大雪の影響で訓練施設も雪に埋もれ、せっかくの新兵訓練も滞ってしまう。幸いにも、ミラーが新しく見つけた南の土地に仮設キャンプを設営したためそちらに順次送られる手はずにはなっている。
「あかん…寒すぎて手足の感覚ないわ…」
いまだに雪が吹き荒れる外の警備任務から戻って来たガリルら人形たちは、全身に雪をまとわりつかせ青ざめた表情で基地の宿舎へと入ってきた。宿舎内には暖炉が設置されており何人かの人形たちが取り囲んで暖を取っていたが、外から戻って来たガリルらにその場所を譲る。
「はぅ…暖かいにゃぁ…」
「みんなお疲れさま。温かいココアがあるから飲みなよ」
「コーラ、コーラが欲しい…って言いたいけど、今日はココアにする…」
普段はコーラを熱望するSAAも、この日ばかりは温かく甘いココアを選ぶ。キャリコが用意してくれたココアが運ばれると、宿舎内はココアの甘く優しい香りで満たされる。ココアの甘さと温かさは冷え切った人形たちの身体を温めてくれる。
この大雪のせいで新参人形たちの訓練も一時見合わせだ。
「ふぅ、それにしてもすごい大雪ね…あら、偵察から帰って来てたのね」
ガリルらから少し遅れて、新人教育担当であるWA2000がやってくる。彼女も分厚い冬用コートに身を包み、全身に雪をはり付かせていた。
「ワルサーあなたもココア飲む?」
「ありがとうキャリコ、でもすぐ行かなきゃならないからいいわ」
「ゆっくりしていけばいいのに……何か任務があるの?」
「南の方に新しい訓練キャンプができるでしょう、それを視察に行くのよ。建設にはプレイング・マンティス社が請け負ってくれるけど、是非現場で訓練する人の意見が聞きたいってことだからさ。いけない、もうこんな時間だわ」
時計を見たWA2000は慌しく身支度を済ませると、再び宿舎の外へと出ていった。窓の外は大雪で視界が悪く、彼女の姿はあっという間に吹雪の中へと消えてしまった。
「あの人も働き者だね」
WA2000はMSF古参の戦術人形の中でもとりわけ仕事に熱心だ。新兵の訓練が中断になったからと言って休むわけでもなく、どこからか仕事を見つけてきてはそれをこなす。まあ、それが全てはオセロットに直結するためだということはある程度MSFを見続けてきた人形たちには分かることであるが。
「やっほーみんな! G11はここにいる!?」
唐突に宿舎のドアが開かれて、404小隊の一員であるUMP9が元気よく入ってきた。
きょろきょろと同じ隊員のG11を捜す彼女に、宿舎内の人形たちは揃ってソファーの上に出来た毛布の塊を指差した。何枚もの毛布がロールキャベツのように巻かれ、もぞもぞと中でG11が動いているのが分かる。
「G11、お出かけの時間だよ! ほら、そんな毛布にくるまってないでさ!」
「フガフガ……断固拒否……」
「もう! 45姉に叱られるよ!」
UMP9は頬を膨らませて毛布を叩くが、厚く巻かれた毛布の装甲はビクともしない。
仕方なく一枚一枚毛布を引き剥がし、最後の一枚にしがみつくG11を毛布ごと引きずり出していく…外の寒さにあてられてG11は毛布を離し再び宿舎内へと逃げ込もうとするが、駆けつけた416とUMP45も加わり強引に連行される。彼女の悲鳴が聞こえていたが、すぐに吹雪の音にかき消され聞こえなくなってしまった。
普段なら404小隊のおかしな行動に笑い声も起こるのだが、極寒のこの寒さですっかり元気を無くしてしまった人形たちは何も言わずG11が散らかした毛布を手に取り身を包む。
暖炉の前で人形たちは身を寄せ合い、緩慢に時が流れていく。何人かは寒さの中の偵察で疲れていたためか、暖炉の前でうとうととし始め眠りについていく。一人、また一人と眠りについて行く人形たち…。彼女たちを起こさないようキャリコは静かに暖炉に新しい燃料をくべる。
「うーん……むにゃむにゃ…ぼくお腹いっぱいだよ…」
M1919は幸せそうな表情でよだれを垂らしている。戦術人形は夢を見ないが、完全に休眠モードになっていない彼女は意識の奥で疑似的な夢を想像しているのだろう。キャリコはそっとハンカチでM1919のよだれをふき取り、毛布をかけなおす。
保育施設の保育士がしてあげるように、眠りにつく戦術人形たち一人一人の様子を見てまわり、楽な姿勢に直してあげたり毛布をかけてあげる。
一通り見てまわり終えると、宿舎の中に冷たい風が吹き込んできた。
振り向くと、宿舎の入り口に立つ長身の女性がたたずみ、暖かい部屋の空気にホッと一息ついていた。
「お疲れさまリーダー、なにしてたの?」
「車のタイヤがパンクしていてな、修理を手伝っていた」
MG5は暖炉の前の空いたスペースにしゃがみ込み、冷え切った手をストーブにかざす。
「リーダー、ブラックコーヒーじゃないけどココアならあるんだけど飲む?」
「それでいいよ、ありがとう」
マグカップを受け取った彼女は一度キャリコに微笑みかけ、温かいココアをすする。MG5は特に感想などを言うこともなかったが、寒さで強張っていた表情が幾分和らいだように見えた。キャリコもさっきまでG11が独占していたソファーに腰掛け、マグカップに入ったココアを口に含む。ココアの香りと甘味が気持ちを落ち着かせてくれる。
薪がパチパチとはぜる音、人形たちの小さな寝息、そして外の吹雪の音。
暖かい空気に満たされた部屋のソファーに座っていると、いつしかキャリコもまぶたが重くなってくるのを感じていた。こくりこくりと、何度か意識を落としそうになりながらもキャリコはMG5の様子を見続けていたが、やがて襲ってくる睡魔に抗い切れずにその身をソファーに預けていった…。
思い出す、リーダーとの懐かしい記憶を…。
初めて出会った時は怖くて仕方がなかったけれど……戦いや日々の暮らしを通して、なんとかリーダーと打ち解けようとした。
リーダーはどこまでも的確で、優しくて、強くて、かっこよくて、クールで誰よりも熱かった。
あたしが任務で失敗した時、リーダーは厳しくあたしを叱りつける…それが怖くてつい泣いちゃうこともあったけど、リーダーはあたしに向き合ってくれてるんだと思うと、変な感じだけど頑張ってみようって気になった…。
そしてあたしが上手く任務を遂行した時、リーダーは自分のことのように喜んでくれた…それが嬉しくて嬉しくて、あたしはもっともっと強くなろうって心に決めた…。
経営難で会社がつぶれちゃったとき、途方にくれるあたしたちをリーダーはまとめてくれた…リーダーだって不安だったはずなのに、そんな顔も見せずにあたしたちを導いた。
きっかけはお粗末なものだったけど、初めて味わう自由な暮らし…誰かの命令じゃなく、自分たちで考えて自分たちのために生きる……リーダーはみんなに生き方を教えてくれた。
そんなリーダーがかっこよくて、頼りに思って、いつの間にかあたしはリーダーを目で追っていた。
日ごとに強くなっていく想いを、思い切って打明けた時…リーダーは微笑み受け入れてくれた、それが何よりもうれしかったんだ…。
頼りになるリーダーが好き。
髪を撫で、優しい笑顔を浮かべるリーダーが好きなの…。
強くてかっこいいリーダーが好きだ……。
理由なんて必要ない、あたしはリーダーが大好きなんだ………。
「―――――
肌寒さに目を覚ましたキャリコは、すぐそばから聞こえる安らかな歌声に再び目を閉じた…ドイツ語で唄われる歌詞はもう何度も聞いたことがあり、それでいていつも心の奥に安らぎを与えてくれる。
「
ほんのりと暖かい彼女の膝を枕に、キャリコは彼女の穏やかな歌声に耳を傾ける。暖炉の火が弱り部屋の温度は少し下がっていたが、その唄を聴いていると胸の奥がぽかぽかと暖かくなるのを感じていた。
やがてその唄が終わると、キャリコは名残惜しそうに身体を起こすと、ずっとそばにいてくれたMG5に寄り添う。そっと回された彼女の腕にぬくもりを感じ、キャリコは心地よさそうに目を細める…。
「少し、寒いか…?」
「うん……少しね…」
「ちょっと待っていてな…」
そっと、MG5はソファーから立ち上がると弱くなった暖炉に新しい薪をくべていく。それから余っていた毛布を手に戻ってくると、自分とキャリコを包み込むように広げる。二人は身体を密着させ、互いに腕を回しあい暖炉にくべた薪に火が移っていくのを静かに見つめていた。
「ねえリーダー、女の子同士…それも人形同士でこういう関係っておかしいのかな?」
「どうしたんだ急に?」
「ワルサーはオセロットが好きみたいだよね…スコーピオンとエグゼ、9A91とかはスネークのことが好きで……みんな女の子が男の人を好きになってる。あたしみたいなのって、やっぱりおかしいのかなって思っちゃってさ…」
「そんなことか……それでお前はそう言う人たちを見て気持ちが変わったか?」
「ううん、あたしは……リーダーの事が、好き…だから。リーダーはあたしのこと、好き?」
キャリコは期待と不安が入り混じったような表情でMG5を見上げる。
MG5はキャリコの髪を撫でていた手を頬へ滑らせ、彼女の顔を真正面に向かわせる…。
「
「ん……」
二人の唇がそっと触れあう。
不意打ちのようなキスを受けたキャリコは驚き目を見開くが、やがて彼女の柔らかな唇を受け入れそっと目を閉じる。唇が触れあうだけの軽いキスを交わし、二人は名残惜し気に離れる…。
「リーダー…あたし、ドイツ語苦手だよ…」
「ならば
「それはそれで…ちょっと恥ずかしい…かな?」
気恥ずかしに顔を紅潮させたキャリコは毛布に顔をうずめ、目だけを覗かせてMG5を見つめる。
そんな彼女の仕草がたまらなく愛おしくて、MG5はそっと彼女の肩を抱いて引き寄せるのだ。
「リーダー…みんなに気付かれちゃうよ…」
「時と場所はわきまえるさ」
そう言いながらも、毛布の中で二人はじゃれつく。ふとキャリコの服がはだけ、首の後ろの傷跡を目にしたMG5は哀しみの表情を浮かべそっとその傷に指を這わせる。
「この傷は…私が、ジャンクヤードでつけてしまった傷だな…」
「気にしないでよリーダー、仕方がなかったんだから」
「そうは言ってもだ、守ると誓ったこの私が…お前を、みんなを傷つけてしまった。時々、もしものことを考えるんだ……もしも私があの場所以外に目指す場所を決めていたのなら、あの惨劇は躱せたんじゃないかと」
「そんなことないよ…あたしもみんなも、ジャンクヤードに行くことには賛成したんだから。リーダー一人の責任じゃない」
「そうは言うがな…」
「それに、あたしもリーダーもみんなもちゃんと生きている。それって、大事なことだよね?」
「キャリコ……」
「善い行いが常に正しいとは限らない、正しい行いが常に最善だとは限らない。だから…」
「自分たちが信じる道を行くしかない……私がお前に贈った言葉だったな、忘れていたよ」
微笑むキャリコは、いつも自分が受けているのと同じようにMG5の頭を撫でて見せる。
普段は身長差と立場の差からMG5の専売特許であったが、初めての感覚にMG5は驚き目を丸くする。でもそれがなんとも言えない心地よさで、キャリコが満足するまでそうさせた。
「もうすっかり夜だね…寝よっか…」
「そうだな……今日は良い夢が見れそうだ」
「あたしたち人形は夢を見ないでしょう?」
「休眠中に、記憶を思い出させるんだ……これが案外楽しいんでな。おやすみ、キャリコ」
「おやすみ…リーダー…」
二人は向かい合うようにしてソファーに横になると、一枚の毛布を互いの身体が隠れるように被せる。誰の目にもとまらない毛布の中で二人はそっと唇を重ね、静かに眠りにつくのであった…。
スコーピオン「このクソ寒い中宿舎の前で何やってんの?」
カズ「この中は天国だ…オレは
スコーピオン「ちょっと何言ってるか分からない」
百合っぽいのを書きたいけどあんまり激しいものじゃなく、もどかしさを感じるものが書きたいなと思ったらこうなった…。
反省も後悔もしていない。