ダブルアップバディ~僕のヒーローアカデミアIF~ 作:エア_
この日、カレー屋さんは大食いチャレンジを辞めた
――俺はすげぇ。デクはいっちゃんすごくねぇ。だから俺が助けなきゃいけねぇ――
爆豪勝己は幼いながらも素晴らしい個性を会得した。
【爆破】と呼ばれる個性は両親のそれぞれの個性のいい部分を手に入れ、それを昇華させたもの。あまりの凄さにわずか4歳ながら、どこかのヒーローが将来自分のサイドキックにと唾をつけようとするほどだ。だからもあって幼馴染の少年が無個性だと知らされた日には余計自分の凄さを理解した。
爆豪勝己は幼いながらも秀才だった。
勉強も1習えば5理解し、努力をすれば簡単にあらゆる物事をその脳へ吸収していった。だからもあって幼馴染が無個性だと知らされた日にはどうすれば幼馴染を助けることが出来るか考えつくした。
上記のことがあってか、爆豪勝己は幼馴染の少年を過保護ともいえるほど気にかけていた。幼馴染が喧嘩に巻き込まれていればどこからともなく現れ見事救出劇をしてみせ、幼馴染が泣いていればどこからともなく飛んできて解決しようと模索した。まさに弱き者を助けるために強きものが手を差し伸べる。これぞヒーローと言えるだろう。
だが、少しだけ問題があった。
それは
「おィモブ野郎。俺の
「か、かっちゃん。僕は大丈夫だから」
「黙ってろデク。これは既にお前だけの問題じゃねぇんだよ」
「でもその人泡噴いてるから。呼吸出来なくて死んじゃうから」
この口の悪さと、手のはやさである。
先ほどは救出劇などと謳ったが、殆どが辺り一面を焦土と化しては迫る敵を一網打尽に薙ぎ倒すという、喧嘩を止めに来た喧嘩好きのガキ大将など顔を真っ青にして回れ右して全力疾走するレベルの激(誤字に非ず)である。
これほど純粋に拳を振るえる幼少期を迎えたのだ。であれば本来この力を誇示する時期が生まれるはずなのだが、幼馴染という緩衝材があったおかげなのだろう、本来起こったであろう子供特有の無邪気な暴力など欠片も生まれることなく寧ろお前はお母さんかレベルで、小学校低学年の頃「お前ちゃんと行く前に確認したか? 忘れ物はないか?」と毎日真顔で心配してくるほどだ。どこで彼は間違えたのかと「デク」と呼ばれた少年は頭を抱えた。
「これ以上はかっちゃんの内申に響いちゃうから。雄英行けなくなっちゃうから」
「………………チッ、この程度で下げられる内申もクソったれだな。行くぞデク」
「(凄い悩んでた)あ、待ってよかっちゃん」
今の彼らは中学生、流石にここまで来ればそこまで変な過保護の仕方はしないが、やはり先ほどのようなことはまだ起こっている。いずれはヒーローになり高額納税者に名を連ねる彼の夢を考えると、これ以上の過保護はどうにかしなければいけないと幼馴染の少年は思考を巡らす。これもいつも助けてもらってる恩返しだと思えばと割り切ろうとするが、流石に以前あったプールの時間にパンツ忘れてると隣のクラスからパンツ持ってこられた日には誰も見てなくてよかったと一人大汗掻いていたのだ。一刻も早くどうにかしなければと、少年の頬を汗の雫が伝う。
閑話休題
爆豪勝己につれられ、幼馴染の少年は若干嬉しそうに帰路を進んだ。追いつける速度で前を歩く後姿をみた少年は、口は悪いし目つきはヴィランだけどやっぱり優しいよなと内心吐露する。もしも喋ってしまえば墓穴を掘って燃やされるからだ。いくら幼馴染だと雖も、どストレートで馬鹿にされれば怒るのは当然である。
「さっきはありがとう。かっちゃん」
「あ? たりめーだろうが。人の
「うん、絶対に違うね」
にっこりと幼馴染を否定し、少年は彼の右隣へと体を前に出す。爆豪勝己も無意識に体を左に寄せ、少年が歩めるスペースを確保した。
「助けてもらった手前言いたくはないけど、折角かっちゃんは雄英に行けるんだから」
「「は」ってなんだよ「は」って、何勘違いしてやがる。テメーも行くんだろうがよ」
さも当然と言いたげな幼馴染に、少年は気圧される。自分に個性がないのを知っていて言っていて、そして当然受かると思ってるから性質が悪い。そのヴィラン寄りの目が真っ直ぐ少年へと伸び、純粋な言葉が少年の耳に入る。
『無個性でも、貴方のようなヒーローになれますか?』
少し前に平和の象徴と邂逅を果たした少年は同じように真っ直ぐ見つめ、言葉を投げかけたのを思い出す。偶然出合い、見出され、そして託されようとしていた。自分が来たと叫んでほしいと願われたのを思い出す。無個性だからと諦めたくはなかった少年だが、幼馴染の言葉に真っ直ぐ返せずにいた。
「た、確かに僕も雄英受けたけど……行けるかどうか」
「おめぇの場合内申もわるかねぇし筆記も出来んだろうが。なァにびびってんだ」
季節は冬。息も白くなり雲も分厚いこの頃、爆豪勝己はマフラーを鼻の上まで何重にも巻き、まさに自分は寒いのが苦手だと身体全体でアピールしている。学生でもある二人の学ランには何個も貼れるタイプのカイロが主人を守るために過熱していた。
鼻を真っ赤にしながらも、彼は幼馴染を叱咤し激励する。彼が一人のヒーローに見出されたことも知らず、ただただ自分の相棒に背筋を伸ばせといわんばかりに投げかける。彼を鼓舞するのは自分しかいないと勘違いを起こしながら。
「ようはテメーの覚悟次第なんだよ。なんかやってんだろ今、自主トレをよ」
「う、うん、だから試験の時は見ててほしいと思ってる。僕もヒーローになれるんだって」
「だからたりめーだって言ってんだ。テメーは俺の【爆豪軍団】の第一号なんだからよ」
「……前々から思ってたんだけど、流石にもう少しネーミングセンスどうにかしよ」
折角の雰囲気だったというのに、もう一つ彼の問題を見つけてしまった。
爆豪勝己の問題は口の悪さと手のはやさ以外にもこのネーミングセンスのなさもある。先ほどの【爆豪軍団】から察せるだろうが、彼、意外とその方面に弱いのである。他にも、今考えているヒーローネームが【爆殺王】だとか【爆殺卿】だとかで、少年はこの過保護な幼馴染の才能が何故そこに適応されないのか、さっきまでの僕の葛藤はなんだったんだと更に頭を抱えていたのだ。
「何だよ、かっけぇだろ!」
「それヒーローがつけるものじゃないから。寧ろヴィラン側だから」
「じゃあ爆豪組」
「それヤの人か土方だから!」
「じゃあ爆豪一家!」
「なんか名前のせいでマフィアっぽくなってる」
「じゃあ爆豪トライアド!」
「今度は中華系マフィアなっちゃったから!」
「ヒーローカルテル爆豪会!」
「独占禁止法!! 独占禁止法バリアー!!」
ポンポン出るわりにはどれもこれも捻りのないヤヴァイ組織名でしかない。正直事務所に足を踏み入れたい一般人はいないだろう。例え幼馴染の経営している純ヒーロー事務所であったとしても少年的に少し敬遠したいとさえ思ってしまっている。
「じゃあ何がいいんだよデク!!」
憤慨し鼻からスチームの如く白い息が吐かれる。お前は機関車何某か。
「ま、まだ免許もとってないし、まずはそこからにしよう。免許取る頃にはかっちゃんも良い名前思い浮かぶかもだし」
「チッ……それもそうだな。受かんのは当然として、まずはそっからだな」
仕方ねぇと割り切った幼馴染をみて、少年はハァと内心ため息をつく。もう少し温厚にならないだろうかと、こちらもこちらで彼を心配していた。
性格上爆豪勝己は面倒くさいのだ。この性格ゆえに学校でも友達といえる友達は彼以外存在せず、殆どがいつか降り注ぐであろう名声に寄って集る虫のような者か、恐怖の対象だと避ける者の二択。そんななか少年のような無個性とつるんでいれば、爆豪は点数稼ぎをしていると陰口がたつ。余計立つ瀬がない。そのことで一時期壮大な喧嘩を起こした二人だが、それはまたいずれ話す時がくるだろう。
だが、聞いてわかる通り、そんな壮大な喧嘩の後の二人の関係は以前よりも強固なものに見て取れる。
「――そうだ。カレー屋行こうよ。向かいのカレー屋さん、ついに超絶激辛カレーって大食いチャレンジ始めたらしいよ。どう?」
「んだと? んなもん行くしかねぇよなぁ。俺の目が黒いうちは超絶激辛なんざ言わせねぇ!!」
行くぞデク! と声を荒げたると、少年の肩を組み全速力で帰路から外れる。彼の両手から軽くBOOMと爆発音が鳴ったかと思えば、気づけば二人は空中散歩。まるで糸を使って空を飛ぶアメコミヒーローの爆発版である。最初の急上昇による幼馴染の絶叫も次第に笑い声に変わり、二人の寄り道が始まり、夜は二人そろって母親に仲良く怒られるのだった。
これは、爆豪勝己に
「! 殺した世界戦線!」
「うん、閃いたって顔してるとこ悪いけど怒られちゃうからやめよっか」
ほんとはデクに平成ライダー全員から叱咤激励されて新しいライダーになる感じの書いてたんだけど、1話の1シーンに10人も人の会話なんざ入らねぇと断念。で、とりあえず頭の隅にあったこれを。
プロット? 起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れてるんだ。