METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:嵐の前の静けさ

「さあ、エグゼ……いらっしゃい、すべてをわたしに委ねなさい」

 

 マザーベース内、研究開発棟の男子立ち入り禁止エリアのラボにて、エグゼは一人の変態科学者によって追い詰められていた。

 頬をやや紅潮させ、これから起こるであろう出来事に心躍り若干の呼吸の乱れあり…スモークの濃いサングラスをかけているが、その奥で爛々と瞳を輝かせていることは彼女を知る者なら分かっているはずだ。

 

「安心しろ、手荒な真似はしない」

 

「嘘つけクソ女! こっち来るんじゃねえッ!」

 

 変態科学者(マッドサイエンティスト)ストレンジラブは、わきわきと怪しげな指の動きでエグゼを追い詰める。

 真っ白な壁のラボを逃げ回るエグゼだが、普段のような機敏さはなく、躓いたりテーブルにもたれながら変態女の魔の手から逃れようとしている。

 そのうち力の入らない足がもつれ、その場に倒れ込む。

 

「やめろ、来るなよ…!」

 

 床を這い、恐怖に震え少しでも逃れようとするが、ストレンジラブの細い指がついにはエグゼの足を掴む。

 足を抑え、暴れるエグゼの身体を優しく抑え込む。

 それでいてストレンジラブは嬉々としてエグゼが身にまとう衣服に手をかけていく…。

 上着を脱がされ、黒のホットパンツがするりと脱がされた。

 

「美しい…」

 

 ストレンジラブの熱い吐息と共に、冷たくしなやかな細指でエグゼの腹部を撫でる。

 程よく鍛えられ、うっすらと割れたエグゼの腹筋を撫でまわす。 

 冷たく柔らかな指の感触に、エグゼはおもわず身震いした。

 

「なあ、やめてくれよ……マジで、冗談じゃないって…!」

 

「冗談なものか、わたしはいつでも本気だぞ。心配することはない、優しくするから」

 

 ストレンジラブは片手でエグゼの頬を優しく包み込む様に撫で、そっと耳元で呟いて見せる。

 同じ女として、どのようにすれば心を落ち着かせられるかは心得ているようだ。

 彼女の甘い言葉と、打たれた麻酔薬の影響でエグゼの意識はもうろうとなり、意思とは裏腹に少しずつ身体は彼女を受け入れ始めていた。

 髪を撫で、肩を包み、しなやかな指がエグゼの身体をなぞっていく。

 

 固く目を閉ざし、唇を噛みしめ小刻みに震えるエグゼに微笑みを浮かべつつ、ストレンジラブは唯一彼女の身体を隠すショーツへと手をかけた。

 そのとたん、危機感にエグゼは意識を覚醒させ、力を振り絞りストレンジラブを突き放す。

 

 

「ふむ、流石は鉄血のハイエンドモデルだな。これほどまでの抵抗を見せるとは…いいだろう、次回からはもっと強力な薬を使えそうだ」

 

「来るな、来るなよ! おい! 誰か助けてよ! スネーク、いるんだろスネークッ! ここを開けてくれよ! 誰でもいいから助けて!」

 

「ええい観念しろエグゼ!」

 

「離せ、やめろ! 本当にシャレにならないって…マジで…あ、やめ……アッ――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、エグゼ出てきたよ?」

 

 研究開発棟の甲板上にシートを敷き、人形一同ジュースでも飲みながらのんびりしていた。

 そこへエグゼが疲れ果てたようにふらふらと中から出てきたかと思えば、"ぐふっ"とか言いながら前のめりに転倒しそのまま動かなくなってしまった。

 後から出てきたストレンジラブは対照的に、どこま満足げな様子で、肌もつやつやとしているではないか。

 中で何があったのかは想像できないが、きっとろくでもないことに違いないと人形たちは思う。

 

「ストレンジラブ、うまく行ったか?」

 

「ふむ、久しぶりのエグゼの裸体だ、じっくりと味わわせてもらった」

 

「いや、そうじゃない…」

 

 ある程度は予想していたことだが、思った通りの言動を見せるストレンジラブにはスネークも呆れてものも言えない。

 それはさておいて、エグゼがストレンジラブの餌食になってしまったのには一応理由がある。

 先日の一件で、エグゼを通して鉄血に情報が筒抜けになっていることが発覚したため、急遽マザーベースへ帰還するなりストレンジラブにAI調整を行ってもらうこととなったのだ。

 

 その際、ストレンジラブの異常性を知るエグゼは、ストレンジラブの名前を聞いた瞬間逃走、マザーベース中を巻きこんだ追いかけっこが勃発した。

 逃げるエグゼにヘイブン・トルーパー隊やFOXHOUND、試作型月光及び歴戦の月光が投入され、ついにはダンボールに隠れていたところをスネークに見つかり捕まった。

 

「それにしても、スネークよくエグゼがダンボールの中に隠れてたの分かったわね」

 

 思いだしたように、WA2000は言う。

 彼女もFOXHOUNDの隊員としてエグゼを血眼で捜し回っていた一人だ。

 

「蛇の道は蛇ってことだ」

 

「ふーん、よく分からないけど。でもまあ、ダンボールに隠れるなんてマヌケににも程があるわね。あたしだったらそんなことしないわ、バカみたいだし一生の恥ね。実際そこにいたの知った時は大笑いしちゃったし、恥ずかしくなかったのかしら?」

 

「そうだな…」

 

「え、どうしたのスネーク? わたし、何か変なこと言った?」

 

「いいんだ、お前は悪くない……」

 

 目に見えて落ち込んでいる様子のスネークにWA2000は慌てふためく。

 何かマズいことを言ったのではと周囲に聞いて回るが、この場において失言に気がつかないのは彼女だけだろう。

 

「あのさワーちゃん、オセロットにぞっこんなのはいいけどさ。せめてこう、MSFのボスの趣味嗜好くらいは把握しておこうよ」

 

「な、なによ! あなたは知ってるのスコーピオン!? 教えて頂戴!」

 

「まあ、ダンボールのことなんだけどさ」

 

「分かったわ! ダンボールに隠れてたエグゼを笑っちゃったのがいけなかったのね! でも、しょうがないじゃない、ダンボールは荷物を入れる物でしょ!? あんなダンボールに隠れるなんて、絶対普通じゃないもの! おかしいわよ、きっとエグゼはウケ狙いで被ってただけよ! ねえ、そうなんでしょスネーク! スネークだって、ダンボールに隠れるなんてバカみたいだって本当は思ってるでしょ!?」

 

「少し、カフェで…一服してくる…」

 

「え!? ごめん、なんだか分からないけど悪気はないんだから! スネーク、待ってってばスネーク!」

 

 暗い雰囲気を纏いながらとぼとぼと立ち去るスネーク、そしてそれを追いかけるWA2000。

 とても珍しい構図である。

 

 さて、やかましいのがいなくなったところでスコーピオンは未だ虫の息のエグゼに近寄り抱き上げる。

 適当に着替えた衣服は乱れ、虚ろな瞳の端にはうっすらと涙が溜まっている。

 中で間違いがあったわけではないのだろうが、エグゼのその様子にはスコーピオンも加虐心をくすぐられる。

 

「おーい、エグゼしっかりしろー」

 

「うぅ……穢された、オレはスネークだけのものなのに…」

 

「心配するな、減るもんじゃないでしょ? ほら、元気出して」

 

「そうですよエグゼ。それで、ストレンジラブ博士、エグゼのAI調整は上手くいったんですか?」

 

 9A91の問いかけに、ストレンジラブは頷く。

 

「情報どうり、エグゼのAIはどこかへ向けて無意識に通信をとっていた。とても微弱なものだったから気がつかなかったはずだ。まあ、鉄血側としても狙ったものではなく偶発的なものだっただろうな。そしてよりによって私の研究データも覗かれていたとはな」

 

「それなんだけどさ、エグゼの事は責めないであげてね? ほら、こいつスネークに夢中だから、スネークに関する事は何でも知りたがってたからさ」

 

「もちろん、エグゼは何も悪くない。私の不注意が招いた結果に過ぎない…おかげでZEKEも失ってしまった」

 

「ヒューイは、どうしてるの? あいつ、ZEKEを気に入ってたみたいだし」

 

「さあな。研究室に引きこもって何かをやっている。奴なりに気持ちでも切り替えているんだろう」

 

 メタルギアZEKEが破壊された影響は、戦力の喪失というよりも、精神的支柱を失ったことの痛みの方が大きかった。

 強大な力、核の抑止力、何よりそばに立つその巨大な姿は兵士たちにとってMSFの守護神そのものだったからだ。

 

「まあ、あいつはほっといて構わない。それより君たちもAI調整を受けてみないか?」

 

「断固拒否」

 

 その言葉にすぐさまスコーピオンと9A91はぐったりとしたエグゼを回収し、早足にその場を立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スネークがカフェを訪れた時、お店には他にお客さんの姿はなく、カウンターの奥で皿を綺麗に吹いているスプリングフィールドがいるだけであった。

 来客を知らせるベルの音が鳴った時、彼女はスネークに気付き皿をしまい、カウンターの定位置につく。

 

「あら、今日はワルサーさんと一緒なんですね、珍しい組み合わせですね」

 

「ねえ、スネークってば元気出してよ。なんで落ち込んでるのか、理由を教えてくれなきゃ分からないじゃない」

 

「どうかなさったんですか?」

 

「ちょっとね…それより、折角だからコーヒーもらえないかしら?」

 

 何かおかしな事情があるのだろうと、スプリングフィールドはそれ以上追及せずにコーヒーを淹れる準備に取り掛かる。

 その様子を、WA2000はどこか心配そうに眺めていた。

 バルカン半島で、人間の狂気と惨状を見続け、精神を追い詰められ戦場から離れたスプリングフィールドはあの後すぐにマザーベースに帰還した。

 今こうして気丈に振る舞っているように見えるが、以前と比べるとどこか暗い雰囲気を纏っているように見える。

 それとも、戦場での出来事を知っているからそう見えるだけなのか…。

 

 差し出されたコーヒーを受け取り、一口すする。

 相変わらず芳醇な香りとコクの引き立つ上等な一杯だ。

 

 スネークもコーヒーに口をつけ、葉巻を取り出し口にくわえた。

 ふと、スネークは店内の壁にかけられた禁煙のマークが描かれた壁掛けに気付いたが、スプリングフィールドはその壁掛けを裏返し隠す。

 彼女の意図を察し、その好意にスネークは甘えた。

 

 

「ねえスネーク、これからどうするの? ウロボロスを追うんでしょ?」

 

「ああ、アルキメデスを奴に持たせ続けるわけにはいかない。イリーナとの約束もある」

 

「イリーナとスオミ、助かるといいわね」

 

「そうだな」

 

 

 現在、イリーナはバルカン半島内のパルチザン支配地域の病院にて治療を受けている。

 受けた傷は深く、いつ死んでもおかしくない容体であったが、国の将来を憂う医者の協力で今も医療処置がとられているらしい。 

 そしてスオミは、人形を修復可能な設備のあるマザーベースに運ばれ治療を受けている。

 人形である彼女はひとまずは助かる見込みはある。

 

「可哀想なスオミ、一度に主人を二人も失うことにならなきゃいいんだけど…」

 

「イリーナを信じるしかないな」

 

 

 そうしていると、来客を告げるベルの音が鳴る。

 振り返ってみると、MSFのもう一人のサングラス…カズヒラ・ミラーの姿があった。

 

 

「スネーク、ここにいたんだな? 捜したぞ。それにワルサーも、オレも一緒にお茶していいかな?」

 

「ええいいわよ。でも隣に座らないで」

 

 

 WA2000はそう言うと興味なさげにそっぽを向く。

 やれやれと、仕方なくミラーはスネークの隣の椅子に座る。

 それから何かを取り出し、スネークの目の前に置いた。

 

「スネーク、以前アンタに頼まれていたものだ。研究開発班が造ってくれたから、持ってきたぞ」

 

「これは…!」

 

 スネークは咄嗟に葉巻を灰皿に置き、ミラーが置いたハンドガンを手に取り食い入るように見つめた。

 

「M1911A1カスタムMSF仕様、アンタの要望通り設計を組み直し、熟練の技術者が丁寧に仕上げた逸品だぞ。今更オレが言う必要も無いだろうが説明させてくれ…まずフィーデングランプを鏡のように磨き上げており、給弾不良を起こす事はほぼ無いはずだ。スライドは強化スライドに変更し、スライドとフレームの噛み合わせにもガタつきが一切ない。アンタの指示通り、フレームに溶接しては削る作業を繰り返し、徹底的に精度を上げた」

 

「それだけじゃない、フレームのフロントストラップ部分にチェッカリングが施され、手に食いつくようになり滑りにくい。サイトシステムも3ドットタイプのオリジナル、フロントサイトは大型で視認性が高くしてある。ハンマーはリングハンマーに変更し、コッキングの操作性を上げ、ハンマーダウンの速度を確保できるようになっている」

 

「ああ、それとグリップセフティもリングハンマーに合わせて加工し、グリップセイフティの機能を無くしたプロ仕様だ。サムセイフティとスライドストップも延長して、確実な操作が可能だ。トリガーガードの付け根を削っているから、ハイグリップで握る事もできる。トリガーも指をかけやすいロングタイプだ。トリガープルも約3.5ポンドと軽量化に成功した」

 

「マガジン導入部もマガジンが入れやすいように広げられているな。マガジンキャッチボタンも低く切り落として、誤作動を起こしにくくなっている。メインスプリングハウジングも、より握りこむためにフラットタイプだ。射撃時の反動で滑らないようにステッピングが施されている。スライド前部にもコッキングセレーションを追加、サプレッサーが無改造でも着脱できるよう、バレルを延長済みか……カズ、開発班には礼を言っておいてくれ、オレの無茶な頼みをよく聞いてくれたと」

 

「アンタのためなら、うちのスタッフは不可能も可能にするぞ、ボス。そうだ、噂の404小隊だが……随分可愛い子たちじゃないか、マザーベースに連れてきたらどうだ?」

 

「ダメに決まってるだろう。オセロットからもきつく言われている」

 

「そのオセロットは、前哨基地で404小隊を監視中…か。羨ましいな、ボス!」

 

 朗らかに笑うミラーであるが、こんな非常時によくそんなことが言ってられるもんだとスネークは呆れていた。 WA2000に至っては、オセロットの名前が出てきたばかりか、ミラーの女たらしの発言に絶対零度の冷たい目で蔑んでいるが…。

 

 

「まあ、そのなんだ…三日後にはアンタとオセロット、それからエグゼが敵地へ向かう。ウロボロスの所在は404小隊が知っているようだな」

 

「ああ。向こうは向こうで、何か別なものを追ってるらしいがな」

 

「まだバルカン半島での仕事が残っているから、あまり部隊を派遣することはできない。まあ、オセロットとエグゼの二人はMSFでもトップクラスの戦闘能力を持つ。アンタの足手纏いには、決してならないはずだ。それにしても、相手は蛇の名を持つ鉄血人形か……蛇を倒す作戦、スネークイーター作戦だな」

 

「止してくれ、その名前には思い出がありすぎる。それに、今回は一人での作戦じゃない」

 

「そう、アンタを支える仲間がそばにいる。それを分かってくれればいい。頼んだぞボス」

 

「任せておけ」

 

「よし、というわけで景気づけに酒でも飲むか! スプリングフィールドちゃん、今日こそは一緒に飲んでくれるよね!?」

 

「あの、えっと…まあいいでしょう」

 

 困ったような顔ではあるが、期待していた返事にミラーは大喜びである。

 

 その後、酒に酔い調子に乗ったミラーが脱ぎ始めたところで怒れるWA2000の鉄拳制裁を食らい、海鳥の溜まり場に放り投げられるのであった。




ほのぼのを取り戻した()


今回のイベント、冒頭をちらっと見ただけですけど、この作品内の嵐に運ばれたMGS勢ってのも無茶な設定じゃないんじゃない!? と思ってしまった(笑)

ワーちゃん「ダンボール被ってる奴なんて変人か変質者よね。スネークもそう思うでしょ?」
ビッグボス「……(落胆)」
ソリッド「そうだな(怒)」
雷電(やはりオレの感性は正しかったんだ)

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