METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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蛇と蠍の物語

「そうだちょっくら探索に行こう」

 

 マザーベースの自室でゴロゴロとしていたスコーピオンは誰にともなくそう言うと、すぐさま準備に取り掛かる。

 自前のリュックサックに、ナイフ、レーション、ライト、地図などを放り込む。

 色々詰め込み過ぎたせいでかなりの重さになってしまっているが、そんなことは関係ない。

 物を詰め仕込んだリュックサックとキャンプ用具を背負い、部屋を飛び出しマザーベースの甲板上へと出る。

 

 雲一つない青空に、穏やかな海風。

 絶好の散歩日和にスコーピオンは両手を広げ、太陽のぬくもりと海風の心地よさに目を細める。

 さて、天気の方は良いがスコーピオンが出かけるにあたりいくつか問題があった…。

 

 

「目標をよく狙えよ。命中率が80%割りやがったら、マザーベース3周コースだ。気合入れてやれよお前ら!」

 

 

 すぐそばの屋外射撃場では、エグゼが配下のヘイブン・トルーパー隊の射撃訓練を見ている。

 そこにいるヘイブン・トルーパー隊は最近工場で造られて送られた新兵のようで、ここ最近はエグゼがつきっきりで訓練教官として彼女たちを鍛えている。

 時々ハンターも訓練教官として見てあげているようで、その際は二人とも真面目な仕事であるためか協力して教育にあたっている。

 

 別な場所を見て見れば、同じように9A91とWA2000が404小隊のメンバーと一緒に訓練を行っていた。

 ちなみにこの場にはいないが、スプリングフィールドがメディックとしての教育をエイハブに見てもらっている…つまり、外に出かけて遊ぼうなどとしているのはスコーピオンだけだった。

 見つからないようこっそり出かけようという考えが浮かばなかったわけではないが、頑張っている仲間たちを差し置いて遊ぶことに気が引けて、スコーピオンは荷物を下ろし自分も訓練に混じるのであった。

 

「やっほーエグゼ、新兵の調子はどう?」

 

「相変わらず、鈍い連中だ。よし、射撃止めッ!」

 

 エグゼの言葉でヘイブン・トルーパーたちは射撃訓練を止め、その間にエグゼが射撃目標の的を見てまわる。

 

「全然ダメじゃねえか…おいお前ら、こんな止まった的に当てられないようじゃ、動く標的なんて当てられねえぞ」

 

「すみません隊長、まだ新しい銃に慣れてなくて…」

 

「銃の問題じゃねえ、腕の問題だ。オレはこの部隊をMSF一の精鋭部隊にしようと思ってる。FOXHOUNDにも負けないくらいのエリート部隊にだ…中途半端な気持ちで訓練に参加するな、本気でやれ」

 

「はい、了解です…」

 

「いいか、お前らはオレと同じ鉄血製だ。自分たちの生まれを誇りに思え。厳しかろうが辛かろうがオレについてこい、最強の兵士に育ててやる」

 

「隊長…! 了解です!」

 

「よし、じゃあマザーベースを周回してこい! お前らは精鋭ヘイブン・トルーパー隊だ、舐められるんじゃねえぞ!」

 

「Yes Ma'am !!」

 

 

 エグゼの檄にヘイブン・トルーパーたちは大声で応え、すぐさま隊列をつくりマザーベース周回コースを走りだす。

 

 

「エグゼ、部下に慕われてていいね!」

 

「そうか? どうせならお前も訓練やってくか?」

 

「えへへ、一応そのつもりで来たんだよね」

 

 呑気な笑顔を浮かべて見せるスコーピオンは早速銃をとりだすが、すぐにエグゼの手によってひったくられる。

 いきなりのことに文句を言おうとしたスコーピオンであったが、エグゼのいつになく真剣な表情に、出かかった文句言葉をひっこめる。

 

「お前さ、最近たるんでねえか?」

 

「なんだよ急に…らしくないぞ。言っておくけど、アタシだってちゃんと訓練はしてるからね」

 

「ただ訓練すれば強くなれるわけじゃねえんだぞ。見ろよ、9A91もWA2000も順調に強くなってる。スプリングフィールドだってよ、自主的にエイハブの奴に指導をお願いしたらしいじゃねえか。はっきり言うぞ、お前の成長は今完全に止まっちまってる」

 

 エグゼの容赦のない指摘に、スコーピオンは怯む。

 しかしエグゼの言う通りで、他の人形たちに比べ成長が遅れてきてしまっていることはスコーピオン自身も感じていたことであり、その意見に反論はなかった。

 

「スプリングフィールドはな、バルカン半島で自分の力不足が分かって、より厳しい訓練をエイハブにお願いしたらしい。お前はそこらへんどうなんだ?」

 

「あ、あたしだって強くなりたいさ。でも、他のみんなみたいに覚えが良いわけじゃないし、戦いもほとんど気合でなんとかなってる感じだし…CQCだってスネークやオセロットに教えてもらってるけど上手くできないしさ。取り柄もあんまりないし…」

 

 自分で言って、気持ちを落胆させてしまうスコーピオン。

 努力はしているが他のみんなのように成長できないもどかしさに悔しさを感じているのだろう…そんな落ち込む仲間の姿を、エグゼは見過ごすことはできなかった。

 

「くよくよしてんな、らしくもねえ。それに取り柄がないだって? とんでもねえ、お前には負けん気の強さと根性がある……そりゃ誰にでもあるもんじゃない。やり方を変えればもっともっと強くなれるぞ」

 

「やり方を変えるって…どうやって?」

 

「ヘヘ、このオレが鍛えてやるって言ってんだよ。オレが思うに、CQCみたいな繊細な技術はお前向きじゃない。お前に合った戦い方を教えてやるよ」

 

 ぽきぽきと指を鳴らし、ニヤリと笑うエグゼに言いようのない危機感を感じるスコーピオンであったが、時すでに遅くエグゼに捕まり引きずられていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――うぅ…身体があちこち痛む…」

 

 大きなリュックサックを背負うスコーピオンはうなだれた様子でとぼとぼと廃墟の街を歩いていた。

 その隣には地図を広げ、葉巻を口にするスネークの姿がある。

 

「ずいぶんエグゼに仕込まれてるみたいじゃないか?」

 

「アイツオセロットより容赦しないよ…見てよこれ、頭切れちゃったんだよ?」

 

「これは…酷いな、本当に訓練なのか?」

 

 スコーピオンの頭の傷を見てスネークは思わず顔をしかめた。

 治療はされているが、よほど痛い目にあったのだろう、傷は深く見える。

 実はスネークはスコーピオンをエグゼが教育しているという話しは聞いていたが、一方でその様子がとても訓練には見えず、どちらかというと本気のケンカのようだったという噂も聞いた。

 実際にその様子を、二人の本気の殺しあいだと勘違いしたスタッフたちが慌てて止めたこともあったくらいだ。

 

「スコーピオン、あまり無理はするな。強くなりたい気持ちはわかるが、オレたちは一人で戦ってるわけじゃないんだ。互いの弱さは、お互いの協力で補えるんだからな」

 

「うん、ありがとうね。でももうちょっと頑張らせて、エグゼの気持ちにも応えたいしさ」

 

 屈託のない笑みを浮かべるスコーピオンに、スネークはそれ以上何も言うことは無かった。

 負けん気の強さと、誰にも負けない根性…それがスコーピオンの持ち味だとエグゼに聞かされていたが、全くその通りだなと思えてくる。

 頑固なところが玉に瑕だが、あきらめの悪さは良い意味で褒めるべきかもしれない。

 

 

「ねえスネーク、あっち行ってみようよ。何かあるかもしれないよ」

 

 スコーピオンの指さす方へと歩いていくと、広い公園と古ぼけた時計塔が見えた。

 誰もいない廃墟の街をスコーピオンが眺めている間、スネークは地図を広げて偵察から得た情報を書き込んでいく。

 スネークたちの任務は、つい最近まで鉄血の支配下にあったこのエリアの調査だ。

 ある時を境に鉄血兵たちがこのエリアから引き揚げていったという情報を聞き、念のためスネークが足を運び調査に訪れたわけだが、情報通り鉄血兵の姿はない。

 

「工場も基地も無いからな、戦略的価値は無いか…スコーピオン、どこに行った?」

 

 ふと、スコーピオンの姿が見えなくなったことに気付き、スネークは彼女の名を呼ぶ。

 すると、100メートルほど先の道路からひょっこりと姿を現し、スネークを手招く…何を考えているのかスネークには分からなかったが、その後をついて行く。

 やがてスコーピオンは一軒の家屋に入って行った。

 

「ふふ、懐かしいな。ねえスネーク、ここ覚えてる?」

 

 家屋の二階に上がると、スコーピオンは部屋の中でやって来たスネークに微笑みかける。

 

「あぁ、覚えてるさ。オレとお前が、初めて会った場所だ。確かお前はそこのクローゼットに隠れてたな」

 

「そう、敵かと思って跳び出したのがスネークでさ。おもいきり壁に叩き付けられたよね、いやーあれは痛かったな」

 

 懐かしい思い出にスコーピオンは笑った。

 

 ここはスネークがスコーピオンと初めて出会った場所であり、この世界での数奇な運命が始まりを告げた場所でもある。

 スプリングフィールドと出会い、郊外の飛行場で鉄血の部隊を相手取った。

 大部隊にたった3人で立ち向かい、追い詰められた時にMSFの仲間たちが駆けつけてくれた…それから、色々なことがあった。

 9A91と出会い、オセロットと再会し、エグゼと戦い……この世界で積み上げてきた経験が、走馬燈のようにスネークの脳裏に浮かぶ。

 

「あのさ、あたしまだはっきり言ってなかったと思うんだよね。スネーク、あたしのことを助けてくれて…本当にありがとうね」

 

「お互い様だ、オレもお前にずいぶん助けられたもんだ」

 

「エヘヘ……あたしさ、スネークに会えて良かったよ。色々ぶちのめされたり酷い目にもあったけど、それ以上に楽しいことがあったから。良い事も悪い事も、全部ひっくるめてこその人生だよね!」

 

「ああ、その通りだ。お前は少しお楽しみが過ぎるようだがな」

 

「もー、そんな遊んでばかりじゃないよあたしは!」

 

 頬を膨らませてむくれるスコーピオンに、スネークは少しだけ笑った。

 最初会った時から表情がコロコロと変わる少女だったと記憶していたが、あれからずいぶん成長したものである…こうやって子供っぽく怒るのは相変わらずであるが。

 

「見てスネーク、これあの時あたしを狙って撃った銃弾の痕だよね!」

 

 壁に空いた銃痕を見て、スコーピオンは懐かしみ、他にも鉄血の目を逃れて何日も隠れていたこの部屋をまわる。

 その間スネークは椅子に腰掛け、葉巻を嗜み一休みをする。

 マザーベースでは禁煙エリアが拡大しているので、外で気ままに葉巻を味わえるのは久しぶりであった。

 

 

「ねぇ、スネーク…?」

 

 

 その声に振り返ろうとした時、スコーピオンは椅子に腰掛けるスネークに背後から抱き付き両手を首に回す。

 

「どうしたんだ急に…」

 

 肩に顔をうずめるスコーピオン、その髪が揺れるとほのかなシャンプーの香りがスネークの鼻をかすめた。

 

「スネークはさ、もし元の世界に帰る手段を見つけたら…帰っちゃうの?」

 

 スコーピオンは顔をうずめたまま、少し寂し気な声でそうたずねる。

 

「もしもさ、スネークが元の世界に帰る日が来ても、あたしは引き止めない…だけど、あたしのことも連れてってほしいな。あたし……あんたが好きだ、ずっと一緒に居させてよ」

 

「先のことは分からない、今を全力で生きるしかできていないからな。スコーピオン、お前の好意はオレも嬉しくおもう。だが、オレはもう誰かを愛したりすることはできないかもしれない…」

 

「知ってる……いいよ、片想いで。ただそばにいて、ずっとあんたを支えてたいだけだからさ」

 

 

 スネークに振り向いてもらおうとか、スネークを独り占めしたいなどとは思わない…ただ一緒にいたいだけ、それがスコーピオンの、彼女なりのスネークへの告白だった。

 

 だが今は、二人きりのこの時間を大切にしたい…そう思うと、安らぎが胸いっぱいに感じるのが分かった。

 

 

「エヘヘ、これからも一緒にいたげるね、スネーク」

 

 

 




蛇蠍(だかつ)⇒人の生活上の脅威となるもの。人が恐れて嫌うのたとえ。
しかしこの作品で蛇蠍(だかつ)とはカップリングを示す言葉である(血涙)

原点に立ち返り、スコーピオンの可愛さを再度認識した。
スコーピオンのドレススキンを見て悔い改めろ!

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