ダブルアップバディ~僕のヒーローアカデミアIF~   作:エア_

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やっと一巻終わったよ! 終わったさ! やっとだよ!

タイトルどおりです。


緑谷出久のオリジン語り。

 

「個性だだ被りじゃねぇかクソォ!」

 

「良いじゃねぇか良いじゃねぇか! お前ともダチだぜ切島!」

 

「芋もちウマー!」

 

「恐ろしいほど早い手刀……僕じゃなきゃ見逃してたね」

 

「いやぁ、手心あってね」

 

「なぁ、放課後一緒にお茶しない?」

 

「チャラい方はちょっと……」

 

「静かにしないか! 食堂は他の生徒だって利用しているんだぞ君たち!」

 

「お前が今一番ウルセーよ飯田」

 

「……なんだこれ」

 

LUNCH RUSHのメシ処。入学して初めての昼食を取ろうとやってきた爆豪が目にしたのは、自分の幼馴染を交えたよくわからない混沌とした空間であった。

 

ある所では赤髪のトサカと顔を銀色にしているへんな奴が何やら肩を組んで騒いでいるかと思えば、そのへんな奴の料理を奪い喰らいつくお餅少女がなんともお間抜けな顔をしているではないか。

 

視線を横へずらせば、気絶した男の首根っこを掴んでいる昨日から絡んできたサイドポニーと目を輝かせる幼馴染が楽しそうに会話をしており、そんな混乱止めようと無駄に張り切るメガネの少年とそこにツッコミを入れている影の薄そうな奴。

 

なんだこれといいたくなるのも仕方がない。殆ど知らない人間なためか、もう説明がくどくなるほど。

 

どうしてこうなったのか、時は約20分前まで遡る。

 

 

 

各々食券を買い、ランチラッシュの料理を手に入れた緑谷たちは無事に席を見つけて座った。長机が多くある大食堂は最大全校生徒全員が座れるほどに広く、のびのびと食事が取れる。そのためか緑谷たちも変に席を分かれることなく確保できたのであった。

 

机に並んだのは和洋中など一切統一性がなく、ただでさえ種類が多ければ仕込みが多くなるというのにこれを毎日こなしているのだから流石ヒーローだと思わざるをえない。緑谷は早速、後でノートに書こうと心に決めた。

 

「にしても麗日は大丈夫か? 他女子のとこいかなくて」

 

「ほらよく聞くじゃん。女子は集団になるとかかんとか」

 

「大丈夫! 寧ろ呼んだ!」

 

切島や瀬呂が心配そうな顔で言葉をかけると心配ないとサムズアップしかえす麗日。持っていた携帯をぱかりと開きアプリケーションの一つであるSNSのグループチャットの内容を見せる。

 

そこには【お昼ごはん大食堂で食べるから皆もおいでよ。男子もいるけどどう?】という内容が記載されていた。今時ガラパゴス携帯てと思ってはいけない。

 

「返事も皆OKって」

 

「え、来るの? 席足るかな」

 

「大丈夫だよデク君! 何とかなるさ!」

 

「そん時は別の広い場所に移りゃ良いっしょ!」

 

麗日と共に心配そうな顔をする緑谷をポジティブに返答するのは、幼馴染とはまた違う金髪の上鳴電気という少年。言葉に重みを感じないのとその見た目からチャライという言葉が連想されるほど最近の若者といった印象が強い少年である。

 

少しネガティブに考えてしまう緑谷を陽気にフォローする辺り相性はいいらしく、既に肩を組んでいるほどだ。ただ単に上鳴のパーソナルスペースが狭いだけかもしれないが、悪気の欠片も見当たらない彼の厚意に緑谷は照れてしまう。友達がいなかった弊害だろう。

 

「そういえば、デク君って麗日に呼ばれてっけど、緑谷の下の名前って出久だろ?」

 

「あー、えぇっと、それはかっちゃんに良く呼ばれるあだ名で……まぁ小さい頃の蔑称なんだけど」

 

「え、マジ? お前爆豪と仲良さそうじゃね? なんでそんな」

 

「……アハハ」

 

「僕も聞いて唖然としたよ」

 

まだ仲良くなって間もない男子三人組に対し、事情を知る仲良しトリオは苦笑を返す。それが余計に「もしかして地雷だった?」と勘違いさせるのだが、こうなったら仕方ないかと緑谷が語りだすため前のめりで聞き始めた。真剣な表情が間抜けに崩れるまで後数秒である。

 

「デクって呼び方はかっちゃんが最初なんだ。まだ4歳の頃かな」

 

「「「ふんふん」」」

 

こらそこ、4歳の頃まで覚えてるし根に持ってんじゃないか? とか言わない。

 

「かっちゃん……爆豪勝己は漢字もすぐ覚えるし、すぐに僕の名前の出久って文字がデクって呼べるのは知ってたんだ」

 

「「「へぇ」」」

 

「だけど当時他にいた友達が木偶の坊のデクだって呼び始めて」

 

「「「呼び始めて?」」」

 

「呼びやすいからってことでかっちゃんも採用したんだよ」

 

「「「……はぁ!?」」」

 

「うん、二人も同じ反応だったよ」

 

緑谷の話を聞いていた三人が三人とも口を揃えて頭を抱えてしまう。寧ろ全員同じ反応をするだろう。まさかのあだ名が、それも蔑称の意味をもつその名がついた理由が【呼びやすいから】などと言われれば唖然とするに決まっていのだ。特に仲良くなりたいと近づいてきた者達。そういう反応をするのも当然である。

 

「出久だと三文字だけど、デクだと二文字だからってさ」

 

「それでいーんかよ!」

 

「うん……当時個性が発現してなくて、ずっと虐められてたんだ。学校でも公園でもどこへだって同い年の子から無個性だって、何の役にも立たないって。だからかっちゃんに毎日のように助けられた」

 

「「「……え?」」」

 

三人とも自分の耳を疑ったのは仕方がないことだ。

 

ここは間違いなく食堂であり、時間は絶賛昼休み。ということは周りでは他生徒らの会話やら料理の音が溢れ賑わっているはずなのに、その空間だけ沈黙が支配する。まさか突然彼のトラウマ級の昔話を聞かされるとは思ってもなく、飯田や麗日も含め切島たちは息を呑みながら続きを聞いた。

 

「僕はずっとその後ろに隠れてた。かっちゃんは小さい頃から強くてさ、どんな時でも助けてくれた僕の身近なヒーローだったんだ。だからかっちゃんの役に立たない腰巾着だって呼ばれても仕方がない。デクって呼ばれてもしょうがないって」

 

「それは……お前の所為じゃないだろ」

 

やっとの思いで声を出せても、本当にそう言えるのかと考えてしまう。正しいことを言ったと思っていても、果たして自分が言えるのだろうかと自信が持てなくなってくるのだ。

 

何故ならここにいる生徒の殆どが、自然と個性が発生した者達ばかりだからである。彼の本当の気持ちを理解できるのかと聞かれ、YESと言えるものは恐らく居ないだろう。あの爆豪も含めてだ。

 

しかし咄嗟に否定した切島という男は優しい人なんだなと、緑谷は顔を綻ばせて首を横へふる。今は気にしてないという意味を込めて話を続けた。

 

「でも当時はまだ子供だったから、無邪気な悪意って奴だよ。でも正直に受け止めていたからね、何度泣いたか覚えてない。でもその都度かっちゃんは励ましてくれたんだ。ヒーローになりたいんだろ、無個性だろうが助けたい気持ちがあるならそいつはヒーローだ。だから最後は笑ってやれって。何度も助けられたよ。だから大丈夫。寧ろこれは僕のヒーローを決心する切っ掛けになったんだ」

 

苦笑染みていたものから凛々しく戻った緑谷の顔が、真っ直ぐと向かいの席に座る切島達の目に届く。彼らに映るこの惨たらしい過去を持つ少年の覚悟と、そして優しさに満ちた表情に込み上げてくるものがあるのだろう。彼らの震える肩を確認した緑谷はふと自分が口走ったことを思い出す。何言ってんだ僕、これじゃ重い奴じゃん、ドン引きじゃないかと若干後悔し始めていた。

 

「えっと、ごめんね! まだ知り合って間もない人間に何言ってんだろ。そう言うの重いからやめようって思ったんだけど――」

 

「漢だ! あいつもお前もなんて漢なんだ! 俺感動して泣いちまったじゃねぇか!」

 

「――ヘァッ!?」

 

しかしここにいたのは感受性の高い若き少年少女たち。気がつけば涙を流しながら緑谷の手を握ってそのまま上下に大きく振っている。上鳴にいたっては再び肩を組んだと思えばお前は今日から俺のブラザー! と意味わからないことを叫んでいるほど。

 

「任せろ緑谷! 俺とお前は今日からソウルブラザーだぜ! この電気ちゃんも惜しみなく力を貸すってもんよ!」

 

「そういうこった。改めて仲良くやろうぜ緑谷。瀬呂でも範太でもいいから好きに呼んでくれ」

 

「う、うん。改めてよろしく」

 

内容はどうであれ、緑谷は新しい友達を作ることに成功した。これがどこかの名作RPGならコミュニティとその象徴であるカードが生まれているだろうが、彼の場合それを確認するまでもない。純粋に受け止め、肯定されたことが何よりの証拠といえる。素直にうれしいのか、耳まで赤く染めて両手で顔を隠すほど。

 

そんな4人の暑苦しい塊を眺めては青春だと何度も頷く麗日と飯田。この学校で初めて出来た友人が絆を深めていくのが嬉しいのだろう。凄く和やかな雰囲気を醸し出していた。

 

「今日からお前は俺のダチだ! よろしくな緑谷!」

 

「うん! よろしく切島君!」

 

「俺もだ! ったく、泣ける話なんざしやがって!」

 

「うん! よろしくね! ……え?」

 

気がつくと自分の手を握っている者がもう一人現れた。爆豪とはまた別の種類の強面である少年が、目元を赤く腫らしながら手を握っていたのである。雰囲気がどことなく切島と似ているが全く知らない人物。

 

雄英高校はマンモス校の中では珍しく学年によって制服分けがされていないため、相手が先輩なのか否か判断が出来ない。そのためただでさえ対人関係が酷かった緑谷は硬直してしまう。

 

しかし、この少年はお構い無しにその手を大きく振った。

 

「えっと……ダレデショウカ?」

 

「俺は1-Bの鉄哲徹鐵って言うもんだ。盗み聞きする気はなかったんだけどよ。もう聞いてたら涙なしには聞けなかったぜ」

 

「あっその、恥ずかしいところ見せてごめん」

 

「んなことねぇ! お前はそれでヒーロー目指してるんだろ! すげぇよ!」

 

「そ、そうかな?」

 

「あぁ!!」

 

「あ、ありがと。改めて、僕は緑谷出久。よろしく」

 

今日は色んな人と握手してるなと、同学年の少年鉄哲徹鐵と知り合いになった緑谷。既に爆豪より6倍友達が出来ており、あくまで冗談ではあるがもしかしたら爆豪の所為で友達がいなかったのかもしれないとまで思ってしまう。え、爆豪の友達? 緑谷一人だけだが。

 

「おうよろしく! なんだ、お近づきの印ってやつだ。食うか?」

 

「芋もち!!」

 

「麗日君!? 今目が赤く光ったぞ!?」

 

「おい鉄哲何してるんだ、ってうわぁ初日から顔を出さずストライキかましてたA組の面々じゃないか。よくもまぁ僕らにまで恥を掻かせたくせにここにいれるね。正直不愉快極まりソゲッ!?」

 

「不愉快なのはアンタ! ったく、ごめんな。こいつ何か性格歪み捩じ切れちゃってんだ」

 

「拳藤さん、鉄哲さんはみつかりましたか?」

 

「おぉっ、すっげぇ美人さん達……綺麗系に可愛い系も入ってるとかいう理想美少女? これはお近づきするしかねぇな!」

 

「おーおー、賑わっちゃってからに」

 

別クラスという隔たりもなくなったのか彼らは楽しそうに食事と続ける。ここで個性の話になり鉄哲と切島の個性がだだ被りしていたのが発覚したり、その鉄哲の料理を麗日が全て掃除機のように食い尽くしたり、再び目を覚ました先ほど拳藤に首トンを食らった物間が再び口を開いて挑発したり、また気絶させられたり、そのあまりにも華麗な一連の動きに目を輝かせたりと既に食堂の一角に混乱を起こしていた。

 

そこへ出くわす話題に出てきた男、かっちゃんこと爆豪勝己。異様な空間に目が行ってしまい硬直する。

 

これが、事の顛末である。

 

 

 

 

正直このまま回れ右して帰りたい、爆豪勝己の心の叫びは誰にも届くことはなかった。目の前で起こる惨状。止めようとしているが余計悪化しているメガネが目に映り、駄目だこいつらと君子の如くその場を去らんと踵を返した。

 

巻き込まれているのなら幼馴染を連れて脱出などと考えはしたが、予測で元凶はあいつだろうと勘を当てていく。流石は幼馴染、行動なんて手に取るようにわかる。

 

約三十分後、何故かほっこりして戻ってくる緑谷に理由を聞こうと、購買で無事にパンを手に入れ腹を満たした爆豪は、押し寄せてくる切島達のよろしく音波攻撃に目を白黒させた。やっぱりなにかしたんだなあいつと睨めば、サッと顔を反らされる始末。おい幼馴染、目を反らすな。とりあえず各自の席へ追い返すことに成功した爆豪は、後ろの席の緑谷に事情を聞くことにした。

 

「……何があったんよ。食堂で」

 

「えっと、色んな人と友達になってた。切島君とか上鳴君とか瀬呂君とか。あとは他のA組の女子とかB組の人とか。って、かっちゃんもどうしたのさ、食堂に来ないなんて」

 

「テメェらの異様な空間を発見したから回れ右した」

 

「なっ、なるほど」

 

確かに端からすればそういう反応をされるよなと言葉を零す幼馴染から視線を外し教室の前の扉を眺める。他クラスメイトも会話やら作業を止め、次第に同じように扉を眺めては先生の到着を待った。何故なら午後から始まる授業はヒーロー基礎学。一般教育とは別のヒーロー科専門の科目であり、どの教科よりも単位が多く、どの教科よりも将来に必要なものが詰まっていて、

 

何よりも今年は皆が待ち望んでいた人がやってくるのだ。

 

「わーたーしーがー!!!」

 

遠くから聞こえてくるなじみの声。テレビや動画サイトで聞かないことのない今の世代の子供達全員の憧れであり、平和の象徴。

 

「普通にドアから来たー!!!」

 

あのNo.1ヒーローであるオールマイトが、若き頃のスーツを身に纏い教鞭を振るいにやって来たのである。

 

 

 

 

 




緑谷出久オリジン。ここではオールマイトの言葉よりも前の前。『デク』がオリジンになってます。

そして友達も早くに多く作ってます。おかげで爆豪未だに0人だからね。大変ねぇあんた。

で、昨日投稿したのより数段下がったクオリティ。でも許して、あれ投稿した後即効で白紙から書き上げたの。許し亭赦して。

では次回、初戦闘!

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