ダブルアップバディ~僕のヒーローアカデミアIF~   作:エア_

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ビルド良かったゾ~


爆豪勝己は思慮深い
殺意がみなぎる!怒りが燃える!俺のニトロがほとばしる!


○月○日、天気 はれ。

 

いずくはムコセーっていうコセーをもたないめずらしいやつらしい。さいしょはすげーのかとおもったけど、そんなことなかった。むしろコセーがないからヒーローにはなれないってまわりのセンセーがいっていた。そしたらいずくがかおまっしろにしてたから、それがどうしようもなくムカムカして、オレはいじでもいずくにヒーローになってもらいたかった。なんでかしらないけど。でもいずくはオレがいなきゃなにもできなさそうだし、しかたねーからてつだってやることにした。すげーおれがいれば、いっちゃんすごくないいずくだってすげーヒーローになれるきがする。なんせオレはオールマイトをこえるヒーローになる男だからだ。もう男ってかんじだっておぼえた。これならいずくはすぐヒーローになれるな。

 

爆豪勝己初めての日記第一ページより。

 

 

 

 

今日も爆豪勝己は苛立っていた。いつも鋭い眼は更に鋭く、いつも悪い口が更に悪く。本日二度目となる補導に耐えながら、お巡りさんに全力でドン引かれながら、彼は息も白くなる寒空のなか、受験会場へと向かっていた。今日は彼の高校受験日。苛立つのも仕方がない。

 

だけども彼が苛立っているのには相応の理由があった。寧ろこれを聞いたお巡りさんは一瞬ではあるが生暖かい視線を送っているのである。勿論すぐに殺気を感じて一歩後ろに下がったのだが、それくらい同情されたのである。

 

彼が苛立つ相応の理由……それは。

 

「……デク、コロス」

 

今日が雄英高校の試験であるというのに幼馴染が3日前の晩から家に帰っていなかったのだ。勉強面では一切心配していないと言った彼だったが、流石に捜索願を出すか迷う程度には焦りを感じていた。寧ろ自分のことをほっぽりだして探しに出かけたくらいには心配していたのである。共に受かると言ったのは言ったが、試験を受けなきゃそもそも受からない。次第に心配が苛立ちに変わり、自身の睡眠時間を削りに削り、そうしてついに自分も受験生だというのに目の下に分厚い隈をつくった彼は、カーテンから入ってくる日の光と共にやってきたメールを一目すると、自分の部屋を爆発させた。

 

『おはよう。今日は絶好の受験日和だね』

 

『殺すぞ』

 

とっさに殺意を込めた返信をしても悪くないだろうと、苛立ちを持ったまま爆豪勝己は母親に少年が無事だったことを伝える。自分の子のように心配していた彼の母親は安堵のため息を吐き、すぐさま少年の母親へ電話をかけに走っていき大音量で無事を知らせていた。今ならどんな騒音の中でも眠れそうだと嫌味を吐きながら、彼は朝食をかっ食らい試験会場へと足を運ぶ。もはや今彼の足を動かしているのは意地とプライドと幼馴染を殴るという気力のみ。おかげで今まさに世界の恐怖を煮詰めたような彼の顔は、さながらヴィランも鼻水垂らしながら逃げるほど。彼の顔のおかげで朝のヴィラン活動は著しく低下したとかしなかったとか。

 

「殺す」

 

おまわりさん。彼は違うんです。寧ろ彼は被害者寄りなんです。本当です、信じてください。

 

春になればももいろ一色になるであろうソメイヨシノの桜並木を歩む。家を出て電車に乗り一時間数十分の距離にこの場所があり、すでに駅から既に学び舎が目に映るほどだ。その壮大さを目の当たりにし流石に若干苛立ちが落ち着いたのか、未だに浮き彫りになった眉間が少しだけ緩む。

 

山を開いて創られたそれは他の学園の大きさなど比較にならないほど広大な敷地。聳え立つ学び舎は最新の建築技術で作られた強固な壁を有す、No1ヒーロー【オールマイト】やNo2ヒーロー【エンデヴァー】を輩出した世界で最も注目を浴びる超有名校。ヒーロー養成を目的とした特別科「ヒーロー科」を有する倍率300倍のヒーロー目指す者達の登竜門。

 

国立雄英高等学校。ヒーロー養成ならここを語らずに何を語るのかとさえ言われる全てのヒーローを目指す者の憧れの場所。最も彼の夢を手助けしてくれる理想の舞台なのである。

 

そんなところへこの男はヴィランも裸足で逃げ出すほど怒り狂ったような顔でやってきていたのだ。そりゃあ今もこうやってってだからおまわりさん違うんです。彼は違うんです。今日で3度目ですよ。

 

受験とこの凶器のような顔面の説明をすると、警察共々から「お疲れ様」と試験を受ける前から労いの言葉貰うという何ともいえない空気を醸し出す。とりあえず今日はこれ以上警察と出会いたくない。こんな事をしていても爆豪勝己の試験時間は刻々と迫っているのだ。

 

「え、っと。キミ、ヴィランじゃないよな?」

 

「アぁ?」

 

また警察かと声をかけられた方向へ擬音が出るほどの速度で顔を向けると、そこにはサイドテールの見目麗しい少女が立っていた。赤毛色の髪を靡かせる少女に今度は何だ、と余計に機嫌を悪くする今日最大の被害者。貫徹のせいで黒く染まった下瞼。寄りすぎて隆起する眉間。額に浮かぶ血管。もう誰が見ても危ない人から近づいちゃ駄目な部類のはずなのだが、何故か彼女は彼へ声をかけてしまったのだ。

 

「ご、ごめん。流石にそんな顔してればびびっちゃうしさ」

 

「……アー」

 

言いたいことがよくわかったと、彼は回りを一望し納得する。目を向けると顔ごと逸らすほか受験生徒。中には口笛吹いてるやつもいる。おいヘタクソ、吹けないなら吹くな。

 

苛立ってるなんてレベルを超えたその凶器のような顔面が、必要以上に他受験生へプレッシャーを与えていたのだった。

 

確かに、受験生なら受験当日苛立ちを見せるものもいるだろう。一世一代のイベント、失敗すれば負け組と嘲笑われ、成功すればエリート街道まっしぐら。特に雄英という最もヒーローに近い学校であるならば余計に皆神経質になるだろう。勿論爆豪も例外ではない。だがしかし、彼の場合はそれ以上に幼馴染の奇行に苛立っていた。せめて自分の母親に一言言っておけばいいものを、何故それすらしないのか。おかげで泣きながら電話を掛けてきた彼の母親に「俺が絶対に見つけます」と爽やかに言ってしまった爆豪勝己15歳。現在三徹である。

 

多分彼女はそんな彼の顔を解そうとしてくれたんだろう。なんだよ、結構いい女じゃねぇか。

 

「流石に怖すぎるからさ。ほら、スマイルスマイル」

 

「……」

 

「うん悪かった。そんな隈つけながらブチギレ笑顔見せないで怖いから。何? キミ本当にヒーロー目指してんの? マジで? ごめん、睨まないでごめんなさい」

 

(献身的な努力を)止めるんじゃねぇゾ。

 

「しばかれてぇかモブ女ァ!」

 

「悪気はないのー!!」

 

ついに琴線に触れたのか、爆豪の怒りの叫びが軽く木霊する。元々そこまで気の長い人間ではなかった彼だが、今日は余計に短気だ。いや待て、寧ろ何日間寝ずに幼馴染の捜索と受験勉強に翻弄されていたのに我慢していたのだから実は辛抱強いのではなかろうか。

 

まぁしかし、そんな彼の事情などこの少女が知るわけもなく。

 

「ま、まぁ試験頑張ってね。うんサイナラ!」

 

「テメーよか無事に受かる自信しかねぇわ。さっさと最後の足掻きでもしてろやァ!」

 

そそくさと彼女は逃げ去ったのであった。

 

罵倒とGo to Hellのジェスチャーを少女へ贈ると、未だにやってこない幼馴染へさらに鬱憤を溜めた。本来なら待ってやる義理など殆どない彼ではあるが、それでも文句の一つも言いたくなるというもの。おかげで若干緩んだ眉間が再び歪んでしまう。

 

そんな騒動が起こっているなか、本来なら雄英からアクションが起こってもおかしくないのだが、実は警察から雄英高校へ校門前で騒いでいる子は目つき悪いし口悪いけど幼馴染を3日も捜索していた良い子そうだよという電話が入っていた。国の機関からそう言われてしまうとどうすればいいかわからず、とりあえず先生達も彼の怒り様を窓越しに合掌し、それを受験直前にするなとこぼすのであった。

 

 

 

 

校門前の爆発男は少女と入れ替わるようにやってきた男子受験生を視界に入れると般若も可愛くなるような不気味な笑みを向けた。その笑みは視界範囲内にいた生徒全員が短く小さく悲鳴を上げるほどのキチガイスマイル。しかし周りの反応など彼にはどうでもいいというかのように。目の前の特長的な髪形をした少年へこの怒りをぶつけようとしていた。

 

ソバカスを頬に残した緑髪の天然パーマ。少しおどおどとしたその態度が彼の性格を物語っている。学ランで隠れきれないほど太くなった二の腕がこの日のために培われた彼の努力の証拠である。

 

そう、彼こそが爆豪勝己の待っていた今一番殴りたい相手。

 

「あ! おはようかっちゃん!」

 

「デェエエエク」

 

緑谷出久。オールマイトにその心の強さを見出され、自身の個性を継ぐに相応しい原石だと言わせたほどの未来の平和の象徴である。

 

「ヒッ。や、やぁかっちゃん。ど、どうしたのそんな……まるで何年も追ってた因縁の相手を見つけたような顔して」

 

「その通りだからだよこのクソナードォ!!!!」

 

まぁ、未来の(・・・)平和の象徴ではある。今はまだ原石のままである。

 

しかし、それにしてもこの爆発少年、まだ個性も使ってないというのに、彼の背後がまるで大爆発(ダイナマン)を起こしたように幻視してしまう。それほどの怒りが幼馴染へ送られていたのだった。とりあえず少年は両手を突き出し止るようジェスチャーをする。まるで恐竜ラプトルの群れに静止をかけるおっさんの気分である。爆豪勝己が何故ここまで苛立っているのか理解していない少年は、頭に大量のクエスチョンマークが飛び交っていた。

 

「朝の返信も開幕殺害予告だったし。いったいどうしたの?」

 

笑顔で語りかける幼馴染。まるで僕が来たからもう安心だと言いたそうである。彼の憧れたヒーローのように言ってみたいのだろうか。だが残念、非常にタイミングが悪い。

 

「テメェ、ここ2.3日の間携帯どうしてたんだよ? ア?」

 

「え? ……うん! 自主トレで集中するために電源切ってたんだ! やっぱり訓練中に他に気を向けてたら駄目だからね!」

 

偉いでしょと胸を張る少年の顔面に右ストレートを放ちたくなったが必死で耐えた爆豪勝己は、彼の両肩をガッチリと握りしめる。流石に幼馴染の様子がおかしいと察したのか、少年の顔から笑みが消え心配そうな視線を送った。

 

「で? その自主トレで数日間家空けるってのは言ったのか?」

 

「……あ」

 

「言ってねぇんだなぁあああ??」

 

何が言いたいのか若干察した彼は段々と顔を青ざめていき離れようと一方後ろへ下がろうとする。が、今もなお震えている幼馴染の両手が彼の両肩をしっかり握ってしまっているため逃げられない。

 

さらにはタイミングを見計らったように突如SMSが届いた音が彼のポケットから鳴り響く。携帯へ視線を向け載っていた文字を目の当たりにし、少年は真っ白になる。そう、携帯の機種にもよるが、起動させて数時間後にやっとこの三日間の幼馴染の伝えたい言葉が届いたのだ。

 

不在着信アリ:114件

不在メール:218件

 

「やっと気づいたかこのクソデクがァ!!!!!!」

 

「ごめんなさぁああい!!!!!!」

 

今日一番の絶叫が雄英高校全域に轟く。この声を聴いた多くの生徒が、今日の試験へ不安を募らせるのだった。

 

 

 

 




爆豪勝己の三日間
一日目、勉強しつつも出久捜索を行う。何故か眠れなくなる。

二日目、勉強もせず出久捜索を行う。不安を感じるようになるが、苛立ちに変わる。

三日目、ブチギレながら出久捜索を行う。ついでにヴィランに憧れてた近場の高校生番長(個性、雷雨:雷と豪雨を操る才能の塊)を秒殺しトラウマを植えつける。

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