METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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第五章:No Man’s Land
帰還報告


「あの、クルーガーさん…?」

 

 昼下がりの午後、昼食を終えて執務室に戻って仕事を再開したクルーガーのもとへ憔悴した様子のヘリアントスがやって来た。髪は乱れ、目の下には隈ができ、瞳には生気がない…事情は知らないが体調不良であることが一目で分かる。

 いつもクールで仕事熱心で、私情を仕事に持ちこまないことで頼りになる人物なのだが…さてはまた合コンで打ちのめされたのかと想像するクルーガーであったが、下手なことは言わず、ひとまず彼女の身を案じる。

 

「いささか体調に問題があるようだが、どうしたのかね?」

 

「いえ、すみません…ちょっと。あのこれ、最近音沙汰なしだった404小隊から送られてきたビデオメッセージなんですが」

 

「ビデオメッセージ? 珍しいな」

 

「はい、ビデオメッセージです…」

 

「…君は見たのかね?」

 

「はい、見ました」

 

「憶測で物を言うのも何なのだが…これと君の今の体調不良には関係があるのか?」

 

 クルーガーの鋭い問いかけに、ヘリアンは否定も肯定もせず、ただうなだれている。

 一体何を見たというのか…真面目で優秀なヘリアンをたった一度の視聴でここまで打ちのめすビデオメッセージに、歴戦のクルーガーもわずかに身構える。

 404小隊が送ってきた、それもビデオメッセージという珍しい形…グリフィンの暗部として危険な任務につくことも多い彼女らが送って来た情報、それが良い知らせであるのか悪い知らせであるのか…今のヘリアンの体調を伺うに、きっと悪い情報なのだろう。

 クルーガーは覚悟を決め、404小隊が送って来たというビデオメッセージを再生するのであった…。

 

 

 

 

 送られてきた動画データを再生させると、一分ほど真っ暗な映像が続く…そして突然映像が変わり、画面いっぱいにUMP9の顔が映される。どうやらカメラの位置を調整しているらしい…位置調整に満足した彼女が画面から遠ざかっていくと、その場所の景色が映される。

 白い砂浜にヤシの木、高層マンションが立ち並ぶストリート…画面の端の方にはエメラルドグリーンの海が見える。

 

『45姉、動画が始まってるよ!』

 

 UMP9の呼ぶ声に、画面の端からとことこと歩いてくるUMP45……いつもの服装ではない、水着姿の上にパーカーを着こみ、サングラスをかけて呑気にココナッツミルクを飲んでいる。よく見て見れば妹のUMP9の方も水着姿、少し離れたところではG11がヤシの木の間に設けられたハンモックで気持ちよさそうに寝ているではないか。

 呆気にとられるクルーガー…カメラの前までやって来たUMP45はサングラスから少し目を覗かせ、陽気な様子で手を振る。

 

『お久しぶりですねクルーガーさん、ヘリアンさん。お元気ですかー?』

 

『私と45姉は元気だよ! ねえねえ、今私たちどこにいると思います!? アメリカですよアメリカ! それも憧れのマイアミビーチ!』

 

 何故アメリカに!?

 最近の404小隊の動向を把握していなかったクルーガーとしては、微塵も予想していなかった地名に大いに戸惑う。

 

『うーん、デリシャス。さすが南国のココナッツミルクね、とっても美味しいわ。グリフィンの皆さんにもお土産として持って帰りたいね』

 

『放射能汚染が酷いけどね!』

 

『それに見てくださいよクルーガー社長、この広大なエメラルドグリーンの海。戦前ここが観光地だったのも納得できますよね、今度グリフィンのみんなも社員旅行で来たらどうかしら?』

 

『放射能汚染がとっても酷いけどね!』

 

『リゾートホテルもそのまま残ってるし、たぶん中性子爆弾の影響を受けた場所ね。少し掃除すれば使えるし、白い砂浜から一望できる海といったら…ヨーロッパじゃ味わえない感動があると思うわ。本当におすすめのスポットよ』

 

『砂浜に放射性廃棄物がゴロゴロ転がってることに目を閉じればね!』

 

 画面の向こうで黄色い声で楽しそうに騒ぐUMP姉妹に、早くもクルーガーは頭痛と目まいに襲われる。

 だが組織の長として、この映像を見届けなければならない…苦いブラックコーヒーを一気に飲み干し、決意を固めたクルーガーであったが、次に画面に現われた連中に早くも戦意をくじかれる。

 

『45ちゃんと9ちゃんのプリティ水着姿だーーッ!』

 

『U・S・A!U・S・A!U・S・A!』

 

『自由の女神! イエローストーン! デスバレー!』

 

『アメリカ合衆国万歳ッ! UMP姉妹万歳ッ!』

 

 画面に現われたのは、鉄血側がよく使う装甲人形に似た軍用人形たち。

 かつて南北戦争において南軍が掲げた南部連合旗を一心不乱に振り回し、UMP姉妹を称賛する雄たけびをあげている。

 

『ちょっとアンタら! 今撮影中なんだから邪魔するなって言ったでしょう!?』

 

 突然現れた熱狂的な軍用人形を叱りつけるHK416、彼女もビキニスタイルの水着姿でそれなりに現地で楽しんでいる様子。

 一方で、文句を言われた軍用人形たちは態度を急変させて416をじろりと睨みつける。

 

『やかましい、脂肪を蓄えた貴様に用はない』

 

『Come On Baby! U・S・A!U・S・A!U・S・A!』

 

『ナイアガラの滝! グランドキャニオン! 断崖絶壁マジ最高!』

 

『ちっぱいは正義! アメリカの大正義見せてやる! 巨乳など飾りだ、お偉いさんにはそれが分からんのですよ!』

 

『クズ共が…』

 

 一方的な言われように416は怒り心頭の様子だが、それ以上にUMP45の方から邪悪なオーラが発せられているように見えるのは気のせいだろうか?

 

『コホン、ともかく私たちは問題ないわ。しばらくはマザーベースに滞在する予定だから、何か仕事の依頼があったらそっちに連絡してもらえるかしら。というわけで、これで失礼するわね』

 

『バイバーイ!』

 

 

 

 そこで映像が終わる……すべてを見終わったクルーガーは、これまで味わったことのない疲労感と倦怠感に襲われる。きっとヘリアンもこの症状に襲われたのだろう…部下の苦労を労おうと目を向けて見ると、そこには床に土下座するヘリアンの姿が…彼女の前には、辞表が置かれている。

 

「ヘリアン…?」

 

「クルーガーさん、404小隊の不始末はひとえにこの私の監督不届きが招いたことッ! この責任を取るためにはたった一つしか方法がありません、責任をもって本日をもってグリフィンを退社いたしますッ!」

 

「落ち着くんだヘリアン! とにかく落ち着け、もうそれしか言えんがとにかく落ち着け!」

 

 錯乱するヘリアンをなだめようとしていると、彼女の懐から袋が落ち、大量の胃薬が床に散乱する…いくつかの精神安定剤も含まれたそれらに青ざめたクルーガーは、暴れるヘリアンをなんとか押さえ込もうと奮戦する。

 

「どうしたのじゃクルーガー、鉄血の奇襲攻撃か!? って、ヘリアン!? なんじゃこの状況は!?」

 

「M1895、いいところに来たな! ヘリアンを医務室へ、いや病院に連れていけ!」

 

「な、なにが起こっとるか分からんが一大事じゃな! おいみんな、ヘリアンを押さえるのじゃ!」

 

 その後騒ぎを聞きつけたグリフィン人形の助けもあり、なんとか騒ぎは収束する。

 強制的に病院送りにされたヘリアンは、医師の診断によりストレス性胃潰瘍と軽いうつ病と診断され、無事数日の入院を宣告されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たーだいまー! みんなのアイドル、スコーピオンのお帰りだーッ!」

 

 マザーベースの甲板上へとヘリが着陸したとたん、勢いよくドアを開き現われたスコーピオン。

 あらかじめスコーピオンがヘリから飛び出して突っ込んでくることを予想していたのだろう、出迎えの者たちは少し距離をおいて待っていた。おかげで出てきた瞬間飛びつこうとしていたスコーピオンは無様に甲板上に顔面を叩きつけてしまう…が、自称世界一タフな人形のスコーピオンはそれにもめげず、すぐそばにいたスオミを捕まえて抱き付いた。

 

「わわ! スコーピオンさん!」

 

「あー、マザーベースの匂いがするー!」

 

「やめなさいよサソリ、スオミが困ってるでしょうが」

 

 ヘリから降りたったWA2000がスオミに抱き付くスコーピオンを強引に引き剥がす。

 スプリングフィールド、9A91、エグゼ、ハンター……そして97式。

 アメリカ大陸へ向かった戦術人形たちの帰還に、甲板上で彼女たちを待っていたスタッフたちは拍手をもってで迎える。

 

「ただいま、スオミ!」

 

「9A91、ご無事で何よりです! 皆さんなら無事帰ってくると信じていました!」

 

 バルカン半島での出会いから良き友人として付き合っていた二人は再会を喜びあう。

 そんな二人と同じように、スプリングフィールドもまた帰還を心待ちにしていた者たちに温かい迎えの言葉をかけられていた…なにせアメリカへ行っている間カフェは閉店してしまっていたのだ、再会を心待ちにしていた人形たちやスプリングフィールド親衛隊からは熱烈な歓迎を受けている。

 

 

「隊長、お疲れさまですッ!」

 

「おう。オレがいない間なんも異常はなかっただろうな」

 

「はい、部隊の訓練、装備の点検、警備任務! 全て滞りなく!」

 

 エグゼはというと、部下であるヘイブン・トルーパー隊の狂信めいた歓迎を受ける。

 ヘリを降り立ったエグゼに対し彼女らは真っ先に防弾仕様のコートを肩にかけ、荷物を預かるなど気を利かせ、規律ある行動で上官の後ろに付き従う。ハンターはハンターで、エグゼから譲り受けた少数精鋭の配下に同じような出迎えをされていた。

 

 

「みんなよく無事に戻ったな」

 

 

 その声に人形たちは振りかえる……MSF副司令ミラーと司令官のスネーク、組織の長である二人にスタッフたちは道を開け、帰還した人形たちは整列する。

 

「ボス、アメリカ遠征隊本日帰還いたしました! 任務は無事完了、目標であった97式の解放にも成功しました!」

 

「うむ。ご苦労だった」

 

 敬礼を向ける人形たちへ、スネークも称賛を込めた敬礼を返す。

 一人一人の人形たちの顔を見れば、誰もが任務を成し遂げた達成感と、誇りに満ちた表情であった。

 そしてスネークがゆっくりと両手を広げて見せると、人形たちは弾けんばかりの笑顔を浮かべ我先にとその腕の中に飛び込んでいった。

 

「みんな本当に無事で良かった! ちゃんとメシは食べていたか? サバイバルに少しはなれたんじゃないか?」

 

 常日頃愛情表現を欠かさないスコーピオンとエグゼはもちろんのこと、この時ばかりはスプリングフィールドと9A91も素直な気持ちでスネークに甘えて見せる。共に任務をやり遂げたハンターも、少し離れたところでそんな仲間たちの姿を微笑ましく見守っている。

 一方で、WA2000はというと、冷静な態度を取り繕いつつもしきりに周囲を伺っていた…期待の人物がいないことに少々落胆していたところ、不意に頭に手が乗せられる。

 

「ご苦労だったなワルサー」

 

「オセロット……あ……ただいま」

 

 すぐに離れたオセロットの手…WA2000はいましがた彼に触れられたばかりの髪を撫で、ほのかに頬を赤らめる。

 オセロットはいつもの仏頂面で、少しも笑うこともなく、気の利いたセリフも一切口にすることは無い…だがそんなことはいつものこと、WA2000は長らく会えなかったオセロットにこうして会えたことで無条件に癒されていた。

 

「報告はまだ聞いていなかったが、あっちはどうなっている」

 

 ねぎらいの言葉もそこそこに、仕事の話しをするところも相変わらず。

 そんな彼にはすっかり慣れているWA2000はすぐに仕事モードへと切り替えると、淡々と現地での出来事をオセロットに聞かせるのだ。必然的に面と向かって話す形となるのだが…オセロットに真っ直ぐに見つめられているうちに、だんだんと恥ずかしくなってきたのかWA2000は顔を紅潮させていく。

 

「なんだ、どうした?」

 

「な、何でもないわよ! とにかく、あっちは生きた人間が好きに歩ける場所じゃないわ…まあ、頭のいかれた人間はいたけどね」

 

「そうか。とにかく任務ご苦労、明日からまた人形たちの教導に戻ってもらう。それと、現地の情報が知りたい。時間ができた時でいいがアメリカで入手した情報をまとめておいてくれ、いいな」

 

「了解よ、オセロット」

 

 

 

 

 

 甲板上が賑わっている中、もう一機のヘリがやってくる。

 忘れてはならない404小隊のメンバーたちだ、一応協力者である彼女たちも出迎えなければならないだろう。

 意気揚々とヘリを降り立った404小隊…だが、その背後から続々と見慣れない軍用人形たちが降り立って来るではないか。

 また厄介ごとを運び込んできたな…オセロットの小さな舌打ちに、隣にいたWA2000は気まずそうに目を逸らす。

 

「やあ皆さん、404小隊のお帰りよ。あら、あんまり歓迎されてないようね」

 

「なんと! 人形界の絶対的プリンセスUMP45の帰還を喜ばぬとは、何たる不届き!」

「おのれ、45ちゃんと9ちゃんの敵は我々の敵!」

「すべての肥満体を抹殺せよ! 貧乳スレンダーこそ至上、45姉を崇めたまえ!」

「U・S・A!U・S・A!U・S・A!」

 

「なんだこいつらは!? 45ちゃん、説明するんだ!」

 

 突如現れてやかましく騒ぐ見慣れない軍用人形たちに、副司令のミラーが説明を求める。

 しかしUMP45は無表情のまま、騒ぐ軍用人形を睨みつけているままだ…代わりに説明するためG11が寝ぼけ眼で手を挙げる。

 

「えっとね、この人形たちは元アメリカ軍の残党で南部連合の人形たちだよ。協力的なこの人たちを腹黒い45がハッキ――――――!?」

 

 何かを口走ろうとしたG11を、UMP45がその後頭部をバールで殴りつける…哀れ、後頭部を殴られたG11は一撃でのびてしまった。

 

「G11ったら、よほど疲れていたのね。しばらく起きそうにないね」

 

 凶器のバールを撫でながら笑うUMP45にMSFのスタッフたちは恐ろしいものの片鱗を目の当たりにし、恐怖からか震えあがる。犠牲になったG11はヘイブン・トルーパーたちによって医務室へ運ばれていった…。

 

「いま、G11がハッキングって言おうとしたみたいだが…」

 

「嫌だわミラーさん、わたしがそんなことするはずないじゃないですか~。この人形たちはわたしのどれ……コホン、ファンなんですよ」

 

「いま奴隷って言おうとしなかったかい?」

 

「ファンですよ、それ以上でもそれ以下でもありませんから。フフフ…」

 

 どこか腑に落ちないミラーであったが、それ以上の追及は自身の身を害する予感がしたため追及はしなかった。

 

 

 

 なんとも賑やかな連中が増えてしまったが、鉄血のアルケミストに囚われていた97式も無事解放し人形たちも無事生還した。

 新たな仲間を加え、また騒がしいマザーベース(日常)の再開だ。




シリアスをやればやるほど、ギャグ成分が補充されてくんやで(ニッコリ)(代償にヘリアンはPTSDを患う)


404小隊、もとい45姉の奴r……ファンの紹介です。

404親衛隊(別名UMP姉妹親衛隊)
元アメリカ合衆国陸軍第1機甲師団の軍用人形が結成した、南部連合の軍用人形たち。
UMP45が彼らのうちの何体化をハッキンg……勧誘した結果、UMP姉妹に魅了され忠誠を誓うようになった45姉の奴r……ファンの方々。
見た目は鉄血が扱う装甲人形Aegisに似ているが、より強固な装甲と高度なAI、強力な重火器で武装をしているため、単体でもマンティコアとはり合えるだけの戦力を持つ。
45姉に魅了されてからというもの、南部連合旗と"ヒンニュー教"を掲げ45姉のありとあらゆる敵を粉砕する使命に燃えている。
45姉と祖国と貧乳を愛し、巨乳を憎む。
416の事が大嫌い、理由は言わずもがな…。

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