ダブルアップバディ~僕のヒーローアカデミアIF~ 作:エア_
想像絶する入学初日を無事に終えた次の日。世間一般の学校とは違い、雄英高校はすぐにフルタイムの授業が行われる。当然ヒーローを目指すと同時に一般教育も受けるため、どの学科よりも早く学校に着き、どの学科よりも遅く帰宅することとなる。人々の不変的なモラルとならなければならない人間が勉強できないなどと言えないのである。故の偏差値79、恐ろしいところだ。
本日も朝早くから電車に揺られ目的地へ向かう雄英の学生服を着たものが二人、同じ席で到着を待っていた。一人はノートに何やら文字を羅列しており、もう一人はイヤホンをして音楽を聞きながら景色を眺めている。二人の間に会話が見られる期間は僅かだが、片方が声をかければ必ず今行っている作業をやめて耳を傾ける。嫌な顔せず接している辺り仲は良好なのだろう。
主に声をかけるのはノートに向かっている緑髪の大人しい少年で、都度イヤホンを外してぶっきらぼうに顔を向けるこの金髪の不良少年はその見た目に反して丁寧に言葉を返していた。二人の会話に耳を傾ければ聞こえてくるのはヒーローについてやらその際のスーツについてやら。流石は雄英ヒーロー科の生徒達であると、乗車していた他の利用者は感心をしたのである。不良な格好をしてるからこの先思いやられるなとは思ってない。決して思ってない。
存じていると思われるが不良少年とは爆豪勝己のことである。
幼馴染から何のヒーローはここがいいだの、何のヒーローはコスチュームのここがかっこいいだのを絶賛聞かされている彼は嫌な顔一つせず相槌まで打っている。昨日の過剰なまでの拒絶はどこへやったと心配されるレベル。少し眠気の残っている顔を見れば、寝ぼけているんだろうなと幼馴染に笑われても、うっせとしか返答せず爆破もしない。お前誰だよ。
「そう言えば、シンリンカムイの服も凄いんだ。個性に適していながらもちょっとしたお洒落も兼ねた良いスーツなんだよ。若手でありながらも実力はすごいし、かっこいいんだよ」
「ほぉ、スーツねぇ」
「ほかにもマウントレディは伸縮性に富んだものになっててね。あの人は身長が最大2062cmにまでなるらしいんだ。それに耐えるヒーロースーツってすごいよね。かっちゃんなら耐熱性を持たせながらも保温性を維持しつつすぐに汗を飛ばす機構にしなきゃいけないかも。汗自体は手から出せたら良いんだから身体自体は汗でべた付かせたらモチベも下がるし何よりも熱中症になっちゃうしね。身体の熱を逃さずに、それでいてすぐに湿気を取る機能にするなら――」
「寧ろ逆だ。高温乾燥状態は発汗機能がイカレちまう。その場合はあえて湿気を残しながら常に水分補給だな。スポーツ飲料で短いスパン補給しながら動く。一番は超短期決戦でぶちのめして頭から水浴びるこった」
「――なら保湿性を増やすべきかな?」
「火力を増やすんだよ」
「ヒェッ」
肉食動物が狩りをするときの顔と比喩されそうな鋭い目つきと輝く眼光。吊りあがった口角が先ほどまで笑顔だった幼馴染を恐怖させた。昨夜に爆豪勝己がやらかしたことを考えれば当然といえば当然のこと。というかよく誰にも見つからなかったなとか、下手すれば捕まってたぞとか、もしかして共犯者にされかけてたとか、今更になって後悔しだした出久はあの夜の危険性について再確認した。気分は「空へ飛ぶぞガーデルマン」と意気揚々に首根っこをドイツの戦車絶対潰すマンに掴まれ引っ張られながら戦闘機に乗せられる相方である。それだと結局ついていくのだからルーデルと同じくらい危ない奴なのでは? というのは黙っておこう。
アナウンスが車内に響き、徐々に減速して停車する。電車に乗っていた時間は約40分。個性の発達により科学も相応に進化しており、例えば約1100kmある福岡-東京間をノンストップで走るリニアモーターカーが開通し、そこを2時間で駆け抜けることが出来ているほどだ。故に県外に住んでいるはずの二人のような生徒も、時間をかけずに都内にある雄英高校へ無事登校できるというのである。個性万歳。
目的地へ到着すると空気が噴出すような音と共に扉が開いた。我が先にと出ていく大人たちがいなくなったのを確認した二人は、改めて余裕を持って電車から降りる。今の時間はまだ他雄英生のいない少し早めの午前7時。都内路線とは違い県外からのプラットホームの朝は県外へ仕事がない限り殆どが一方通行。故に無事ゆっくり降りた二人は悠々と階段を登っていった。
「あぁ、今日から授業か~。どんな感じだろ」
「別に普通だろ。一般教養だぞ」
「でもさ、もしかしたらこれぞヒーロー科って授業かもしれないよ。例えば地雷原に英単語の書かれた紙がばら撒かれてて、正解を取らないと爆発するとか」
「殺意高めかよ」
「数学の距離の問題を実際に走るとか」
「スパルタかよ」
「理科の実験と称して人体実験するとか」
「錬金術師かよ」
いけない方向に発想が膨らんでいく幼馴染の将来が若干心配になった金髪ボーイ。鼻息の荒いこのオタクをどうしたらまともに育つのだろうかと真剣に悩む始末。彼の将来を心配した母親である引子には「俺がついてっから安心していいぜ」と得意気に啖呵を切ったらしい。へぇ、そう。
駅を出ればやはり多い人の数。地方の者からすればそこへ訪れないと一生出会えない光景が広がっており、トンネルを抜けるとそこは雪国だったと古い書物の冒頭の文を髣髴とさせた。
「……広い駅の改札を抜けるとそこは人で溢れていた」
「朝の淵が赤くなった。停留所にバスが止まった。って感じ?」
「作者もこの酷い引用に頭を抱えてんだろうよ」
「確かに」
まさに今までの常識が通じなさそうな別世界に二人は改めて驚愕した。少なくともこの光景を3年は見るのかと思った爆豪勝己はウンザリだと言わんばかりにため息を吐き項垂れた。人ごみを好む人間は殆どいないが、この男は特に嫌っていたのである。ただでさえ個性が汗に関与するニトロの汗腺を持つのだ、必要以上に他者と密着していれば汗は自然と流れてしまう。それだけは避けたい彼は、前日程ではないが早くに家を出ざるをえないのであった。
冷えた空気を朝日が少しずつだが暖め始めていた。4月と言えどまだまだ暖かくなり始め。朝はやはり寒く、体温の高い者ならまだ口から白い息が出るほどだ。季節の移り目を欠伸と共に噛み締めながら辺りへ視線を向けると、コートを羽織っている中年もいれば既に半袖で大きなヘッドホンを耳に当て歩く若者もいる。その空間だけ季節の概念を失ったかのように十人十色な服装の者達で溢れかえったスクランブル交差点は、二人の視線に気づくことなく人々に踏まれ他愛ない日常を過ごしていた。ノルマである人々が求める方向へ歩けるようただ居座るだけの簡単な仕事である。
「……こっからだ」
「うん」
「ぜってぇヒーローになる」
「うん!」
交差点前に出た二人は、これから三年よろしくと地面を踏みしめ、交差点を他の人と同じように歩む。風が後押ししては二人の新たな環境を祝福しているようで、いつもよりも大きな一歩で横断歩道を進んでいった。
「そういや、お前今日午後は殆どヒーロー基礎学だろ。そんなに本いるか?」
「ヘアッ!? な、なななな内緒!」
「?」
突然の挙動に訝しむが、自信を持てない幼馴染は自分といないときは大抵こんなだったなと納得する。とりあえず逃げるように学校へ走った彼を追いかけることが先決だと、その後をついていった。俺の前を走るなと叫びながら。
☆
ヒーロー輩出科といえ、所詮は高等学校。一般教養の五教科は普通に存在し、何の変哲もない座学が始まる。いつもハイテンションなボイスばかりがメディアに露呈していたためテンションが低く見えてしまうプレゼントマイクの英語や、角張った顔どおり角張ったような言葉の多い古典を愛するセメントスの国語など、地雷原で授業でも人体実験でもないいたって想像の範疇にある普通の授業。決して残念がっている緑髪少年はいない。当然である。
内容も大学受験を視野に入れたものばかりでヒーローだけの道ではないと暗に言っているのか、別の道を用意している辺り除籍の件はまだ終わってないのだろう。プレゼントマイクのリスニングをBGMに爆豪勝己は黒板をボゥっと眺めていた。その後ろでは憧れのヒーローが授業をするためか興奮気味で話を聞く緑谷出久。鼻息が荒い。そんな真反対な反応をしているからか、プレゼントマイクは爆豪に両人差し指を向けた。
「そんじゃあ爆豪、ここの選択肢で間違ってるのとその理由。最後に正しい英文! Answer the questions!」
「4番。関係詞が違う。HowじゃなくWhatを使っている。What do you do じゃなくHow do you do」
「アララ、ちゃんと聞いてたのね」
「つうか出会って間もない令嬢が職業は何だとか何してるんですかとか聞かねぇのは普通にわかるだろ」
「(同じだ。やっぱかっちゃん凄いや)」
『(これそういう文だったんだ)』
つらつらと答え、幼馴染に内心賞賛されながら席につく爆豪は、再び教師の声をBGMに半目でアルファベットの羅列を眺め始めた。期待はしていなかった彼だが、こうも退屈なのは先が思いやられると眠気が取れるつぼを押し始める。みみっちい彼だ、内申を落とされたくないのだろう。
プレゼントマイクと言えば、主席だからと授業に集中しないのは如何かと注意し、授業に必要最低限の緊張を持たせようとしたがまさかの返り討ちにあってしまう。元々偏差値の高さや筆記や実技の両方で合否を決めたのだからそこら辺に問題はないし、彼の答えは求めていた通りだったためか笑みを浮かべていた。確かに座学など余程のことでもない限り面白みなど殆どない部類ではあるし、実際ヒーロー活動に必要になるものなど殆どないだろう。というかそこの勉強出来なさそうな男女4人、英語はヒーロー活動に必要だからな?
そんな先輩としての心配も必要ないと言いたげな爆豪の返答に今年のヒーロー科は面白そうだと笑いがこみ上げた彼は、次の授業でもまた唐突に当ててやろうとか考え出すのであった。マイナスに考えない辺り、人が出来ている。
「っと、ちょうどチャイム鳴ったな。じゃあ次は小テストすっからちゃんと勉強しとけよリスナー!」
タイミングが良いのか悪いのか、昼休みを知らせる鐘が鳴りプレゼントマイクは楽しそうに消えていく。早速元同級生現教師同士であるイレイザーヘッドにでも近況報告のネタにでもするのだろう。忙しい男だ。
さて、午前の授業が終われば昼食の時間である。雄英ほどのマンモス校なら当然というように存在するのが購買と食堂である。数十種類存在するメニューのおかげで日常味わえないような料理を安価で食べられる食堂や、パンと限定ではあるが幅広い品揃えがありこちらも安価で購入できる購買。雄英高校で最も愛されている場所である。噂では食堂の料理人と購買の人は昔2つの包丁をめぐって戦ったとか。豚の餌とかは出ない。
おつかれと労いを交わした幼馴染二人は、揃って息を吐いた。授業初日もあってか、若干緊張はしていたらしい。あの態度でか?
「かっちゃん、ごはんどうするの? 僕は大食堂で食べようかなって思ってるんだ。何て言ったってクックヒーローランチラッシュが作る料理だからね! 一流シェフでもあるランチラッシュが作る料理にありつきたいがために犯罪から足を洗ったヴィランは数多くいるってヒーロー情報誌にも載ってたくらいだから今から待ち遠しいよ。彼の一流料理を安価で食べられるなんて夢みたいだ。料理フェスタで1回食べたきりだったから楽しみで仕方ないし。覚えてる? 小学校の頃にさ」
「覚えてっからまずは一旦落ち着け」
早速ヒーローオタクを発揮させる幼馴染とそのマシンガントークを止める過保護系男子。これから殆ど毎日見る光景になるんだろうなと、先日下校時に散々聞かされた彼の友達である飯田と麗日が一緒に食べようと誘いに来ていた。流石は幼馴染、扱いに長けてるんだなと感心しているほど。そんな遠目で眺める二人の存在に気づいた爆豪は運がいいと緑谷の肩を掴み回れ右をさせ、その背中を押した。お、麗日にぶつかる瞬間エビ反りになって回避した。初々しい反応しやがって。
「で、お前はそこのメガネ置きと鏡餅みてぇなのと食ってろ。少し用事があっから」
「なっ! メガネ置き!?」
「鏡餅……!」
仲良し三人組を早くも作った幼馴染に別れを告げ、爆豪は一人教室から出て大食堂と反対方向へ足を進める。そんな彼の後姿を残念そうに眺めていた緑谷だったが仕方がないと憤慨している二人の誘いを受けた。とりあえず食堂でフォローしとこうと、相棒のフォロー役を仕方なく買ったのである。なんせ高校に入って初めての友達だからね。
「あれ、爆豪もういねぇのか」
「ん? 君は」
教室を後にしようと足を動かしたと同時にそんな言葉が緑谷の耳に届いた。そこに居たのは赤髪の少年。何度もその顔を見る機会はあったが実際に話したことのないクラスメイトである。爆豪の所為で隠れてしまっているが、実技入試で2位になるほどの実力者。緑谷からすれば彼もまた追いかけなければならない大きな壁である。
「俺は切島鋭児郎。昨日の個性把握テストで人柱になった奴」
「ひ、人柱って。ぼ、僕は緑谷出久。よろしく切島君」
「よろしくな緑谷! ところで爆豪知らね?」
「用事があるらしくて。かっちゃんがどうしたの?」
「いや何、あいつ入試トップだったろ? しかも俺のポイントの3倍以上でさ。しかも個性把握テストじゃ滅茶苦茶な記録出してトップになったろ? だからさ、話聞いてみたかったわけよ」
「なるほど」
「あ、わりぃ。今から飯だったろ? よかったら俺らも交ぜてくれよ。お前のソフトボール投げすっげぇ漢らしかったぜ!」
「あ、あはは。ありがと」
素直にほめられたことがあまりない緑谷の笑い声と共に、その後切島が誘っていた1-Aのもう一人の金髪少年上鳴と少し印象が薄そうな少年瀬呂と共に、未だに怒りを顕にしている男女二人の背中を押して大食堂【LUNCH RUSHのメシ処】へと向かうのであった。
ここでは切島君グループとも早くから仲良くなりそうな仲良しトリオ。かわりに爆豪君孤独化してない? 大丈夫? 拳藤ちゃんいる? 本作で絡みあるのその子だけだよ?
ほんとはもっと一話で纏めたかったんだけど、長くなりすぎるのもアレかなと思って分けました。まぁわけたところですぐ投稿出来るわけじゃないんだけどね。読者さん。
俺だって頑張ればこんな文もかけるんだぞと下手くそな文字の羅列書いてますが、おおめに見てやってください。