2045年の核戦争勃発時に合衆国へは世界中から核兵器の先制攻撃を受け、大地は核の焔に焼き尽くされた。
そして核爆発が粉塵を空高く舞い上げ、放射性降下物…いわゆる死の灰としてアメリカ合衆国のほぼ全てを放射能で汚染することとなった。
噂では放射性物質を多量に含んだ黒い雨が一週間以上とも、三週間以上とも降り続けたと噂されているが、核の炎がこの超大国を沈黙させて以来誰もその真相を知ることはできない。
旧アメリカ合衆国南部テキサス。
メキシコと国境を接していたテキサスは、情報では他の地域よりも"比較的"放射能の汚染が少ないとされている。核攻撃の優先目標が、東海岸の重要な都市部に集中したことや、軍事基地を狙われたこと、そして広大な領域を持っていたことが理由だ。
それでも放射性降下物の影響を受けたテキサスでは動植物が死に絶え、元々あった砂漠や荒野が拡大しているという。
テキサス州の沿岸に船を停泊させたスコーピオンは、持参した放射能測定器の数値を見つめ小さく唸る。
他よりマシとはいえ、測定器が示す数値は人体にとって無害とされる基準値を大きく上回っている…今すぐに人体に与える影響がどれほどあるかは分からないが、この国が人間にとって過酷な環境にあるということは理解できる。
「スコーピオン、行きましょ」
WA2000の言葉に、スコーピオンは測定器をポケットへしまい込み、荷物を詰め込んだリュックを背負う。
サバイバルに欠かせないキャンプ用品の他、もはや愛用となっているスコップ…研究開発班に頼んで作ってもらったそれは特殊合金で造られた堅牢な造りで、研がれて刃物のような切れ味を持っている。
殴ってよし、刺してよし、斬り裂いてよしの本来の用途から逸脱した武器となっている。
「まさかこんな形でアメリカに来るとはね、グリフィンにいた頃には考えられなかったことね」
船の上から放り投げられる荷物を受け取りつつWA2000は言う、すぐそばにいた9A91もそれに頷き、周囲の港を眺めている。
長らく放置された船舶は全て錆びつき、座礁しているか転覆している。
この辺りは核爆発の影響は受けなかったのだろう、建物の多くはそのままの形で残されている。ただしそれを管理する人間はいなくなり、建物の壁は草木で覆われ、町はゴーストタウンとなっている。
「本当に、あの時のままなんですね…」
9A91が見つめる先には、ボロボロになったベンチに並ぶ3人分の白骨化した死体だ。
成人の骸骨に挟まれている小さな骸骨の手には、汚れたテディベアが抱かれている…親子だったのだろうか、放射能の毒が、緩慢にこの家族の命を奪ったのか…。
哀しげな表情で見下ろす9A91の肩をスプリングフィールドがそっと抱く…彼女もまた、哀れみを込めた表情でベンチに座る亡骸を見下ろした。
「行きましょう、9A91」
スプリングフィールドにともなわれ、9A91はその場を後にする。
白骨化した死体はそこにあったものですべてではない、通りに倒れているものや、うち捨てられた車の車内、オープンテラスのカフェなど町のあちこちにあるのだ。
9A91は一度目を閉じると、深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着ける。
訓練と経験から平常心の保ち方は既に身に付けている、隣を歩くスプリングフィールドもまた冷静に周囲を警戒する。
全員が船から降りたち、荷物の確認を行っていると、どこからか動物のいななく声が聞こえてきた。
周囲の警戒をしていたWA2000が見据える先には、数頭の馬が…そしてその馬の手綱を握る人物の顔を視認した時、彼女は不愉快そうな表情を浮かべつつスコープから目を離す。
「テキサスへようこそ、諸君。お早い到着だな、来てくれて嬉しいよ」
「アンタなんかのためじゃない」
「あぁ、そうだろうね。こっちとしては依頼をきっちりこなしてくれればどうだっていいさ」
不敵に笑うアルケミストにスコーピオンは露骨に嫌悪感を示す…ふと、アルケミストの背後にいた97式に目を止める。最後に会った時も暗い表情をしていたが、今もそれは変わらない。またアルケミストの虐待を受けていたのだろう、身体のあちこちに傷を負い、治療もされないまま放置されている。
見かねたスコーピオンは医療キットを手に97式へ駆け寄ろうとしたがアルケミストがそれを阻む。
「この人形はまだあたしの所有物だ、勝手な真似は控えてもらおうか?」
「うるさい!」
阻むアルケミストをはねのけ、スコーピオンは97式に駆け寄り彼女の傷を治療する。
主人であるアルケミストへの恐怖からか97式はスコーピオンの治療を拒むが、スプリングフィールドもその場へ加わりなんとか彼女を落ち着かせようとする。
「泣かせてくれるじゃないか、そんな役立たずに医療物資を浪費するなんてね。いいさ97式、治療してもらいな。後で使い潰してやるさ」
アルケミストの指示を受けた途端に、97式はピタリと抵抗を止めてスコーピオンらの治療を受け入れる。本人の意思ではなく、命令されたから……本当は傷の手当てをしてもらいたいのに、アルケミストの許しがな無ければできない。
そんな97式の状態に、スコーピオンは怒りと悲しみ、悔しさを感じていた。
「久しぶりね、アルケミスト」
船上からかけられた声に振り向いたアルケミストは、声の主であるUMP45、そして404小隊のメンバーに目を細める。
「404小隊、お前らとMSFの関係がいまいち理解できない。MSFはともかく、お前らと手を組んだつもりはないな。死んどくか?」
「あら、私たちもあなたの仲間のデストロイヤーを助けにきてあげたのよ? こんな危険な土地でしょ、仲間は多い方がいいと思うんだけれど?」
「信用できない奴を後ろに立たせることほど恐ろしいものはない……まあいいさ、お前らの狙いは知らないが、少なくともあたしやデストロイヤーじゃなさそうだしな」
「鋭いのね。あなたたち鉄血も、旧世界のお宝目当てにデストロイヤーをここに潜り込ませたんでしょう? お宝を見つけるまでは仲良くしましょうね、ア・ル・ケ・ミ・ス・トさん」
ニコニコと笑っているが、腹の底に何を隠しているか分かったものではない。
アルケミストを気に入らないWA2000だが、彼女の言い分には共感を示す…敵か仲間か判別できない者を背後に立たせるのは危険だ。
まるでピクニックにでも行くかのようなテンションのUMP45らを一瞥した後、アルケミストはエグゼとハンターへと目を向ける。二人は装備品の確認で忙しそうだ…そんな二人の元へとアルケミストはそっと近付く。
「お、姉貴じゃんか。こっちは用意――――ぐへっ!?」
「アルケミス――――ふがっ!?」
近寄ってきたことに気付いた二人を、アルケミストはまとめて抱き寄せるなりわしゃわしゃと髪を乱暴に撫でつける。アルケミストの胸元に顔をうずめる二人はもがき反抗するが、力強く抱きしめられているためにビクともしない。
「よく来たな処刑人! それにハンター、また会えて嬉しいぞ、ハハハ!」
先ほどまで97式を冷酷に蔑み、404小隊へ厳しい表情を向けていた姿はどこへやら……アルケミストは二人を抱きしめ破顔した。十数秒続いたアルケミストの強烈な愛情表現から解放された二人は頭をくらくらさせる。
「いきなり何しやがんだよ!」
落ち着いたところで文句を言うエグゼであるが、彼女の普段見せる含みのある笑みではなく、純粋に喜ぶ笑顔を見てひるむ。アルケミストが笑っている時は大抵何か企んでいるか人が死ぬ時だが、時々本当の喜びを表現する彼女の笑顔をエグゼは知っていた。
アルケミストは先ほどとは違い、優しく二人の肩を抱きしめる。
「お前たちがこうして並んでる姿をまた見れるとは、思わなかった。ハンター、元気にしてたか?」
「あ、あぁ…私は大丈夫だが」
「そうか、何よりだ。ウロボロスのバカがお前を……」
「気にしないでくれ。AIをリセットされたといえ、わたしはわたしだ」
「そうかそうか、お前は逞しいな。処刑人とはまた仲良くやれているか?」
「こいつは……少しうざい」
「ハンター!?」
ハンターの言葉にショックを受けるエグゼ、その後に"冗談だ"とハンターがフォローするのが最近の定番となっている。ホッとして笑うエグゼと、涼し気に笑うハンター……妹分である二人の元気な姿にアルケミストは何も言わず、ただ微笑ましそうに笑っていた。
「エグゼッ!」
その時、スコーピオンの怒鳴り声が響く。
どうやらアルケミストと仲睦まじそうにしているエグゼを咎めているようだ…エグゼは気まずそうにアルケミストを流し見、そっと彼女の傍を離れスコーピオンの隣に並ぶ。
「それで、デストロイヤーのバカはどこにいるの?」
「おい腐れサソリ、口のききかたに気を遣えよ。雇い主に少しは敬意を払ったらどうだ?」
「アンタみたいな鬼畜に払う敬意なんて微塵もないね」
「やめなさいスコーピオン、話しがややこしくなるわ。アルケミスト、こっちとしては仕事をこなして報酬…97式を解放してもらえればそれでいいの。あなたも仲間をさっさと助けたいんでしょ? 小さいことにいちいち噛みつかないでちょうだい」
喧嘩腰のスコーピオンと相手のアルケミストをWA2000が嗜める。
アルケミストを気に入らないのは彼女も同じだが、任務において私情は一切排除する。MSFも鉄血もここでは孤立無援、生き延びて任務を達成させるには嫌でも協力しなければならないのだ。
それは分かっているアルケミストはいがみ合うのをひとまず止め、連れてきた馬を引いてくる。車が用意できなかった代わりに、野生化していたのを捕まえた急ごしらえの移動手段だ。
「この時代に馬で移動とはね」
「嫌なら乗るなよUMP45。そこらの廃棄車両でも直してみるか? EMPで焼きついて、ガソリンは腐ってるけどね」
「そうは言ってないわ。お馬さんに乗れるなんてありえなかったし、ちょっと楽しみかもね」
「のんきな女だ。処刑人、一緒に乗るか?」
おそらく馬に反抗されて乗れないだろうと思って見て見れば、エグゼはいきり立つ馬を真っ向からぶちのめして調教しようとしている。ハンターはと言えばスマートな騎乗を果たす。
その他も悪戦苦闘しながらも馬にまたがって見せる。
「長旅になるぞ、砂漠を超えて北西の州境へと向かう」
「ずいぶん遠いな、テキサス横断の旅ってか? デストロイヤーの奴はどこに何しに行ったんだよ」
「鉄血に戻ってくるつもりがあるなら教えてやるぞ処刑人」
「勘弁してくれよ姉貴…」
エグゼとしてはMSFにずっといたいという気持ちは強い、強いのだが鉄血の仲間たちとはっきりと別れ切れていないのも事実だ。スコーピオンらに気を遣ってアルケミストの傍を離れるが…いつかははっきりとさせなければならないだろう。
こんな時、親友のハンターがどう助言してくれるか気になるエグゼだったが……
「何を人の顔をじろじろ見てるんだ?」
「いや、なんでもねえよ……なぁ、ハンター」
「何でもないと言ったばかりだろ、何も聞いてくるな。さっさと仕事を終わらせるぞ」
相変わらず親友とは思えない言葉遣いに、少し落ち込むエグゼ…ふと目の前に手が差し伸べられ、顔をあげると、馬上からハンターが手を伸ばしているところであった。
「なにぼうっとしてるんだ、さっさと乗れ」
「お、おう…」
差し伸べられた手を掴むと、ハンターはエグゼの身体を引っ張り上げて自身の後ろに跨らせる。
前ほどは拒絶されていない…そう思うと、さっきまでの沈んだ気持ちももとに戻ってくる。
「なあハンター、前にオレが言った事…覚えてるか?」
「なんだ?」
「オレはお前が地獄の底に叩き落されても助けに行ってやるってさ…何があってもオレはお前を助けるからな」
「そんなこと言ったか? お前に付きまとわれるのは遠慮願いたいな……だが、悪くない、悪くない気分だ」
ハンターは小さく笑い、馬を走らせる。
先頭をアルケミストが進み、一行はテキサスの荒野へと足を踏み入れるのであった…。
その頃のデスちゃん…
レイダー「新鮮な肉だーッ!」
ウォーボーイズ「オレを見ろ――ッッ!」
聖帝軍「わははは!土下座しろ!!消毒されてえかぁーー!!
B.O.S「アド・ヴィクトリアム!」
アミバ「暴力はいいぞ!」
デストロイヤー「◎△$♪×¥●&%#!?」(言葉にならない悲鳴)(訳:誰でもいいから助けて)
注意:後書きはフィクションです。作品の人物や団体などとは関係ありません。
お久しぶりです、シリアスもやりたいけどギャグもやりたい…そこで後書きですよ(殴
いよいよアメリカ上陸です。
ここではほとんどの登場人物にとっての分岐点になるでしょう…エグゼとハンター、97式、スコーピオンなどなど……物語の結末も含めましてね…。
では、ほなまた…。