METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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ジャンクヤード編:ドールズ・カーニバル・イブ

 ジャンクヤードより1kmほど離れたところにある小さな町。

 そこは国家や大手PMCの管理化に置かれていない人口百数十人あまりの小規模な町だ、大戦前の建物の面影があるからまだしも、そこに住む人の数と活気の無さはもはや寒村と言ってもいいくらいだ。

 住人の多くは身寄りのない老人か、世捨て人、あるいは奇妙な流れ者。

 希望を無くしたこの町で戦術人形とはいえ、若い身なりのM950Aやスコーピオンの姿は浮いて見える。

 

「ちょっと待っててね、ジャンク品を売ってくるから」

 

 ジャンクヤードからこの町まで、M950Aはいくつかのジャンク品をリヤカーに積み込みやって来ていた。

 ぱっと見ればどれもガラクタに見えるが、補修し綺麗にすればまだまだ使えるか、部品取りくらいには使用できる価値があるのだという。リヤカーを運びながら彼女が向かっていったのは、ジャンク品の買い取り業者と思われる男だ。

 ジャンク品を運べば、男は早速リヤカーの積荷を物色し始めるのだった。

 

「車用のラジエーターに銅線屑が30㎏ってとこか? それにこいつはジュラルミン合金の鉄板か」

 

「ラジエーターは悪くないし、結構な掘り出し物だと思うよ」

 

 得意げに話すM950Aであったが、ジャンク屋から渡された金額を見るや顔をしかめ不満をあらわにする。

 

「これだけ? もっと貰えないとはり合いがないよ」

 

「一晩オレにつき合ってくれたら倍払ってやってもいいぞ?」

 

「嫌だね、自分を安売りするつもりはないよ」

 

「だったら金を貰ってとっとと失せな」

 

「ったく…ゲス野郎…」

 

 思ったような結果でなかったことで少々苛ついた表情で彼女は二人の元へと戻ると、そのまま二人を伴い町の寂れた酒場へと入って行く。

 酒場の中は外と同じようにしけた様子で、偏屈そうな男が暇そうにカウンターで煙草をふかしている。

 

「やあ、三人はいるよ」

 

「チッ、また貧乏人形が来やがったか。おい、ここは酒場だぞ。酒を飲むつもりがないなら出ていきやがれ」

 

「うるさいな、金なら持ってるよ」

 

 口やかましい酒場の店主から飲み物をひったくり、M950Aは酒場の奥のテーブルへと二人を誘う。

 席に座れば乾杯だ、こつんとグラスをぶつけM950Aは美味しそうにグラスの中身を一気に飲み干した…と言っても中身は安物の薄いジュース、店主の言う貧乏人形というのもあながち間違いではないらしい。

 

「さて、なにから聞きたい?」

 

 スネークとスコーピオンはグラスに一口だけつけ、たまりにたまった疑問を投げかける。

 ジャンクヤードで暴れる狂った人形のこと、彼女たちを含めM950Aが何者であるのか、また何故彼女だけが他の人形と違って正気を保っているのか。

 聞きたいことはたくさんある。

 

「色々聞きたいことがあるが、まずはお前はどこの所属なんだ? 戦術人形なら指揮官となる存在がいるはずだが」

 

「前はあたしらもPMCに運用されてたんだけど、その会社が経営難で倒産しちゃってね…まともな倒産手続きもしてなかったから、あたしらはそのまま放棄されたんだ。今は、フリーだよ」

 

「それで、あの廃棄場に?」

 

「ううん、行き場を無くして戸惑ってたあたしたちをリーダーが…あ、リーダーっていうのは、あのジャンクヤードで戦ってたMG5のことなんだけど。そのリーダーがあたしらをまとめてひとまず居住地を探す旅に出たんだ。指揮官がいなくなって不安だったけど、リーダーのおかげで生き延びることが出来たんだ」

 

「それが、どうしてあんな風に?」

 

 話題が次の疑問点へと移ると、M950Aの表情が一気に暗くなる。

 仲間たちが狂ってしまったことはやはり彼女にとって重くのしかかる現実のようだ。

 

「ジャンクヤードにたどり着いたのは数か月前、仲間のVectorの提案でジャンク品を売ってお金を稼ごうって話しになったんだ。しばらくはそれで順調だったんだ、稼ぎは少ないけどみんなで協力してゴミを漁って…みんなが着てた変なコスプレもあのゴミ山で見つけたんだ。ネゲヴは…なんかいつの間にか小さくなってた」

 

「いつの間にか小さくなってたって、そんなことあるの?」

 

「さぁ、あたしもよく知らないよ。それで、ある時探索に出かけたFALとヴェクター、ネゲヴが帰ってきたんだけどなんか様子がおかしかったんだ」

 

「おかしかった? それはどういう風におかしくなってたんだ?」

 

「うん…なんか、意味不明なことを口にしたり、会話がかみ合わなかったり、物忘れが酷くなったり。最初はあたしもリーダーもボケてるのかなって思ったんだけど、それがだんだん酷くなって……ジャンクヤードから帰って来なくなる日も多くなってさ、リーダーが様子を見に行ったんだけど…」

 

「リーダーも、同じように狂ってしまったということか。さぞ、辛かっただろうな」

 

「うん……言葉では言い表せないよ。大切な仲間が、どんどん狂っていく姿を見るのがどんなに辛かったことか……あたし、何もできなくて」

 

 話していくうちに辛かった記憶を思いだし、彼女は目頭を抑えすすり泣く。

 仲間が狂い、精神的支柱であったリーダーまでもおかしくなってしまった、まるで自分一人が取り残されていく孤独感に彼女は今日まで苦しめられ続けてきたのだ。

 

「ねえキャリコ、辛いだろうけど、何か原因みたいな事は分からないの?」

 

「原因は分からないな、ジャンクヤードに何かがあるんだろうけど……あ」

 

 スコーピオンの問いかけに、M950Aは何かを思いだしたらしい。

 

「ジャンクヤードに様子を見に行ったリーダーが、おかしくなる前に言ってたんだ……ジャンクヤードの中心に大きな穴があって、そこで変な黒い箱(ブラックボックス)を見たって」

 

黒い箱(ブラックボックス)?」

 

「うん。リーダーが言うには、ノイズというか変な音がずっと流れてたって言ってた。あたしも見に行こうとしたんだけど、リーダーに止められたんだ。今思えば、リーダーはそれがみんなおかしくなった原因って思ったのかな」

 

「おかしくなる前に、仲間であるお前を救ったというわけか。MG5という人形は立派なリーダーだったようだな」

 

「そうだね、いいリーダーだよ。厳しいけど仲間想いで根は優しくてさ、みんなからも尊敬されてた。どうにかみんなを助けたいと思ってるんだけど、どうすればいいのか…」

 

「キャリコ…。ねえスネーク、ストレンジラブ博士ならどうにかできないかな? AIのスペシャリストでしょう?」

 

 ストレンジラブは度々戦術人形にちょっかいをかけたり着替えを覗きに来たり、メンテと称して堂々ボディータッチをしてくる変態だが、誰もが認めるAI研究のスペシャリストだ。

 実際に鉄血製であるエグゼのAIを解析した実績もあるため、今回のおかしくなった人形たちの原因を突き止めて治療出来るかもしれない。

 スネークとしてはM950Aとその仲間たちを助けることに異論はないが、果たしてストレンジラブが引き受けるだろうか?

 

『話しは全て聞かせてもらった。さっさとフルトン回収して連れて来い、いいな?』

 

「ストレンジラブ!? いつから盗み聞きをしていた」

 

『鈍い男だな。マザーベースを出たその日から』

 

「なんて女だ……ってことは」

 

『そうだスコーピオン。お前の愛の告白、可愛かったぞ』

 

 出会いの場所での告白は聞かれていた…途端にスコーピオンの顔が真っ赤に紅潮し、プルプルと震えだす。

 怒っているのやら恥ずかしいのやら、おそらくその二つが混じり合っておかしな感情になっているのだろう。ストレンジラブは愉快に笑っているが、スコーピオンがマザーベースに帰ってきたらどんな目に合うか考えてもいないのだろう。

 

『既にミラーとも話したし、増援もそっちに送った。人形回収作戦に取り掛かるぞ」

 

「お前いつの間にそんなことを…?」

 

『困っている少女を助けるのに、理由がいるのか?』

 

「ストレンジラブ…本心は?」

 

『美しい戦術人形がマザーベースに増えるのは喜ばしい事態だ』

 

 呆れた物言いである。

 今はストレンジラブと話しているが、その後ろで狂喜乱舞しているミラーの姿があることは間違いないだろう。

 理由はどうあれ、受け入れ側の非常に協力的な態度はよく分かったため、MSF側としてM950の仲間たちを助けることを申し出る。

 スネークの言葉に彼女はぱっと表情を明るくしたが、ふと自分の財布の事情を思いだし顔を俯かせる。

 

「でも、お金がないよ…」

 

「分かってるさ。お前は所属するPMCが無いって言ったな、それならうちで代金分を働いてもらうって言うのはどうだ? 人間の兵士も、戦術人形の仲間もいる。衣食住も今以上のものを約束する」

 

「それは、嬉しい提案だね。あたし、てっきり身体で払えって言われるかと思ったから…」

 

「スネークはそんなことしないよ! しないよね?」

 

「ん?」

 

「は? しないよね?」

 

「あぁ、もちろんしない……当たり前だろう」

 

「なんかあやしいな」

 

 わざとらしい咳払いで誤魔化すスネークをスコーピオンはいつまでも疑わしい目つきで見続ける。

 

「まあ、仲が良いのは良い事だと思うよ。えっと、ちゃんと自己紹介してなかったよね。あたしはM950A、キャリコって呼んで。よろしくね、えっと…」

 

「スネークだ。よろしく頼む」

 

「スコーピオンだよ、よろしくね」

 

「うん、頼りにしていいよね?スネーク、スコーピオン」




長くなりそうだからジャンクヤード編のラストは次回に持ち越しだ。

MG5⇒超ノリノリで殺しにかかってくるデビルサンタクロース
(元は責任感のある仲間想いのリーダー)

FAL⇒純白のウェディングドレスを真っ赤の染めたくて仕方がない花嫁修行者、お気に入りはグルカナイフを使った滅多切り
(元はみんなに好かれるお姉さん的存在で、部隊の副隊長をつとめていた)

Vector⇒トリック・オア・トリートを常套句にお菓子を強請って回る、包丁片手に殺し回れば君もブギーマンだ!
(元は冷静沈着でリーダーに対しても物怖じせず意見を言う部隊の斬り込み係)

ロリネゲヴ⇒その無邪気さ超危険。どこぞのチャッキー人形ばりに小走りで追いかけてきては殺戮を繰り広げるサイコキラー
(元はある日突然ロリ化した部隊のアイドル的存在、みんなにかわいがられていた)


みなさんはどのお人形さんと遊びたいですか?(白目

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