METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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熱砂の砂漠:魔弾の射手

 旧市街の中心部にある広場は、かつてこの国の情緒を色濃く体験できる観光地として非常に人気のスポットであった。

 旧市街ということもあり、歴史ある美しい建築物が並び、観光客を相手にする商人たちが露店を開き賑わいを見せていた…しかしそれも今は昔、内戦の影響で住民は難民として逃れ、綺麗だった旧市街の街並は砲撃と空爆で見るも無残な姿へと変わってしまっている。

 以前は噴水で潤っていた池も破壊されて渇き、倒れた兵士の血が広がっている。

 

 

 旧市街の広場は十字に大きな道路が交差し、その周囲を建物が囲い込む構造となっている。

 その造りのおかげで、広場と道路を挟み政府軍と反政府軍側が攻防を仕掛ける形となり、それまで快進撃を仕掛けていたMSF第二大隊の進撃もストップする。

 反政府軍側も、これ以上の敗退を防ぐべく戦力を集中させ、頑強な抵抗を見せていた。

 

「リーダー! 敵戦車を確認したよ!」

 

 厄介なのは、反政府軍側が戦車を用意していることだ。

 見える限りで敵側の戦車は3両、情報によれば反政府勢力に戦車などのまともな兵器はないとされていたため、おそらくは雇われたPMCが投入してきた兵器だと思われる。

 それを裏付けするように、敵側の陣地には民兵とは明らかに装備の違う兵士たちの姿がある。

 

「月光で強引に突破する手もあるが…」

 

 月光が持つ跳躍力ならば、多少の損害はあっても敵側の陣地に乗り込むことは出来るだろう。

 だがそれに付随するヘイブン・トルーパー隊は、この広い道路を強引に突破しようとすれば損害は大きくなるだろう…虎の子、とまではいかないが長い時間をかけてエグゼが育てた部隊を無駄に損耗させるわけにはいかない。

 

「いっそ徹甲弾でも持って戦車の装甲をぶち抜いてやろうか?」

 

「鉄血が使ってるような装甲人形じゃないんだから撃ち抜けるはずないでしょう」

 

「ワルサーか。いや、冗談だ…戦車と装甲人形の防御力の差ぐらいは知ってるさ」

 

 プレイング・マンティスの部隊も広場へと到達したことで、WA2000は大隊へと戻って来た。

 敵側の防御陣地に攻めあぐねているMG5に並び、WA2000も戦場を見据え攻略法はないかと考える…一番はやはりFAL率いる戦車隊が来てくれるのがいいのだが、町の外で交戦しているのか通信をしてもすぐに切られてしまう。

 少しでも戦車を割いてこちらに回せばいいが、やはり戦車隊の運用に慣れていないようで考えてる余裕もないのかもしれない。

 

「仕方ないわね。プレイング・マンティスの対戦車班に任せましょう、援護をするわよ」

 

「了解した」

 

 MG5の指示により、市街地での近距離戦装備をしていたヘイブン・トルーパー隊を引きさがらせ、替わりにFN SCARやDSR-1を装備した隊員を複数の小隊に分けて展開させる。

 ユーゴスラビア側から大量供与されたVHS-2アサルトライフルは部隊の標準装備となり、DSR-1は高価なため少数の配備となっている。

 前線に投入された部隊は素早く展開し、通りを挟んで対面する敵勢力に対し攻撃を仕掛ける。

 MG5自身も、手頃な建物を簡易指揮所とし、各部隊に細かい指示を伝えるとともに、再度FAL率いる戦車隊への連絡を図る…。

 

「リーダー、あたしは何をすればいい?」

 

 持っている武器の特性上、距離を開いての戦闘を苦手とするキャリコが指示を求める。

 先ほどまで市街地での遭遇戦において大いに活躍してくれたキャリコを休ませてあげたいところであったが、キャリコは休むことをよしとせず、何か役割を求めている。

 

「いや、今は身体を休めてくれ。戦車を排除した後に君の突破力が必要になる」

 

「分かったよリーダー。でも、後方の仕事は手伝わせてもらうね」

 

「ああ。無理はしないように」

 

 笑みを浮かべて敬礼をすると、キャリコは指揮所の外へ出て軽迫撃砲を運搬する兵士たちの手伝いを行う。

 

「いい子ね」

 

「ああ、自慢の教え子だ」

 

 働き者のキャリコをWA2000に褒められて、MG5はまるで自分のことのように誇りに思うのであった。

 しかし感傷に浸ってもいられない、敵戦車の砲撃がすぐそばで炸裂したのか指揮所が揺れる…MG5は部隊の指揮に、WA2000は対戦車班の援護のために狙撃位置へと移動する。

 

『WA2000さん、対戦車班到着しました! 援護をお願いします!』

 

「了解よM590」

 

 通信を切り上げ、スコープを味方部隊へと向ける。

 対戦車班に混じってM590が手を挙げてWA2000にアピールをし、部隊と共に広場を迂回し、目標の戦車へと移動をしていく。

 彼女らが進む進路を頭で想定し、その障害となる敵部隊の狙撃を開始する。

 自陣と敵陣の距離はおよそ200メートル前後、戦場に吹く風とそれにまきあげられる砂塵、絶え間なく動く敵兵士が狙撃の難易度をあげるが…そんな環境でWA2000は実戦と訓練で鍛え抜かれた狙撃能力を遺憾なく発揮する。

 障害となる敵兵士を次々に排除し、M590が戦車へと接近するのを援護する。

 しかし敵側も狙撃されていることに気付き、身を隠しつつ反撃を開始してきた。

 

「上手くやりなさいよ…M590」

 

 スコープで彼女らの行動を観察していると、ふと遠くの建物の屋上に黒づくめのコートをなびかせる人物を目にする…擦り切れた赤黒いコートと銀髪を風になびかせるその人物はライフルを構え、その銃口は真っ直ぐに自身を狙っている。

 咄嗟に、伏せたWA2000…次の瞬間、彼女が先ほどまで顔を出していた窓を銃弾が貫きガラスを四散させた。

 それと同時に爆発音が鳴り響く。

 居場所を変えて戦場を見れば、どうやら敵戦車の撃破に成功したようで、味方部隊を悩ませていた戦車の砲塔がひしゃげ炎上していた。

 

 それを確認し、すぐさま先ほどの人物がいた屋上を伺うが、すでにそこには誰もいない…。

 

 

「誰だか知らないけど、やってくれたわね」

 

 

 はじけたガラス片によってWA2000は頬からうっすらと血を流していた…それを指で拭い、目の色を変える。

 どうやら本気になったようだ…。

 この戦場に来た際には予測していなかった好敵手の存在が、WA2000の闘争心を刺激する…目をぎらつかせ獰猛な笑みを浮かべる今の彼女を見れば、気の弱い人形などは震えあがり一生のトラウマになることだろう。

 現に、WA2000を迎えに来たキャリコは彼女の顔を見るなり狼狽える。

 

「見つけたわ、標的よ。アンタたちも狙撃に注意しなさい」

 

「えっと、ワルサーどうするの?」

 

「決まってるでしょう」

 

 ライフルと拳銃の残弾を確認し、好戦的な表情を見せる姿にキャリコは察する…あぁ、やはりMSF所属の人形はなんかおかしいと…。

 エグゼやスコーピオンが好戦的なのは知っていたが、まともに思えていたWA2000もこんな戦闘狂のような姿を見せるのだ…大人しい9A91などももしかしたら、そうキャリコは思い戦慄する。

 

「それよりFALと連絡がついたよ。もうすぐこっちに突撃するって」

 

「ああそう、それはいいわね」

 

 そんなことを話していると、旧市街の建物を戦車で強引に轢き潰しながらFAL率いる戦車部隊が姿を現す。

 戦場に駆けつけた戦車隊は味方の歩兵部隊の壁となるように停車すると、その砲口を敵戦車へと向けて砲弾を撃ちこんだ…砲弾は見事敵戦車の砲塔部に命中し火花をあげたが撃破にはならず、すかさず敵戦車が反撃をするが…。

 同じく砲塔部に命中したが、小気味よい金属音を鳴らせて砲弾は弾かれる。

 

 

「あーもう! 戦車の中は暑苦しくてかなわないわ! 戦車隊攻撃開始、パンツァー・フォー!!」

 

 

 何か大声で文句を言いながらFALが戦車内から出てきたが、生身を晒して指揮している姿は見ている側としては冷や冷やとさせられる。

 敵側の残り2両の戦車も負けじと応戦するが、その砲弾はMSFの戦車隊の装甲を撃ち抜くことができない。

 敵側のPMCが使用している戦車は旧式の戦車ばかりであるのに対し、MSFが配備しているのは最近ユーゴ連邦から仕入れたばかりの最新式の戦車だ。

 装甲の防御力も、砲撃による攻撃力も差がありすぎる。

 

「敵の防御が崩れたみたい!」

 

「ええ、MG5も部隊を前進させるはずよ。行くわよキャリコ!」

 

 やはり戦車の突破力は凄まじい。

 月光がそれに代わる兵器であることは間違いないのだが、配備数の面でまだ戦況を左右するほどの存在とは言えない。月光の数が主戦力として揃うその日まで、戦車はまだまだ活躍し続けるだろう。

 戦車隊の登場に敵は不利を悟り徐々に後退していく…残る戦車も乗り捨てられており、何もなければ鹵獲は確定だ。

 この好機にMG5も部隊を前進させ、激しい銃撃によって渡ることのできなかった広い道路を前進する。

 まだ建物に残る兵士もいたが、戦車の砲撃によって建物ごと吹き飛ばされてしまう。

 ようやく訪れた活躍の場にキャリコも先陣をきり走る…。

 

 

「逃がさない、追撃だ!」

 

 

 戦車と共に進むキャリコ、逃走する敵側の兵士を追い立てる中で勝利を確信するが…敷設されていた地雷に気付かず、踏みつけた戦車の下で大きな爆発を起こす。

 爆風で傍を進んでいたキャリコは吹き飛ばされ、激しく背を打ちつけてしまった。

 

「イタタ…しまった…」

 

 幸いにも大けがは免れたが、地雷を踏みつけた戦車は履帯が破損し立ち往生する。

 狭い道路の真ん中で足回りをやられたことによって後続の車両は進むことができず、部隊の進撃も止まってしまった…戦車兵も急いで脱出し、それを援護するためにキャリコが前に進みでた時だった。

 

 どこからか撃たれた一発の銃弾が、キャリコの足を撃ち抜き、走っていた勢いのままにキャリコは転倒する。

 

「くっ…どこから!」

 

 銃弾は貫通したが激痛で思うように足が動かず、這って物陰へと隠れようとするキャリコ…狙撃手はそれすらも見逃さず、地面を這うキャリコの腕を撃ち抜いた。

 激痛に悲鳴をあげ、片腕と片足を封じられたキャリコは障害物の無い道路で倒れ伏せる。

 

「キャリコ…!」

 

 彼女の危機にMG5が飛び出しそうになるが、配下のヘイブン・トルーパー兵が引き止め、代わりに彼女たちが救援として駆けつける……だが、それが狙撃手の狙いなのだろう。

 身動きの取れないキャリコを救出するために駆けつけたヘイブン・トルーパーを狙い、仕留める。

 

「くそ! キャリコ、今助けてやるからな!」

 

「ダメだ、来ちゃダメだ! あたしは…餌だ……リーダーも狙われちゃう」

 

「だが…!」

 

「あたしはまだ平気だ…それより、ワルサーそこにいるんでしょう? 奴は、今もあたしを狙ってる…あんたが、奴を倒して…!」

 

「キャリコ…了解よ、狙撃手の位置はだいたい把握した。それからあまり身動きしないように、失血で機能不全になるからね」

 

 地面に伏せるキャリコは小さく頷く。

 不用意に動けば出血の量を増やす、後は時間との勝負だ……いつ狙撃手がキャリコにとどめの一発を撃つかも分からない、キャリコの危機にMG5は気が気ではない様子だ。

 そんなMG5の肩を軽く触れ、落ち着きを取り戻すようWA2000は促した。

 

「頼んだ、ワルサー」

 

「任せて、負けるつもりはない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部隊を離れたWA2000は一人、旧市街の路地を走りぬけていた。

 不意の遭遇戦に備えてライフルは背にかけて、拳銃とナイフを手に構える…あの場で足止めをくらったせいで敵兵士は後退を済ませたのか、警戒する敵との遭遇はない。

 もしもあの狙撃手の任務が、撤退する部隊の援護だというのなら任務は大成功と言っていい。

 部隊の撤退に成功したのなら後は自身も後方に下がるだけ、普通に考えれば狙撃手はもう撤退しいないと考える…だがWA2000には確信に近いものがあった、敵は対決を望んでいる。

 

 先ほどキャリコが狙撃を受けた位置から、狙撃位置を割り出し、建物の屋上へと足を踏み入れる…。

 

 旧市街の建物の屋上の一つに、WA2000が追い求める狙撃手はいた。

 

 狙撃手は…彼女はここにWA2000が来ることを知っていたかのように、落ち着いた様子で出迎える。

 

 

「あなたが魔弾の射手とはね…Kar98k(カラビーナ)

 

「待っていたわ、同郷の後輩ちゃんWA2000」

 

 

 対面するKar98kは愉快そうに笑う…それに対し、WA2000は厳しい表情でじっと彼女の姿を観察していた。

 その顔は汚れた包帯で覆われ、着こむコートは血が滲んでどす黒く変色して擦り切れ、まるで死神のよう…対比してその手に握られた銃は綺麗に磨き上げられている。

 そんなWA2000の表情に気がついたのか、Kar98kは一度目を伏せると顔を覆っていた包帯を解く。

 

「ごめんなさいね、長年まともな整備も受けていないものだから…」

 

 包帯の下に隠されていた素顔は、まるで古びたマネキンのようにひびが入り、笑みを浮かべる表情もどこか固い。

 初期のI.O.P製戦術人形の中には、旧規格の生体パーツを用いた人形もいるため、整備を怠ると今のKar98kのように劣化していく存在もあるが…。

 

「わたくしは、あなたのような兵士が現れるのを待っていた」

 

「そう。私としてはあんたがどこの誰に雇われているかが気になってきたわ」

 

「フフ…わたくしの指揮官はとうの昔に戦死しましたわ。でも指揮官は死に際にわたくしへ最後の命令を下しました……"その命尽きるその時まで、大隊最後の兵士として責務を果たせ"…ローデシアにて指揮官と部隊が全滅して以来、わたくしは戦場を求めて各地を放浪していましたの。戦うために戦場を渡り歩き、願わくば強き者と命をかけた死闘に興じた末に役目を終える……WA2000、貴女ならわたくしの願いを叶えてくれるのではありませんか?」

 

「戦う理由は必要ない。ただ戦場と、戦う相手が欲しかったのね……気に入ったわ」

 

「そう、素敵ね。国境なき軍隊(MSF)最高のスナイパーの逸話はわたくしも常々耳にしていましたわ……あなたとなら素敵な戦いができそう。この渇きを、貴女なら潤してくれるはず…」

 

 乾き、ひび割れた顔をそっと触れてKar98kは微笑む。

 思い通りに動かない表情に無理矢理笑みをはり付ける姿は、無機質で、不気味で、恐ろしい…だがWA2000は一切動じることは無い。

 彼女はより恐ろしい存在を、より恐ろしい戦場を知っているからだ。

 恐怖に打克つことなど、既に習得して久しいことなのだ。

 

 

 

「そろそろ始めましょうかワルサー? 勝利か、死か……貴女なら、わたくしを殺してくれるでしょう?」

 

 

 




途中までスナイパ・ウルフをイメージしてたのに、何故だかヴァンプっぽいカラビーナが出来上がってしまった……なんだこいつ?


※ここでのKar98kはI.O.P製戦術人形の初期生産型という設定ざんす。
生体パーツも人間に近いものではなく、劣化の影響が激しいが戦闘能力に関しては遜色ないです。
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