ホラーが書きたかった(叶わぬ願い)
そんなに怖くないので、安心して読んでいただければ。

Twitterのフォロワーさんから発想をいただきました。


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Myosotis、勿忘草の学名です。


ホラーオブキル ーMyosotisー

あるところに、あるマスターの率いる隊があった。

非常に優秀なマスターであり、キル姫同士も仲がよかった。

ところがある時、任務の最中にロンギヌスが暴走状態に陥り、そのまま逃走してしまった。

マスターは一旦街へ戻り、その事を教会へ報告。暴走したロンギヌスを討伐するよう命じられた。

その日はもう遅かったので、マスター達は街のホテルに泊まった。

 

その夜。

マスターが翌日の作戦について考えていると、

コン、コン

と、ドアをノックする音がした。

こんな時間に誰だろう、とドアの覗き穴を覗くと、

「あの、マスター…」

フォルカスだった。

ドアを開けて、どうしたの?とたずねる。

「その、なんだか眠れなくて…」

フォルカスは、ロンギヌスと特に仲がよかった。やはり、暴走したのが相当ショックだったのだろう。

「ええ、ロンギヌスの事は残念ですが…でも、彼女の為にも早く楽にしてあげないといけませんよね…」

心優しいロンギヌスに、苦しい思いをさせたくない。それはマスターも同じだ。

「ですよね。マスター、明日の作戦、よろしくお願いします」

もちろん、と頷くマスター。

「それでは、おやすみなさい。マスターも早めに休んでくださいね?」

おやすみ、と言ってフォルカスが立ち去るのを見送り、ドアを閉める。彼女のおかげで、落ち着いて作戦を考えられそうだ。

 

しばらくして。

コン、コン

と、またドアをノックする音がした。

時計を見ると、もう日付が変わってしまっていた。

…ホテルの人だろうか?それとも、隊の姫が訪ねて来たのだろうか?

さっきと同じように、ドアの覗き穴を覗く。

……。誰もいないようだ。誰かのいたずらだろうか?

一応、チェーンをかけて、ドアをそっと開ける。

やはり、誰もいないようだ。

ドアを閉め、戻ろうとすると、

コン、コン

……いや。廊下に出て確認した訳ではないが、周りには誰もいなかったはず。

再び覗き穴を覗く。

やはり誰もそこにはいない。

一応廊下を確認するかと目を離しかけたその瞬間。

誰かの目が写りこんだ。

比喩でなく、真っ赤な目。見開かれたその目は、狂気を帯びていた。

一体、誰なんだ。思考が鈍り、声も出ない。何より、

その目から、目が離せない。

思考に反し、感覚が鋭敏になっているのか、ドアの前で何かブツブツ言っているのが、徐々に聞き取れるようになる。

「――。―――ー。マ――ー。マ―ター。マスター。マスター。マスターマスターマスター―――」

ああ。この声。そして、そうだ、この目。

腕も足も痺れたように感覚がなくなる。

ドアの向こうから聞こえる声と、自分の動悸、呼吸が混ざり酷く脳をかき乱す。

なあ、なんでだ。なんで、こんなことするんだ。

―――ロンギヌス

かろうじて、そう呟く。

声がぴたりと止み、赤い瞳がゆらぐ。

やがて、ふっと消えるようにその目は覗き穴からいなくなった。

それでもなお、マスターはしばらく動けなかった。

マスターは何故か泣いていた。

緊張感から解放されたからではなく、恐怖からでもなく。

自分でも分からなかったが、涙があふれてきた。

 

翌日。

昨晩のことで結局眠れなかったマスターがホテルのベッドでぐったりしていると、

コン、コン

とドアがノックされる。

一瞬びくりとするが、

「フォルカスです。朝早くにすいません」

今回は覗き穴を使う必要もなさそうだ。

ドアを開けると、

「その…これ、廊下に落ちていたのですが」

フォルカスが何かを差し出してきた。

一瞬何か分からなかったが、

「ロンギヌスの髪飾り…ですよね」

そう、あの特徴的な髪飾りだった。

どこに落ちていたの?と訪ねると、

「……この部屋の前です。」

え……

「ホテルの人と話しましたが、私達以外にキル姫は泊まっていないようですし、一体…」

フォルカスと話していると、教会の役人がこちらに歩いてきた。

「おはようございます、奏官どの」

おはようございます。どうされました?

「ええ、実は…」

役人の話によると、別の隊が暴走したロンギヌスを発見、討伐したという報告があったという。

おそらく、自分の隊のロンギヌスだろう。

その隊のマスターに礼を言っておいて欲しいと役人に頼んだ。

「わかりました。では、失礼します」

 

役人が立ち去ったあと、フォルカスに昨晩の出来事を話した。

「そんな事が…。じゃあ、これは」

多分、彼女が置いていったものなのだろう。

どうやって、なんて野暮は互いに言わなかった。

マスターはフォルカスから、その髪飾りを受け取り、鞄にしまう。

しばらく休むと言って、フォルカスにも部屋に戻るよう言う。

「…はい、ゆっくり休んでください」

ベッドに横になり、鞄から髪飾りを取り出す。

これは、何なのだろう。

彼女は、ロンギヌスは、何を伝えたかったのだろう。

目を閉じ、考える。

少し考えてから目を開き、髪飾りを再び鞄にしまった。

これが何であれ、自分はこれを、彼女の思いを背負っていこう。

 

たとえ、これが呪いであったとしても。




forget me not、私を忘れないで。
願いも、場合によっては呪いとなります。
願わくは、マスターにとってこれが呪いになりませんように。

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