ダブルアップバディ~僕のヒーローアカデミアIF~   作:エア_

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神の杖は科学的に検証してもそんなに凄くない?

うるせぇ!俺の宇宙では最強の一角なんだよ!


俺の爆破は108式まであるんだよ。

 

 

アリーナFにて、ブロンドボンバヘ男は口まで覆っていたヒートテックを一度首まで下ろした。息は白く、流石にまだ寒いなと青空を睨みモコモコフリースを脱ぐ。流石に引火性のあるものを着たまま引火の危険性のある行為をするわけも無い。当然である。一般的知識があれば馬鹿でもしない。

 

勿論このブロンドボンバヘ男こと、爆豪勝己も例外ではない。

 

フリースから顔を出したのは既に中学生にするなら十分すぎるほど鍛えられた肉体。黒いヒートテック上から見える数多くのくぼみが、彼の仕上がりをまわりに知らしめた。

 

「よっ、こっちだったんだな」

 

「あ? 誰だテメェ」

 

精神統一とまではいかないにしも、手の汗腺の最終確認や万が一の緊張への対策に呼吸を整えていると、どこかで見かけたような少女が彼へ声をかけてきた。誰が見たって可愛い類の明るい髪色のサイドテール少女。そう、あの朝っぱらから不可抗力にしても煽った少女である。おい、嫌そうな顔すんな。

 

「悪かったって。だってあんな顔するなんて思ってなかったんだからさ」

 

「うるせぇ話しかけんな集中もしきらんのか!!」

 

「うへぇ、ここまで嫌われてるとは……大分ショック」

 

「喋りかけんな!! てめぇのせいで俺が出遅れたらぶっ殺すぞ!!」

 

残念ながら、爆豪にとっての彼女の印象は最悪だ。機嫌が悪いときにあそこまで煽られては普通の人間だって印象が悪いだろう。とくに爆豪のような短気(?)なら余計に悪化するというもの。そんな彼の反応を目の当たりにし、思った以上に傷ついたサイドテール少女は見るからに落ち込みうな垂れた。

 

そこまで言わなくてもいいじゃんかと呟く彼女を尻目に、爆豪はフンと鼻息を荒くし、スタート地点に足を進めた。もう彼女のことなど眼中にないのだろう。何の罪悪感も見えない。

 

確かに、これから始まるのは仲良しこよしが出来るほど余裕があるものではない。相手よりも早く敵を倒しポイントを手に入れる。合計数何体いるかもわからないロボット軍団を前に「一緒に頑張ろうね♪」なんて言っていられるわけがないのだ。うん、気持ち悪い。

 

「あ、待ってよ」

 

「るっせぇっつってんだろ。試験じゃなけりゃぶん殴ってんぞ」

 

「試験じゃなくてもやめてくれよ。あっ! あたし拳藤一佳!」

 

「聞いてねぇわボケ!!」

 

端から見れば痴話げんか。実際はセールスマンと拒否するサラリーマンみたいな会話だ。爆豪からすればしつこいだけである。さっさと他の受験生のところへ行かないかと辺りを見渡しては見たものの、既に彼の周りにいる人間は彼女以外存在しない。皆朝っぱらの絶叫を目の当たりにしていたのかビビッて端の方へ離れているのだ。いくら他受験生に攻撃したり邪魔したりするアンチヒーロー的なことはNGといわれたとしても、この顔は無理である。朝の連続補導未遂にでも遭遇したのだろうか、もう勘弁してほしいといった表情だ。

 

『はいスタート!』

 

「しゃあオラ!!」

 

突如として聞こえたのは戦いのゴング。試験官であるプレゼントマイクの彼からすればとても小さい声、勿論受験生は突然のことで軽い放心状態となりながら声の主が佇む頂きへ視線を向けていた。所謂何だあいつ状態である。カウントダウンでもあるかと思っていた彼らからすれば当然豆鉄砲を食らったように動きを硬直させるであろう。

 

しかし、この爆豪勝己は一味も二味も違った。

 

すでに周囲へ集中させていた意識を使い、声が聞こえた瞬間にそれが試験官の声であると判断し、その上で標的の出現場所をある程度予測。自身の両手裏を爆破させてアリーナを縦横無尽に飛翔した。時速45kmで飛翔しビル群を駆け抜け、数ある敵を鉄くずに変えていく。プロへの道を着々と進んでいくのだった。

 

『おいどうした! 実戦じゃカウントダウンなんざねぇぞ! 走れやHURRY UP! 賽は投げらてんゾYEAH!』

 

続いて聞こえてきたプレゼントマイクの声にやっと気づいた者達は、試験の始まりを理解したと同時に焦り、ロボ探しに躍起になった。ここまでわずか10秒。自発的に動かなかったことを入れたとしても皆十分対応が早い。流石はヒーローを目指す最高峰の者達、我先にと駆け出したのだった。

 

「……なんだよ、謝るくらいさせてくれたっていいじゃないか」

 

と、そんな中ひとり残されたサイドテール少女こと拳藤一佳は、小さくため息を吐くと、後に続いて走り出した。そうとも、彼女だって立派な受験生である。今は試験をクリアすることを考えたらいいのだ。一度顔をジャージの袖で拭った彼女は、凛とした表情へ顔を戻し、この無駄に金のかかった実技試験に挑むのだった。

 

 

 

 

制限時間は10分。体感時間よりも遥かに短いソレに、爆豪勝己は若干ではあるが焦りを感じていた。一辺が約1kmのビル群を想定した巨大施設。約25ブロックに分かれたアリーナにて、彼は迫り来る敵を殴り、蹴り、時には溶かし。己に出来るあらゆる手段で壊し、崩し、薙ぎ倒す。彼の個性の輝きに惹かれ、集まってくるその様は、夜の街灯に集まる羽虫の習性。

 

「オラ来いや。こちとら体が火照って仕方ねぇんだ。さっさと俺を滾らせろや!!」

 

既に脱がれたヒートテックは大量の汗を吸ったのか、脱ぎ捨てた場所を水浸しにしていた。ヒートテックは保湿性が高く、ある程度なら汗を吸って暖かくしてくれるのだが、ここまで動くと汗を吸いきれなくなり途端に寒くなってしまい逆効果である。以前より愛用していた彼なら勿論知っていることで、散々動いた後は上着を脱いで寒空のなか上半身はだかで戦い続けたのだった。

 

白い湯気が体から溢れ出ており、外観気温と体温の差がいかに激しいのかを物語る。辺りを見渡すも人っ子一人、ロボ一体すら見当たらないこの場所にて、爆豪はまだだと叫び闘志を滾らせた。既に撃破ポイントは70。これほど取れば筆記も合格圏内であるなら、ここは一息ついてもいい十分なレベルだろう。

 

が、彼がその程度で満足するわけもなかった。

 

――こんなもんじゃねぇ。完璧な1位だ。完全無欠で、圧倒的な1位! 今それ以外に用はねぇ!――

 

彼の紅の瞳がそう告げる。まだだと、足りないと、もっとよこせと。底なし沼のような欲望が体の奥底から溢れ出ていた。

 

双腕を天高く突き上げた彼はすぐに掌底と母指同士、小指同士をあわせた。花びらをイメージし開かれた両の手が空に向けられ、光の遮られた影の空間に赤い炎を灯す。

 

誘導弾(フレア・グレネード)!!」

 

手の中から離れ空高く舞い上がる深紅の炎球。ビルと同じ高さ程度まで飛び上がると同時に激しく爆発を起こし、轟音を響かせた。俺はここにいると周囲にアピールし、音に反応した敵を待つ。すると、待ってましたといわんばかりに、どこからともなく仮想敵が彼の元へと現れ、標的へと赤外線スコープを彼の体に向けた。いったいその図体でどうやって潜んでいたんだとわらわらやってきたのである。

 

「ミツケタ」

 

「ブッコロス!!」

 

「ハッ、雑魚がいきがってんじゃねぇ!!」

 

数は合計5体。数はいるが、どれも1点や2点といったスペック上弱い敵ばかり。両手を激しく燃焼させ高温を保ち、触れたものを尽く溶かし滅ぼしていけば、いとも容易く点数が入っていった。体が火照ってからが本番の彼にとって、現在のポテンシャルは最高潮。瞬く間にガラクタに変わっていく屑鉄を鼻で笑いながら、彼は自らを鼓舞した。

 

「おいおいどうしたァ!! もっと張り合ってこいや!!」

 

まだ足りないと高らかに叫ぶ。もっとよこせと喉がかれるほど叫ぶ。それはまるで闘技場で終始叫びながら敵が居なくなるまで滅ぼしつくす拳闘士(グラディエーター)。自身への傷などお構いなしに駆けるその姿は、まさにその一瞬をひたすらに輝く刹那の閃光である。

 

直後、世界から光が遮られた。あまりにも唐突であり、あまりにもタイミングがよ過ぎる。地鳴り、空気を震わせる駆動音が彼の耳に届いた。

 

それは、ビルほどの大きさを持つ巨大兵器。並の人間では太刀打ちできないほどに巨大な鉄の塊は、先ほどの叫びにならばお望みどおりと彼の目の前に現れたのだ。

 

「……上等だ」

 

無意識に口端が上にあがり、口を拭うように親指を舐める。ぎらついた紅の眼が、まるで獲物を捉えた獣であると鋭く細まった。

 

「あ、いた! っておい爆発頭!! 逃げろ!!」

 

ふと後方から発せられた彼を呼ぶ声。しかし奮激した今の彼の耳には届かない。

 

「ハイジョスル」

 

大型バスより二回り大きな拳が打ち落とされる。腕の重さも相まってか、その速度は予想の遥か斜め上。アスファルトを貫くほど勢いよく放たれたそれは、周囲の道路を縦に揺らし、衝撃波を辺り一面に叩きつける。一瞬のうちに瓦礫の山になった交差点は、周囲のビルのガラスが散乱し、コンクリートの岩を量産し、一画を煙で満たしたのだった。

 

吹き飛ばされ、彼の後方で人が地面に叩きつけられる音がした。目を向けるとそこにいたのは、朝から絡んでくる少女ではないか。自慢(?)のサイドテールが力なくうな垂れ、風にやられたのか毛先が痛んで見える。

 

そこへ先ほどのフレアになんだなんだと近づいてきた他受験生も、かの強大な破壊兵器を目撃しては揃いも揃って回れ右。既に災害と言っても過言ではない巨大な敵を前に、人間として正しい行動を取った。

 

「――にげ、ろ」

 

彼の耳に届く声の主も先ほどから弱々しく震えていた。打ち所が悪かったのだろうか、立ち上がろうと体を動かしているが端から見れば死に掛けのトカゲ。身を捩じらせることしか出来ていなかった。だがそれでもと彼の元へ、動けないながらに近づこうとしていた。

 

「……来んじゃねぇ」

 

「!?」

 

煙が晴れ、爆豪勝己の姿が顕になった。

 

飛んできた破片により赤い線をいくつもこさえた白い肌が露出し、右目の上にはたった今出来た大きな青いあざ。口の端からツーっと流れる鮮血に、声の主……拳藤一佳は息を呑む。自分達はいま高校受験を受けているのではないのか。なら何故彼はこんなにも傷を負っているのだろうかと。過剰なまでの試験内容に困惑と不安が頭のなかをぐるりと回った。

 

「逃げ、よう! これ、明らかに過剰だ! 最悪死んじゃう!」

 

「うるせぇ! ならテメェ一人で逃げろや!」

 

両腕から火炎を纏いバチバチと小さな爆発を連続で起こしながら、彼は一歩、また一歩と歩みを進めた。

 

「ヒーロー、目指してんだろうが。テメェも、俺も。なら他人に助け求めんな。テメェが人を助けんだろうが」

 

「!? だけど!」

 

「黙ってろ。俺は最強のヒーローになる。オールマイトを超えた、最強のな!」

 

煙は上空まで昇り、ロボットの視界を遮り、静止した。乱反射した赤外線センサーを前に一瞬の沈黙。その一瞬こそアクションを起こすには十分な時間が彼へ渡されたのだった。

 

呼吸を整え両掌に視線を落とす。線香花火のような一瞬の爆発が何度も起こり、地面へと落ちていく。

 

「無茶言うな! あんなデカ物相手にどうやって勝つ気だよ!」

 

「あン? ンな事もしらねぇのか? 喧嘩にしても何にしても、最後までノリがいい奴の方が強ぇって相場で決まってんだ! つまり!」

 

「一切として理由になって――キャッ!?」

 

両手の火力をあげた彼は、地面へその爆風を当てた。そのまま煙を越え、迫る巨大な腕を越え、ビルを越え、雲を越え、遥か高みまで飛び上がる。ここまでわずか10秒。近くに居た彼女は突風に両腕で顔を覆った。

 

爆豪は飛び上がったのは高度500m付近。目標物はかの巨大兵器の脳天。

 

左手から直径20m以上にもなる爆風が空に放たれ、彼の体は一瞬の無重力体験を経て真っ逆さまへと落下し始めた。運動エネルギーと、爆風による初速度アップによって彼は隕石のように真っ直ぐ、敵を見据え降下する。右手が赤く染まる。左手よりも赤く、パチパチと破裂音が掌内で溢れかえり、眼前の敵を消し飛ばさんと牙をむけた。

 

 

 

「端っから先までクライマックスな俺は! いっちゃん強ぇ!!」

 

 

 

轟音と共に、先ほどよりも遥かに大きな衝撃が、音を置き去りにして巨大ロボットの頭上へ叩き落された。

 

 

 

 

「……落下衝撃砲・着弾(キネティック・インパクト)

 

「あ……後で言うんだ」

 

残り時間、2分39秒。へしゃげ、見るにたえない粗大ゴミと化した元巨大兵器から出てきたのは、赤く焼けた右手を大きく下に振っている彼の姿だ。四肢を残した残骸は中央の鉄をオレンジ色に融解させ、今もなおドロリと溶け続けていた。

 

そんなあられもない姿で沈黙した故仮想敵を見て満足したのか、彼は不敵な笑みを少女へ見せた。

 

「こんなんで遅れとれっかよ。あと3000体もって来いや」

 

 

それはいわゆる彼流の「私は来た」

 

 

かの有名なオールマイトが人々を安心させる言葉として選んだセリフと本質の似た言葉。少なくとも、彼を見上げる少女は絶大な安心感を覚えたのは間違いない。

 

巨大な敵を相手に、一撃を以て再起不能にした攻撃力はまさにこれからの次代を担うに相応しい力の一つ。

 

その一部始終を、ドローンカメラは細かく記録していたのだった。

 

 

 




用語解説

誘導弾「フレアグレネード」

その名の通り、爆破を空中で起こし周囲を誘導する際に使う。威力は低めだが派手で、相手の注意を引くのはお手の物。戦闘機に兵装として用いられているフレアの要素もあるため、赤外線センサを使う相手ならロボだろうがミサイルだろうが引っかかる。まれに野次馬も引っかかる。

落下衝撃砲・着弾「キネティック・インパクト」

本来は高度1000m以上の上空にて片手を空へ向かって爆破させ超加速しながらもう片方に熱を溜め相手に叩き込むオーバーキル技。今回威力を抑えたため周囲への被害はあまりないが、基本そんなこと考えない。煩いけど自分の身を案じたサイドテール少女がとなりにいたのが幸いである。じゃなきゃ数ブロック先まで瓦礫の山と化すのだ。やばい。






多分皆思ってるQ&A

Qなんで拳藤ちゃんなん?

Aかわいいから

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