ダブルアップバディ~僕のヒーローアカデミアIF~   作:エア_

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サーモン食べたい。


隠し事ってやつは誰だって持ってる。気にしねぇよ……キニシネェヨ

 

 

結論から言おう。彼の第一投目は散々な結果だった。

 

担任が相手の個性を消す個性を持つ「イレイザーヘッド」と呼ばれるヒーローであったために、緑髪モジャ男は投げる瞬間に個性を消され、なんとも情けない記録を叩き出してしまった。ハンドボールならいざ知らず、それよりも力の入るソフトボールで47mと小学生の頃の彼の幼馴染よりも低い記録である。しまいには、

 

「個性の制御も出来ないんだろ? また行動不能になって爆豪にでも助けてもらうか?」

 

と、刃物で傷口を抉られたような優しさのない言葉が襲ってくる始末。よりにもよってあの白金のスパイキーボーイに毎度のこと助けられているのを知られていた。実技試験のあのシーンを見られていたんだろうと納得するも、担任である相澤の言葉は中々に堪えるものだった。

 

「緑谷出久、お前の力じゃヒーローになれないよ」

 

前線で活躍していた者からの完全否定。それほど辛いものはない。緑谷出久にとって、彼の夢の否定は何よりも苦しいものだった。始まりは4歳のころ、同じ幼稚園の子供には馬鹿にされ虐めに遭い、小学校中学校となっても人間簡単に変わることはない。陰口や何気ない差別は増え、表に出ない悪意に常狙われてしまった。

 

唯一彼の幼馴染だけが、その全てを薙ぎ倒してきたのである。

 

どんな相手だろうと啖呵を切り退け、どれだけ力の差があろうと眼前の敵を立ち向かい尽く屠ってきたのだ。誰でもない、緑谷出久という幼馴染のためだけに。

 

(相澤先生に言われた通りだ。僕はずっとかっちゃんの背中で隠れてた。どれだけ怖い状況だろうと耐えていれば必ず来てくれると、助けに来てくれるんだと信じ込んでいたんだ)

 

否定的な思考が彼の頭を支配していく。このままでは言われたとおり見込みなしの除籍対象。倍率300倍、簡単な計算をするなら10800人ほどの人間の中から勝ち取った一枠なのだ。幼馴染に鍛えられ、彼の絶えず贈られた言葉によって折れることのなかった心。オールマイトによってそこから積み上げられ、背負う事となった大きな重圧。その全てを捨てろといわれてしまったも同然で、初めての一人では立ち直れない挫折(・・・・・・・・・・・・)に顔を歪めた。

 

しかし相澤の言葉のどこも間違いは存在していなかったのだ。今の彼では力を使った時点で負傷者と同じ、最悪他の負傷者よりも怪我を負うかもしれないのである。何故なら現状、彼は必ず力を使った後は病院のベッドの上にいなくてはいけないほどに個性を制御できていないのだから。

 

運ぶ人間、診る人間、自分が抜けた穴を塞ぐ人間。幼馴染だけではない。何人もの人間に心配させ、そして邪魔になる。彼自身にその気がなくても周りはそうせざるをえないのだ。

 

(僕じゃ……無理なのかな)

 

不安が頭を雨雲のように包み雨を降らす。心の中で流れる涙が、心へ打ち付けられ傷みに変わる。外部の痛みではなく、内部の痛み。胃の辺りや心臓がキュッとしまる終ぞ慣れることのないだろう感覚が彼を襲う。今まで運よく折れなかった彼の心が折れる。

 

はずだった。

 

 

『絶対にあいつら見返して、最強のヒーローになんぞ。俺とお前で!』

 

 

幼い頃に聞かされた優しくも強かな言葉が彼の思考と際限のなかった痛みを止めた。曇天の如く彼を包んでいた暗い灰色の感情が、青空のように晴れ渡っていく。

 

「……やっぱり、かっちゃんには敵わないや」

 

11年以上、つまり個性が発現する前からの付き合い。15歳の彼にとって殆どの時間を支えられていたんだと、改めて思い知らされた若き原石は、幼馴染の言葉を思い出す。

 

――人間は全身運動によって動いている――

 

ただ手だけでビンタをするのではなく、手首のスナップや腕のスィング、腰の回転や足を開くことによる重心を下げ安定させるこの一連を思い浮かべたらわかりやすいだろう。腰の入った全力ビンタ一つでさえ人間の身体は複数の動きを有する。つまり、全身運動とは力の連結なのだ。

 

(口で言うのは簡単だけど、ワンフォーオールを足先から手先まで全部に掛けた場合全身ぐちゃぐちゃになるんじゃないだろうか)

 

前例のない試みに出久は内心恐怖した。ただでさえジャンプすれば両足が折れ、殴れば腕は紫色に変色するような始末。幼馴染の語った全身運動なんてすれば今の状況なら間違いなく体中の骨は折れて打ち身のように内出血を起こし全身紫ボーイになるだろう。彼の緑髪もあいまって比喩ではなく茄子になるだろう。内臓をジュグジュグにした潰れた茄子に。

 

「仮に全身に力が入ったとした場合の力はどこへ逃げるんだ。殴ったときは結局力の逃げる先が腕にしかなかったから腕が折れたんだし。ジャンプしたときも結局力の逃げる先は足になるから足が折れた。なら逃げる先が一切ない全身でそれを起こせば間違いなく全身の骨が折れる可能性が高い。力の制限が出来てない今どうやったって身体の骨を折らずに力を使うなんて無理だ。まずは腕だけ足だけとやっても結局他のテストは周りの個性と比べて酷かった。もしもあの時みたいなことが起きたらって考えると体が強張っていたんだ。だけど一つでも出来る事をしないと、かっちゃんだって何も出来なきゃ除籍されたって仕方ないって言ってた……待てよ、かっちゃんがあんな風な激励の仕方はしないはず。彼は色々と理論的に語りながらも感情的な部分を押す人だ。そんな人が片方だけを、それも当たり前のことを態々言いなおすだろうか。もしあるとするなら、このテストはそもそも出来ることと出来ないことを理解してもらうのと常に他者を蹴落とす勢いがあるハングリー精神を求められていることになるんじゃないか。と考えるならやっぱりここで僕は個性を使わなきゃいけない。でもどうやって。こんなまだ中途半端な……でも尻込みしたって意味がない。やらなきゃ何も始まらない」

 

途中から皆がドン引きする早口言葉のような独り言が口から漏れ出す。非効率を嫌う相澤でさえ、その気の遠くなるような長文独り言回しに後ずさりし眩暈を起こすほど。よくもまぁこいつと幼馴染出来たなあのツンツン頭と思ったのも無理はなかった。何歳ごろから始めたのかなど相澤にはわからないが、傍らでこんな独り言続けられたならそう言われたっておかしくはない。白金色のスパイキーボーイのメンタルの強さに脱帽した瞬間である。

 

今更になるだろうが、白金色のスパイキーボーイとは爆豪勝己のことである。

 

そんな皆が怪訝な顔をする中、爆豪勝己だけはいつも通りといった顔をしていた。見慣れた光景なのだろう。ただただ心のお漏らしはやめてくれとどこぞのお笑い芸人の相方みたいなツッコミを視線に変え、絶賛呟き戦術を超える独り言を続ける彼を見つめ鼻で溜息を吐いた。あんな風に育てた覚えはないぞと面倒くさそうに事が終わるのを待つ。もちろん育てたのは母親である。

 

「緑谷君はこのままだとまずいぞ!」

 

「でも入試の時凄かったもん。もしかしたらいけるさ!」

 

未だに呟きをやめない少年と朝から共にいた二人は、様々な思いを視線として送っていた。片や憂懼を隠しきれず顔を歪めるメガネの少年、片や期待と一抹の不安を感じる麗かな少女。正反対の表情をするが考えていることは同じようで、共にこの学校でヒーローを目指したいという願いが表情で見て取れる。勿論幼馴染である爆豪勝己にとっては造作もなく気づくことであった。そんな態度に何か言いたくなったのか、メガネの少年飯田天哉は爆豪勝己へ声をかける。

 

「君は心配じゃないのか? 彼は君を慕っていると聞いたが」

 

「あ?」

 

「あ? ではない! 緑谷君はこれまでのテストで大きな記録を残していないではないか! このままでは彼は」

 

「大きな記録がヒーローの大事な要素か?」

 

二人の会話の間に出久が二球目を投げようと振りかぶる。先ほどの爆豪勝己が見せたような大きく振りかぶる投球フォーム。例え個性が生まれたとしても変わることのなかった数多く残る人間故の名残。個性が生まれなかったからこそ研ぎ澄まされた技術の一つ。未だに輝くように幻視するその一つ一つの動きに、生徒達は過去からの積み重ねを彼の背中に見た。

 

「大きな記録を持つからヒーローなんじゃねぇよ。逆も然りだ」

 

「しかし、このままでは除籍だぞ」

 

「そもそも個性把握テストは自分の出来ることと出来ないことを把握するテストだ。だからあの馬尻尾女は握力計で万力使っても何も言われなかったろ」

 

「う、馬尻尾女……」

 

「あかん爆豪君! 今の一言で八百万さんが膝をついたから!」

 

「知るか。毛ほども興味ねぇ」

 

「私は……毛以下」

 

「おうほんまやめーや!」

 

「黙ってろ。投げんぞ、デクが」

 

一人言葉の刃で項垂れてしまったが爆豪勝己は欠片も興味を示さず、出久の第二投を待った。彼の放つ張り詰めた空気にあてられたのか、多くの者がゴクリと喉を鳴らした。

 

 

――それは一つの力の集合である。

 

足の指先による踏ん張りから始まった力はすぐさまバネのようにしなる足を経て身体を捻る腰を通過、胸の大胸筋を回れば肩を抜け、上腕三頭筋、前腕屈筋群を通り、人差し指まで一気に届いた。ワンフォーオールが全身をめぐり、筋肉による力の補佐と伝達スピードによる個性の連動が、本来の力をさらに向こう側へと誘う。

 

これが、彼の初めて認識した全身運動であった――

 

 

SMASHという掛け声と共に轟音響かせ彼方へ飛ぶソフトボール。テスト中個性という個性を見せることのなかった少年の渾身の一振りに驚きを隠せず声も出ない。ただ一人、人差し指を変色させ痛みにもだえるも、下唇を噛み必死に耐える出久の唸り声だけが、その場に漂った。

 

「まだ……動けます!」

 

記録は1352m。相澤の予想の上を行った緑谷出久による初めての個性による大きな記録であると同時に、爆豪勝己の全く予想だにしなかった記録である。まるでありえないものを見るように目を見開く爆発頭は、何が起こったのか思考をめぐらせた。

 

「マジかよ。爆豪と八百万、麗日に続いて1km越えかよ。俺の記録が霞んで見えるぜ」

 

「いやアレは完全に個性の問題だろ」

 

「指先が腫れあがっているぞ。入試の時といいおかしな個性だな!」

 

「でもやっとヒーローらしい記録出たよー! よかったね爆豪君! ……ん?」

 

「……」

 

多くの者達が喜ぶなか、今一番に喜んでいるであろう者へ視線を向けたお茶子は、大粒の汗をかき考えに集中している勝己を見る。焦っているようにも見え、驚愕したようにも見えるその顔は、正しく「間違っている」と言いたげに映ったのである。

 

「どうしたの?」

 

「……」

 

返事はない。お茶子はただ額を汗で湿らせ物思いにふける爆豪勝己にその後何度か声をかけたが、戻ってきた出久に気づきそちらへ近づいた。素直に喜ばない彼の幼馴染の側にいるよりも、頑張って結果を出した彼へ労いの言葉を贈るのが先決だと思ったのだろう。走っていくその後姿は妙に嬉しそうに見えた。

 

(凄く仲良いと思ってたんに。違うんやろか)

 

 

 

 

持久走を終えた後も、今回の除籍宣告が嘘だと判明した後も、爆豪勝己の顔色は悪かった。まるで合っていたはずの数学の答えが、式の途中から間違って書いておりペケを食らったようなそんな顔。どこを間違えたのか必死で探すように焦り、ついに心に影を落とす。ときおりこれじゃねぇあれじゃねぇとぼやくその姿は流石幼馴染なんだなとどこかの緑髪ソバカスボーイを思い浮かべていた。似てるねなんていうと怒られそうなので誰も言わないが。

 

本来出席するはずだった入学式が終わる頃に帰宅を命じられ、生きた心地のしなかった1-Aの生徒達は帰路を目指す。勿論、爆豪勝己も同じである。

 

正門前のレンガ畳をそのプラチナブロンドをなびかせ歩いていると、覚えのある顔が三つ現れた。所々に方言訛りが残っていたボブショートの少女とガタイのいいメガネの少年。そして彼の幼馴染である少年。向こうも爆豪勝己に気づいたようで手を振って彼を呼び止める。特に緑谷出久はまるで定位置のように彼の右隣についた。

 

「かっちゃん。一緒に帰ろ」

 

「今日は気分が乗らねぇ。そこの奴らと仲良く団子三兄弟しとけ」

 

「ぶっふぅー! めっちゃ懐かしい!!」

 

「そう言わず。僕も君を誤解してたんだ、親睦を深めようじゃないか!」

 

「する気は欠片もねぇ。仲良しこよしがいいなら他所でやれ」

 

本来どっかのくたびれ三十路が言うはずの台詞を吐き、爆豪勝己は独り学校を後にする。いつもなら肩を組んでそのまま彼の個性で空中散歩のはずなのにと首をかしげる幼馴染を置いて真っ直ぐと自宅へ向かったのだった。すぐのちに個性のことについて話してなかったと頭を抱える出久の姿が正門前で見れたのだが、現在の彼が気づけることでもない。

 

(デクの個性がパワー系だった)

 

幼馴染であり両親同士も仲がいい2つの家族は、その関係でよく互いの家へはどちらも訪れていた。最近は仕事の忙しさゆえ両親同士のお宅訪問は最近出来てはいないが、子供達は別。勝己など既に調味料の場所やら雑誌を縛る紐のありかまで把握している。寧ろ実の息子である出久よりも緑谷邸を知っているほどだ。勿論、出久の両親である引子や久の個性についても既に聞いている。自身の個性の研究や、出久にいずれ出現するであろう個性の予想に必要なパズルだからと好奇心旺盛な彼が聞かないわけもなかった。

 

(おばさんは物を引き寄せる個性、親父さんは火を噴く個性だったはずだ)

 

個性とは遺伝するものであると幼い頃より聞かされてきた知識を利用しても、緑谷出久のあのパワーはこの部類に入らない。特異体質で別物が生まれる事があるとは聞いたことがある彼だが、それでももれなく個性の発現は4歳まで。

 

故に彼が予想していた個性と実際の個性は全く違ったことに衝撃を受けたのである。

 

「……救助ポイントは0点撃破(そっち)かよ。クソが」

 

もしも今ある常識に当てはめたとしても、彼の幼馴染は11年間自分の個性を隠していたことになる。理由があったとしても、小学校や中学校は公立。そこで先生が把握していなかったということは学校や国にも隠していたことになる。個性届けがないと敵扱いをするとどこかの市の条例に上がっているほどで、よくもそんな世界で隠せていたなと彼は頭を抱えた。さらには国に隠しているから同級生や他の大人などには話してないのは確実。何せ一歩外に出れば、緑谷出久の味方は爆豪勝己を除いて存在し無いからだ。

 

出久の両親に話てないのは目を見らずともわかること。彼にとって引子の隠し事など既に隠し事になっていないレベルでばれているのだ。前の隠し事と言えば自分の誕生日が近いため彼の母親とどうするかの相談をしていた程度。もうそんな歳じゃねぇよと思いながらも、彼自身口の端が綻んでいたのを覚えている。そんな彼女が隠し事を出来るわけもない。久の場合は、まともに帰ってくることもないが嘘をつけるような人だったか思い出せないが、思い出せないということはその程度の口の堅さなのだろうと結論付ける。

 

つまり、国にも隠し、学校にも隠し、両親にも隠し、そして一番信用してもらっていたと思い込んでいた彼にも隠していたことになる。

 

「……信用ならねぇってか?」

 

「ん? 何がだ?」

 

「!!」

 

突然後ろから声をかけられた彼はその場を飛びのくとすぐさま体勢を声の方向を正面に構えた。ここは雄英に近い公園横の道路、彼の向かう駅へ向かう道の中でもわりと住宅街を通る近道出来るルートで、今の時間なら人通りはない。聞こえるとすれば近所のおばさんたちによる井戸端会議の声。または、

 

「よっ、やっと会えたな」

 

「てめぇは……あの時の失礼極まりねぇサイドテール女」

 

「その節は本当に悪かったから覚え方訂正してくれ。お願いだから」

 

本日入学式だった雄英から帰る生徒の話し声ぐらいだ。

 

 

 

 




拳藤ちゃん登場。なんで?

可愛いから。


本編出久より記録が伸びているのは、指だけに使ったOFAよりもつま先から連動させたOFAの方が出力的に言えば多いからです。ゆでたまご理論最高や。

待たせたな。オラが来た(GKU感)
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