METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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ワーちゃんの教育的指導

 本格的な冬が到来し、国境なき軍隊(MSF)前哨基地周辺の地域では低気圧が降らせた雪によって辺り一面が雪景色となる。前哨基地の兵士たちも支給された冬用装備を身に纏い、凍える寒さの中で作業に従事する。

 戦術人形たちにも冬用の防寒着等が支給される。個人個人の趣向に合わせたデザインではなく、人間の兵士と同じデザインのものだが、人形たちは刺繍を入れてみたり気崩してみたりと思い思いのやり方で個性を引きだそうとしていた。もっとも、凍てつく風やブリザードの中で防寒着を気崩せば一気に体温が奪われるため、だいたいの者はしっかりと着込む様にしている。

 

 

 どんよりとした雲が空を覆い雪がちらつくその日、前哨基地から離れた針葉樹林のフィールドにて戦術人形たちの訓練が行われていた。雪をかき分け、地面に穴を掘ってつくった塹壕の中でM1919とStG44の二人が見通しの悪い針葉樹林を警戒する。

 強く吹き付ける風の冷たさに、思わず塹壕の中へ身を縮めたくなるが、警戒を怠るわけにもいかずなんとかM1919は顔をあげ続ける。風にまきあげられた氷雪が容赦なく顔に打ちつけ、あまりの寒さに痛みすら感じる。

 そんな中、針葉樹林の奥で動きがあったのに気付き、咄嗟に銃口をそちらに向けるが、それが同じ隊のウージーであることが分かると照準を外す。

 

「うぅ、寒い寒い…!」

 

 跳び込む様にして入り込んできたウージーを塹壕の中で受け止める。自分たちも酷いものだが、偵察で外に出ていたウージーの身体はとても冷たかった。

 

「IDWはどうしたの?」

 

「あれ、先に戻ってるもんだと思ったんだけど…途中ではぐれちゃったのよね」

 

 ウージーとIDWは相手部隊の偵察に出ていたのだが、ホワイトアウトするほどの猛吹雪に一時的に見舞われてしまったことではぐれてしまったらしい。偵察に行ったウージーも相手部隊を見つけることは出来ず、遭難の危険があったために戻って来たのだ。

 凍える身体を摩って温めていると、StG44は塹壕の中に身をかがめ地図を広げる。

 現代的な操作端末は作戦開始時に没収され、彼女たちは地図を読み地形を把握することで現在地を割り出し、作戦を立てることを強いられている。慣れない行動に彼女たちは戸惑っている。

 

「ここからこのエリアまでは敵影無し、地形的にも西側から接近することは無いと思う。それよりIDWはどこにいるのよ…」

 

「ねえウージー、ここにいてもらちがあかないよ。移動しようよ」

 

「待っててよ、今考えてるんだから」

 

「私も早く移動した方がいいとおもいますわ。あら、誰か来ますわ…IDW?」

 

 針葉樹林の奥からトコトコと、不安げな表情でやってくるのはまさしくIDWだった。

 塹壕の中から手を振るとIDWは気がついたらしく、深く積もった雪を懸命にかき分け寄ってくる。IDWが戻ってきたところで今後の行動を決めようと思った矢先、ウージーはIDWの背後から飛び出した人影を目にする。

 警告する間もなく相手の放った弾に当たったIDWはわけも分からず転倒し雪の中に消えた。

 

「敵襲ッ!」

 

 ウージーが大声でそう叫び、StG44とM1919が銃を構える頃にはIDWを撃った相手は針葉樹林の影に姿を消していた。そこへM1919が機関銃の斉射をかけるが、あたっているかどうかも分からないため、ウージーの指示で射撃を止めた。

 その瞬間、M1919の頭が大きく弾かれ塹壕の中に倒れ込む。

 咄嗟に攻撃された方向へ目を向けるが、敵の動きは早くその姿を捉えることもできない。

 

「そこまでや! 動いたらどぎついの至近距離から撃ちこむで」

 

 背後からかけられた声にハッとして振り返るが、別方向からはスオミ、G11が姿を現して塹壕の中に固まるウージーとStG44を取り囲む。実戦なら徹底抗戦もするだろうがこれはあくまで模擬戦…不利な状況に陥ったウージーの部隊は敗北を悟り、静かに両手をあげた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……というか相手はエリート人形が3人もいるのに勝てるわけないじゃない!」

 

 模擬戦が終わり、前哨基地に戻って来たウージーは先ほどの模擬戦の鬱憤を晴らすようにドラム缶を蹴飛ばした。ウージーの不満点は組み合わせの不公平さ、模擬戦相手の部隊はガリルを除けばみなエリートクラスの人形揃い…うち一人は404小隊の一人、もう一人はバルカン半島でMSFと共闘した経験のあるスオミときたものだ。

 ウージーのようにはっきり言わなくとも思うことは皆一緒だが…。

 

「模擬戦の反省会をしてるかと思って見に来たんだけど、そんなことを言ってるようじゃ先が思いやられるわね」

 

 そこへやって来た教官のWA2000に、彼女たちは表情をこわばらせるが、唯一ウージーだけは冷たく見下ろすWA2000を睨み返す。

 

「部隊編成が不公平だって言ってるの、それとも教官さまは私たちをエリート部隊の当て馬にでもしたいっての?」

 

「ひねくれてるわね、そんな考えじゃ一生強くなれないわよ」

 

「ふん、あんたもエリート人形だもんね! 私たちみたいな人形の気持ちなんて分からないよね!」

 

 ウージーの感じていたことはもっともなことであっただろうが、それはWA2000の前で吐くにはとても軽率な発言だった。なおも続けようとしたウージーの胸倉をWA2000は突如掴み、強引に引き寄せる。

 突然の出来事に他の人形たちは緊張した面持ちで立ちすくみ、付近で作業をしていた兵士たちも何事かと様子を伺う。

 

 

「私が今ここに至るまでどれだけの努力と苦労があったか、今のアンタには想像もできないでしょうね。それはどうでもいいけれど、私の努力の結果を"エリートだから"なんて安っぽい考えで否定されたくないわね。今度同じことを言ってみなさい、次は容赦なくここから叩きだすわ」

 

 WA2000は同じように三人の戦術人形にも同じ目を向ける。ウージーに向けた警告と同じモノを、彼女の無言の圧力から察した彼女らはWA2000の目を真っ直ぐに見つめたまま頷いてみせる。

 ようやく解放されたウージーはWA2000への畏怖からか足に力が入らず、その場にへたり込む…が、その強気な目だけはWA2000に向けられていた。

 

「アンタのそういう負けん気の強いところは評価するわ。悔しさを次に活かしなさい」

 

「い、言われなくたって分かってる!」

 

「腰を抜かした格好で何を言ってるのかしらね…ま、せいぜい頑張りなさい」

 

 ウージーへの説教が終われば今度は残った三人の改善点を指摘する番だ。一人一人に治してもらいたい改善点は多々あるのだが、本日の模擬戦を傍観していた中で一番に改善しなければならない点がある。

 

「いい、今日のアンタたちの敗因はチームワークの乱れが一番大きいわ。戦いは一人で行うものじゃないの、仲間との連携が上手くいかない部隊は戦場で真っ先に消えていくわ。今日のアンタたちみたいにね。今日の訓練はお終いよ、そのかわり帰ったらみんなで今日の反省会を行いなさい…次同じ失敗をおかさないようにね。以上よ、解散」

 

 WA2000の指示に彼女たちは敬礼を向け、雪の中を宿舎へと戻っていく。訓練期間中はマザーベースの居心地の良い居住区ではなく、前哨基地の少々古ぼけた居住スペースだがここは我慢してもらうしかない。

 訓練のためとはいえ少々厳しすぎるか…そんな本音を隠しきれず、WA2000はついつい立ち去っていく彼女たちの背をしばらく見続けていた。手のかかる人形程可愛いものはない、WA2000にとっては初めて任される訓練生をどうにか一人前にしたいという想いもある。

 分担して教えるオセロットは今のところ順調に訓練を行っている。

 SAAとの不可思議な問題もあったが、今はオセロットに負けないよう部隊を訓練しようという気持ちでWA2000は集中していた…。

 

 やがてWA2000は踵を返してその場を立ち去ろうとしたところ、基地の外側から見覚えのある少女がやってくるのが見えた…スプリングフィールドだ。

 

 

「お久しぶりですね、ワルサーさん」

 

「懇親会ぶりねスプリングフィールド、といってもあの時はあまり話せなかったから……ふぅん」

 

 

 WA2000は久しぶりに会ったといってもいいスプリングフィールドをまじまじと見つめる。擦り切れた衣服、細かい傷の付いたライフル銃、素肌にはいくつか治療の痕があり過酷な訓練の内容がうかがい知れる。佇まいから以前のような隙は無くなり、しかし以前と変わらぬ優し気な表情のスプリングフィールドにWA2000は微笑みかける。

 

「強くなったね、一目で分かるわ。エイハヴはいい教官だった?」

 

「ええ、エイハヴさんを推薦してくれたスネークさんには感謝したいです。訓練を通して精神の鍛練を、他にも戦闘の技術、戦場における生存能力を教えていただきました。まだまだ学ぶことは多いですがね」

 

「それでいいのよ。満足しちゃったらそこで止まっちゃうからね…訓練はもう終わり?」

 

「はい、ひとまず終了です。エイハヴさんも志願兵の訓練に入るらしいので、これからは訓練にも余裕が出るはずですよ」

 

「そっか。良かった、これでオセロットの負担もいくらか減るわね……って、なによ変に笑っちゃって」

 

「いえ、相変わらずワルサーさんはオセロットさんに一途だなって思いまして」

 

「べ、別にいいじゃないのよ…! 私が一番お世話になってるのはあの人なんだし……と、とにかくあんたも戻って来たんなら、今日から仕事を手伝ってもらうからね!」

 

 オセロットのこととなるといつもの冷たい態度からガラッと変わるWA2000に、スプリングフィールドはクスクスと笑う。

 

 

 数日後、スプリングフィールドは長いこと閉めていたマザーベースのカフェをオープンさせる。

 前もって告知していなかったはずなのに、どこから聞きつけたのか彼女の熱狂的なファン(親衛隊)や人形たちが集まっていた。以前のように店を開ける回数は減ったが、今後も彼女はカフェを訪れる人々に静かな癒しを提供し続けるのであった…。




スコーピオン「ヒャッハー!新鮮なカフェだぜ!」
エグゼ「酒だ、酒持ってこい!」

《出禁リスト:スコーピオン・エグゼ》

スコーピオン&エグゼ「なん……だと…!」
カズ「オレは免れた!オレの愛の祈りが通じたんだ!」
春田さん親衛隊「カフェの静寂はオレたちが守る!アンチども死すべし!」
試作型月光「ウモー」ドカバキッ(破壊音)(体格的に入れない)
サヘラントロプス「ギャオー」ドガガガガガッ(爆破音)(レールガン)(体格的にry)

スプリングフィールド「全員出禁です」

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