METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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蛇の教え子

 "いやだ…いやだ! 起きてよイリーナちゃん! 一人にしないでよ…!"

 

 スオミは声を出せないまま泣き、最愛の主人を抱きかかえ何度も何度もその肩をたたく。

 胸元にあいた穴を手でふさぐが、手のひらから温かい彼女の血がにじみだし、それは一向に止まる気配がなかった。

 

"誰か! イリーナちゃんを助けて!"

 

 周囲を見回し、救いを求めるが突如として現れた鉄血の奇襲攻撃によって兵士たちは混乱し、だれもかれもが自分自身の命を守るので精いっぱいの様子だ。

 声を出せないスオミは手をあげて主人の存在を示すが、激しい砲撃と銃撃戦の最中にその動きに気付くものはない。

 心の声は届かない…。

 絶望がスオミの心を埋めていく。

 

「ス…オミ……!」

 

"イリーナちゃん!"

 

 小さなうめき声を聞き、スオミは慌てて視線を真下に落とす。

 スオミの腕の中に抱かれるイリーナは口元から血を吹き出し、息も絶え絶えで顔も青白く生気が失せている。

 しかしそんな中で目だけがぎらつき、いまだその闘志の炎を消してはいなかった。

 

「連れて、いけ……! 基地の内部へ…」

 

 地下へとつながる基地の入り口を見つめ、体を無理やり起こす。

 そんな彼女を抑え込み、スオミはぶんぶんと首を横に振る。

 

"ダメだよ! 無理して動いたら死んじゃうよ!"

 

 声は出ずとも、どのように話していたかは分かる…スオミの口の形から彼女の伝えたい言葉を察し、イリーナは一度だけ目を伏せる。

 スオミが自分を本当に心配してくれることはわかる。

 この世に残されたたった一人の家族だ、小さいころから一緒にいて、大きくなった今も一緒に暮らしてきた。

 言葉などなくてもお互いに言いたいことはわかるし、スオミの気持ちも痛いほど理解できた…。

 だが…。

 

「散っていった…多くの仲間に、報いるためにも……私は、ここで引き下がるわけには…いかんのだ!」

 

 体を起こし強引に立ち上がると、狙撃された銃創から血が激しく流れ出す。

 立ち上がったイリーナは周囲を見回し、炎上する戦車へと近づいていくと、高温を帯びた装甲に傷を押し付ける。

 生身の肉が焼ける嫌な匂いが立ち込め、激しい激痛に苦悶の表情を浮かべながらも、イリーナは一切悲鳴を上げることはなかった。

 傷口を焼くことで強引に止血する。

 よろめいたイリーナに素早く駆け寄り、スオミがその体を支えた。

 

"本当に、わたしの気も知らないで! 昔から頑固で言うこと聞かないんだから! わたしとイリーナちゃんは一心同体、イリーナちゃんが死んだら、わたしも死ぬ! 行くなら、それくらいの覚悟を決めて!"

 

「スオミ…わかった、最後まで一緒さ」

 

 スオミは涙をふき、覚悟を決めた表情でイリーナに頷いてみせる。

 頑固なところは、お互いさまさ…そう言いたげなイリーナの表情に、スオミは笑った。

 

「わたしが解除したのは基地の防衛システムだけ、アルキメデスの制御装置には、さらに暗号化されたプログラムがかけられている。暗号化されたプログラムを知るのは、今やわたしだけ…鉄血め、わたしが死んだらどうしてたんだろな…ゴホッゴホッ…!」

 

"そんな体で変なこと言わないの!"

 

 強がりの言葉を口にするイリーナを叩き、行く手を阻むかのように表れた鉄血兵にスオミは銃口をあげ引き金を引いた。

 イリーナも素早くホルスターから拳銃を引き抜き、鉄血兵の眉間を撃ち抜きしとめる。

 並みの兵士ですら戦意を失うこの状況において闘争心を昂らせる。

 二人とも、この戦いが終われば銃を捨てる生き方を選んでいるとは到底思えないような姿だ。

 

「邪魔をするなよ鉄血が! 闇雲に破壊を振りまくだけの貴様らに、このわたしを殺せるものか!」

 

 鬼気迫る表情で引き金を引き、立ちふさがる鉄血兵を倒す。

 弾切れで、マガジンを落とせばすぐさま隣に立つスオミが弾丸の入ったマガジンを装填する。

 二人は文字通り一心同体となり、互いに必要とすることを言葉を交わさずとも理解し、それに応える。

 

 それでも、鉄血兵はわらわらと現れ、無機質な表情のままに二人に襲い掛かる。

 なんとかパルチザンの兵士たちも駆けつけ応戦するが、鉄血兵たちの数は多い……ふと、二人の前に巨大な物体が落下してきたかと思うと、ソレは走り出し目の前の鉄血兵を巨大なガトリング砲であっという間に薙ぎ払う。

 全身をくまなく覆う漆黒のアーマー、赤い光だけが怪しく灯るヘルメット、人間とは思えない見上げるような体躯……彼は少しだけ首を振り向かせ、イリーナとスオミを見つめる。

 

 

「フェリックス…!」

 

「やはり、お前たちは生きていたのだな…。ビッグボスには、感謝をせねばなるまい。大切な存在を見失うところだった」

 

「フェリックス、お前、制御装置は…」

 

「そんなもの引き剥がしてやった。ここには私自身の意思でやってきた。お前たちを阻む敵は私が駆逐する…それがせめてもの、罪滅ぼしだ」

 

「そうか…信じよう、兄さん」

 

「まだこんな私を、兄と呼んでくれるか。さあ、行こう。残りの命の全てを、お前のために使う…その時が来たのだ」

 

 フェリックスは一度、不安げな様子で見上げるスオミを見た。

 妹のイリーナは今の自分が兄であることを知っているが、スオミはまだ目の前の自分がかつての主人であったことに気付いていないのだろう。

 記憶に残るスオミはいつも笑顔で、イリーナのやんちゃぶりに手を焼かされてよく相談し、そして愛らしく甘えてくる良い子だった。

 スオミの、自分を見上げる瞳にいくらかの怖れが浮かんでいるのを見て、フェリックスは胸の痛みを覚える……。

 

 それでもよかった、また生きて会うことができたのだから。

 フェリックスは力を振るう、すべては愛すべき家族のために…妹の悲願をかなえてあげるためにも、スオミの笑顔を取り戻すためにも。

 怪物に成り果て、憎悪に満たされていた彼の心に清らかな人の心が、戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――チクショウ、くそが!」

 

 血走った目つきでエグゼが睨む先には、片目を閉じ唇に人差し指を当てて余裕の表情を浮かべるウロボロスの姿がある。

 エグゼは腰を落とし、一気に走り出す。

 得意とする力強い踏み込みからの、斬撃。

 幾多の敵を屠ったその攻撃を、ウロボロスは冷静に見極め、最低限の動作で避ける。

 

 そしてブレードを握るエグゼの腕をひねりあげ、肩に担ぎ地面に投げ飛ばす。

 激しく地面に身体をうちつけられた衝撃により、エグゼはその場に這いつくばり激しくせき込む。

 忌々しく見つめる先には、追い打ちをかけようともせず不敵な笑みを張り付かせたウロボロスがいる。

 

 立ち上がると、エグゼのブレードを握っていた腕が力なく垂れ下がった。

 あの一瞬の攻防で関節を外されたのだと理解し、エグゼは強引に関節を元に戻す。

 そしてブレードを拾い、拳銃を構えた矢先、ウロボロスの姿がエグゼの視界から消える。

 ウロボロスは姿勢を低くかがめ、一気に間合いを詰めたかと思うと、エグゼの拳銃を一瞬で無力化しがら空きとなった腹部に肘を叩き込む。

 

 腹部を襲った痛みに動きを止めたエグゼの腕と首をつかみ、後頭部から勢いよく地面にたたきつけた。

 

 

「ふん、CQCでこの私には勝てんよ。スネークを超えられないおぬしに、負ける道理もないがな」

 

「テメェ、くそが…! ぶち殺してやる!」

 

「まあ待ちたまえ。おぬしの相手は私ではない、旧友との再会を喜ぶがいい」

 

 

 視界の端を影が素早く横切った。

 とっさに立ち上がり、ブレードを振るうと相手の鋭いナイフとぶつかり合い激しく火花が散った。

 奇襲を受け苦しい表情のエグゼであったが、目の前の襲撃者を見たとき、驚きその目を見開かせる。

 

「お前、ハンターか!」

 

 それはあの日AR小隊によってその命を奪われたはずの親友ハンターの姿であった。

 迷彩柄のマントを羽織り、口元を同じ柄のスカーフで隠しているが間違いなくその姿はエグゼのよく知る親友の姿であった。

 

 ハンターは一言も言葉を発さず、ただ獲物を前にした狩人のごとき冷徹な目でエグゼを見据えていた。

 

「ウロボロス!テメェ、オレの親友に何しやがった!」

 

「死体を拾い、再生させてやっただけだ。まあ、少しの制御チップを組み込ませてもらったがね。安心しろ、お前が思うような悪い扱いはしていないさ」

 

 楽しそうに笑うウロボロスを忌々しくエグゼは睨む。

 ハンター生存の報告を404小隊より聞いたとき、心の中でまた会える喜びを感じていた半面、また何らかの障害が立ちはだかることは何となく察していたのだが…。

 少しでも油断すれば一瞬で首を刈り取られる、そう思わせるほど今目の前にいるハンターは冷徹で、最後にあった時よりも洗練されている。

 

「おい、ハンター! なんとか言えコラ! いつから無口キャラになったんだテメェッ!」

 

 強引につば競り合いを押し返すと、ハンターは宙返りで距離を離したかと思えば、地面に足がついた瞬間一気に駆け出し距離を詰める。

 考えられないその速さに一瞬反応の遅れたエグゼの足元にスライディングし、足を絡めとり転倒させ、素早くハンターは彼女の首にワイヤーの紐を巻き付けた。

 

 

「ぐ、がっ…!」

 

 

 うつぶせのエグゼの背後から、ハンターはワイヤーの紐を力強く引き首を締め上げる。

 エグゼはなんとか逃れようとワイヤーに手をかけるが、ワイヤーは彼女の首に食い込み掴むこともかなわない。

 ならばと、エグゼはワイヤーをかけられたまま強引に立ち上がり、逆にハンターの体をしっかりと自身に密着させ…。

 

 自分の身体もろとも、強烈に地面へ叩き付ける。

 一瞬緩んだワイヤーと首の隙間に指を通し、力任せにワイヤーを引き剥がす。

 

「容赦なしかよ…! いいぜ、またぶちのめしてやる! オレに最後言った言葉忘れたなんて言わせねえぞ! 同じセリフを吐くまで、何回でもぶん殴ってやる! 覚悟しろよテメェ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククク、あいつはいつ見ても面白いな」

 

 激しくぶつかり合うエグゼとハンターを愉快そうに見つめていたウロボロスであったが、とっさに笑みを消し、身構える。 

 戦闘の混乱に紛れ仕掛けてきたスネークを察し、のばされた彼の手を払う。 

 逆にウロボロスの鋭い蹴りが、スネークの側頭部めがけ放たれる。

 

 とっさに蹴りを防いだスネークを、ウロボロスは称賛するかのように感嘆の声を漏らす。 

 

 スネークは逆手にナイフを持った手でウロボロスの襟を掴み、身体を支える彼女の足に自身の足をかけた。

 かすかにバランスを崩しかけたその隙に、スネークはかけていた足を払い、ウロボロスの片足を宙に浮かせた。

 そのまま襟を掴む手に力を込め、重力に引かれ落ちるウロボロスの身体を加速させる…が、ウロボロスは後頭部が地面に叩き付けられるよりも早くに手を地面に触れされ、身を翻し攻撃を防ぐ。

 

 ニヤリと笑うウロボロスに、小さく舌打ちをし、スネークは再度攻める。

 だがスネークの動きにウロボロスもよく反応し、スネークの攻め手を封殺する…まるですべての攻撃が読まれているかのようだった。

 

 

「ハハハ、あなたが次にどう行動するのか手に取るように分かりますよ。全て同じです、この攻撃も、先ほどの攻撃も受けたのは初めてじゃないですからね」

 

「お前と戦った覚えはない。何者なんだお前は…」

 

 

 ウロボロスは構えを解くと、張り付かせていた笑みを取り払う。

 

 

「その質問には、私という存在が生まれた経緯を説明しなければなりませんね。私は電脳空間にて数千ものAIを相手に戦い、最後まで生き残ったのが私です。当初はそれで終わりなはずでした。ですが…鉄血の中に一人のイレギュラーが生まれました」

 

「エグゼか」

 

「ええ、命令を無視しあなたという存在に執着心を見せた処刑人の行動は鉄血としては予想外でした。そしてあなたという存在の脅威を、我々は認識したのです。そこで私の主人は、私を更に強化すべく…あなたの戦闘データをもとに作られたAIとの戦いを命じました」

 

 スッと息を吸い込み、懐かしむように語るウロボロス。

 

「私ははっきり言うと舐めていました。おかげで電脳空間の中で何度も何度もあなたに殺された…あぁ、残念ながら強化が目的のため実際の私のAIが消滅することはありません。私は気の遠くなるような時間を、あなたのAIと戦った。あなたを倒すためにあらゆる手段を用い、あらゆる手段で私は死にました」

 

 何度も何度も…。

 銃で殺され、ナイフで突き殺され、首をへし折られて殺され、爆薬で殺された。

 ああ、そういえばCQCの組み合いであえなく負けて高所から叩き落されたこともありましたね…愉快そうにウロボロスは笑った。

 

 

「そして私はついに、あなたを殺すことができた。何百、いや何千回の果し合いの末に、ようやくね…歓喜の時でしたよ。まあ、その後も電脳空間で戦わされたのですけどね…まぐれでないことを証明するために」

 

「腑に落ちないことがある。お前はオレの戦闘データを基にしたAIと戦ったと言ったな。だがお前たち鉄血と戦った回数はそこまで多くない」

 

「ああ、そんなことですか。いいでしょう、あなたにいつまでも隠すのはフェアじゃない…まあ、代理人は気に入らないでしょうが。あなたの戦闘データは外部から得たものではありません……ずっと、そばで見てきた者からいただきました。今もそこで戦っている彼女からね」

 

 ウロボロスの視線の先には、エグゼがいた。

 

 エグゼはMSFに入るにあたり、鉄血を裏切ったわけではないと公言していた。

 だがエグゼはお調子者で乱暴者だが、仲間を売るような真似はしないはずだ…スネークはすぐさまウロボロスを否定する。

 

 

「誤解しないでください、あの人形には自覚がありませんよ。彼女は鉄血のコントロールから逃れたと思っているようですが…まあ、ある意味正しいですが、その目から見ている光景、耳を通して聞いた音、そして精神状態の変化は常に我々の元へ送られていました」

 

 MSFを忌々しく思い始めた鉄血は当初それを利用し、MSFを罠にはめる計画を進めていたというが、予定を変更しスネークの戦闘データを得るために静かに傍観していたという。

 そしてエグゼとMSFに気づかれないよう、極力接触を避け、ウロボロスがこのことを口にするまで秘匿されていた。

 MSFにはAIのエキスパートであるストレンジラブがいることは、エグゼの目を通して知っていたため、このことを悟られないようにしていたのだ。

 

 

「私はね…ビッグボス、あなたに鍛えていただきましたことを感謝しております。ああ、そうだ…処刑人はあなたたちのマザーベースでもう一つ面白いものを見つけました。あと、私を鍛えてくれたのはあなただけではないのです」

 

 ウロボロスは目を閉じ、のどに手を当てると小さく咳ばらいをした。

 

 再び目を見開いた彼女は、穏やかな表情を浮かべ、慈しみすら感じられるような声で、そっとつぶやくのだ。

 

 

 

「ジャック、お前を…待っていた」

 

 

 その声は似せているが本人のものではない。

 だが穏やかな声色で呼ばれた古い愛称を聞いたスネークの脳裏に恩師の姿が浮かぶ

 

 

「…ッ! まさか、お前……!」

 

「処刑人はストレンジラブ博士のラボであるデータを目にしました。そう、あなたにとっての恩師…ザ・ボスのデータを。私は彼女にも鍛えられました、戦闘技術のすべてを叩き込まれました。ビッグボス、私はあなたの娘でもあり、兄妹でもあるのですよ?」

 

「まやかしだ! お前がなんと言おうと、お前が戦った相手は、戦闘技術を再現しただけの存在に過ぎない」

 

「理解しておりますよ」

 

 ウロボロスは少しだけ悲しい表情を浮かべ、小さなため息をこぼす。

 

 彼女が電脳空間で身に付けたこと、それは二人の戦闘技術に過ぎないのだ。

 伝説の兵士ザ・ボス、伝説の傭兵ビッグボス。

 ただ技術があるだけなら、後世に語られるような伝説にはなりえない…だからこそウロボロスは自分に欠けたパーツを求め、電脳空間に見切りをつけ現実世界にやってきた。

 

 

 

「ビッグボス…私はあなたを現実世界で倒すことで、最後の欠けたピースを埋め合わせる。戦士としての精神を手にしたとき、私は伝説を超える存在となるのです」

 

 

 




あれ…これウロボロスがラスボスでいいんじゃないかな…。


というわけで、まだまだ三章続きます…。
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