METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:自然に愛されるということ

 前哨基地より数十キロ離れたとある森。

 この世界を襲った数々の災害に見舞われることもなく、ありのままの自然を残している森林には大小様々な動物たちが人の干渉を受けることなくたくましく生きている。

 元は小さな町もあったのだろうが、人がいなくなったことにより植物が町をのみ込みかつて人が住んでいた家屋は緑に覆われて、自然と一体化している。

 コーラップス液の被害に加え、第三次世界大戦による放射能汚染の影響によってこのような場所は世界各地にあるのだが、ここは特にひどい汚染もなく人も立ち入ることのできる穏やかな森だ。

 

 そんな穏やかな森の中で、9A91はカメラを手にじっと森の奥を見つめている…見つめているのは樹木の枝木に止まる小鳥たち、静かにカメラを手に取りシャッターを切る。

 長く厳しい冬も終わりが見え始め、春の息吹が吹く。

 降り積もった雪が解けて川に流れ込み、冬眠していた動物たちが目覚め活動する…この時期にしか見ることのできない動物たちの営みに、穏やかな自然を好む9A91はそっと微笑んだ。

 

「9A91、良い写真は撮れた?」

 

 振り向くと、そこにはスケッチブックを持ったスオミがいる。

 彼女もまた、9A91と同じく豊かな自然を好む戦術人形だ。

 9A91はFOXHOUNDとしての任務を、スオミはMSFの訓練を一時お休みしこうして二人で前哨基地近くの森へ遊びに来ていた。

 

「はい。綺麗な小鳥が…野生のヒヨドリでしょうかね。スオミは、何を描いたんですか?」

 

 写真を撮る9A91とは違い、スオミがやっていたのはスケッチブックに見たものを鉛筆で写生するというもの。

 少し恥ずかしそうに見せてくれたスケッチブックには、地面に腰掛けるキツネの姿が描かれていた。

 特徴を捉え、精巧に描かれたキツネのスケッチに9A91は感嘆の声を漏らす。

 

「ほんとうにスオミは絵が上手ですね。羨ましいです」

 

「そんなことないよ。9A91も、とても良い写真を撮れますから」

 

 お互いを褒め合い、二人は小さく笑う。

 

「そろそろお昼の時間でしょうか?」

 

「そうだね。お弁当食べようよ」

 

 

 太陽が真上に昇り、ほのぼのとした陽気に包まれる。

 二人は道具の後片付けを行い、森の中に見つけたちょっとした広場にシートを広げそこに持ってきたお弁当を並べた。

 

 

「わぁ…9A91のお弁当、とっても美味しそう!」

 

 9A91が見せてくれた弁当箱にはピロシキやコトレータといった定番のロシア料理、中でもスオミの目を引いたのは子豚の姿を模した奇妙な食べ物である。

 

「えへへ、"ブタさんいかめし"です」

 

 ブタさんいかめしというらしいその料理は、炒めた野菜にコショウやチーズを加えたものをご飯に混ぜ合わせボイルしたイカに詰めたものらしい。

 キュートなブタの姿についつい食べるのを躊躇してしまう。

 9A91の手の込んだ弁当と比較してみると自分が持ってきた弁当は…まさか9A91が本気で弁当を作ってくるとは思わなかったためか、スオミが持ってきたのはハムやレタス、目玉焼きを挟んだだけのサンドイッチであったが…。

 

「スオミ、良かったらお弁当を交換しませんか? スオミのサンドイッチ、とても美味しそうです」

 

 にこりと笑う9A91の心遣いにスオミは嬉しくなり首を縦に振った。

 9A91はスオミのハムとレタスを挟んだサンドイッチを、スオミは9A91のブタさんいかめしを貰う。

 豊かな森の木漏れ日にあてられながらたたずむ二人の少女、穏やかな時が流れるそこには彼女たちの存在を許すかのように小鳥やリスといった小動物たちがそっと近寄っていく…自然に愛された二人の姿はまるで森に住まう妖精のようであった。

 

 

 

 その後、一時間ほど森を散策し、森を流れる小川で水遊びをしたり野生のシカを見つけて戯れたりと、ほのぼのとした時間を共に過ごし二人は帰路につく。

 森の外れに止めてあったトラックに乗り込みいざ発進しようとすると、一緒に付いてきていたシカに帰り路を阻まれ、結局シカが森へ帰ってくれるまで時間を潰すのであった…。

 

 

 

「楽しかったね9A91」

 

「そうですね、また一緒に行きましょう」

 

 トラックで前哨基地へ、そこからマザーベースにヘリで帰還した二人は森で撮った写真を早速現像する。

 当たり前だが、写真はスオミの手描きのスケッチよりも多い…豊かな森を写した写真の数々をスオミは興味深く見つめていたが、そのうちの一枚を見るや顔を赤らめる。

 

「もう、こんな写真いつの間に撮ったの?」

 

「はい。なんだか撮らなきゃいけない使命感を感じまして」

 

 その写真は、昼食後のお昼休みの模様を撮った一枚である。

 木に寄りかかりうたた寝するスオミ、その肩にはドングリを抱えたリスや小鳥が乗り、膝の上に野兎が呑気に座っているという場面である。

 寝ている間にこんなことが起きていたとは、スオミは考えもしていなかったようだ。

 

「ひとまずこの写真はスオミにあげます……それより、何かマザーベースがごちゃごちゃしてますね、なんでしょう?」

 

 

 普段は整理整頓されているはずのマザーベース上の甲板が、その日はなんだかコンテナや布を覆い被せられた火砲、戦車といった兵器があちこちに置かれている。

 資材庫や兵器庫があるのは別なプラットフォームであり、まるで一旦仮置きしているようにも見えるが…。

 

「あれ? 連邦軍兵士がいる」

 

「あ、本当ですね。ということは…」

 

 甲板上にはバルカン半島のユーゴスラビア連邦の兵士がおり、MSFのスタッフらと楽しそうに雑談をしている。

 内戦以降、MSFと蜜月の間柄にあるユーゴであるが、こうして兵士がやってくることは珍しい…そうなると、やって来たであろう来訪者は容易に想像出来る。

 

 

「よ、久しぶりだなスオミ。元気にやってるか?」

 

「イリーナちゃん! 来てたんだね」

 

 

 兵士たちの中から姿を現したスオミの主人であるイリーナ、新連邦軍の軍服を肩に羽織る姿は相変わらず勇ましい。

 内戦で受けた後遺症からか杖をついて歩いているが、壮健な姿にスオミは嬉しそうに駆け寄り、イリーナもまた久しぶりに会うスオミを両手を広げて迎える。

 

 

「びっくりしたよ、今日はどうしたの?」

 

「いや、ちょっと世話になったMSFに近況報告をしにだな。それより訓練の調子はどうだ、何か技術は学べたか? まさかMSFでほのぼのやってたわけじゃないだろう?」

 

「そんなことないよ。イリーナちゃんこそ、お酒ばっか飲んでぐーたらしてたんじゃないでしょうね?」

 

「そんなわけないだろう。酒は一日一本、三食欠かさずハンバーガー食ってたよ」

 

「もう! 私がいないとすぐそういうだらしない生活するんだから!」

 

 このぶんだと部屋の方も荒れ放題に違いない…そう思うスオミであったが、その予想は残念ながら的中している…実家は荒れ放題だ。

 まあ、そんなことは知りようがないのでそれ以上は恐ろしくて考えないようにする。

 久しぶりの主人との再会を邪魔しないように、気を利かせてこっそり9A91はその場を外そうとするが、そんな彼女をイリーナは呼び止める。

 

「スオミから手紙を貰ったよ。うちのスオミと仲良くしてくれてありがとう、君はバルカンであった時からこの子と仲良くしてくれたね。礼を言わせてくれ」

 

「そんな、礼を言わなければならないのはこっちの方ですよ。スオミには、私も色々とお世話になっています」

 

「そうか? まあともかく、良き友人を得たな、スオミ」

 

「はい。ところでイリーナちゃんは良いお相手をみつけたの?」

 

「言うな。別に結婚なんて興味ないし、そもそも祖国に身を捧げた身だしな…おい、なんだその目は?」

 

「なんでもないよ」

 

 負け惜しみを口にするイリーナをジト目で見つめる。

 勇敢で頭脳明晰、スタイルもよく美人なのだが…壊滅的な家事力、さばさばし過ぎた性格、力技でなんでも解決しようとする脳筋といった理由で相変わらず良い相手は見つからないようだ。

 そんな感じで懐かしい思い出話に興じていると、MSF副司令カズヒラ・ミラーがその場へやってくる。

 

「あ、副司令」

 

「やあ二人とも、バードウォッチングは楽しかったかい?」

 

「はい。スオミの貴重な寝顔も撮れましたし」

 

「なにぃ!? その写真はどこにあるんだ!?」

 

「ちょっと待て、うちのスオミの寝顔だって!? 欲しいなその写真!」

 

「ミラーさん! それにイリーナちゃんまで、恥ずかしいからやめてよ!」

 

 写真を要求するイリーナの横腹をどついて強引に黙らせる…9A91からは既に写真も貰っているので安心だが…。

 

「それはそうと、イリーナ。スネークとも話したんだが、MSFとしてはそちらの提案を受けることにした」

 

「ほう、それはありがたいな。いやー、あのままだったらどうするか悩んでたんだ」

 

 ホッと、安心した様子で握手するイリーナであるが、事情がいまいち分からない二人はわけが分からず首をかしげるしかない。

 事情を知らない二人に、ミラーが説明する。

 話によると、ユーゴ新連邦にて余剰とされていた武器・兵器をMSFに売れないかと商談をしにやって来たようだ。

 余剰兵器の削減も兼ねているので売却価格は良心的で、MSF側も旧式化していた装備の一新を図るためにイリーナが持ちかけてきたこの話しを受け入れたのだった。

 

「それにしても兵器が余るなんて、軍縮でもしてるの?」

 

「そうなんだよ。世話になったMSFを贔屓してたら、議会で"だったら正規軍いらないじゃん"とか言われて軍縮された。政治は難しいな」

 

「もう、この日のためにたくさん勉強してたんでしょう?」

 

「そうなんだが、政治の世界は戦争よりも難しいということだ。まあ、私もそのうち引退してのんびり暮らすつもりだ。その時になったら、お前を迎えに来よう」

 

「そうだね。イリーナちゃんはのんびりしてた方がいいよ、今までが忙しかったんだし」

 

「ああ。ではミラー副司令、良い商談だったぞ。今後とも末永いお付き合いをしたいところだ…では、またな」

 

 

 最後にイリーナはスオミを抱きしめ、自身が乗って来たヘリへ乗り込む。

 飛び立つヘリに、スオミはいつまでも手を振るのであった…。




書こうと思ってついつい後回しになってしまっていた9A91✕スオミ
よく知らないんだけど、二人のこういう関係は百合には当てはまらないのかな?


そんで久しぶりの登場、スオミの主人イリーナ嬢……いつも通りさりげなくMSFに兵器を売りつけていきますw
まあ、色々と1970年代装備から新しくしなければならないのでね、利害の一致ですよ。

次回は…どうしよw
わーちゃんネタが過去最高にストックされているんやが…。

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