ヒソカにお兄ちゃんがいたらこうなるんじゃないかなぁ   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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第2話

 

始まった一次試験。

地下道を延々と走り続ける変則マラソン。地下道の閉塞した空間の中、何時間走るのかも定かではない。

この試験ではハンターに必要最低限な体力及び筋肉量、持久力、そして精神力を問われるのである。……無論、持込みは許可されているため、乗り物を使う者もいるが。

一次試験の試験官を担当するのはカイゼル髭が特徴的なスーツの紳士のようなプロハンターサトツ。彼の歩幅は一般男性のそれより徐々に大きくなっていき、今では後続の受験者全員がジョギングに近い形で走り出すまでに至っていたのだった。

 

その中、息一つ乱す事なく走る者数名。

とうに数時間が経過している現在、そのような人間は酷く浮いて見えるのである。

 

 

「……アイツは?」

「勘付かれたくない奴がいるんだと」

「依頼か」

「さあ?オレは見張りを頼まれただけだしな」

「ある意味目立ってるけどねぇ♠あの格好とか♥」

「アイツもお前にだけは言われたくねーだろうな」

「奇術師のどこが悪いのさ♦」

「悪いのはお前の素行だよ変態ピエロ」

 

まるで散歩でもしているかのような振舞いには流石に周りの受験者も恐れよりも怒りが勝る。

それを柳に風と受け流し、寧ろ微風とも感じていない3人は変わらぬペースと顔色で、試験を試験とも思っていない自然体だ。クロロに至ってはショルダーバッグから取り出した黒い装丁の、どこか禍々しい古書を読みながらである。

 

「エレベーターを降りた時からお前に向かう他の受験者の一部の視線には恐怖があった。……前回の試験に参加してた奴らだろ」

「そんなに見つめられたら誘われてるかと思っちゃうよね♥」

 

「ははは。無いわー、無理無理。オレならお断り」

 

「……クロロって結構言うよね♣️知らなかったよ♦」

「何、お前ら話さねぇの?確か同じ組織に入ってたよな?」

 

 

そう、何を隠そうヒソカはクロロの率いる幻影旅団の一員であり、4番を背中に背負っている。これは序列ではなく、単に前4番を殺してその枠に入っただけであるのが肝要だ。

 

「ボク人見知りだから♥」

「嘘吐きめ」

 

 

 

 

 

「……」

「そろそろ離れるか(先に行くか)?」

「いや、オレは此処でいい。……中々面白そうな奴がいてな、もう少し観察したい」

「ふぅん?」

「へえ……♥それ、ボクにも教えて欲しいなぁ♣️」

「……えぇ〜……」

 

これでもかと嫌そうな顔をしたクロロは明らかにヒソカを毛嫌いしている。えー、お前に教えんの?オレ絶対ヤなんだけど。ぺっ。といった具合で。

 

「オレさ、気に入った物は1人で楽しむ派なんだ」

「……つまり?」

「お呼びでない」

「ッ……ぐっ!」

 

声にならない笑いで喉を震わせるシエロは顔を片手で覆って外方を向いた。クロロのそういう率直な所はとても好ましいのである。

心做しかこれまで弄られっぱなしであるヒソカがしょんぼりしている気がする。もしくは流石に怒りを感じているか。

 

「あのさぁ、」

「仕方ねーだろ。お前結構余計な事するし。もしクロロが話したとして、絶対ちょっかい出すだろうが」

「言い掛かりだよ♣️流石にボクも怒るよ♠」

「ほーぉ?言ったな?じゃあ知ったらどうする」

「手は出さないよ♦」

「……─────"青い果実"だったら?」

(ソレ)まで使う事ないじゃないか♣️んー……出しちゃうかも?」

「論外。じゃあなシロ」

「OK。最後まで付き合えよクロ」

「仕方ないからな。試験は受けてやる」

「その意気だ」

「……♠」

 

こうしてシエロ・ヒソカはクロロ、イルミとそれぞれ別行動としハンター試験を再開する。

これまでは序章、階段を登り終えた先……ヌメーレ湿原にて、ハンター試験の本番が始まるのだ。

 

 

 

 

 

ヌメーレ湿原。別名、詐欺師の塒。

 

人を騙し、その死体を貪り食う狡猾な動物の棲む湿地帯だ。見渡す限りの草原が、ザバン市街地下通路から地上に出た者の眼前に見渡せる。この先にはビスカ自然公園という森林が広がっており、自治体で管理された景勝地であるそこに足を向ける者全ての前に立ち塞がるのがこの湿地帯という訳だ。

どういう進化を辿ったのか、誂えたかのように皆、人に対した狡猾な罠を仕掛ける。勿論動物同士で騙し合い喰らい合う事もあるが、彼らが主に喰い漁るのは人間だ。ハンター試験とは狩る者であるが故に、この湿地帯の生き物達は丁度いい試練となる。それも─────命を懸けた試練だ。

 

 

 

霧の掛かる湿原を見渡し、試験官の話を聞く受験者の内、ヒソカは軽く視線を巡らせてはウンザリと僅かに眉を寄せた。やだわー、こんなクソかったるいのやってらんないわー。言い直すとすれば我慢の限界、殺人衝動の発露、苛立ち、気紛れ、その他諸々あったりなかったり。

一方のシエロも泥濘の酷い土質を見て顔を歪めた。泥跳ねが非常に心配になるコース。気に入りの革靴が無惨な事になるのは確実である。シエロはちらりとヒソカを眺めて、一言。

 

「コイツだけ失格になんねぇかな」

「聞こえてる♠」

「おっと思わず本音が」

 

タチ悪いなぁ……♦とヒソカは苦笑する。纏っていた殺気が白けたように消える。

 

「こういうもどかしいのとか、退屈なのも。折角だから楽しまないとね……♥いっそボクが楽しくしてあげるのも一興かな♦」

「汚れるのは楽しめねーわ」

「くっくっく♣️」

 

さて、稀代の奇術師が取り出したるは何の変哲もない紙のトランプ一式。ぱらぱらと左手から右手へ、そのまた逆へ。宙を舞うそれから掴み取ったのは、6枚ものカードだ。

ゆらりと大仰に、すらりと巧みに。

 

─────種も仕掛けも御座いません。

様式美のように裏表が大衆に晒され─────その白過ぎる指が揺れて、消えた。

 

───ッ!!

放たれたトランプは空気の隙間を縫い取ったかのように音もなく風を切り、標的へと突き刺さる。

それは受験生を欺こうと試験官を騙った人面猿(人の形をした猿)に2枚、此処まで受験生達を連れて来たサトツに2枚、……そしてなんと、ヒソカの背後に居た筈のシエロとクロロにも1枚ずつ差し向けられたのである。

当然のように人面猿はカードが頭部に深く埋まり即死。

後の3人は見事掴み取ってみせた。

 

「くっく♠なるほどなるほど♣️これで決定♦そっちが本物だね♥」

「……」

 

シエロとクロロはそれぞれトランプを見下ろして、実に嫌そうに地面に捨てた。ハートとスペードのエースだった。

 

─────ボクからキミ達へのラブコール♥

─────死ねよもう……

 

その反応にすら愉快なヒソカは目を細めながら試験官の注意を受け流す。

 

 

ヒソカのウインクに本気で吐きそうになる2名を含め、試験受験生はヌメーレ湿原を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「そういう訳だからさ、ちょっと寄り道しようよ♦️」

「どういう訳だ」

 

唐突にヒソカはシエロを振り仰いで言った。

ヒソカの気紛れはいつもの事であるから、シエロはうんざりしながらも問うのである。何も知る事無く面倒事に引き摺り込まれるのは不本意極まりない上、下手をすれば尻拭いまで自分がする羽目になるのだ。そうなるくらいならば最初から概要を聞いて協力した方がまだ実害は少なく済む。この場合の実害という範囲に周りへの配慮などは存在しないのがネックだ。シエロもヒソカとは異なるが犯罪者に変わりなく、もっと言えば常識外のサイコパスである。

 

「今まで走るだけしかしてないだろ?つまんないしかったるいじゃないか♣️受験生も全然減らないし♥なら僕達が楽しくするのもアリじゃない?」

「オレをお前と一緒芥(いっしょくた)にするのやめろよオイ」

 

シエロがふと前方集団の気配とシエロ達後方集団の進行方向がズレて来ている事に気付く。

 

「……」

「♥」

「……いっそイルミの奴も道連れにしてやる……」

 

イルミが聞けば何の為に依頼したと思ってるの?と鋲を投げそうな事を言いながら、ヒソカから離れた場所にある木に凭れるシエロであった。

 

 

 

 

 

「ちょ……ちゃんと見てろよお守だろ」

「お前までやめろよ。あんなでけぇ子供作った覚えはねーわ」

 

唾を吐き捨てそうな顔で嫌がるシエロはクロロを隣に呼ぶ。自分が言うのはいいが人に言われるのはクソ程嫌なのだ。

同じく嫌そうな顔をしつつもクロロは渋々シエロの隣に呼ばれた。

 

「珍しいな」

「いやぁ、気付いたら後続組に加わっててさ……」

「嘘だな。お前あわよくば脱落できねぇかと思ってんだろ」

「……わかっちゃう?」

「何年一緒にいたと思ってんだ」

 

そもそもの話、ただはぐれたからというだけで前方集団に追い付けない筈がない。それだけの力量をクロロは持っていたし、それはシエロも同じく。ほんの少し労力を掛けるだけで良い。その労力すらかけるのが面倒なのがこの2人なのだが。だってそもそも乗り気じゃないんだもの。

シエロはヒソカが脱落すれば直様帰宅する腹積もりであるし、クロロもシエロがいなくなるならば試験を続けるつもりは無い。であるので2人して少し離れた場所で気配を消して観戦と洒落こんでいる訳で。

 

「クロが気に掛けてるのってあの金髪だろ」

 

良いのか?助けなくて。

シエロの言葉に目を向けず、クロロは口を開く。

 

「クルタ族」

「ん。……ああ、前に言ってたな。生き残りがいたのか。確証は?」

「彼自身が話してくれたよ。仇討ちしたいんだと」

「そらァ随分親しんでたみたいで」

 

可哀想になあ。

シエロの嘲弄混じりの言葉にクロロは1度目を閉じて、その昏い瞳をそちらに向ける。

 

「面白そうだろ?」

「違いない」

 

ヒソカがゴンの一撃を食らった所で揃って爆笑した。やるなぁあのちびっ子。ばっかでぇ舐めプ野郎。後で揶揄ってやろ。やめとけ、今のアイツじゃ悦ぶだけだ。げぇ。

 

 

 

 

 

「フリークスといえば、あのフリークスか?」

「さあ?世界は広い。どのフリークスだろうな?」

「……知ってるだろ」

「知りたきゃ渡すモンがあるだろ」

「最近出土した300年前の祭具」

「在庫処理かよ」

 

アイツはただの育児放棄したクソ親父だよ。才能を信じたと言えば美談になると思うか?

そういうの興味無いからはよ言え。

そのフリークスで合ってる。

会った事は?

───ある。何度か出土作業で。彼奴程人の親に適性がねぇ奴知らねぇよ。

盗掘の間違いだろ。

そりゃお互い様だぜ。

 

「生粋のハンターだ。才能全振りの」

「勝てる?」

「ありゃ無理。刺し違える」

「はは。こえー」

 

 

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