから引き剥がされたスコーピオン。
ゆっくり振り返り見たのは、冷たく見下ろすオセロットの姿である…途端に冷や汗がでるスコーピオン…酔った頭をフル回転させ、彼への対処法を見出そうとする。
その結果というか錯乱したとしか思えないが、無謀にも挑みかかっていくスコーピオン……であったが、軽くいなされた挙句襟首を絞められ一瞬で卒倒する。
「全く、手のかかる小娘だ。お前たち、楽しむのはいいが…羽目を外しすぎだ」
酒に酔っているとはいえ、オセロットに注意を受けて反抗しようなどというものはいない。
皆申し訳なさそうにスプリングフィールドに謝り、再びがやがやと賑わいが戻っていく…。
「ところでボスはどこに?」
「あれ? さっきまでみんなと一緒にいたんですけどね?」
「全く、誰かが見ていなきゃならないというのに。まあいい」
珍しく尊敬するスネークへの軽い愚痴をこぼしつつ、酒を飲む集団と少し離れた位置の木陰に腰を下ろす。
時々飲み場に注意を向けつつ、諜報活動を通して手に入れた情報の整理を行う。
「オセロット、待ってたよ」
そこへ、酒を飲みほんのりと頬を紅潮させたWA2000が小走りで駆け寄る。
そのままの勢いで飛びつきたい衝動に駆られるが、彼女はそうしたいのを我慢し静かに彼の隣に座り込んだ…。
オセロットは一度彼女を流し見たのみで、引き続き諜報活動の整理作業を行う。
無愛想な態度だが、いつも彼の行動を見てスネーク以外では他の誰よりも長く付き合いをしているWA2000にとっては慣れたもの…であるはずなのだが、長いこと彼と離れていたために寂しさを感じていた彼女は、そんないつもの彼の態度につい意気を消沈させてしまう。
「ねえオセロット、折角みんなで楽しんでいるんだから…お仕事は休んだら?」
「みんなが休みの時は、オレが働かなければならない時だ」
「そう……でも働きっぱなしじゃ身体が持たないわ」
「オレの身体はオレが一番良く知っている、余計な口出しはするな」
いつも通りの厳しい口調だった。
人がどれだけ心配していたかも知らないでこの男は…つい言い返したくなりそうになるが、それよりも彼に拒絶されているかのような言いようのない不安感を感じてしまい、開きかけた口を閉ざしてしまう。
オセロットは自分たちなんかと違って重要な任務があるんだ、みんなのために頑張っている、それを邪魔しちゃいけない……彼女はそう、自分に言い聞かせる。
不意に目頭が熱くなり、あふれ出た涙が頬を伝い落ちる。
咄嗟にオセロットから顔を背け、ごしごしと服の裾で顔を拭くが、拭けども涙は止まらない…。
そんな情けない姿を見せたくなくて、彼女はそっと立ち上がり彼の傍を離れようとする。
「待て」
その言葉に足を止め、振り返る。
オセロットは相変わらずWA2000には目を向けず、諜報活動を記した記録書に向き合っている。
「もう少し待て、そこに座ってろ」
「え、でも…」
「座ってろ、いいな」
「うん…」
相変わらず目も合わせてくれないが、命令に近いような彼の口調にWA2000は素直に従う。
淡い期待とは裏腹に、いつまでも終わりそうにない彼の仕事を眺めていると、彼の端末の操作が若干早くなっていることに気付く。
もしかしたら早く仕事を終わらせようとしてくれるのでは…そう思い始める彼女の表情はいつの間にか明るさを取り戻すが、時折手を止めて考え事をするのを見ればしょんぼりと落ち込んで見せる…オセロットの行動に一喜一憂していうちに、ようやく彼は手を完全に止めて端末をしまいこむ。
もしWA2000に尻尾があったら笑顔を浮かべてぶんぶんと振り回していただろう。
「あの、オセロット…?」
「一杯だけだ。一杯だけ付き合ってやる」
「うん…!」
その言葉に、彼女は頬に残った涙をぬぐい、彼のためにコップを用意し大事に抱えていた酒を注いでいく。
オセロットの事だから一杯だけと言ったら本当に一杯しか飲まないだろうが…。
「ワルサー、今日が何の日か分かるか?」
「え…? なんだろう?」
酒を注いだコップを渡し、小首をかしげ頬に指を当てる。
オセロットと初めて出会った記念日?
初めてオセロットに褒められた記念日かな?
FOXHOUNDのメンバーとしてオセロットが認めてくれた記念日だったか…?
なんとか思いだそうと唸っていると、そっと彼から小さな箱を手渡される。
おそらく連邦の都市のどこかで手に入れたのだろう、綺麗な小包に包装され表面にはかぼちゃのイラストが描かれている…そのイラストにハッとして、今日がハロウィンの日だと思いだした。
「町を歩いてたら売り子に貰ってな。オレは甘いものが苦手でな、お前にやる」
「あ、ありがとう…大事にするね」
「大事にするのはいいが、大事にし過ぎて腐らせるなよ」
「そんなことしないってば!」
そんなことを言われつい反論するが、オセロットの滅多に見ることのない笑みを間近で見たとたん、彼女の白い肌が真っ赤に染まる。
彼の顔を真っ直ぐに見ていられなくなり、紛らわしに彼から貰ったハロウィンプレゼントに手をかける。
中身はかぼちゃを模したチョコレート、そのうちの一つをつまみ口の中に放り込むと、途端に極上の甘味が口の中いっぱいに広がる。
売り子に無料で貰ったなどとはおそらく嘘だ、きっとどこかの有名店のお菓子に違いない。
「どうだ、甘すぎるだろ? オレには合わん」
「甘すぎるわね…でも、悪くないわ」
MSFがキャンプを張る町は、内戦のあおりを受けて住人が避難したゴーストタウンだ。
住人がいなくなった代わりにMSFが入り込み、今では兵士たちの賑わいで町は活気づいている。
そんなMSFの賑わいから隔絶された古ぼけた教会がある。
他の廃墟に比べ中は小奇麗なままで、住人のいなくなった町にひっそりとたたずむ教会はどこかもの哀しく、それでいて神秘的な雰囲気を漂わせていた。
教会の長椅子には、熱心な信者たちが毎週お祈りをしに訪れていただろうが、今は一人だけが座っている。
「エグゼ、ここにいたのか?」
スネークが教会の扉を開き、彼女に声をかけると、エグゼは振り返ることなく手に持っている酒瓶を見えるように掲げた。
前列の長椅子に足をかけ酒をあおる彼女の姿を見れば、熱心な信者たちは衝撃を受けるだろうが、あいにくこの場に信仰心のある者はいない。
「捜したぞ、こんなところで何をしてるんだ?」
「んー…奴と二人で飲んでたとこさ」
エグゼの見つめる先には、すべての罪を背負い十字架にかけられた聖人の偶像がある。
その足元にはグラスが一つ置かれ、酒で満たされていた。
「酔っているのか?」
「さあね」
小さく微笑み、隣に腰掛けてきたスネークにグラスを手渡し、持っていた酒を注ぐ。
それから互いにグラスを合わせ合う。
喉を焼きつかせるようなキツイ刺激のある酒に、おもわずスネークは顔をしかめる…反対にエグゼは顔色一つ変えず、ただじっと偶像を見つめ続けている。
「神を信じるか?」
「あぁ、オレが神だ。自分の運命は自分で決められる」
教会に来るものが吐いてはならないセリフだが、それがエグゼにとっての神の在り方なのだろう。
人形が神を語るなどと…彼女たちを作った人間がもしこの場にいれば鼻で笑っていたかもしれないが、スネークは笑わずに彼女の言葉を聞いていた。
「運命に翻弄されるのはごめんだ。自分の生き方を他人に決められたくもない、オレはオレだ……オレは右頬を殴られて左頬も差し出すような真似は絶対にしない。必ず殴り返す、むしろ殴られる前にやるさ」
「エグゼ、復讐を止める気はない…そう言いたいのか? それがお前の戦う理由だというのならオレは否定しない。だがこの戦場に敵として立つ兵士たちは、お前の復讐相手ではないはずだ」
「分かってる、分かってるつもりさ。だけどよ、オレがどんな存在かアンタも分かっているだろ? 傷が疼き、奴らの面を思いだす度に、オレはオレの本性を思いだすんだ。だがありのままの姿では、スネークと一緒にはいられない……オレがアンタたちとずっと一緒にいるためには、自分を偽り続けなきゃならない」
破壊と殺戮の衝動、人形であるエグゼにとってのプログラムはいいかえれば遺伝子と言ってもいい。
処刑人として生まれた彼女が持つべきものは慈愛でも友愛でもなく、無慈悲に対象を確殺する非情さ。
純然たる殺しの兵器として生まれた彼女にとって殺戮こそが正常であり、今のような平穏な暮らしに溶け込む生活は欠陥なのだろう。
「だがお前は変わった。お前はもう殺戮を行うための人形なんかじゃない」
「自分を偽ってるだけだ。本当のオレは殺しを楽しみ、殺す前の泣き顔を見るのが好きなどうしようもないサディストだ」
自嘲気味に笑い、一気に酒を飲み干す。
それから行儀悪く足を前列の椅子にかけていたのを直し、スネークに向き直る。
酒が入っているために頬はほんのりと赤みがかっているが、その赤い瞳は真っ直ぐにスネークを見つめている。
「スネーク、オレはあんたが好きだ。これは偽りなんかじゃない、オレの本心だ。だけどありのままの姿でいればオレはスネークと一緒にはいられない、だからオレは自分の運命に挑み続けなければならない。本心を隠し、偽りの姿であり続けなきゃならない」
「エグゼ…」
「オレはもう一人じゃ生きていけない、弱くなっちまった。仲間を失うことが怖い、アンタに見捨てられたくない、自分自身でさえも恐ろしい…。こんな風に甘えるのはおかしいって分かってる、だけど一人じゃどうにもならないんだ」
「それは弱さじゃない。人は誰でも一人では生きていけないんだ…自分以外の誰かを求めること、人間として当たり前に思うことだ」
「また、一歩人間に近付いたってことかよ。なあスネーク、オレが前に約束させたこと覚えているか?」
そう言って、エグゼは胸に手を当てる。
以前エグゼが敵であった頃、お互いに戦士として拳を交えた末に和解したが、その際に仲間になる条件として5つの約束を交わしていた。
そのうちの一つに、彼女が心に感じていた奇妙な感覚の正体を教えることがあった。
「スコーピオンたちと一緒に居る時、安らぎを感じて腕の痛みが和らぐんだ。アンタと一緒に居る時もオレの幻肢痛は消えるが、スコーピオンが感じさせる安らぎとはなにか別なんだ。アンタをそばに感じると、憎しみが消えて何かが心を埋めていく、今だってオレはあんたに何かを感じてる」
いつしかエグゼの頬は酒ではない、感情の変化によって紅潮し始める。
彼女の潤んだ瞳には、ただ一人、スネークだけがうつる。
それからエグゼはそっとスネークの肩にもたれかかり、彼の手を取り自分の身体を抱きしめるように誘導すると、甘えた声でつぶやくのだ。
今だけは憎しみを感じていたくない……ずっと、抱きしめてくれるか?
スプリングフィールド「衛生兵になりました、よろしくお願いします」
負傷兵A「あ、ちょっと転んでひざが…」
負傷兵B「座りすぎて腰がイタタタタ」
負傷兵C「PTSDになっちゃったから甘えても?」
カズ「なんか股間のあたりが腫れt(銃声)」
ハロウィンネタはワーちゃんとオセロットにやってもらいましたw
ワーちゃんが言うにはとても甘かったそうです。