アメリカ大陸での任務より帰還した戦術人形たち、上司であるスネークやミラーへの報告を済ませた後はそれぞれ与えられていた仕事へと戻るのだった。
9A91とスプリングフィールドの二人は早速前哨基地へと赴き、MSFへ依頼された戦場へと出撃、エグゼとハンターは今やMSFの主戦力になりつつあるヘイブン・トルーパー隊の訓練と編成に取り掛かる。
404小隊は相変わらずのニート…平和なマザーベース生活を満喫しオセロットに睨まれている。
「――――もう一度!」
マザーベース内の射撃訓練場内に、銃声に混じってWA2000の声が響く。
アメリカでの任務を終えた彼女もまた、以前と同じく新兵訓練の仕事へと戻り厳しい教鞭を振るっていた。
前哨基地で教えていた戦術人形たちは今はお休み、代わりにWA2000が訓練をしているのは最近MSFへ加入したばかりの新兵たちである。人間に従う戦術人形が人間の兵士を鍛えるというのは奇妙な構図かもしれないが、銃の扱いに精通する戦術人形が教えることは案外理にかなっているものだ。
WA2000の本来の得意分野は狙撃銃の扱いだが、常日頃からそれ以外の銃種に関する知識を蓄え訓練を行っている彼女は、例えアサルトライフルやサブマシンガンを扱わせても優れた射撃を披露する。
そんなわけで、時たま訓練のために他の戦術人形へも銃の扱いに関する訓練を行うのだが…例にあげると、射撃訓練で同じ武器を使い本来の持ち主が有利なはずなのにそれ以上のスコアを叩き出し、面子を潰された何人かの人形たちを泣かせてしまっている…。
厳しい目で訓練を監視されている新兵たちは緊張からか、先ほどから射撃の的を外し、その度にWA2000の厳しい言葉が投げつけられる。そんな時だ、射撃訓練を行っていた兵士の一人が弾詰まりを起こしてしまう。
そこへ無言で近寄るWA2000…差し出された彼女の手に扱っていたアサルトライフルを預けると、WA2000はコッキングレバーを操作し、詰まっていた弾を排出する。
「訓練中止、全員集合」
彼女の指示で新兵たちは射撃を止めて集まる。
WA2000は集まっていた新兵たちを…ただしくは新兵たちの扱っている装備を観察し、小さなため息をこぼす。
「まず初めに言っておくけれど、わたしたち戦場に生きる兵士たちにとって銃というのは自分の身と仲間の命を守る大切な道具よ。いざ大事な場面で撃てません、壊れてましたじゃ話しにならないわ。
世の中には乱雑に扱っても長持ちする銃もあるけれど、だからと言って整備を怠っていいという理由にはならない。いい、MSFでは正規の軍以上に自分たちの身の回りの世話に気を配らないといけないの…体調管理、個々の技能の向上、装備品のメンテナンスは欠かせないわ。
私たちは正規軍以上に、戦場に近い存在であることを忘れないで…死にたくなかったら、戦場での不安要素を一つでも減らせる努力をしなさい、いいわね?」
厳しいが、穏やかな口調で諭しかけたWA2000に新兵たちは素直に頷く。
「分かればよろしい。今日の射撃訓練はお終いよ…あんたたちひとまずキッドのところに行って銃の整備の仕方でも教わってきなさい。はっきり言ってそんな状態で引き金を引ける気が知れないわ」
新兵たちの扱う銃はMSFの予算の都合上、新品ではないがそれでも貸与されたときはしっかりと整備された状態にあったはずだ。それが今ではところどころ汚れ、砂利なども入り込んでいるのだろう、だから今回のような弾詰まりも起こす。
指摘をうけた新兵たちは早速銃の整備のため、射撃場を後にするのであった…。
この程度の事を指摘するのはWA2000も本当はしたくないのだが、ときたま現れるMSFへの羨望から入隊する兵士が増えてきているので致し方ない事態でもある。
面倒な新兵を厄介払いできたものの、おかげで今日の仕事が無くなってしまった。
404小隊のように暇を弄ぶことだけはしたくない、そう思うWA2000が何か仕事はないかとオセロットのもとを訪ねようとした時、マザーベースの甲板上でラジオを弄るスコーピオンを目にする。
忘れていた、仕事をしない人形の筆頭スコーピオン。
あのエグゼでさえ自身の部隊の教育にいそしんでいるというのに、この人形は……戦場に出れば優秀な彼女だが、平時にはなまけてばかり。
同じ古参の戦術人形として、ここはガツンと言うべきだと決心するWA2000。
「コラ、スコーピオン! 遊んでばかりいないで、何か仕事を手伝いなさい!」
「シッ! 黙っててわーちゃん、今忙しいんだ!」
「何がこの…ラジオ弄ってるだけじゃないの!」
「あ、繋がった!」
ラジオの周波数を調整していたらしい、スコーピオンがアンテナをめいいっぱい引き延ばすと、スピーカーからザーザーという雑音に混じって声が聞こえてきた。
『――――と、いうわけで今回はここまで! それではまた次回!』
聞こえてきたのは男性の声であったが、ちょうど放送が終わる時間だったのだろう、男性の別れの言葉と共にラジオの放送が終わってしまった。
「あー、終わっちゃった……ったく、わーちゃんが邪魔するから」
「うっさいわね。で、何を聞こうとしてたの?」
「えっとね、最近知ったラジオ放送なんだけどさ。グリフィンのS09地区の銃整備師のガンスミスとM1895がメインパーソナリティーで、いろんなゲストと一緒に銃を紹介するって放送でさ…知らない?」
「初めて知ったわ。それにしてもガンスミスね…うちにも一人か二人いてくれればね、銃の整備も楽になるのに」
「それだ! それだよわーちゃん!」
「はぁ?」
妙案か、はたまた悪だくみか…とにかくスコーピオンは何かを思いついたらしい、WA2000の手をとってピョンピョン飛び跳ねる。
スコーピオンが絡むと十中八九ろくでもないことに転がるのはいつものことだが…。
「ちょっとグリフィン行って、ガンスミスをフルトン回収してくる」
「やめなさい」
さらっととんでもない発言をしてみせるスコーピオンへWA2000は即座に手刀を叩き込む。一切手加減せずに手刀を叩き込んだのだが、スコーピオンはまるで意に介さない…相変わらずの石頭、タフネスだ。
それはともかくとして、よそのPMC…ましてやグリフィンの人材をフルトン回収などあまりにもリスクが高すぎる。いや、これまでにも何度か行ってきたことだが、今日までグリフィン側とは微妙な距離感を維持しているため妙ないさかいは起こしてはならないのだ。
「まー落ち着きなさいわーちゃん、ばれなきゃ問題ないから」
「隠密行動クソザコのアンタが言えたセリフ!? あんたどうせ正面ゲートから堂々入ってフルトン回収するつもりでしょう!?」
「え、それ以外にどうやるの?」
すっとぼけた表情で言って見せるスコーピオンにWA2000は頭を抱えこむ…ダメだ、これは全力で阻止をしなければならない、そんな使命感に駆られる。
「フルトン回収は冗談だとしても、あたしもリスナーとしてラジオに参加してみたかったんだよね~。ついでにこれもプロであるガンスミスさんに見せびらかしたかったしさ!」
「あ! それはスネーク愛用の
「それにこんなのもね!」
「オセロットの
スコーピオンが持っているのはスネークとオセロットの愛銃だけでなく、キッドの機関銃やミラーの銃、その他隊員たちの銃なども持っている。それらすべてをリュックに詰め込む姿はさながら武器商人と言ったところか…。
このまま行かせてはろくでもない結果になるに違いない。
MSFのため、オセロットの愛銃を奪う…奪還のためWA2000はスコーピオンを捕まえようとしたが、今回はスコーピオンが一枚上手だ。
至近距離からのスライディングで不意打ちを取り、転倒したWA2000の背へとまたがる…手際よくとりつけられるフルトン回収システム、今回はワイヤーに自分も絡まるという凡ミスはしない。
「ちょ、やめなさいバカ!」
「なははは! 快適な空の旅を~、じゃーねー!」
「殺す! あんた絶対後で、覚えて――――いやあああぁぁぁぁぁ……!!!」
フルトン回収システムの力によって空高く打ち上げられるWA2000。
これで邪魔者は排除した、スコーピオンは早速ヘリへと乗り込み、嘘の任務を伝えて移動をするのであった…。
S09地区 グリフィン基地
ヘリを降り立ち、スコーピオンは基地を目指してひたすら走り続けついにその場へと到着する。
最前線より少し離れた位置にあるとはいえ、鉄血との紛争地帯に近い基地は警備も厳しい…簡単に入り込めるほど、警備の甘い基地ではないだろう。
だがスコーピオンにはそこを突破できる自信が何故かあった。
「こちらスコーピオン、基地へと潜入する……なーんて、スネークの真似しちゃったりもして」
もはやピクニック気分で基地正面ゲートを堂々と歩いて目指すスコーピオン。
前方には基地のゲートを守る警備兵たちの姿があるが…。
「あれ、スコーピオンちゃんじゃないか。さっき帰ってきたばかりじゃないか、いつの間に基地の外に出てたのかい?」
「あーそれはあたしじゃなくて、別なスコーピ……じゃない、ちょっとお外に忘れ物しちゃってさ~。トイレの窓叩き壊して外に出たんだ」
「トイレのドアを叩き壊しただって!? なんだってそんなこと…まあ、オレのせいじゃないからいいが…。とりあえずおかえり」
「はいはいただいま~」
そう言ってゲートを潜り抜けるスコーピオンであったが、ゲートをくぐった瞬間ビービーとブザーが鳴り響く。
何事かと足を止めるスコーピオン、どうやらそれは警報のようだったが警備兵もその動作に困惑している。
「おかしいな…すまんが、もう一回ゲートをくぐってもらえるかな?」
言われて、もう一度ゲートをくぐり直すが再び警報音が鳴り響く。
その後何度やっても結果は同じで、スコーピオンはなかなか通してもらえない…警備兵も困った様子で同僚と話しをしているようだ。
「なぜだか識別信号が合わないんだが……失礼だけど君、本当にこの基地のスコーピオンかい?」
「なにを失礼な、スコーピオンはあたしでしょうが!」
「いや、それはそうなんだけど……同じ種類の戦術人形でも個々で識別信号が違うからね。いや、待てよ…少し怪しいな、こっちに来なさい」
「コラ、あたしに触るな!」
「いいからこっちに来なさい!」
「あたしに触るなって…言ってんでしょうがッ!」
しつこく腕を引っ張る警備兵の手を振りはらうと、背後にまわり込み警備兵の腰をがっしりとロックすると、勢いよくバックドロップを仕掛ける。警備兵は真後ろの壁へ頭を叩きつけられ一撃でノックアウトしてしまった…。
「よしクリティカルヒット決まった……って、やっちゃった!?」
「お前なんてことを!? やっぱり不審者じゃないか!」
「待てい!」
もう一人の警備兵も黙らせようとしたが、警報を作動さえる方が早く、基地中へ異常を知らせるサイレンが鳴らされてしまった。即座にスコーピオンは警備兵の後頭部へドロップキックを叩き込んで黙らせるがもう手遅れ、すぐに大量の兵士がゲートへ駆けつけるだろう。
絶体絶命、さあどうするスコーピオン!
「ヘヘ…この程度のピンチはいつものこと、へっちゃらだよ。スネーク、今こそあんたの力を借りる時が来た!」
ゲートの向こうから兵士たちが駆けつける慌しい足音と怒号が響く。
スコーピオンはこのピンチを回避するある秘策があった、それは……。
「鉄血の奇襲攻撃か!? やろう、舐めやがって…って、誰もいないじゃんか」
「おかしいですね。あ、でも警備兵の皆さんが倒れてますよ!?」
「これは酷いですね…」
駆けつけた戦術人形AK-47、M1ガーランド、モシン・ナガンは警備兵が倒れているだけのゲートの様子に困惑している。もしかしたら基地内に侵入されたのではと疑うが、そうなった場合はすぐにでも他の者に見つかるはずだ。
「新しい指揮官が来たばっかだってのに全く…ん? ダンボール?」
そんな時、AK−47は台車の上に載せられた不自然なダンボールに気がついた。
無機質な茶色のダンボールにはラベルが貼られ"銃器整備担当班行き"と書かれている。
「ちょっと、怪しくないですかそのダンボール? 誰か入ってたりしませんよね?」
「あのな、ダンボールに入って隠れるなんていまだかつて見たことないぞ? それにガンスミスさん宛なら、勝手に開けたら怒られるじゃんか…あたしは責任取れないからな」
「それはそうですが…」
「とにかく、こいつはガンスミスさんのとこに持って行こう」
腑に落ちないところがあるが、AK-47の言葉に頷き人形たちはそのダンボールをガンスミスのもとへと運びこむのであった…。
というわけで、通りすがる傭兵さん作"ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー"との緊急合作案件です!
この後のスコピッピの行動を通りすがる傭兵さんのとこでご笑覧あれ(笑)
作品的にも、メタルギア的にもサービス満点となっておりまっせ!
これまでガンスミス兄貴とコラボした皆さん、これでマザーベースと間接的に関わってしまいましたなぁ!
間接的接触示唆…?(アズレン並感)