METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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真冬の夜の遊戯

 それはまるで冬将軍が訪れたかのような猛吹雪の夜だった。

 

 極寒の寒さから逃れるようにして身を寄せた宿舎の中で、人形たちはある儀式を行おうとしていた…。

 

「さあ、はじめますよ……皆さん、覚悟はよろしいですか?」

 

 薄暗い宿舎の中で、蝋燭の灯りに照らされるスプリングフィールドの白い肌が鮮明に映し出される。真四角のテーブルに座る彼女は緊張した面持ちで、同じようにテーブルを囲む人形たちを見つめる。

 電線がこの猛吹雪の影響で断線し、部屋の灯りは暖炉と蝋燭の火が照らすのみ。

 

「冗談だろスプリングフィールド、こんな迷信みたいなもん…今時流行らねえって」

 

 ややうんざりした表情で愚痴をこぼすのはエグゼだ。薄暗い室内で鉄血人形である彼女の白い肌は、蝋燭の灯りをうけてスプリングフィールド以上に顔がはっきりと見える。

 

「あら、今更怖気づいたの? ハイエンドモデルも大したことがないのね」

 

「あ? おちょくってんのかよ貧乳女」

 

 クスクスと笑いながらからかうUMP45へエグゼが噛みついた。ここ最近は自身の胸をネタにされ過ぎたせいか、エグゼの暴言も軽く流せるほどにはメンタルが強くなっている。とは言っても何も感じていないわけではないようで、鋭い目でじっとエグゼの横顔を睨んでいる。

 

「全く呆れたものね、よりによってスプリングフィールド…あなたがこんな事を思いつくなんてさ。まあ、暇だからいいけどさ」

 

「たまにはいいじゃないですかワルサー、久しぶりに初期のころからのメンバーも揃ったんですから」

 

「9A91の言う通りだよ、まあ若干一名違う人が混ざってるけど…」

 

 ただいま宿舎内にいるのはスコーピオン、9A91、スプリングフィールド、WA2000そしてUMP45だ。ここにはたまたま集まっただけだが、断線し停電してしまったため、朝まで暇つぶしをしようということで一同集まっていた。

 そして彼女たちが始めようとしている遊びだが…テーブルの上には文字が書かれた一枚の紙と一枚のコインがある。スプリングフィールドの合図でノリノリ、または渋々といった様子で一同コインに人差し指を乗せた。

 

 

「準備はよろしいですね、では始めます……"ポックリさん、ポックリさん…どうぞ出てきてくださいポックリさん"」

 

 

 呪文のような言葉をスプリングフィールドが唱え、数秒後、人形たちが指を乗せるコインがズズズとゆっくり動き始めたではないか。コインの動きにスコーピオンとUMP45は楽しそうに笑い、逆にWA2000は引き攣った表情でコインを凝視している。

 

 

「おいおいお前ら本気かよ?何がポックリさんだよ」

 

「何を言ってるんですか?ポックリさん凄いんですよ、結構当たるんですよ?」

 

 真顔でポックリさんを肯定する9A91に呆れ、エグゼはやってられないと言わんばかりに椅子にふんぞり返る。

 全員がポックリさんをやろうという話しになっても、最後まで否定的だったのがエグゼだった…。

 

「もしかしてエグゼポックリさんに呪われるかもって、ビビってるの?」

 

「あぁ? 言うじゃねえか404ポンコツ小隊…!」

 

 いきり立つエグゼの傍らで、コインが動きだすのを感じ一同の注目がテーブル上のコインに集まる。

 コインはゆっくりとした動きで紙に書かれた文字を辿っていき、ポックリさんからのメッセージを形作る…。

 

「エ グ ゼ は び び っ て る……だそうです」

 

「おぉ……さすがポックリさん」

 

「――――ってんじゃねえぞコラ! てめーいい加減なことやってるとぶちのめすぞスプリングフィールド!」

 

「わ、わたしじゃありませんよ! ポックリさんですッ!」

 

「お前が先にポックリ逝かされてぇかコラ!?」

 

 しょうも無いことで怒り狂うエグゼをなだめ、なんとかスプリングフィールドから引き剥がす。あまりふざけているとポックリさんが怒ってしまう、そう忠告するとエグゼは未だイライラしているようだが、とりあえず椅子に座る…が、ようやく鎮まりかけたエグゼにUMP45が油を注ぐ。

 

「そんなこと言って、本当はビビってるのよね。素直に怖いって言った方がかっこいいと思うけど」

 

「てめぇ、よほど死にてえらしいな?」

 

「上等よ、いっそポックリさんに決めてもらう? 誰が一番強いかをさ」

 

「おもしれぇじゃねえか。オレ様が一番強いに決まってる、スプリングフィールド、ポックリさんに聞いてみろ!」

 

「分かりました。ポックリさん、ポックリさん…MSFで一番強いのは誰ですか?」

 

 スプリングフィールドのポックリさんへの問いかけがかけられる…数秒の静寂の後、再びコインが動きだす。彼女たちは固唾を飲んでコインの動きを見守り、コインが指し示す文字を紡いでいく。

 

 

「ビ ッ グ ボ ス……だそうです」

 

「お、おぅ…まあそうだよな。MSFで一番強い奴って聞いたからな」

 

「質問を変えてみましょう。今度は私が聞いてみます…ポックリさんポックリさん、MSF所属の戦術人形で一番強いのはだーれ?」

 

 

 質問役が9A91に代わり、先ほど問いかけた質問をいくらか変える。これで対象はMSFに所属する戦術人形へと絞られるだろう。今度は先ほどよりも長い静寂が続く…おかしいなと思いきょろきょろと視線を交わしあったところで、コインがゆっくりと動きだす。

 

「W A 2 0 0 0……ほう、これは中々公平なポックリさんですね」

 

 まさかそうなるとは思っていなかったらしい、WA2000は目を丸くして驚く。

 

「戦術人形最強はこのオレだろ!?」

 

「まあまあ落ち着いて、わーちゃんはあたしらの中でもかなり強いよ。なんたって四六時中オセロットと技術を磨いてたんだからね」

 

「そ、そうね! スコーピオンの言う通り私はあなたたちが遊んでいる間も訓練に励んでたんだから当然の評価だわ。それにしてもポックリさんって案外面白いのね」

 

 WA2000も当初はポックリさんに乗り気でなかったのだが、自分の実力を評価してくれたポックリさんに興味を示し始めたようだ。だがまだまだポックリさんは始まったばかり、次なる質問はエグゼが行うことに決まった。

 そこでエグゼは先ほどの質問の意趣返しと言わんばかりに、WA2000を標的に据えた質問をポックリさんにするのだ。

 

 

「ポックリさんポックリさん、オセロットが一番好きな人は誰だ?」

 

「ちょ、エグゼ!? アンタなんてことポックリさんに聞いてんのよ!?」

 

 暗い室内でも分かるくらいにWA2000は顔を真っ赤にし、テーブルを叩いてエグゼを睨みつける。だがエグゼのポックリさんへの質問は他のみんなも興味があるのか、誰も彼女の肩を持とうともしない…9A91でさえも、オセロットの意中の人物に興味を示しているくらいだ。

 WA2000は周囲に睨みをきかせるも、この時ばかりはいつもの凄みはなく全く効果がない……。

 不意にコインが動き、WA2000含む全員の意識がテーブル上へと向けられる。

 

 堅物で冗談も通じないような鬼教官のオセロット、彼の意中の人物が誰なのか気にならないわけがない。

 

 コインがアルファベットの"W"へ近付いた時、WA2000は期待に満ちた表情を浮かべるも、コインがそこを素通りすると小さくため息をこぼし落胆する。そんな彼女の分かりやすい表情の変化を周囲は微笑ましく見守っていたが、当の本人は気付いていない。

 

 

「お…! ビ ッ グ ボ ス……だって。なんだそりゃ?」

 

「まあオセロットがスネークを尊敬してるのは分かるよね。よし、じゃあ今度はオセロットが愛している人は誰って聞いてみよっか?」

 

「もういいわよ! 今度はわたしが聞くわ! コホン……ポックリさん、ポックリさん…スネークが一番好きな女の子はだれ!?」

 

「て、てめっ!」

 

「ふん、わたしをからかったお返しよ……って、なによその目は…」

 

 WA2000の質問に反応するのは何もエグゼだけではない。

 スコーピオン、スプリングフィールド、9A91がその質問に反応し一気に闘争心に火がつけられる。いつもは温厚なスプリングフィールドも鋭い眼光でコインをじっと見つめ、9A91に至っては微笑みながらコインを見ているが目だけは笑っていない。

 地雷を踏んだのではと気付くころには既に遅く、コインは無情にも動きだす。

 

 コインがゆっくりと紙の上を移動し…何故か何もない余白の部分で止まる。

 それが意味することを考える間もなく、コインはさっきまで進んでいたのと逆の方へと進む…しかしそこでも不自然に止まり、また別な方向へと動きだす。

 

 

「コラ、スコーピオン…なに力入れてんだよテメェ…」

 

「アンタこそ、自分で自分の名前出そうって言うのが見え見えだよ」

 

「皆さん落ち着いて、ここは9A91に任せて下さい」

 

「フフ…そんなこと言って力の入れ過ぎで爪が白くなっていますよ9A91?」

 

 

 全員が全員、コインを押さえる指にありったけの力を込めてどうにか自分の名前に導こうと力んでいるのが分かる。女たちの仁義なき戦いから早々に離脱したUMP45とWA2000は幸いだ、もし一緒にコインを押さえていたら指を潰されていたことだろう。

 

 

「いいからポックリさんに任せなよッ!」

 

「お前こそ力抜きやがれ!」

 

「諦めてください! スネークさんは私を選ぶんですッ!」

 

「聞き捨てなりませんね、司令官は私だけを見てくれてます」

 

 

 女たちの不毛な争いがケンカに発展してしまいそうだったので、UMP45とWA2000が仲裁に入る。

 なんとかコインから引きはがせたが、すっかり仲たがいしてしまった4人はバチバチと睨みあいいきり立っている。

 

 

「もーしょうがないから公平にわたしとワルサーがやるわ。ポックリさんポックリさん、スネーク争奪戦で一番リードしている女の子はだーれ?」

 

「ちょっと45、なんだよその質問は!」

 

「スネークが好きな人だと、アンタたちまたケンカするでしょう? 誰が一歩リードしているか分かるくらいなら、ケンカにはならないでしょう? あ、動き始めたわ」

 

 

 コインがゆっくりと動き始めると、4人はテーブルを囲み固唾を飲んでその動きを見守る。

 コインは滑らかな動きで紙の上を動き回る…UMP45かWA2000のどちらかが意図的に動かしていないか観察するが、二人の真剣な表情から、コインの動きが彼女たちの意思ではないとうかがえる。

 そしてコインがまず最初に示したのはアルファベットの"E"…それにガッツポーズを決めたのはエグゼだ。

 

「"E"っていったら、Executioner(処刑人)の"E"だよな! ハッハハハ、悪いなみんな! やっぱオレがスネークに相応しいってこった!」

 

「う、うるさいですね…!」

 

「待って、まだコインは動いてるよ」

 

「結果は決まってる、オレ様だ」

 

 コインが示した一文字目に余裕を持つエグゼである。

 コインは紙の上を滑っていき、次なる文字へと一直線に進む…延長線上には"X"の文字がある。他の三人は悲鳴にも似た声をあげ、エグゼは楽しそうに笑う。

 だが、コインは"X"の文字に止まることなく、その手前の文字…"V"で停止する。

 

「は?」

 

 エグゼの口からマヌケな声がこぼれる、他三人もほっと胸をなでおろしたが、では一体誰なのかという疑問が残る。やや緊張感が無くなり、コインの動きを一同じっくりと見守る。

 そしてコインはある文字で止まるのであった…。

 

 

「E V A……EVA…イヴ? いや違う、エヴァ…かな? MSFにエヴァって人いた?」

 

「いや、知らない…スプリングフィールドは知ってる?」

 

「いいえ、知りませんね」

 

 9A91に聞いてみても首を横に振る。

 では一体誰なのかと思案するが、誰も検討がつかなかい。

 

「あーバカバカしい、結局インチキなゲームじゃねえか。時間の無駄だ、こんなの破っちまえ」

 

「待ってくださいエグゼ、ちゃんとお帰り下さいってお願いしないと…!」

 

 スプリングフィールドの制しも聞かず、エグゼはテーブル上の紙をびりびりと破いてしまった。エグゼとしてはもう興味が失せた遊び程度のものであったが…異変は直ぐに起こる。

 

 宿舎の窓ガラスの一つが不自然に割れ、冷たい風が部屋に吹き込み蝋燭の火をかき消した。

 

 

「あぁ…私たちがふざけてるからポックリさんを怒らせてしまったんです…!」

 

「あのな、オレは呪いだとかオカルトだとかそういうの信じねえんだよ」

 

「シッ! 静かに…今、誰か外にいなかった? ほら、あれ…」

 

 スコーピオンの指さす方をエグゼは見つめる。

 しかし窓の外は吹雪が吹き荒れるだけで何も見えない、そう思っていたが黒い影が一瞬過ぎ去ったのを見てエグゼの表情が凍りつく。さっきまでの威勢はどこへやら、姿勢をかがめそろそろと壁の方へと隠れる。

 

「ちょっと…なにビビってんのよ…!」

 

「うるせ! お前が確認して来いよワルサー…!」

 

 人形たちは不気味な気配に怯え、ソファーの向こう側へと身を隠しそっと窓の外を観察する。

 吹雪の音が、嫌に大きく感じられる…誰も言葉を発さず、恐怖に身を震わせていた。

 

 不意に、猛烈な風が吹き宿舎のドアが勢いよく開かれる。

 突然のことに人形たちは悲鳴をあげてしまう……そしてドアの向こうからゆっくりと人影が姿を現した。謎の人物は懐を探ったかと思うと、突然ライトを照らしだす。それに小さな悲鳴をあげてしまい、ライトの灯りが人形たちを照らしだす。

 

 

 

「何をやってるんだお前ら?」

 

 

 聞き覚えのある声だった……ゆっくりと近付いて来たその人物は別なライトを天井にぶら下げる…オセロットだった。見知った顔に安堵する人形たち、落ち着いたところでポックリさんをやっていた事情を彼に説明する。

 

「テーブル・ターニングか、西洋に起源を持つ占いの一種だな。現象には色々な説があるが、個人の意見としては自己暗示に近いものだと考えている。あまりやり過ぎるな、人間の中には気が狂う者もいる…お前たち戦術人形にどれだけの影響があるか知らんがな。ところで、他に誰かいるのか?」

 

 オセロットの問いかけに一同顔を見合わせ首を横に振って否定する。

 

「あたしとエグゼ、WA2000、スプリングフィールドと9A91にUMP45の6人だけだよ。どうして?」

 

「そうか…テーブルにマグカップが7つあったからな…気にするな」

 

 言われて見て見れば、確かにテーブルの上にはマグカップが7つ…人数に対し一つマグカップが多い。

 その不気味さに人形たちの顔から血の気が引いていき、無意識に身を寄せ合い恐怖に震える。

 

 

「まあそれはいいとして、緊急任務だ準備しろ」

 

「緊急任務? 何かあったの?」

 

「あぁ。MG5らとボスが出会ったジャンクヤードに諜報員を派遣していたが、連絡が取れなくなった。別な諜報員を派遣したが、そいつも現地で消息を絶った。調査に向かうことになった、誰が一緒に行くかはボスが決めるが全員いつでも動けるようにしておけ」

 

 それだけを伝え、オセロットは宿舎を出ていった。

 

 人形たちは暗がりの中でしばらく身を固めていたが、暗がりの奥で物音が鳴ると一斉に駆け出して宿舎を脱出するのであった…。




タイトルからホモネタ浮かべた人はわーちゃんに土下座して踏まれてきなさい

今回はちょっぴりホラーチック、生き人形探しとか怪談話とかやろうと思ったけど、面白いからこっくりさんやりました。


そしてついに人形たちの恋の最大ライバルが登場!!(名前だけ)

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