KANCOLLE   作:晴貴

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1話

 

 

 その声はこの世に存在するどんな地獄よりも深く、暗い場所から響いてくるかのようだった。

 それは本来、恐怖という感情を有していないはずの深海棲艦すら怖じ気立たせるほどの憤怒と怨嗟に満ちていた。

 

 誰よりも、何よりも、自分達こそが最も強い憎しみを抱いている。意識下で、あるいは本能で、固体差こそあれ深海棲艦はそう認識していた。

 だからこそその憎しみの対象である人間を、そして彼等に与する艦娘という存在を消し去るために戦い、今や彼等を存亡の危機まで追い詰めることに成功していた。

 

 人類の歴史上、最大の脅威。

 しかし深海棲艦は人間の敵だからこそ、その声に恐怖を覚え、死を感じざるを得なかった。

 

 どこからともなく現れた人間の見た目をした“ソレ”は、間違っても人間などではなかった。

 人間でもなければ、艦娘でもない。ましてや同胞であるわけがなかった。

 

 一目見た瞬間に理解した。“ソレ”がこの世から外れた存在であることを。自分達の天敵であることを。

 そして“ソレ”が自分達を深く、強く、憎んでいることを。

 

 深海棲艦が占拠した港に忽然と姿を現した“ソレ”は、大量の深海棲艦を前にしても一切躊躇うこともなく抜き身の刀を構えた。空は赤黒く染まり、濃い霧に満ちた世界を切り裂くように、刀身に蒼白い炎が灯る。

 それは見る者に畏怖を覚えさせるような、神々しくも苛烈な炎であった。

 

 ゆっくりと一歩を踏み出した“ソレ”は、深海棲艦を見据えてただ一言呟いた。

 

 

 

 

 

 

  ――お前らみたいなのがいる限り

 

             俺は何度でも現れる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   綾波型駆逐艦8番艦・曙

   南西諸島沖海上   9日前/01時14分57秒

 

   終了条件:旧南西基地への到達

 

 

 

 

 

 暗闇に支配された海上を、警戒しながらも最大戦速に近い速度で航行していく。

 今のところ電探やソナーに敵影が写っていなくても怖いものは怖い。まあそれを顔に出したりしないけど。

 お調子者の漣にからかわれるくらいならまだしも、気の弱い潮を怯えさせるわけにはいかないわ。

 

「そろそろ南西諸島防衛線近海ね。速度を落として警戒を密にしながら航行します」

 

「了解よ」

 

 旗艦を務める阿武隈さんの指示に従って、全員が航行速度を落とす。

 防衛線とは名ばかりの海域だけあってこの辺りには深海棲艦が犇めいている。夜戦には自信あるけど、相手の物量は脅威だ。

 こっちの戦力は少数なんだから戦わないにこしたことはないわ。

 

 今回の任務は防衛線付近に位置する、かつては補給基地だった港へ向かうこと。ここはしばらく前に深海棲艦に占拠された港だけど、数時間前に夜間偵察機から『旧南西基地デ火ノ手ヲ確認』って報告がクソ提督のところに届いたらしい。

 その火の手の原因を探るのがあたし達の任務。……なんだけど。

 

「阿武隈さん、火の手の原因はなんだと思う?」

 

「うーん、深海棲艦同士の争いっていうのは考えにくいし、事故による火災とか……?」

 

「それで深海棲艦側の燃料や資材が燃えてたら最高ですね」

 

「そうとも限らないよ。資材を求めてうちの鎮守府を攻めに来るかも」

 

「そ、それは嫌……」

 

「大丈夫ですよ、潮。その時は曙がしっかり守ってくれますから」

 

「そうね。あんたを楯にしながら戦うわ」

 

「ちょ、それはひどくないです?」

 

 第7駆逐隊の面々と軽口を交わしながら、それでも警戒は怠らずに目的の場所に向かう。

 さっきのは確かに軽口だったけど、だからといってどうでもいい内容の話じゃない。

 未だに深海棲艦の生態は不明なことばかりだけど、あいつらも戦うためには燃料や資材を必要とする。仮になんらかの事故でそれらが失われたとすると、それを補填するために近くの鎮守府ーーつまりあたし達の鎮守府を攻めるという行動を取ることは否定できないわ。

 

 騒動の原因を探り、深海棲艦が次にどう動くか判断する情報を持ち帰らなきゃいけない。

 最悪帰還できるのが1隻だけになろうとも、ね。

 そのまましばらく無言で航行を続ける。そしてふと、静寂の中で朧が口を開いた。

 

「……おかしい。いくらなんでも深海棲艦がいなさすぎる」

 

「いいことだけど、確かにちょっと不気味かも……」

 

 朧の疑問を阿武隈さんが肯定する。

 それはさっきからあたしも……そしてたぶんここにいる全員が薄々感じていたことだと思う。

 目的地はもう目と鼻の先。その港は深海棲艦の住処になっているのに、会敵どころか電探やソナーにも反応がないのはさすがにおかしい。

 そう考えていた時だった。

 

 港の方に大量の火球が降り注いだ。

 火の粉なんて生やさしいものじゃなく、まるで流星群でも落ちてきたんじゃないかと思うほどの大きさと数だった。

 

「な、何よこれ!?」

 

 あまりにも非現実的な光景に、偵察行動中というのも忘れて思わず悲鳴にも似た声が漏れる。誰にもそれを注意するだけの余裕なんてなかったけど。

 

「ま、まさか深海棲艦の新兵器……なんてことはないですよね?」

 

「ない……と思うけど」

 

「自分達の方に降ってたもんね……でも、だとしたら何なんだろう?」

 

「分からないけど……行くしかないよ。みんな、細心の注意を払って。電探じゃ効果はないかもしれないけど上空も警戒しながらね」

 

 阿武隈さんも状況が把握できないだろうに、それでも自分の成すべきことはしっかりと理解していた。

 そんな彼女を先頭にして、慎重に港へと近付いていく。その間にも時折さっきの光が降ったり、港に大きな火柱が上がったりする。

 

「ひっ……!」

 

 すると突然、潮が引きつった声を上げた。

 

「潮、どうしたの?」

 

「あ、曙ちゃん……あれ……」

 

 震える指でなにかを指差す潮。その先には何か塊のようなものが見える。ソナーに反応はないし深海棲艦ってわけじゃなさそうだけど……。

 するとそこでまた炎が港に降り注いだ。その光によって海面が照らされ、塊の正体が浮き彫りになる。

 

 

 

 

 それは見るも無惨な、深海棲艦の残骸だった。

 

 

 

 

 誰もが息を飲む中、阿武隈さんがそれに近付いて観察する。

 

「これ……戦艦棲姫の護衛艦、だよね?」

 

 特徴的な大きな口と、肩に備えた16inch三連装砲からしてそうだとは思う。

 けれど本来なら両肩に備え付けられている三連装砲は片方しかない。そのわけはもう片方の腕が肩口から切断されているからだ。

 おまけにその体はドロドロに焼け落ちていて、もはやほとんど原型を残していない。

 

 そしてそんな残骸はそれだけじゃなかった。火の手が上がる度に照らされる海面をよくよく見れば、そこらじゅうに似たような深海棲艦だったものの残骸が浮かんでいた。

 その光景に誰もが言葉を失う。

 

 ……これは、どういうこと?何が起きてるの?

 

 そう自問してみたところで答えが出るわけもない。その答えを知っているのは、きっと――

 

「行くよ、みんな」

 

「ええ」

 

「はい」

 

「ですよねー」

 

「こ、怖いけど……頑張ります」

 

 これを成した張本人だけ。

 果たして鬼が出るか蛇が出るか。あたし達は意を決して港へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   終了条件達成

 

 




スマホ代えたらマジ恋の下書きが異界入りしたのでSDKを書きました。
たぶん続かない。
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