METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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第四章:OLD GLORY
陽はまた昇る


 執務室にて、グリフィン上級代行官ヘリアントスはいつも以上の厳しい表情で、机の上に広げた資料や新聞の記事を眺めていた。

 机上職が嫌いな者が見たらうんざりするような、びっしりと文字が書かれた報告書には最近のバルカン半島での情勢について、グリフィンの諜報部が独自に調べた内容が載っている。

 新聞記事の一面には"反政府パルチザン優勢、連邦政府高官は国外逃亡か"という文字と共に、反政府パルチザンの活躍を写した写真がでかでかと掲載されている。

 

「ヘリアン、失礼するぞ」

 

 部屋に入ってきたクルーガーに、ヘリアンはすぐさま起立し背筋を伸ばす。

 他に誰かいるわけではないから気楽にしろとクルーガーは言うが、そう言われて気を抜くような女ではない。

 

「テレビを見たかね?」

 

「いえ、前線の司令部より戻ったばかりですので」

 

「そうか。大事件が起こったようだな」

 

 クルーガーは執務室に取りつけられたモニターに、民間放送のチャンネルを合わせる。

 テレビでは、現在進行形のバルカン半島の内戦事情についての報道をしており、どこの放送局も同じ内容である。

 モニターには戦車に乗り込んだパルチザンの兵士たちが、パルチザンの軍旗を掲げ市街地を進む映像が映し出されている。

 

"――――本日未明、バルカン半島の連邦政府最後の牙城であるザグレブに反政府パルチザンの勢力が攻勢を仕掛けました。連邦政府は市街地に非常事態宣言を発令しておりましたが、ザグレブ市内の市民や軍部の離反が後を絶たず、政権側は徹底抗戦の構えを見せておりますが、既に首都ザグレブは包囲され政権側の敗北は決定的と見られています"

 

"ザグレブより中継です、市街地では今も交戦状態が続いておりあちこちで銃声が響いております! ご覧ください、連邦国会議事堂にパルチザンの軍旗が掲げられています! 歴史的瞬間です、もっとカメラを映して…! まるでライヒスタークの赤旗のように、パルチザンの勝利を示しているかのようです!"

 

"―――こちら現地リポーターより、パルチザン側とのインタビューを始めたいと思います。パルチザン側の勝利の一因には、忍耐強い闘争の他、大手PMCによる援助もあったという情報もあります。連邦政府の厳しい報道規制によって内情が知られていなかったいま……あ、ちょっと!?"

 

 現地より、内戦の情報を伝えていたリポーターが突如マイクをひったくられ、取り返そうとしたところをスコップで殴られて気絶する。

 次に映像に映し出されたのは、金髪に眼帯姿のやたらと見覚えのある少女である。

 

 

"やっほー、みんなのアイドルスコーピオンだよ! こちら国境なき軍隊(MSF)側より急遽宣伝も兼ねてあたしが戦場をリポートするぞ! 

MSFでは、常に、勇敢で逞しい戦士を募集しているぞ! 

政府の言いなりになるのは嫌? イデオロギーで対立するのは嫌? 誰かのためじゃなく、自分のために戦いたい? 

なにより、戦場でしか自分を見出せないと感じている諸君に告ぐ、MSFでは君らの願いが全て叶う!

あとそれから戦術人形諸君も、これを見ている野良人形たちだぞ、MSFでは君らのような人形も常に募集中だぞ!

それじゃ、諸君らの天国の外側(アウターヘブン)への来訪を心待ちにしてるからね!

おーい、あたしの手柄をとるな―――ッ!」

 

 

 画面が変わり、また別な放送局の現地報道が映される。

 クルーガーもヘリアンも、お互い言葉を発さず重苦しい空気が立ち込める。

 別な放送局でも、MSFについての情報がピックアップされていた……。

 

 

「予想外、というべきだな…」

 

「それは、バルカンの情勢にのみ込まれると予想していたということですか?」

 

「うむ……既に各国はMSFを危険視するのではなく、歩み寄ろうという姿勢も見えはじめている。その存在を認めることで、MSF側にもいくらかの妥協を望んでいるのだろう。それほどまでに、あの連邦政府が崩壊していく様は衝撃的だったのだ」

 

「クルーガーさん、これから我々はどうすれば…」

 

「どうもせんよ。我々は我々の仕事をこなすだけだ…MSFと我々とでは戦う理由も、組織の成り立ちも大きく違う。そうだな、我々としても…少し態度を改めても良いのかもしれん」

 

 クルーガーのMSF側と交流することを示唆する言葉に、ヘリアンは一抹の不安を覚える。

 AR小隊が戦場でMSFと接触したという情報があって以来、お互いの交流はほぼ断絶し関わり合いがない状態であった。

 ヘリアンとしては上司であるクルーガーがやれと言えば私情を挟まずやるつもりではあるが、AR小隊はどうか?

 特にM4はその時の一件でMSF側に酷く立腹し、現在同じAR小隊の仲間であるAR15の失踪で不安定な精神状態にある……万が一MSFに対し、M4の感情が爆発してしまったら、恐ろしい事態になることが予想される。

 

「ところで、404小隊はどこに? 作戦報告がいつまでも来ないようだが…」

 

 振り返り尋ねてきたクルーガーに、咄嗟にヘリアンは顔を背けてしまう。

 

「ヘリアン?」

 

「いや、あのですね……怒らないで聞いてくれますか?」

 

「あ、あぁ……何かあったのか?」

 

「作戦中、彼女たちもMSFと接触して……その後、彼らの基地に滞在してるみたいで…」

 

「なるほどな………ヘリアン、今回の任務の報酬…びた一文払わなくていいからな」

 

「はい、その通りに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本拠地マザーベースの位置情報は外部に対して徹底的に秘匿されているため、陸上に設営されている前哨基地こそが、MSFを訪れる者たちの玄関口となる。

 そしてその玄関口には、たくさんの人たちでごった返している状況にある。

 

「オレもMSFに入れてくれ!」

「おい、オレは射撃の名手だ! 仲間にしてくれれば力になるぜ!」

「雇って、どうぞ」

「元グリーンベレーのオレを雇ってくれ!」

「早く雇えよ、あくしろよ!」

「正規軍が10万ドルポンとくれるオレの力、見せてやろうか?」

 

 バルカン半島の連邦政府が崩壊して以来、MSFの話しを聞きつけた兵士たちが各国より己の力を交渉道具に前哨基地を訪れている。

 ヨーロッパはもちろんのこと、アジアやアフリカ、南米などからも多くの兵士たちがMSFに憧れを抱きやって来ているのだ…その数たるや、日に100人を超すこともある。

 バルカン半島の内戦でまたしても人員の喪失があったMSFだが、やってくる人員を無条件に雇うわけにはいかない。

 もしかしたらMSFへスパイ目的に接触する者もいるかもしれないし、単なる憧れで腕に自身の無いルーキーだって紛れ込んでいるかもしれない。

 兵士たちの受け入れには、前哨基地の管理を任されているエイハブとオセロットが担当をしているので、いまのところは間違った受け入れなどはされていない…。

 

 

 

 そんな前哨基地の慌しい様子とは対照的に、海に浮かぶMSFの本拠地マザーベースは平穏そのものだ。

 バルカン半島での内戦が終結し、一部の治安維持部隊を現地に残し、MSFの部隊はあらかたバルカン半島から引き揚げられていた。

 戦場で戦っていた兵士たちはマザーベースでの長期休暇を許可され、退屈だが平穏な生活の中で戦場での疲労を癒していた。

 

 

 マザーベースの甲板上で、スコーピオンはサングラスをかけてビーチチェアに座りくつろぐ。

 

「青くきらめく海、海鳥の鳴き声、穏やかな潮風……うーん、甘美」

 

「何が甘美よこのバカサソリッ!」

 

「ぬわああぁっ!」

 

 

 そんなスコーピオンの気取ったセリフを聞いた瞬間、WA2000はビーチチェアごとスコーピオンを蹴り飛ばす。

 

 

「いきなりなにするんだワーちゃん! 危うく海に落っこちて死ぬとこだったじゃないか!」

 

「落ちて死ねば良かったのに! まったく、アンタが余計なことをカメラの前で言うから…オセロットの仕事が増えて会えなくなっちゃったじゃない!」

 

「まあまあ落ち着きなさいワーちゃん、人員不足に悩むMSFにあたしの行為が一石を投じたのだ。今は怒られても、後にあたしはMSFを救った英雄として歴史にのるのだ」

 

「したり顔で意味不明なこと言ってんじゃないわよ!」

 

 最近オセロットに会えていないWA2000はただでさえ機嫌が悪いというのに、その原因を作ったようなスコーピオンが偉そうに振る舞っている姿は余計に彼女を苛立たせる。

 そのうちWA2000が先に手を出して、二人は取っ組み合いのケンカをすることになるのだが、タフなスコーピオンとFOXHOUNDに選ばれるだけのWA2000とではいつも決着がつかない。

 この日もその例にもれず、仲裁にやって来たミラーとUMP45によってケンカは止められる。

 

 いまだ腹の虫が収まらないWA2000は、ニコニコとした表情で当たり前のようにマザーベースにいるUMP45へ怒りの矛先を向けるのだ。

 

 

「というかなんでこいつがいるのよ! オセロットが404小隊はマザーベースに入れるなって、厳しく言ってたはずよね!? こいつに基地を徘徊させたら何を盗まれるか分かったもんじゃないわ、なんで入れたのよ!」

 

「可愛いからに決まってるだろ、いい加減にしろ!」

 

「最っ低! 本当に気持ち悪い変態ね、近寄らないで!」

 

「アハハハ、MSFって面白い場所ね。しばらく滞在しようかしら?」

 

「お断りよ! とっととグリフィンに帰ってヘリアンのご機嫌取りでもしてなさい!」

 

「やーん、カズヒラさん助けて! ワルサーさんが苛めてくるわ!」

 

「うおおお! 45ちゃんを苛める奴はオレが許さんぞーッ!」

 

「このクズ共が……!」

 

 キャッキャウフフと、ミラーに抱き付いて媚びるUMP45に対し、WA2000は額に青筋を浮かべ拳を握り固める。

 指揮系統から言うとまずスネークが、その次点でミラーがいてオセロットはその後に続く形だが、そのような指揮命令系統は関係ない。

 WA2000にとってはオセロットこそが大正義であり、オセロットの言葉こそが聖典なのだ。

 

「まあまあ、ワルサーちゃん落ち着きよ! 家族が増えるっていいことなんだよ!」

 

「アンタらみたいな胡散臭い家族なんてごめんよ!」

 

「完全無欠なこの私が味方になるかもしれないというのに、何が不安なの?」

 

「あんた前にオセロットに襲い掛かったって聞いたわよ!?どこに安心する要素があんのよ!」

 

「海風が気持ち良いから良く寝れそう」

 

「一生寝てなさい! コンクリートに詰めて海底に沈めてあげるわ!」

 

 404小隊全ての隊員に噛みつき、息を荒げるWA2000。

 しかし一部の者たちを除き、MSF副司令ミラーの決定というのは組織の長であるスネークが反対しなければ絶対であるため、404小隊のマザーベースでの自由はまかり通ってしまうのだ。

 

「オセロットに… オセロットに言いつけるからね! 覚悟しなさいよアンタたち!」

 

「そんな固くならずにもっと楽しめばいいのに。ね、カズヒラさん?」

 

「そうだよね45ちゃん! ようやくオレにも運気が回って来たぞ!」

 

 一見UMP45はミラーの腕に抱き付いて笑顔を振りまく愛嬌の良さをアピールしているが、WA2000には、その腹黒さが良く見えている…きっと何か企んでると警告するのだが、目の前のグラサンのおっさんは一切耳を貸さず、UMP45に鼻の下を伸ばしている。

 イラつくWA2000に、盟友スコーピオンは声をかけるのだ…。

 

「ワーちゃんがミラーのおっさんに色仕掛けすれば何とかなるんじゃない?」

 

「死んだ方がマシね」

 

 オセロット以外の男に媚びるなどと、考えるだけでもゾッとする…病的なオセロット信仰に、スコーピオンは苦笑する。

 結局似た者同士仲が良いということか…。

 

 

 

 

 

 ところ変わってマザーベースの居住エリア。

 居住エリアの一画に設けられた喫煙スペースにて、スネークは一人葉巻を嗜む…このような場所で葉巻を吸うのはスネーク的にはごめんなのだが、最近は非喫煙者への配慮ということで喫煙所があちこちに設けられるようになってしまった。

 おかげで食堂などで喫煙はかなわず、このような閉じ込められたスペースで一人寂しく葉巻をふかすしかない。

 

「これなら外にいた方が良い…」

 

 思わず愚痴をこぼしてしまうが、一応組織の長として、決められたルールは守らなければならない。

 

 味気ない葉巻の火を消し、喫煙所を出ると、誰かが言い争う声を聞く。

 スネークはその声のする方へ歩いていき、物陰からこっそりと覗く……。

 

 

「もうわたしに構うな! 迷惑なんだよ!」

 

 

 言い争いをしているのは、エグゼとそれから先の作戦で回収された鉄血のハンターだった。

 

 

「いや、だからオレは親友としてお前と仲良くしたくてだな…」

 

「それが迷惑だと言ってるんだ! 何が親友だ、私はお前など知らないと言ってるだろう!」

 

「お前の記憶が消える前、オレとお前は親友だったんだ。確かに、お前はもう覚えちゃいないかもしれないけどよ……それでもお前とまた一からやり直したいと思ってんだよ!」

 

「ふん、わたしの気持ちなどお構いなしか。前の記憶が消えてくれたのは良かったさ、お前みたいなしつこい人形の記憶はキレイさっぱり忘れたいだろうからな!」

 

「お前、ふざけんなよ…!」

 

「なんだ、殺すか? ああそうしてくれ、その方が私も都合がいい。どうした、私は丸腰だぞ? さあ殺せよ、そうしたら私はまた記憶をリセットして生まれ変わる、お前みたいな煩い人形など全部忘れてな! さっさと殺せよ処刑人!」

 

 ハンターは処刑人の腰のホルスターから銃を取り、エグゼの手に押し付けその銃口を自分の胸に押し付けた。

 

「ハンター、どうして分かってくれないんだよ…オレは、お前と一緒に居たいだけなんだよ」

 

「私はお前となど居たくはない…! 私を殺せないのなら、お前がこの場で死ね!」

 

 引き金を引くことのできないエグゼから銃をとり上げ、ハンターは銃口をエグゼへと向けた。

 撃つことのできなかったエグゼに対し、ハンターは何の迷いもなく、その引き金を引いた…。

 だが、放たれた銃弾はエグゼを撃ち抜くことは無く、代わりに床を抉り取っていた。

 

「スネーク…!」

 

 咄嗟に跳び出したスネークが、ハンターの拳銃を抑え、その狙いをエグゼから離していたのだ。

 驚愕するハンターを突き放し、銃を奪い取る。

 

「仲間に銃を向けるな」

 

「……私は、貴様らの仲間ではない…!」

 

 ハンターは忌々しくエグゼと、スネークを睨みつけその場を立ち去っていく。

 エグゼは彼女を追いかけようとしたが、スネークは止めた。

 

「ハンターにはまだ時間が必要だ。気持ちの整理が、追いつかないんだろう」

 

「スネーク…オレ、アイツとどう接したらいいか分かんねえよ。前と同じようにしても、アイツは拒絶するだけだ」

 

「難しい問題だな。こればかりは、オレも解決策を出してやれないからな。そうだな、何かハンターの気分転換になることでもしてやろうか。エグゼ、ハンターは何か好きなことってあったか? 同じモデルの人形であるなら、ある程度の趣味嗜好は被るだろう」

 

「好きなことね…やっぱ狩りとか、好きだったよな」

 

「狩り……か。そうだな、久しぶりにアレをやってみるか」

 

「アレって…?」

 

 いまいち理解できないエグゼは小首をかしげ考えてみるが、それでもスネークが何を考えているのかよく分からなかった。

 

 

「ちゃんとした料理もいいが、素材の味を、生で感じてみたいと思わないか?」




4章…始動!

カズ「ついに…ついにこの時が…!45はオレの嫁ッ!」(歓喜)
UMP45「そんなカズヒラさんったら…///」(いやーきついっす)

ヤンデレな45姉もいいけど、あたくし的に小悪魔的お姉さんも合うと思うんだ!

4章では割とワーちゃんが暴れまくるかな?
オセロット絡みで(笑)

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