METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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ほのぼの


マザーベース:懇親会をいたします

 海鳥の呑気な鳴き声が響くマザーベース。汚染と争いの火種で殺伐とした陸地から隔絶された国境なき軍隊(MSF)の家は、戦闘訓練を行うスタッフたちの雄たけびや射撃音を除けば、極めて平穏そのものである。洋上に浮かぶマザーベースにも、冬の訪れを告げる冷たい風が吹き始めていた。

 マザーベースでは現在、新規のプラットフォームの設備建設…"ZEKE"に替わるメタルギア、"サヘラントロプス"建造のための工事が進められている。ZEKEという巨大な抑止力を失った今、危険が世界中に点在する中でMSFが他勢力より干渉を受けないようにするためにも、核と同等以上の抑止力が必要となっているのだ。

 現在はサヘラントロプス建造のための設備を組み立てている状況であり、サヘラントロプスを建造するスタートラインにも立っていない状況にある。MSFでは外貨の獲得と資源の獲得のため、副司令であるミラーが陣頭指揮をとり忙しい毎日を送っていた…。

 

 そんな昼下がりのマザーベースにて、キャリコはそわそわとした様子で研究開発棟のAI研究エリアに佇んでいた。もう何時間もその場にキャリコはいた…スコーピオンが彼女の身を案じて持ってきた料理もあまり手を付けられていない。

 キャリコの傍にスコーピオンとエグゼがつき添い、無言で封鎖された研究室のドアを見つめている。

 そうしていると、研究室のドアロックが解除され、研究室内よりサングラスをかけたストレンジラブが姿を見せた。

 

「あの…!」

 

 座っていた椅子から立ち上がり、キャリコは不安を隠しきれない表情でストレンジラブを見つめる。ストレンジラブはいつもと変わらない表情で出てきたが、彼女をよく知らないキャリコはその硬い表情から何か悪い知らせがあるのではと勘ぐった。

 

「すべての人形のAIを解析し、細かく調査したところ……深刻なバグがいくつも発見された。AIプログラムの異常が深刻な統合失調症を引き起こしていたようだ。診療では幻覚や幻聴の症状も見て取れた、普通ではない景色が見えていたり存在しないはずの声も聞こえていたようだ」

 

「ねえストレンジラブ、症状を伝えるのもいいけど、キャリコの仲間たちは大丈夫だったの?」

 

「そうだよ早く教えろよ」

 

「まあ急かすな。キャリコ、結論から言えば仲間たちのAIの修正は上手くいったと思う(・・・・・)

 

「あぁ? なんだそりゃ?」

 

 珍しくはっきりしないストレンジラブの言葉に、エグゼはくってかかった。

 

「私でもこの世界のAI技術の習得は未だ不完全なのだ。一応のAIプログラムの設定は独学で覚えたが、IOPお抱えの優秀な技術者には及ばん。人形たちのバグを一つ一つ見つけ出し修復したつもりだが、AIに異常をきたした原因が不透明なままだ。もしかしたら今後も何らかの障害が残るかもしれないし、また再発するかもしれん」

 

「でも、上手くいったんでしょう?」

 

「そのつもりだ、半端な仕事はしない。キャリコ、今後もしばらくは仲間たちの様子を観察して欲しい」

 

「うん、そのつもりだよ…ありがとう、ドクター」

 

 感謝の言葉を述べたキャリコにストレンジラブは小さく笑いかけ、そっと彼女を研究室内へと招き入れる。MSFがストレンジラブのために用意した専用の研究室には、独自に開発したものや外部から調達した精密機器などが並ぶ。真っ白な外壁と照明にまぶしさを感じ、キャリコはおもわず目を細める

 研究室内のまぶしさにキャリコの目が慣れていくと、不意に誰かに抱き寄せられる。抱き寄せた誰かの豊満な胸に顔をうずめられ、キャリコは優しく髪を撫でられる感覚に思わず瞳が潤む…。懐かしい感覚と嬉しさにキャリコの涙腺は崩壊し、自分を抱きしめる者の顔も見ずに声を押し殺して泣いた。

 

「辛い思いをさせてしまったな。もう大丈夫だ、安心しろ」

 

 泣きつくキャリコを抱きしめ、何度もその髪を撫でるMG5…彼女だけではない、治療を受けて正気に戻ったFAL、ヴェクター、ネゲヴもそこへ集い、震えるキャリコの肩を抱き涙をこぼす。全員が泣きわめく中でリーダーのMG5が一人落ち着いた表情をしているようにも見えるが、溢れる想いをなんとかこらえているのをスコーピオンは見抜いていた。

 

 

「うぇ…チクショウ……よかったな、よかったよかった…」

 

「エグゼ、なんでアンタまで泣いてるのさ」

 

「オレはこういうの弱いんだよ…!」

 

「おーよしよし可愛いエグゼちゃん、こっちに来なさい撫でてやる」

 

「うっせえ、触んな」

 

 といいつつスコーピオンによしよしと頭を撫でられ、心地よさそうに目を細めるエグゼであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――マザーベース居住棟、戦術人形専用区画

 

 マザーベースの居住棟には数週間前戦術人形専用の宿舎エリアが設けられた。今までの古参組は他のスタッフの居住エリアの個室を分け与えられていたが、戦術人形の数が増えたことにより専用の居住スペースがあった方が良いという提案が出たため、こうして彼女たちのための居住スペースが出来上がる。

 古参組にはそれぞれ専用の個室を用意され、後は二~三人で一つの部屋が用意されている。

 

 人間のスタッフも人形も分け隔てなく接するMSFの中で居住区を分ける方針は異例なことではあるが、居住エリアの区別は人形にとっても都合がいいということで双方の納得を得た上で行われた。

 人形専用の宿舎エリアには、任務から帰ってきた人形が自分でメンテナンスをできる簡易修復装置や補給所の他、些細な娯楽だがカードやボードゲームを取り揃えたミーティングルームまであった。それまで倉庫で集団で寝泊りする習慣が身についていた新規の戦術人形たちにとって、至れるつくせりの非常に住み心地の良い環境であった。

 

 

「――――と、いうわけでうちにも初期に比べてたくさんの戦術人形が所属するようになりました。今日は親睦会を兼ねて、あたしら戦術人形の食事会をしようと思います」

 

 壇上に立つスコーピオンがマイクを握りそう宣言すると、部屋のあちこちから拍手と口笛を吹く音が鳴る。

 この日の人形だけの懇親会を開きたいというスコーピオンの考えに、スネークとミラーも快く了承してくれた。糧食班から提供された食材で、スプリングフィールドと助手を務めるスオミと9A91が懇親会に見合った美味しそうな料理も作る。

 

「みんなグラスはいき渡ったかな?」

 

 司会をつとめるスコーピオンが壇上から全員にグラスがいき渡ったことを確認する。

 

「それじゃあ、この数奇な出会いと国境なき軍隊(MSF)に感謝の意を込めて、乾杯だーッ!」

 

 全員がスコーピオンの声と共にグラスを掲げ、ジュースかあるいはアルコールの入ったグラスに口をつける。一気にグラスを空にする者もいれば、少しだけ口をつけた者もいたが、全員が再び大きな拍手を鳴らし人形たちの懇親会が始まった。

 乾杯が終われば、部屋の外で待ち構えていたヘイブン・トルーパー兵がドアを開き作られた料理を運び入れる。料理がなるべく冷めないよう、ギリギリの時間を狙って料理を作っていたスプリングフィールド、9A91、スオミがやってくれば再度乾杯の音頭がとられて拍手が巻き起こる。

 

 

「くぅぅーッ! キンキンに冷えたビール、スプリングフィールドの用意したおつまみ……最高だねこれ!」

 

 

 冷凍庫に入れて冷やしたグラスに、同じく凍りつくギリギリの温度で冷やされたビール。その二つが融合した至上の一杯に、スコーピオンはたまらず声をあげる。一口目のビールの味は格別だ、スコーピオンはスパイスのきいたウインナーを頬張る。

 スパイスの適度な辛味とウインナーの油分はビールの旨味を一層引き立たせる。さらに冷えたビールがウインナーの油分をきれいさっぱり洗い流し、何度でもウインナーの旨味を味わわせてくれるのだ。

 

「お、いい飲みっぷりじゃねえかスコーピオン! 負けてらんねえな!」

 

 一気にグラスを空にしたスコーピオンにエグゼも負けじと一気に飲み干す。冬の寒さから隔絶された温かい部屋で飲む冷えたビール、建物の外は寒いのに冷えたビールののど越しは最高だ。

 エグゼがグラスを空けると、傍で侍女のように控えていたヘイブン・トルーパーがすかさず代わりのビールを用意する。気の利いた部下に羨望の眼差しが向けられると、上司であるエグゼもご満悦の様子だ。

 

「皆さん、私もご一緒してよろしいですか?」

 

「お、スオミ! いいよいいよ、遠慮なく座りなよ」

 

「はい、では失礼しますね」

 

 やって来たスオミを快く迎え、三人は小さな乾杯をする。

 

「お、スオミも意外に飲める口なんだね?」

 

「ええ、イリーナちゃんに付き合ってよく飲まされてましたから」

 

「わりぃな、安物の酒しかなくてよ」

 

「とんでもないです、こうして皆さんと一緒に飲んでるだけで、高級なお酒よりもずっとずっと美味しいですよ」

 

「スオミ、あんた良い事言うね。酒を飲む場に置いて重要なのは、良い飲み仲間、これに尽きるね!」

 

「その通りだ! ハンターもそう思うだろ?」

 

 エグゼが振り返ると、ハンターは無愛想な表情でちびちびと酒を飲んでいた。まだまだエグゼとの壁は厚いが、このような場に来てくれただけでもいくらかマシか……だがエグゼはそれで満足せず、さらに親睦を深めようとした。

 

「なあハンター、この間喋る猫を探してたよな?もしかしてまた狩りに行きたいとか!?」

 

「なんだ、見てたのか。そうだな、あれほどの獲物を前に狩人として奮い立たなかったと言えば嘘になる」

 

「そうか! じゃあまたあの喋る猫がいたらよ、一緒に狩りに行こうぜ!」

 

「嫌だね。狩りをするなら一人(ソロ)の方が良い、気ままに行動できるしな」

 

「そんな…冷たすぎるぜハンターよぉ…」

 

「冗談だ、真に受けるなアホが」

 

 フッと小さく笑い、ハンターは横目でちらっとエグゼを見ると、今にも泣きそうな彼女の表情にギョッとする。もしや今の発言で傷つけたかと慌てふためくが、図々しいエグゼがそれ程の罵倒で泣くとは思えない。

 

「なぁスコーピオン…聞いたかよ今の…ハンターが冗談言ってくれたぁ…」

 

「うんうん、良かったねエグゼ。ここまで長かったね」

 

「お、おい! 何こんなくだらないことで泣いてるんだ!? 止めろ、女々しいったらありゃしない!」

 

「まあまあハンターさん。エグゼさんはきっと嬉しいんですよ」

 

 ぐすぐすと泣くエグゼを慰めようとスコーピオンが透明な液体の入ったグラスを差し出した。無意識に受け取ったそれを躊躇なく飲むエグゼであったが、次の瞬間血相を変えて口に含んだ液体を吹きだした。

 

「ゲホっ…ケホッ! て、てめぇなに飲ませやがった!? こりゃスピリタスだろうがバカ!」

 

「あれ? 水をあげたと思ったんだけどな、透明だから分からなかったや、あはははは!」

 

「テメェ覚えてろよ」

 

 エグゼは恨みがましくスコーピオンを睨み、ビールで爛れた喉を潤す。一部始終を見ていたヘイブン・トルーパーが正真正銘本物の水を持ってきたが、エグゼはやんわりと断りウイスキーのボトルを手繰り寄せる。どうやらスイッチが入ったらしい…。

 

「やぁ二人とも、いい飲みっぷりだね」

 

「あぁん? なんだテメェ、腹黒女のUMP45じゃねえか。お前も飲んでるのか?」

 

「ちょっとだけね」

 

 含みのある笑みを浮かべるUMP45が持っているのはビールだが、エグゼはそれをひったくるとウイスキーを注いだグラスを交換させる。ニヤリと笑うエグゼに、UMP45はその意図を理解し、躊躇なくウイスキーを飲み干した。

 

「ぷはぁー、美味しい、おかわり頂戴」

 

「お、案外飲める口じゃねえか。まあ座れよ、立ったまま飲ませるのはわりいからな」

 

「ありがと。じゃあ遠慮なくね」

 

 ウイスキーを口に含みながら頷いたエグゼであったが、UMP45がその場にしゃがみ込んだ際にスカートの中が見えた瞬間、再度口に含んでいた酒を吹きだした。

 

 

「テ、テメッ! なんでまたパンツはいてねえんだよ!?」

 

「しょうがないでしょ、誰も替わりのパンツくれないんだもの!」

 

「あの時からずっとノーパンのままかよ、信じられねえ」

 

「まったくね。誰かパンツくれないかしら?」

 

 あの時の恥じらいはどこへやら、今の今までノーパンでマザーベースを歩きまわっていたと思うと、このUMP45という少女は相当図太い神経の持ち主であることが伺える。

 

「まあしょうがない、オレのパンツを貸してやるよ」

 

「あら、優しいのね。ありがとう」

 

「おう。どうせなら上下もそろえた方が良いよな……あ、悪い。オレとお前とじゃバストのサイズに差がありすぎるよな、ハッハハハハ!」

 

 

 ぴしっと、何かが軋む様な音が鳴ったかと思えば、部屋の温度が数度下がるような錯覚がこの場にいる人形たちにのしかかる。寒い外の空気が入り込んだのかと、事情を知らない人形たちが周囲を伺い、冷たい殺意に身を震わせる。

 

 

「言ったね?一番言っちゃならないことを言ったね、表に出なさいよエグゼ」

 

「あぁ? 上等じゃねえか。かかってこいよノーパン女」

 

「あーもう、折角楽しい場なんだからぶち壊すんじゃないよ。ほら二人とも座って、水でも飲んで頭を冷やしなさい」

 

 いきり立つ二人をなだめつつ、透明な液体の入ったグラスを二人に差し出す。睨みあう二人は無言でグラスを受け取り、グラスの中身を口に含む……やはりというかなんというか、二人はほぼ同じタイミングで口に含んだ液体を吹きだし激しくせき込んだ。

 

「スコーピオン、お前…! スピリタスは止めろ、いいからもう止めろ!喉が死ぬッ!」

 

「あれれー? 今度は水だと思ったんだけどなーおかしいなー」

 

 これは確信犯に違いない。それはともかくとして、酒(?)で頭を冷やした二人はその場に座り込み以降は和やかに酒を飲み、料理を頬張る。

 

「スコーピオン、少しいいか?」

 

 そこへやって来たのは、MG5だ。持っているグラスの液体の色は透明、水か酒か判別はできないが、ほんのり赤く染まる頬の様子から中身はアルコールであることが分かる。

 MG5はその場に座り込むと、グラスを置き、かしこまった様子で頭を下げてきた。彼女の突然の行動にスコーピオンはグラスを置いて慌てふためく。

 

「仲間のキャリコと、我々を助けてくれたことに礼を言いたい。大切な仲間を、この手で殺してしまうところだった。あのまま君らが来てくれなかったらと思うと、恐ろしい」

 

「困った時はお互い様だよ。ほら、そんなかしこまらなくていいから楽しく飲もうよ」

 

「ああ。この力、MSFとその仲間たちのために使うつもりだ。よろしく頼む」

 

「へへ、よろしくやってやるよMG5。強い人形は歓迎するぜ、今度オレと勝負しようぜ」

 

「鉄血のハイエンドモデルとサシの対決か、滾るな」

 

 エグゼとMG5は互いにグラスを掲げ、一気に飲み干す。二人ともどうやらまだまだ飲めるようだ…和やかに始まった懇親会は一部の酒豪たちの盛り上がりで飲み比べに発展し、古参組も新規組も分け隔てなくその場の雰囲気に酔いしれる。

 

 明日からは新参組の人形たちの本格的な訓練も始まる。

 

 新しい日常の始まりだ。




カズ「人形ちゃんオンリーの秘密の花園……ハァハァ」

ヘイブントルーパー「全隊員へ、居住エリアで非常事態だ。容疑者は男性、180㎝、髪は金、ブリーフグラサンの変態だ」



これまでのMSF所属の戦術人形
スコーピオン
スプリングフィールド
9A91
WA2000
エグゼ(処刑人)
M1919(3章で捕虜)
ウージー(3章で捕虜、WA2000とツンデレかぶりで存在意義が…)
ハンター(説得中)
スオミ(訓練生)
404小隊(家出中、ニート)
キャリコM950A
MG5
FAL
Vector
ロリネゲヴ


と言ったところでしょうか、漏れがあったらすみません。
他にも加入しているという設定ですので、次話よりちょっとずつ登場させたいかな。
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