METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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引き続きスコーピオンとほのぼの()


ジャンクヤード編:マーダードールズ

 太陽が傾き、空が夕焼け模様へと変わっていく頃、スネークとスコーピオンはその日の探索を終え、手ごろな場所にキャンプを張り一夜を過ごす準備に取り掛かる。

 スネークが一人であったのなら適当な場所で野宿も良かったのだが、相棒として連れてきたスコーピオンが簡易キャンプ道具も持参してきたので、今回はテントを張り飯ごうで簡単な料理を作ることとなった。

 

「あたしが準備するから、スネークは薪を探してきてくれないかな?」

 

 そんなことをスコーピオンに言われ、スネークは律儀に薪になるような枝木を探して回る。

 生憎周辺には薪を拾えるような林や森はない。

 そこで近くの街に入る…戦争で荒れ果て破壊された家からは、木片がいくらでも手に入れられる。

 なるべく乾燥しているような木材を選び、キャンプの場所にまで運ぶ…既にスコーピオンがある程度近くで集められた薪に火を起こし、手料理の準備を進めていたところだった。

 すっかり日が沈むのも早くなった季節、太陽が沈むと辺りは冷え込み吐く息も白くなる、この日は風があまりないのが救いであった。

 

「おかえりスネーク、ごはんはもうちょっと待っててね」

 

 色々と詰め仕込まれたスコーピオンのリュックサックには、いくらかの食材も入っていて、今はジャガイモを切り分け水の入った鍋を温めているところだ。

 焚火の中へ木片を放りこむ。

 乾燥した木片にはすぐに火がうつり、パチパチと小さくはぜる。

 焚火の温かさは、夜の寒さで冷え切った身体にぬくもりを感じさせてくれる。

 

 スネークは焚火の前に腰を下ろし、葉巻に火をつけて料理が出来上がるのを待つ。

 

 スコーピオンは鼻歌を口ずさみ、時折スネークの方へと振り返っては嬉しそうに微笑む。

 

「本当に手伝わなくていいのか?」

 

「うん、いいからリラックスしててね。もうすぐ出来上がるからさ」

 

 よほど自分の料理を食べさせたいらしい…そう言えばスコーピオンが料理をする姿は見たことがなかったなと、スネークは思う。

 スコーピオンならいつも食べる担当で、料理をするような姿などあり得なかった。

 いつも料理を作って振る舞っているスプリングフィールドのように上手ではないが、スコーピオンの料理をする姿からは、本当に大好きな人へ手料理を食べさせたいという気持ちを感じることができる。

 

 数分後、何度かの味見と調節の末に料理が完成する。

 メインとなる料理と一緒に炊き上げた飯ごうのライスに、スコーピオンが作っていたカレーをかけていく…もちろんレトルトではない。

 

「さ、召し上がれ」

 

「うむ」

 

 差し出されたカレーを受け取り、スプーンにカレーとライスをすくい口の中へと放り込む。

 期待と不安の入り混じった表情で、スコーピオンはじっとスネークを見つめていたが…。

 

「美味い。奥深い味に程よい辛さ、今日みたいな寒い日にはこのスパイスが身体を温めてくれる…いいセンスだ」

 

「エヘヘ、一人で料理するの初めてだったけど、良かったよ」

 

 期待していた反応を見せてくれたスネークに、スコーピオンはホッと胸をなでおろす。

 それからスコーピオンは、自分が食べるのも忘れ、料理を美味しそうに食べるスネークを嬉しそうにいつまでも見つめていた。

 食後のデザート…は流石に無いが、代わりにはちみつをお湯で薄め、レモンを絞った飲み物をスコーピオンは用意した。

 簡単なレシピだが、どこかホッとするような甘さと温かさがあった。

 

「いつの間に料理ができるようになったんだな」

 

「んー? 自炊はできるようになろうって思ってたからさ。スネークは、料理ができる女の子は好き?」

 

「男だろうが女だろうが、料理ができるということは良いことだ。オレ一人なら生のままでいいんだがな」

 

「アハハ、スネークは野生児だもんね。あたしも前までは料理するなんてさらさらだったけどさ、誰かのために料理するって楽しいんだよね。スネークも料理とか作ってみない?」

 

「オレの料理なら食べたことがあるじゃないか、ヘビの丸焼き」

 

「アレを料理って言ったらなんでもありだね」

 

 スネークの意見にはいつでも肯定的だが、ヘビの丸焼きを料理と呼ぶセンスは流石にいただけない。

 苦笑いを浮かべるスコーピオンに一言冗談だと付け加え、明日以降の行動計画を話しあう。

 まったりはしているが、一応これもMSFの仕事だ……行動計画が決まれば、後は日頃思ってることや近況を話しあう。

 他愛のない会話だが、スネークと二人きりでおしゃべりするスコーピオンはよく笑い、楽し気な表情を浮かべていた……そうして、夜が更けていき、二人は明かりを消して就寝するのであった。

 

 

 

 

 翌朝、物音で目が覚めたスネークはゆっくりと身体を起こす。

 同じテントで寝ていたスコーピオンの姿はない……朝日に照らされて、テントの幕にはスコーピオンの影がうつる、どうやら着替えをしているらしい。

 着替え中に出ていくのも無粋なので、そのまま待っていようとしたところ、不意にテントが開かれる。

 

「あ、ごめん…! 起きてたんだね!」

 

 スコーピオンはまだスネークが寝ていると思っていたらしい。

 着替えの途中で下着姿だったスコーピオンは急いでテント内のバックを掴み、そそくさとテントの外へと出ていった。

 頃合いを見計らいテントの外へと出ると、今度はしっかりと着替えを済ませたスコーピオンが出迎える。

 

「さ、さっきはごめんね…貧相なの見せちゃってさ」

 

「いや、朝から目の保養になった」

 

「なっ…! スネーク、それ、セクハラだからね!」

 

 ぷんぷんと怒るスコーピオンだが、おかげで気まずさは無くなったようだ。

 これがミラーのセリフだったら怒りの鉄拳が飛んできただろうが…。

 それはさておき、簡単な朝食とコーヒーを済ませ、昨晩決めた行動計画に基づいて二人はキャンプを出発する。

 廃墟を抜け、破壊された工業地帯を抜けた先にある場所……そこには、不法投棄が長い年月繰り返され続け出来上がった広大なジャンクヤードがあった。

 

「ほうほう、これが噂のジャンクヤードかぁ。なんかお宝とかありそうだよねスネーク!」

 

 廃棄されているのは車両や冷蔵庫や電子レンジなどの家電製品の他、廃タイヤや瓦礫などありとあらゆる廃棄物が折り重なるようにして積み上げられている。

 試しにそばの車両によじ登ってみれば、数百メートル先まで積み重なる廃棄物が見えた。

 

「うわー…こりゃ大変だ、スネーク、ゴミだらけだねこれ」

 

「あぁ、何か目ぼしいものは見えないか?」

 

「目ぼしいものね…」

 

 とは言うものの、こうも広大なごみの山から何かを見つけるのは難しい。

 見渡す限り錆びた金属の茶色が広がっているのだ。

 しかしそんな中で、スコーピオンは茶色の廃棄物に浮く白い人影を発見した。

 

「何か見つけたか?」

 

「うん、なんか人がいる」

 

 積み上げられた車両の上に佇む一人の人物。

 双眼鏡を手にして、遠くに佇むその人物を観察する…。

 

 どこか見覚えのあるその姿に、記憶を辿っていくスコーピオンであったが、ふとその人物が同じIOP社製の戦術人形FALであることに気付くのだが、彼女は何故だかこの場に似つかわしくないウェディングドレス姿であった。

 彼女は微笑みを浮かべながら、ある一点を見つめている。

 その視線を辿っていくと、今度は赤い衣装を身にまとう戦術人形の姿があった。

 

「あれは、MG5…?」

 

 サンタクロースのコスチュームを身にまとうのは同じくIOP社製のMG5。

 微笑むFALに対し、MG5は冷徹な笑みを浮かべ、獲物を狙う猛禽類のような目でFALをじっと見据えていた…。

 

 

 不意に、どこからか花火のようなものが撃ちあがり、大きな音を周囲に響かせる。

 色々と謎な展開にポカーンとしていたスコーピオンであったが、突如鳴り響いた銃声に、咄嗟にしゃがみこむ。

 

「スコーピオン、どうした!?」

 

「分からない、誰かが銃撃戦を…!」

 

 周囲に警戒しつつ頭をあげたスコーピオンだが、その目に飛び込んできたのは、ジャンクヤードの積み上げられた廃棄物の上で銃を撃ち合うFALとMG5の姿であった。

 

「なにやってんだあいつら!?」

 

 遠くからではよく分からないため、スコーピオンとスネークは銃撃戦を繰り広げる二人の元へとそっと近付いていく。

 廃棄物が積み上げられたジャンクヤードはまるで迷路のようだ。

 入り組んだジャンクヤードをつき進んでいくと、突然頭上から激しい物音と共にドレスを血で染めたFALが落ちてきたではないか。

 純白のドレスを自身の血で赤く染めたFALは、スコーピオンとスネークには目もくれず、軽快な動きで廃棄物をよじ登っていった。

 

「今のたぶんダミー人形だ、もしかして訓練か何かなのかな?」

 

 二人も廃棄物をよじ登り戦闘の様子を見て見るが、どうも訓練を行っているようには見えない…。

 

 

 

「ハーッハハハ! プレゼントの鉛弾だ、全弾受け取れ!」

 

「わたしのドレス、あなたの血で真っ赤に染めさせてくれないかしら?」

 

「黙れ、未亡人にしてやろうか? ん? 結婚も誓約もしてないから殺しても未亡人にはならないな…」

 

「未亡人の意味知ってて言ってるのかしら? ねえサンタさん、わたし指輪が欲しいな」

 

「ほう、指輪が欲しいのか、いいだろう。じゃあ私は指輪をつけたお前の指が欲しい」

 

 

 笑顔で殺しあう二人。

 時折ジョークを交えた会話を交えているが、どこかかみ合わず、内容も支離滅裂で狂気的だった。

 ただ一つ確実に言えることは、互いに互いを殺そうと引き金を引き続けていることだ。

 

「あの二人、どうしちゃったの!? あ、また変なの出てきた…!」

 

 ジャンクヤードの向こう側から、今度はハロウィンカラーの猫の仮装をした戦術人形ヴェクターが姿を見せる。

 ヴェクターは不意にグレネードをMG5へと投げつけ、炸裂したグレネードの炎によってダミー人形の一体が炎に包まれて廃棄物の底へと落ちて行った。

 

「ハッピーハロウィン、お菓子をくれないと燃やすよ」

 

「可愛くない猫ね、火遊びはよそでやってくれるかしら?」

 

 FALのダミー人形が走りだしヴェクターに襲い掛かるが、MG5の猛烈な射撃によって全身を撃ち抜かれそのダミーは破壊された。

 

「メリークリスマスだ、お祈りは済ませたか? 私は済ませたぞ、死にゆく者への祈りだ」

 

「あらMG5、わたしたちのために祈ってくれるの? じゃあ、わたしはどうしようかなぁ」

 

「ハッピーハロウィン、お菓子を寄越しなさい。さもないと殺すよ」

 

 

 何もかもが異常だった。

 親し気に話したかと思えば、突如殺しあい、笑い合う。

 スネークもスコーピオンも目の前の光景が理解できなかった。

 

 

「狂ってる」

 

「そう、私たちは狂ってるのよ。お兄さんとお姉さんはどうなのかな?」

 

 

 第三者の声に、スネークとスコーピオンは咄嗟に振り返る。

 そこには背丈の小さい、ピンク色の髪をした少女の姿が…にこりと微笑む少女は、大きなバッグをリュックのように背負っていた。

 

「あんた、もしかしてネゲヴ?」

 

「正解だよお姉ちゃん。ねえお姉ちゃん、あそこで遊んでる私の仲間が気になる?」

 

「そうだよ、なんであんなことしてるのさ! それになんかおかしいよ、あいつら!」

 

「MG5もFALもヴェクターも病気なの。ああやって遊ばないとおかしくなっちゃうんだ」

 

 あそこまで異常な状態を見ると、ネゲヴの言う病気というのもあながち間違いではなさそうだ。

 ヴェクターが参戦し、ますます手がつけられなくなった彼女たちの殺しあいをなんとか止められないかと頭を悩ませるスコーピオンだが、無策で飛び込めば死ぬのは自分だ。

 

「スネーク、なんとか止められないかな?」

 

「ここは死角が多い、隠れて接近し一気にかかれば無力化もできるだろう」

 

「ふーん、みんなを止めるんだ。頑張ってね、二人とも……バイバーイ」

 

 スネークは反射的に振り返り、背後にいたネゲヴが今まさに引き金を引こうとした銃を掴みあげる。

 驚いた表情のネゲヴをそのまま弾き飛ばし、ジャンクヤードの底へと叩き落すが、物陰からネゲヴのダミーと思われる個体が飛び出してきた。

 だがネゲヴのダミーが引き金を引くよりも早くに、スネークはその頭を撃ち抜いた。

 ダミーとは言え、幼い少女の姿をしたネゲヴを殺すのは罪悪感が生じるが、悔やむ暇はなかった。

 

 

「おい、なんだあいつら?」

 

「あら、見慣れない人たちね……お邪魔な人は殺さないとね」

 

「ハッピーハロウィン、お菓子を寄越せ、殺す」

 

 それまで殺しあいを続けていた三人の人形がスネークとスコーピオンの存在に気付き、標的に定めてきたではないか。

 咄嗟にスネークはスコーピオンの肩を掴み、ジャンクヤードの底へと飛び降りた。

 

「よく分からんが逃げるぞ!」

 

「うん、早いとこ逃げた方が良さ…わっ!」

 

 走りだそうとしたスコーピオンであったが、突然足首を掴まれ転倒する。

 

「ねえお姉ちゃん、みんなと一緒に遊ぼうよ。楽しいんだよ?」

 

 スコーピオンの足首を掴んだのは、先ほどスネークに叩き落されたネゲヴだ。

 落とされた先で鉄骨があったのか、腹部を貫き、おびただしい人工血液を流しているが、彼女は無邪気な笑顔を浮かべたまま地面を這いずり、スコーピオンの首に手を伸ばした。

 

「スコーピオンから離れろ!」

 

 ネゲヴの伸ばした手を払いのけ、スネークはスコーピオンを救出、そのままジャンクヤードの迷路を走りだす。

 背後からは、ケタケタと笑い声をあげる、狂気に取りつかれた人形たちが追いかけてくる…。

 そして角を曲がった時、別な人形と鉢合わせた。

 

「待って、撃たないで!」

 

 咄嗟に拳銃を構えたスネークに、その少女は両手をあげて敵意が無いことを示す。 

 しかし、先ほどのネゲヴの襲撃があったため、スネークは安易に信用することは無かった…。

 

「お願い、今は何も聞かないで着いてきて。助けてあげる」

 

「信用できるのか?」

 

「信用してもらうしかないよ……ここは私の庭だ、助かりたかったら着いてきて」

 

 少女はそれだけを言うと、踵を返し走りだす。

 いまいち信用できないが、背後から迫る人形たちの脅威と比較した末に、スネークは少女の言葉を信じついて行くことに決める。

 少女は一度振りかえり、スネークたちがついてきているのを確認すると、走る速さをはやめた。

 

「待て、お前の名前は!? あいつらはなんなんだ!?」

 

「私はM950A、あいつらは昔の仲間! これでいい、黙ってついてきて!」

 

 それだけを言って少女、M950Aはジャンクヤードを駆け抜ける。

 くねくねと入り組むジャンクヤードを迷いなく進んでいく彼女に、まるで誘い込まれているような気がしないわけでもなかったが、この危機的な状況に二人は彼女を信じることしか方法はなかった。




スコーピオンとほのぼのと言ったなアレは嘘だ(軽いホラー回)


MG5⇒今度来るクリスマススキン
FAL⇒ウェディングドレススキン
vector⇒ハロウィンスキン
ネゲヴ⇒ロリスキン
での登場です……共通してるのは、みんな星5、AIがいかれちゃってるところ。

M950A…通常スキン、信用できるかどうか…果たして?

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