ダブルアップバディ~僕のヒーローアカデミアIF~   作:エア_

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俺は飯田君の性格好きです。


オラ、失明したかねぇならメガネ外せ。

 

「そこのキミ。今日は雄英高校受検の日だろ。集中している人間もいるのだから大声を出して邪魔をするのはやめたまえ」

 

「るっせぇな喋りかけんな。今更足掻いてる奴のことなんざ心底どうだっていいわボケ」

 

「なっ!? 口悪いなキミ! もしも妨害目的で来ているのなら即刻帰りたまえ。ここは君のようなものが来る場所じゃない!」

 

「天下の雄英高校は受験生に受験資格の統制をさせてんのか? 初耳だぜ、どんだけ自由な校風なんだ? あ?」

 

開幕からの重い空気が雄英高校昇降口付近に充満していた。嫌な臭いなら鼻を摘まんで走り抜けさえすれば何とかなるが、耳から入ってくる声は両手で塞いでも隙間を通って聞こえてしまう。二人の男子生徒の険悪なムードに、本日受験するため登校していた少年少女の顔色が悪くなっている。

 

あぁ、何て日だ。誰もがそう思う。

 

「そうじゃない。他人の事も考えられないのならヒーローになる資格などないという話だ」

 

「だァから、てめぇがその判断をする立場か? まだ入学してもねぇのによくもまぁ自信満々だなオイ。雄英ってのはそんな大したことねぇのかよ」

 

「キミは……これからお世話になるかもしれない学校に向かってなんて態度を」

 

「かもじゃねぇ、するんだよボケ。さっさと退けや……邪魔なんだよモブメガネ」

 

プラチナブロンドの髪を爆発させたような男は終始相手に対し高圧的な態度で、片や黒髪メガネの青年はそんな彼の態度に困惑を隠せないでいた。偏差値79、倍率300倍の学校へ来る人間がまさかここまで下卑た罵倒をしてくるとは到底思えないのだろう。当然だ

 

勿論このプラチナブロンドの爆発頭。知っての通り爆豪勝己である。

 

あの後、幼馴染へ怒りをぶつけた彼はとりあえず落ち着いたのか雄英高校へと足を踏み入れた。途中、幼馴染と女の子がいい雰囲気になったのだが、そんなことどうだっていいとばかりに少年を無視して筆記試験会場へと向かった。初心な彼と心優しい少女の喋ってるようで喋ってない何かいい雰囲気など爆豪勝己が聞くわけがないのである。仮にその場にとどまれば途中で爆発させてさっさと済ませろと言う。絶対に言う。

 

今は少しでも眠って脳を休ませたいと切に願う彼の足取りは速かった。その顔から人がモーセの海の如く左右に分かれていくため教室へ向かうのも全く苦ではない。しかし残念なことにこの顔面ヴィラン野郎は冒頭のような一悶着を起こしてしまったのである。おい虫除けスプレーはどうした。このメガネポケモンなんとかしろ。

 

「待ちたまえ! ここは由緒正しい歴史ある学校だぞ。敬意を払うことくらい出来ないのか!」

 

「歴史がなきゃ敬意を払わなくていいのかよ。つかいい加減喋りかけんなぶっ殺すぞ」

 

「ぶっころ!? 顔つきといい口の悪さといい。やはりキミはヴィランか!」

 

またもや本日何度目になるかわからないヴィラン判定が起こり再び爆豪勝己の額に青筋が立つ。それにしてもこのヴィランも逃げ出す顔面凶器を前に青年もよく立ち向かうものだ。よほど正義感が強いのだろうか。目の前にこんな柄の悪い学ランの少年がいたら関わろうとしないのが大衆の常識というもの。そこへ真っ向から立ち向かうというのは勇気ある行動であろう。実にヒーローを目指すものとして十分な資格はあるに違いない。

 

しかし、今回は相手が悪すぎた。まさか立ち向かった相手が連絡のつかなくなって幼馴染のために自分の時間を犠牲にしてまで捜索し、かつ合間を縫って自分の受験勉強までしていたなんて誰が思うだろうか。超が付くほどのお人好しである。勿論見つけた時の幼馴染の母親は何度も礼を言っていたが、この爆発少年「約束違えねぇのが俺のポリシーっすから」とキザッったらしく格好つけて家を後にしたのだという。そっか…んじゃ行くか、病院。

 

「てめぇこそいいのかよ。神様にでも頼んで最後の足掻きでもしとけや。俺は眠ぃんだよ」

 

「僕はちゃんと勉強をしている。あとは軽く見直しをすればいい。問題はキミの素行だろ」

 

「てめぇにそもそも何言われる筋合いねぇっていい加減に気付けやクソ雑魚メガネ。レンズ割られたかねぇなら話しかけんなどたまかち割んぞ」

 

「……もういい」

 

ついに諦めたのだろう。どうせ受かることもないと判断したのか、はたまた自分ではどうしようも出来ないと悟ったのか。とりあえず青年は彼から離れた。片や、やっと離れたと安堵する爆豪勝己。早めの教室入りを無事に果たし、30分ほどの眠りに意識を落とそうと目をつむるのであった。

 

が、

 

「かっちゃんどうしよう。緊張で頭真っ白になりそう! ってか何を覚えてるか忘れちゃったかも!」

 

「……ノート開け」

 

爆豪勝己、依然と不眠記録更新中である。

 

 

 

 

 

 

『なぁデク。もう泣くなよ』

 

『うぇっ、がっぢゃんん』

 

『俺は鉄を食うバケモンじゃねぇ! 泣くな、男だろ!』

 

『だっで、だっで』

 

『だァから、もうお前虐める奴は片っ端からぶっ飛ばしたから泣くな』

 

『でも、かっぢゃん怪我じだから』

 

夕焼けが赤く染める公園、お気に入りの遊具を前に泣き出すくしゃくしゃな緑髪の少年をプラチナブロンドの同い年に見てとれる男の子が必死にあやしていた。端から見れば歳は10にも満たないだろう。まだ幼稚園、または小学校入りたてと判断されるほど幼い少年達は片や大泣き、片や擦り傷きり傷で肌が大荒れという親が黙って見過ごせないほどの大怪我をしていたのだ。幼い子供達の間起こった喧嘩の傷跡が、手加減のない痛々しさを物語っている。幼いながらも綺麗な肌を持っていたブロンドの少年は、勝利の証だと誇らしげに言うが、緑髪の少年は自分のせいだとぐずり続けていた。

 

『にしてもあん畜生共。次来たらお手製の大爆発でぶちのめす』

 

『あ、危ないよぉ』

 

『いんだよ。そろそろガチで1回〆なきゃな。出久も出久で戸惑うな。今は俺に頼っとけ!』

 

傷ついてなお、ブロンドの少年は涙を流すことなく、その赤き瞳で緑髪の少年を見つめていた。自信に溢れそれでいて一番に自分の安否を思っている彼の心理を理解すると、自然と緑髪の少年は涙を止め、次第に笑顔を向けた。

 

緑髪の少年、緑谷出久は無個性だ。昔はどうかはわからないが、今の時代無個性と呼ばれる人種こそ、化石のように珍しがられ虐めの対象になる。どんなに優秀であろうと「所詮無個性だから」と嘲笑われ、侮蔑され続けている。まさに生まれる時代を間違えた人たちの一人だ。

 

『絶対にあいつら見返して、最強のヒーローになんぞ。俺とお前で!』

 

片やブロンドの少年、爆豪勝己は【爆破】という個性を持っている。回転の速い頭脳と恵まれた体力を手に入れた、まさに出久と真反対の存在。彼のようなものを、大人はもてはやし、子供は憧れの視線を向け、最悪崇拝までするほど。まさに今この時代に生まれるべくして生まれた人たちの一人だ。

 

まさに正反対な二人は、何の運命か幼馴染として出会い、勝己は出久を庇護すべき存在として守り、出久は勝己の元でヒーローに憧れていた。

 

『ありがとう。かっちゃん』

 

花のように笑う出久に、勝己は不敵な笑みを返す。当たり前だ、俺は強い。そう感じ取れるほど、自信に溢れた彼のその顔には、腕や足と同じように痛々しい傷がいくつも存在した。

 

『そうだ。お前はオールマイトみたいなヒーローになるんだろ? ならピンチな時でも笑ってなきゃな!』

 

『え? う、うん。頑張る!』

 

『見返してやろうぜ? 俺たちで』

 

『うん! 僕達で!―――』

 

 

(―――懐かしいもん思い出しちまった)

 

意識を思考の海に沈めていた午前中。他学校試験と違い、5教科のテスト用紙が全部その場で渡され、5教科まとめて試験を行うというもの。途中休憩など殆どなく、早めに終われば教室から出ていいといったもの。非効率に見えるが、どのような状況下でも頭を回転させて答えへ導くというヒーローに必要なものという理由で毎年やっているらしい。

 

無事に筆記試験を終えた爆豪勝己は試験中終始震えていた幼馴染に視線を向けた。ある程度解けたがボーダーラインを超しているか心配といった顔だと察し、小さくため息を吐く。どうしてわかるのか? 幼馴染パワーと学会では発表されている。

 

「……かっちゃん、解けた?」

 

「たりめーだ。満点取れなきゃ首吊るわ」

 

今にも爆睡してしまいそうな顔面凶器は、重たい瞼を必死で持ち上げ昼食にと母の気合が入ったお弁当へありつく。握ってもらった激辛明太子おにぎりを頬張り、おかずの肉をカッ喰らい、今なお停止しそうな思考を無理やり覚醒せんと必死になっていた。その向かい側では海苔でファイトと描かれたお弁当を頬張る幼馴染。机の脇には先ほどのテストの見直しをし終えた教科書とノートが積まれていた。

 

「やっぱりかっちゃん凄いな。僕も勉強はある程度してたんだけど、最近はずっと運動しかしてなくて」

 

「そもそも授業聞いてりゃ勉強なんざいらねぇんだよ。まぁ流石に家で復習はしてたがな……どっかの誰かさんが突然いなくならなきゃ今頃こんなテンションじゃねぇけど」

 

「ほんとごめん」

 

「もうええわ。それよりも次だな。筆記なんぞに時間食うわけにゃいかねぇからよ」

 

「……うぅ。良い点取れてないかも」

 

「心配になんならもう少し授業聞いとけや。あの火山頭が言ってたとこまるまる出てんだからよ」

 

「え、ほっしゃ……保洲先生の? あ、確かにさっきの社会の大問3は全部そうだったかも」

 

「ノート綺麗に書くのが勉強じゃねぇんだ。あんなもん長期記憶するための手段の一つでしかねぇ。見直しじゃなくて授業思い出しながらの書き直しが一番らしいが」

 

んなクソ面倒な無駄したことねぇけどな。と瞼を擦りながら今度は激辛マヨエビ天むすに齧りつく。この男、言動の一つ一つが周りの受験生へプレッシャーを与えている。これ無自覚なのが余計に酷い。

 

さて、午前の筆記が終われば、午後は体を使った実践試験。ヒーローを目指すものならば必ずぶつかる高い壁であり、超えるべき障害でもある【ヴィランとの戦闘】を想定された試験だ。最悪の場合激しい戦闘を要されるのか、昼食が喉を通らないのを無理やり押し込みながら爆豪勝己は意識を何とか起こさんと内心必死に思考をめぐらせていた。

 

周りの受験生も同じようで、今のうちに物を吐かない程度腹へ詰め込み、エネルギーに変えるべく必死に食事を取っている。緊張しすぎて何も食べられてない者もいて、顔色が真っ青であった。それほど午前中の試験の出来が悪いのか、はたまた午後の実技試験に不安があるのか。真意はわからないが健康には見えない。

 

それは爆豪勝己の目の前の少年も同じようなものである。

 

「……手ぇ止まってんぞ」

 

「い、いやだって、午後の実践試験……大丈夫かって緊張で」

 

「今更だろ。ここからドーピングでもしねぇ限り何も変わんねぇんだから構えたって仕方ねぇ。さっさと吐かねぇ程度食ってエネルギー貯めとけ」

 

「う、うん」

 

コチュジャンにぎりを口に入れ、爆豪勝己は発汗機能を確かめる。じわりと手から流れ出る塩化ナトリウムの汗を確認すると、これで十分だと食事の手を止め良しと頷く。彼の個性は「爆破」手の内側のみに存在する特殊汗腺よりニトロのようなもの――いわゆる液体のニトロ化合物――を分泌できるのである。そのニトロもどきを爆破する一連のプロセスこそが彼の個性の由来であった。故に実技試験が冬にあるため、こうやって先に体を火照らせておかないと彼は出遅れてしまう恐れがある。必要以上に食べず、それでいて自分の弱点を補う程度に事前準備をする。この男、案外用意周到である。

 

ちょうど少年も食べ終わったようで、余裕綽々と堂々とした爆豪に対し暗雲立ち込めたような表情で俯いている緑谷。正反対な二人は全く同時に立ち上がり、行こうという合図すら出さず同時に席を立ち試験会場を後にした。表情とは裏腹にまるで既に“受かっている”ことへの一抹の不安すら持っていないような目が他受験生徒の瞳に映っていた。

 

「「「「……なんなんだあいつら」」」」

 

それな。

 

 

 

 

午後からの実技試験の内容はシンプルでありながら、中々ハードなものだ。点数の書かれたロボットをぶっ壊した合計点数で決まるという何ともまぁどれだけ金をつぎ込んでいるのかと、若干眠気の取れた金髪ボンバーヘッドは、あくびを押し殺しながら教壇に立つ試験官の声に耳を傾ける。お邪魔キャラでドッ○ン出してるけどいいのか? あの○天堂だぞ。

 

途中、隣の緑髪モジャヘッドの独り言に痺れをきらせた同じ受験生に「物見遊山なら帰れ」と言われてたので、早速「テメェが勝手に指図すんなや、それを決めんのは試験官だろうが」と言い返した以外はそこまで面白みもないただただ五月蝿い連絡事項だった。おかげで目がさめたのはいいが、さっきから突っかかってくるあのメガネは本気で潰してやろうかと、眉間にしわを寄せる爆豪勝己。現在、寝起きの悪いライオンのように鬣の如く髪の毛を震わせ、目の下をマッサージしていた。ただでさえ顔が悪いのだ、せめて血行をよくしておかなければ。血行不良はお肌の大敵だで。

 

「じゃあ、僕はアリーナBだからこっちだね」

 

「おぉ……俺はアリーナFだ。怪我すんじゃねぇぞ」

 

「う、うん。頑張ろうね!」

 

「頑張るのはたりめーだ。受かんだよ」

 

「! うん!」

 

互いに拳をぶつけ合った二人は、それぞれの試験会場へ向かった。不安や恐怖を拭い去った緑谷出久は、自分を信じてやまない憧れに追いつくために、爆豪勝己は、絶対なる自信を大事な相棒へ分け与え一緒にヒーローになるために。

 

 

「……ところで、確かに寒いのはわかるけど、何でかっちゃんはヒートテックに裏地モコモコのフリースまで着てたんだろ」

 

ふと、再び不安になる緑髪ボーイの言葉は金髪小僧に届くことなく、この寒空に消えていったのだった。

 

フリース:ペットボトルと同じ材料PET(ポリエチレンテレフタラート)で作られたもの。特徴として

 

「燃えやすい」

 

 

 

 

 

 




俺は飯田君の性格好きです。(大事なこと)

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