METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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世界で最も高貴な銃

 国境なき軍隊への志願は最近になって落ち着きを見せ始めたが、訓練場の不足はいよいよ深刻な事態だ。現在副司令のミラーが目ぼしいエリアを探索しているが、マザーベースとの連携や他のPMCや国家との折り合い、または鉄血支配エリアの問題もあってなかなか思うように事は進んでいない。運よく誰にも抑えられていない土地を見つけたとしても、重度の汚染地帯であったということもある。

 人類の生存圏が縮小した今、都合の良い土地を見つけることはとても難しい。

 バルカン半島のイリーナを頼るという案も出されたが、マザーベースからバルカン半島までの距離が遠すぎるため却下された。

 

 なので前哨基地に仮設の訓練場を建設したのだが、元々マザーベースへの玄関口ということで調達物資を集積したり武器・兵器の出入りも多いこともあり、あまり大きくスペースをとることもできなかった。人間の志願兵を受け入れ、少数だが戦術人形も受け入れる。

 予想していたことだが、戦術人形が戦場で戦うことが珍しく無くなったこのご時世、人形のせいで職にあぶれたと感じる人間と人形の間でいさかいが起こってしまう。

 

 だがMSFとしては人間も人形も区別しない。

 

 MSFでは、生まれも育ちも、人種も宗教の違いも関係ない。人間も人形も国境なき軍隊の旗印のもとに集まった以上、同じ戦場で戦う戦友であり、苦楽を共にする家族なのだから

 それでもまだ志願兵も新参の人形たちも出会って間もない。だから多少の衝突があることはある程度予想ができていたことだ。

 

 

 

 それはともかくとして、その日前哨基地の仮設訓練場には、訓練対象の戦術人形が呼び出され集まっていた。

 

「今日から訓練ですわ!新しい制服も新調しましたし、良い日よりですわね…寒いのがちょっとあれですけど」

 

「うぅ、まだ眠いのに…45のやつめ」

 

 朝の早い時間帯は気温が氷点下を下回り、吐く息も白い。寒さに身を震わせていると、指定された時刻の5分ほど前に教練を監督するWA2000がオセロットと共に到着する。

 それまで人形たちは呑気におしゃべりをして待ち、WA2000がその場に来てもな特に気にすることなく会話をしていたようだが、無言でたたずむWA2000に気圧されて静かになっていく。会話が止み、全員の視線が彼女へ向けられたが、まだWA2000は口を開かない。

 

 

「す、すいませんにゃ! 遅れてしまったのにゃ!」

 

 

 指定された時刻より遅れてやって来たのはIDWだ。よほど一生懸命走ってきたのだろう、着ている服はこの真冬の中汗で濡れ、息を乱している。

 

 

「遅れた理由は?」

 

「あ、あぅ…えっと、道に迷ってしまったのにゃ…」

 

「訓練の日程はあらかじめ周知させていたはずよ。場所が分からないなら前日までに調べておくという考えはなかったのかしら?」

 

「ご、ごめんなさいにゃ…」

 

 WA2000の厳しい口調に、IDWは怖気づく。おそるおそる見上げた彼女は身長差もあってか、WA2000に睨まれているように感じ微かに身体が震えだす。

 

「列に並びなさい」

 

 WA2000の言葉に固まっていた身体が自然に動き、まるで逃げ込む様に同じ訓練生である人形たちの列に並ぶ。IDWが遅れてきたところで、訓練対象の人形たちが全員そろう。WA2000は一歩下がった位置で見守るオセロットへと振り返ると、訓練開始の了承を確認した。

 

 

「今日からあなたたちを訓練するWA2000よ。訓練を始めるにあたってわたしから言っておくことがあるわ。アンタたちがMSFに来た理由は様々でしょうが、やる気のない者や規律を乱す者を訓練するつもりはない、そういった輩は容赦なく切り捨てるつもりよ。これだけは言っておくわ、半端者の兵士はMSFには必要ない」

 

 彼女のその言葉に、戦術人形の何人かが息を飲む。スオミは訓練生という立場でMSFにやって来た身であるので、厳しく辛い訓練もむしろ望むところだという意気込みであったが、その他はどうだろうか? WA2000の言葉に一気に不安を浮かべた辺り、MSFに志願した動機には憧れや羨望の意識が大きくあったのだろう。

 WA2000が列の前を歩き始めると、緊張からか言われてもいないのに背筋をピンと伸ばし目を見開く。

 

 IDWなどは遅刻の件もあって今にも泣きそうな表情で震えている。そんな彼女の前でWA2000は立ち止まり、そう固くなるなというかのように軽く肩を叩く。そして彼女はStG44の前で立ち止まると、彼女の小奇麗な制服を眺めだす。

 

「綺麗好きなのね」

 

「勿論ですわ。身だしなみには気をつけませんとね」

 

「ああ、そう。私生活で服装を気にすることは良い事よ。でもね、戦場を駆けまわれば服は汚れるし泥や油にまみれることも多いのよ。だからわたしのまえで、訓練中に身だしなみに気を使ってたら容赦しないから」

 

「え、えぇ……それは!」

 

「分かったの? 分かってないの?」

 

「わ、わかりましたわ…」

 

 きれい好きなStG44にとって衣服の汚れは耐えがたいことであるが、WA2000は真っ向からそれを否定する。彼女に言わせれば汚れるのが嫌ならとっとと出ていけ、というのが本意だろう。冷たく睨まれたStG44は言い返す気力も無く、これから始まる過酷な訓練を想像し小さく返事した。

 

 

「さて、G11。わたしはあなたの扱いに一番困ってるわ。やる気の無さそうなのは一番に追い出したいところだけど、あなたには訓練の依頼とそれに伴う契約金が発生してるのよ」

 

「わー、45ったら本気でわたしをどうにかしたいんだね。ワーちゃんも大変だね~」

 

「やかましい。それからワーちゃん言うな……コホン、私としては違約金を払ってでもアンタを追い出したいところなんだけどね」

 

「なるほど、じゃあ私は訓練サボるから後は――――いてっ」

 

 突然後頭部を襲った衝撃に、G11は涙を浮かべて身もだえる。振り返るとそこにはスパナを持った416とバールのようなものを持ったUMP45が、非常に悪そうなどす黒い笑みを浮かべたたずんでいた。

 

「416、スパナで殴るなんて酷いよッ!」

 

「私はやってないわ。それにスパナは人を殴るものじゃないでしょ、何を言ってるの?」

 

「ウソだ! 前に鉄血兵をスパナでタコ殴りにしてたの見たもん! それと45はそのバールしまってよ!」

 

「これはバールじゃなくて、バールのようなものよ」

 

「なんだっていいよ! うぅ、分かったよ……真面目に訓練受けるよ…」

 

 渋々訓練を受けることを約束するG11。WA2000としてはそのままいなくなってもらった方が良かったのだが、契約として成立している以上は義務を果たさなければならない。

 次にWA2000が足を止めたのはウージーだ。

 彼女は先のバルカン半島の内戦中に、政府側に雇われたPMC所属の戦術人形だ。スコーピオンに打ち負かされフルトン回収された彼女であったが、その後所属していたPMCは敗北したことで信用が失墜したことによる経営難から倒産し、行き場を無くしてしまった。同じPMCに所属していたM1919も同じ境遇だ。

 大人しくしているM1919と違い、ウージーは敵意を剥き出しにWA2000を睨み続ける。

 

「威勢がいいのね、アンタ結構見どころあるかもね」

 

「スコーピオンのバカにやられたと思ったらこれよ! 勝手に拉致して訓練に強制参加させられたと思ったら、やる気がないなら帰れですって!?」

 

「あら、本当にやる気がないのなら帰ってもいいのよ?」

 

「か、帰る家が無くなっちゃったのよ! 気に入らないけど、しばらくはここにいてあげるわ!」

 

 ツンデレがMSFの筆頭ツンデレに噛みつく奇妙な光景に、UMP45は声を押し殺しつつも笑う。 

 そしてWA2000が最後に足を止めた人形…コルトSAA、彼女に向き直る前に一度深呼吸をし、意を決した様にWA2000はSAAと対面する。

 

 

 笑顔である。

 太陽のような笑顔という表現があるが、今のSAAはまさにその通りで、ニコニコと愛嬌ある笑顔をWA2000に向けていた。その笑顔にWA2000は逆に怯み、そして戸惑う。

 

「初めましてワルサーさん! あたし、いまよりもっともっと強くなってMSFの家族になれるように精いっぱい頑張るね!」

 

「え、えぇ……そうね、頑張ってちょうだい…」

 

「あれれ? ワルサーさん、どうしたの? 顔が引き攣ってるよ? コーラでもいかが?」

 

「あら、ありがとうね……って、飲んでる場合かッ!」

 

 ついつい差し出されたコーラに口をつけてしまったが、ハッとしてコーラを投げ捨てる。しかしそれがいけなかった……目の前でコーラを捨てられたSAAは唇を噛み締め瞳を涙で潤ませる。その様子にWA2000が慌てはじめ、投げ捨てたコーラを急いで拾ったが、SAAの涙は今にも決壊寸前だ。

 

「うぅ……ぐすっ…」

 

「ち、違うのよ! これから訓練始まるって言うとこだったからつい…」

 

 いよいよすすり泣きまでし始めたSAA。こんなにいい子を泣かせるなんてと、そんな非難があちこちから向けられているようだが、WA2000は一睨みでそれらを一蹴する。

 泣き止んでくれないSAAに困惑しつつ、WA2000はほとんど無意識にオセロットを見つめてしまった。

 

 

「何故オレをみる?」

 

「いや、ちょっと…何でもないわよ!」

 

「まったく、そんなんで訓練を見れるのか?もういい、今日はオレが見る」

 

「あ、ちょっと…!」

 

 引き留める間もなく、オセロットはWA2000と位置を交代する。SAAとWA2000のやり取りでゆるんだ気持ちを引き締め直す。オセロットの厳しさは入って間もない戦術人形たちにも知れているようで、目の前に立つだけでも彼女たちは背筋を伸ばす。

 いまだすすり泣くSAAであったが、目の前に差し出されたハンカチを見ると、涙に濡れた顔をあげる。

 

「涙を拭け。うちのワルサーも悪気はないんだ、許してやれ。それと、訓練場へは私物の持ちこみはしないように」

 

「ありがとう…えっと…」

 

「オセロットだ」

 

「ありがとうオセロット……あれ? オセロットの銃って」

 

「あぁ、お前と同じシングル・アクション・アーミー(S A A)だ」

 

「あの、ちょっと待ってよオセ――――」

 

「きゃっほー! オセロットはあたしのことが好きなんだね?」

 

「は? 聞き捨てならないわね、オセロットはわたしの―――」

 

「こいつとは付き合いが長い。これまでにいくつもの銃を握ったが、こいつ以上に手に馴染む銃はない。お前の銃を少し見てもいいか?」

 

「オセロット、銃が見たいならわたしのを――――」

 

「はい、どうぞ! ちゃんと整備して、綺麗にしてあるんだ!」

 

「そのようだな。良い銃だ」

 

「わ、わたしのライフルだって良い銃だもん…SAAより――――」

 

「装飾とか彫刻を掘っておしゃれにしたいと思うんだけど…」

 

「そんな彫刻(エングレーブ)には、何の戦術的優位性(タクティカル・アドバンテージ)もない。このままの方が良い…実用と観賞用は違う」

 

「そっか、そうだよね! ありがとうオセロット、今度一緒に射撃の練習してくれないかな?」

 

「ああ、構わない。ひとまずは目先の訓練が優先だ、ここでは射撃練習の他にCQCの技術も身に付けてもらう。今日のところは全員の基礎的な身体能力を見極めたい、ワルサー用意しろ」

 

 

 いよいよ訓練が始まるということで、オセロットは本来訓練を監督するはずだったWA2000へと指示を出す。しかしいつまでも返事が帰って来ないので不審に思い振りかえってみると……さっきのSAAのように、唇を噛み締め涙で瞳を潤ませるWA2000がいるではないか。

 

「なんだ、どうした」

 

「私のライフルだって凄いもん…射程距離だってあるし、正確なんだから…………!」

 

「何をはり合ってるんだお前は? 拳銃とライフルとでは用途が違うのは当たり前だろう」

 

「ばか……オセロットのばかっ!もう知らない、勝手にすればいいじゃない!」

 

「おい、待てっ!」

 

 最後に大声で叫んだあと、WA2000はその場から走って逃げていってしまった…。

 

 気まずい空気が辺りに漂い、呼吸困難になるほど笑い転げるUMP45の笑い声が響く。

 その後はエグゼ率いる捜索隊によって倉庫からWA2000が引きずり出され、一応訓練に戻って来たが、しばらく彼女はオセロットと口をきこうともしなかった…。




すまん…ヤンデレは忘れてくれ…ワイはヤンデレよりもツンデレの道を選ぶ!

某ヤンデレの先生曰く、ツンデレがヤンデレになることはあっても、ヤンデレがツンデレになることはないらしいので……ワーちゃんからツンデレが見れなくなるのはちょっと、寂しい。


あ、それと活動報告でファン投票みたいなのやってるんでもし良かったら協力しておくれ(脅迫)(義務)

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