マザーベース居住区、ミーティングルームにて、戦術人形FALは炭酸飲料を口にしながら最新の新聞を読んでいた。
"S08地区陥落、G&K社の信用失墜!!"
新聞の見出しにはそう書かれており、裏面に至るまで様々な情報や専門家らのコメントなどが記載されている。
「グリフィンもこれから大変ね…」
新聞の中に掲載されている写真にはS08地区をの戦場風景を写したものがあり、その中でFALが目を止めた一枚の写真…どうやって撮ったのか、写っているのは鉄血のハイエンドモデルである"アルケミスト"。
部隊を率い、破壊した戦術人形の半身を掴み掲げている様子が撮られている…。
他社PMCからの誹謗もあって名声が落ちている他、S08地区を丸ごと失ったことによる経済的損失は大きい。
他人の不幸を喜ぶわけではないが、これでより一層MSFの需要が高まることだろう。
協定に参加しないMSFを疎む国も以前はあったが、バルカン半島での目覚ましい活躍以来干渉をして来ようという度胸のある国家ももはやいない。
最近では大国以外にも、軍事力の低い国家や武装勢力からの需要が高まり、MSFは世界中に部隊を展開している。
戦力の増強が軌道に乗った今、より一層MSFの戦力を欲しがる勢力は増えていくことだろう。
他に見るべき情報もない新聞を元あった場所に戻していると、ちょうどそこへMSF司令官のスネークがやってくる。
ミーティングルームは数少ない喫煙スペースを設けられた場所、屋内にも喫煙スペースを作れという司令官自らの発言により急遽設けられたものだが…相変わらず喫煙者は肩身が狭い様子。
「あらスネーク、タバコを吸いに来たのね?」
「タバコじゃない、葉巻だ」
「一緒でしょう?」
「かなり違う、雲泥の差と言ってもいい。芳醇な香りに豊かな風味、立ち昇る濃厚な煙はもはや官能的とすら―――」
「はいはい、オーケー分かったわ」
長くなりそうなスネークのうんちくを問答無用できり上げさせる…放っておいたら何十分も話されそうなので、FALの判断は正しい。
それはそうと、普段二人きりで会うこともない二人であったが、ここ最近のMSFの動向についてFALが尋ねて話は進む。
「エグゼの部隊、だいぶ規模が大きくなってるみたいね。大丈夫なの?」
「オレもここまで大きくなってるとは知らなかった、カズは知っていたようだが。とにかく、今は部隊を編成しているところだ。今じゃ立派なMSFの主戦力だ」
「気になるんだけど、元からのMSFのスタッフとか人間の兵士はどう思ってるの? ほら、活躍の場を奪われてしまったとか思ってたりしない?」
「今のところはない、むしろ良い意味で対抗心を持っているな。お前たち戦術人形が成長しているように、うちのスタッフたちも張り切っている。良い環境だ」
「そう、ならいいんだけど」
FALはかねてからの心配が杞憂であることに一安心する。
それから話題は最近の研究開発班へと。
最近、戦術人形向けの指揮モジュールなる権限の拡張プログラムをストレンジラブ主導で開発を行っているらしい、という話をFALはどこからか入手していた。
それに対しスネークはその計画を認める。
「それもある意味エグゼの部隊編成のために開発されてるものだ。それがあれば、ヘイブン・トルーパー隊を指揮できる権限を持つことができ、連隊隷下の部隊を大隊規模で編成できるんだ。指揮モジュールももうすぐ完成する、近々大隊長を決めるつもりだ。もちろん、君も立候補していい」
「そう、それは名誉なことね。新参の私にも大きなチャンスを与えてくれるなんてね、ここに来たのは間違いじゃない。今から言っておくけれど、スコーピオンたち古参組に遠慮するつもりはないわ。せいぜいチャンスを逃さないように、そう伝えて頂戴」
「それくらい競争してくれた方がこっちも心強い。それにしても、君といいMG5といいジャンクヤード組は向上心があって頼もしい限りだ、経験も豊富で頼りになる」
「そうね、わたしたちはエリート部隊だもの。誰にも負けるつもりはないわ」
「そのようだな。まさかオレも、ジャンクヤードでウェディングドレス姿で追いかけ回してきた君がここまで頼りになるとは思わなかった。おっと、そろそろ時間か…じゃあ、またな」
そう言ってスネークがその場を立ち去り、入れ替わりにやって来たのは同じジャンクヤード組のベクター。
FALに用があって来たのだろうが、ベクターが見たのはその場に座り込んで顔を覆い隠し耳を真っ赤にさせてるFALの姿であった。
「ど、どうしたの…!?」
「忌まわしい記憶が…あぁぁぁッ!!」
「とりあえず落ち着きなさい」
落ち着かせてから話を聞いてみると、どうやらスネークにジャンクヤードでの乱れっぷりを蒸し返されて、その時の恥ずかしい記憶に苦しめられているのだろう。
AIのバグでみんな乱れていた中で、FALは唯一スネークに対し狂ってるとしか思えない愛の告白を長ったらしく言っていたのだ……最悪なことに、乱れていた時の記憶は丁寧にも鮮明に覚えている。
「とりあえず…ごはん食べに行こうよ」
「そうね…そうしましょう…」
どうにもならない過去のことはひとまず置いておいて、空腹を満たしに二人はマザーベースの食堂へと向かう。
食堂に到着すると、ちょうど同じタイミングでやって来たネゲヴも加わる…見渡せばちょうどMG5とキャリコの二人も見かけたので、三人は同じテーブルへと座った。
「ねえ聞いた? 近々エグゼの連隊編成で、大隊長の選抜があるらしいわよ」
「大隊長って…あたしら戦術人形だよね? グリフィンでも編成は小隊規模だよ?」
先ほどスネークから聞いた話をそのまま伝えると、やはりというかベクターとキャリコは予想していなかったのか驚いている。
ネゲヴはキッドから聞いていたのか既に知っていたようだが、どうやらネゲヴも大隊長の地位は狙っているらしい。
「でもただ強いだけじゃダメみたいだよ。大隊規模の部隊を指揮できる統率力、戦況を見極める能力なんかが求められるんだって」
「そんな、あたしら戦術人形にそこまでできると思う?」
「そのための指揮モジュールなんだよベクター。今開発しているのはわたしたち人形の権限を拡張させるモジュールなんだって。モデルにしているのは、ほら、グリフィンのAR小隊っているでしょう?」
「あー、あんまりその名前出さない方がいいよ? エグゼが聞くと不機嫌になるから…」
食堂内を伺いながらキャリコは小さな声でネゲヴに忠告する……エグゼとAR小隊との確執は新参者にはあまり知られていないが、とにかく嫌っているということは知っていた…幸い食堂内にはエグゼの姿はない。
「ま、そうなると我らが小隊のリーダーが大隊長の地位に一番ふさわしいんじゃないかしら。その辺どう思ってるのかしら、MG5?」
「んー…? あぁ、まあ……そうだな」
「あら? どうしたの、具合でも悪いの?」
「今朝からなんだか身体が重いんだ…」
そう言うMG5はなんとも気だるそうな表情で、野菜スープを少量口にする。
今日のメニューは豚肉のソテーなのだがMG5は一口も手を付けておらず、水やスープといった口にしやすい食べ物しか手を付けていない。
FALがテーブルから少し身を乗り出し、そっとその額に手を当ててみると、彼女の高い体温に驚く。
「ちょっと、かなり熱があるじゃない! 何かあったの!?」
「分からん…頭も少し痛い」
「ほら、みんな心配するじゃん。ちょっと診てもらおうよ」
「たぶん疲れてるだけだ、休めば治るはずだ」
心配するキャリコにそう言うが、人間のように病気にかかることのない戦術人形にとってMG5の今のこの状態は十分に異常なことといえる。
ここ最近は、MG5もMSFの新兵訓練の手助けをしたりと忙しい毎日を送っていたが、それにしてもこの症状はおかしい…後で無理矢理でもストレンジラブに診てもらおう、そう思いながら食器を片付けていたところ、ガシャンと大きな音が食堂内に響く。
「リーダー!?」
咄嗟に振り返ったキャリコが見たのは床に食器を散乱させて倒れているMG5の姿であった。
慌てて駆け寄って抱きかかえると、彼女は苦しそうな呼吸を繰り返し異常なほど身体は熱い…やはりただ事ではない、その場にいたMSFのスタッフたちの力も借りて彼女を研究開発棟の元へと連れていく…。
「まったく、こんなになるまで放置して…自分の身体の異常は、自分が一番に分かると思うんだが?」
「すまない…ドクター…」
研究開発棟に運び込まれ、送られたのは修復装置がある部屋ではなくストレンジラブの研究室だ。
MG5のその症状が外的要因でないことを予想し、キャリコが提案したものだ。
運び込まれたMG5を見るなり、ストレンジラブは研究の手を止めてすぐさま彼女の治療に当たってくれた。
おかげで今は熱も少し下がり、MG5の意識もしっかりしている…とはいえ、まだ熱もあり身体も重いようだ。
「それで、ドクター。一体何が原因なの?」
ベクターの問いかけに、ストレンジラブはパソコンに映るプログラムを見せてくれたが…彼女たちには意味が分からず、見ているだけで頭痛を感じる。
「以前取り除いたと思っていたバグプログラムが残っていたようだ。このバグがMG5のAIの挙動に異常をきたし、人間にとっての風邪に似た症状を引き起こしているらしい」
「ということは、わたしたちにもまだそのバグが残っているかもしれないってことかしら?」
「そういうことになる。MG5のバグを修復するついでに、君たちのプログラムも診断させてほしい」
「そう言うことなら、断る理由はない。また急におかしくなって、みんなを傷つけたくない」
ベクターの言葉にFALもネゲヴも頷く。
思いだしたくもない、ジャンクヤードで大切な仲間を傷つけあっていた記憶。
今はこうして落ち着いて、新しい仲間を得ることができた…大切な仲間を守るためにも、3人はストレンジラブの診断をすぐに受けることを決めた。
「というわけでキャリコ、ちょっと私たちは診断をしてもらうわね。その間リーダーをよろしくね」
「うん。みんな気をつけてね」
MG5に用意されていた病室から3人が出ていくのを見送ると、早速キャリコはテーブルに広げられた錠剤を手に取った。
「えっとこっちが解熱剤で、こっちが咳止めの薬…? こんなの私たちに効くのかな、全然分かんないや」
一応用意された、人間用の風邪薬。
細かいところはともかくとして、生体パーツは人間に近い組成である戦術人形にも効果があるかもしれないということで渡された薬だが、果たして飲ませて良いものか…一応解熱剤以外は漢方薬とのことだが。
「えっと、リーダー? 体調はどう?」
ひとまず、ベッドに寝ているMG5に声をかける。
まだ熱があって苦しいようで、弱々しい声で返事をする…。
「ごめんねリーダー、傍にいたのにすぐに気付いてあげられなくて」
「謝るな……キャリコ、全部私が悪い…」
「あまり、無理しないでね? 元気でいられるのが一番なんだから」
「そうだな…」
MG5はそっと目を閉じると、微かに微笑んで見せる。
それもすぐに辛そうな表情へと変わる……高熱のせいか汗をかき、着替えた衣服はもう汗ばんでしまっている。
持ってきたタオルを冷やしてそっと額や首元を拭ってあげると、それが心地よいのか幾分MG5の表情が和らいだ。
「ありがとうキャリコ…」
「ううん、いいんだよ。それより、汗かいちゃったから着替えよ。替えの服は持ってきたから」
「あ、あぁ…そうだな」
「待って、私がやるよ。リーダーはゆっくりしてて」
「そう…か…?」
キャリコの言葉に甘え、MG5は寝たままの姿勢でその身を委ねる。
冷やしたタオルを折り畳んだものをMG5の額に乗せ、キャリコはそっとMG5が着ている服のボタンに手をかける…。
「キャリコ、やはり私が…」
「いいから、こんな時くらいあたしに甘えてよ」
「うむ…」
ろくに力が入らない身体を抑え込まれる。
ほぼ無抵抗のままボタンを外され、無防備な裸体を晒す…こんな状況におかれたている気恥ずかしさからか身体が熱くなるのを感じ、元から感じている熱もあいまって意識がぼんやりとしたものになる。
キャリコもキャリコで、自分ではだけさせたMG5の火照った肌に顔を真っ赤にさせている…。
「…キャリコ…?」
「あ、ごめんね! すぐにやるから…!」
思いだしたかのように手を動かし始めるキャリコ。
少しづつMG5の衣服を脱がし、同じようにしたのズボンも脱がしていく…ベッドに横たわるMG5は今は下着姿、全て脱がし終えてやり遂げた様子のキャリコだが、まだやることはある。
水で濡らしたタオルを絞り、そっと汗ばむ彼女の肌を拭う。
水に冷やされたタオルが心地よいのか、MG5は目を細める。
「どうかなリーダー? 気持ちいい?」
「あぁ。気持ちいいよ……」
「良かった」
濡れタオルで首から肩、そして脇を拭い火照った肌を冷ます。
お腹のあたりを拭くときはややくすぐったそうであったが、背中や股を拭いてあげると心地よさそうに声を漏らす…それがなんとも扇情的で、無防備なMG5に手を出したくなる衝動に駆られるがなんとか理性で抑え込む。
汗を拭き終わり、脱がした時と逆の手順で替えの衣服に着替えさせる。
ついでにベッドの毛布も交換すれば完璧だ。
幾分和らいだMG5の表情に満足しつつ、今度は用意された薬の方を彼女に飲ませる番だ。
「えっと、お薬飲む前に何か食べた方がいいんだよね…何か食べたいのある?」
「あまり食欲はない…」
「でも、何か食べないと」
体力をつけるためにも何かしら口にしなくては、そう思い、見つけたのはストレンジラブが持ってきてくれたリンゴ。
リンゴなら口にしやすいだろうと思い、早速ナイフでリンゴの皮を剥いてあげる。
甲斐甲斐しくお世話をしてくれるキャリコ、普段はリーダーであるMG5が面倒を見てあげるのだが…普段と逆になった珍しい立場につい彼女の顔をじっと見つめてしまう。
たまらなく愛おしい、素直にそう思うMG5であった。
「はい、召し上がれ」
MG5は上体をベッドから起こし、切り分けられたリンゴを口にする…みずみずしく新鮮なリンゴだが、体力が落ちて元気のないMG5にはそのリンゴすら固く感じてしまう。
なるべく小さく切ったのだが、それでも食べるのが億劫らしい。
それはキャリコも気付いたのか、何かいい方法はないかと頭を悩ませていたが…。
「ねえリーダー、ちょっと目を閉じてくれる?」
「どうしてだ…?」
「いいから」
腑に落ちないが、MG5は言われた通りそっと目を閉じる。
そのまま少し待っていると、キャリコが近寄ってくる気配を感じる…柔らかな髪の匂いがMG5の鼻をかすめると同時に、唇に柔らかい感触を感じた。
「ん……」
ほとんど無抵抗のまま開かれた唇から何かが口内に流し込まれる……舌の上で感じた甘味は先ほど食べたリンゴと同じ味。
目を開けなくても分かるキャリコの行為に、MG5は驚いていたが、やがてすべてを受け入れる。
「どう、リーダー? おいしい?」
「とっても甘かった……だがもう十分だよ、これ以上はその…頭が灼けてしまいそうだ」
これ以上の刺激はさすがにまずい、そんな彼女の言葉にクスリと笑い、もう一度だけキャリコは唇を重ね合わせる…唇が触れあうだけの軽めのキスをした後、キャリコが脱がした拭くと毛布を片付けようと部屋の扉へと近付く。
途端に、扉の向こうでバタバタと何者かが走り去る音がした…そっと扉を開けたキャリコが見たのは、何人かの戦術人形が逃げ去る姿であった…。
「ごめん、見られちゃった…」
「まったく……まあ、いつまでも隠せないか…」
実は結構前から二人の関係は知られていたが、そんなことは知る由もない二人であった…。
禁断の果実とは、それを手にすることができないこと、手にすべきではないこと、あるいは欲しいと思っても手にすることは禁じられていることを知ることにより、かえって魅力が増し、欲望の対象になるもののことをいう。
―――――by Wikipedia
どこかの司令部で女の子どうし結婚しているから、ワイのとこの百合カップルをくっつけてみたぞ。
ちなみにタイトルのLILIUMとはラテン語で