紅い悪魔の実力至上主義の教室   作:多々良ーtarachan

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 色々ヤバい。


1話目  紅い悪魔(スカーレットデビル)

 ーー4月

 

 人間にとっては、何かが大きく変わる時期……。一般にはそう言われているらしい。

 私、……レミリア・スカーレットは、日本の東京なる場所に存在する、高度育成高等学校なるものにバスに乗って向かっていた。

 

 ……え? 何でかって? 知らないわよそんな事。パチェがいきなり暇潰しだーって言ってきたんだから。一応、直射日光を防ぐための日焼け止めはくれたけど……。

 

 そんな事を考えながら、バスの車窓から見える初めて見る景色に感動していると、次々とバスに人間が乗ってきた。皆、私と同じ目立つ制服に身を包んでいる。……スカート短すぎないかしら? 因みに私は不本意ながら、立っている。正直、誰かと代わって貰いたいけれど、そんな事をしては私の格が落ちてしまう。だから立つ。

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

 バスの中に、そんな凛とした声が響いた。只、バスが走る音しかしていなかった車内。そんな中、急に発せられた声。勿論、皆は声がした方向を見る。私も見ようとはしたのだが、周りの人間のせいで全く見えなかった。今だけは、私の身長の低さを恨む。

 仕方がないので、耳を済ませて声だけを聞くことにした。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

 ほほう。席をお婆さんに譲ってやってくれと、言っているわけか。声からして座っているのは、若い男。端から見れば、お婆さんと、若い男。どちらが立つべきかは一目瞭然だ。まぁ、私があの立場でも、代わる気は無いけど。いや、私だと幼女と間違われて心配されるまである。

 

「何故この私が老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

 

「君が座っているのは優先席よ。お年寄りに譲るのは当たり前でしょう?」

 

 私は暇だったので、この話の続きに耳を傾けていたのだが、只、男が一理ある難癖をつけて逃れていたようにしか見えなかった。つまり、つまらないのだ。

 そして、後はずっとぼーっとしていただけである。

 

 それから程なくして、学校に到着したのか、バスが停車した。それに伴い、次々と多くの男女が降りていく。空いた車内。降りる寸前に車内を振り返ると、代わって貰えたのか座って息をついているお婆さんと、手を振っている少女の姿が確認できた。反論していた男は既に降りたようだ。

 私は前を向き、バスを降りる。すると目の前には、紅魔館より確実に大きい建造物が堂々と建っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎に入り、私のクラスを確認すると、私は迷わずにそこに向かう……予定だった。そう、即ち迷ったのだ。可笑しいな、マップを見たはずなのに……。えっと、下駄箱からこう進んで、ああ進んで、こっちに曲がると……。何だ、見つかったじゃないか。入学初日に上級生のお世話になってしまったら、一生の恥だ。

 

 

 1年Dクラス。ここが、私が1年間通うことになる教室か。新品のようなドアを静かに音もなく開けると、室内を確認した。中には、机の数の半分ほどの人間がいる。机から椅子、窓など何から何まで新品のように綺麗だ。

 他には……、え? あれは……、カメラか? 何故教室に取り付けられているのだろうか。普通は付けない物だと聞いているが……。

 

 

 私は疑問に思いながらも、まぁ良いかと、思考を辞め自分の席へと歩を進めた。教室の端の方にある。余り目立たない場所の席だ。別に何もないけど。机の側面にあるフックに鞄を掛け、座る。座り心地は、悪くはないが良くもない。流石に紅魔館の椅子には負けるか。

 何をしようか迷っていると、後ろの席とその隣の席の人間が会話していることに気づいた。どれ、少し聞いてみよう。

 結論から言おう。つまらなかった。いきなり女子高生の罵倒のオンパレードかと思いきや、一言二言会話して終わり。この上なくつまらない会話だった。

 

 チャイムが鳴り響く。

 そのお陰で、時空の彼方へ吹っ飛んでいた私の意識が私の身体に戻ってきた。

 

「えー新入生諸君。私はDクラスそして、日本史を担当する“茶柱佐枝(ちゃばしらさえ)”だ。この学校には、クラス替えなる物は存在しない。卒業までの3年間、私が担任として、お前たちと学ぶ事になる。よろしく。」

 

 ふーん。縁起の良さそうな名字だな。

 私のファーストネームは、黄味を帯びた赤、という意味だ。気に入っているけれど、正直意味がわからない。

 

「今から1時間後に体育館で入学式が行われるが、その前に、この学校の特殊なルールについて書かれた資料を配る。」

 

 前から後ろへと順に資料が手渡されていく。私が後ろに回そうと振り向くと、HRが始まる前に罵倒されていた男子生徒と目があった。

 無表情で無気力な顔をしている。まるで、世界に絶望したかのように。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 その男子生徒が感謝の言葉を述べてきたので、私も返しておく。これも、私の格が落ちてしまうからだ。

資料を見るとそこには、敷地内にある寮にて生徒は生活し、在学中は外部との一切の連絡を禁ずる。と、書いてあった。という事は、紅魔館の者と連絡が3年間取れないのか。……ん? でも、敷地内には生徒が退屈しないような店が多くあるらしい。成る程、それなら暫くは退屈しなさそうだ。

 

「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にある施設を利用したり、購入する事が出来る。クレジットカードのような物だ。学校内において、この今から支給するポイントで買えないものはない。ポイントは毎月1日に支給される事になっている。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。要は10万円だ。これ以上の説明は不要だろう」

 

 今の先生の質問を聞いて、クラスはざわついている。大方、友達と何に使うか等、相談しているのだろう。私にとっては10万なんぞ、珍しいものでも何でもないが、私は一気に金を使いきる趣味はない。

 

「支給額が大きい事に驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。今のお前らには10万円んお価値があるという事だ。遠慮なく使え。なお、このポイントは卒業時に回収される。残しておいても意味がないぞ。他人に譲渡する事も可能だ。何か質問はないか?」

 

 教室は未だざわついたままだ。誰も質問する気配がない。私は先生の言葉に少しばかり引っ掛かりを覚えたが、質問するにはまだ早い。質問が曖昧だと、答える側も困るだろう。

 

「無いようだな。では、良い学校ライフを送ってくれ。」

 

 さて、私はこの10万を何に使おうか。一気に使う必要は無いが、生活必需品を買いそろえる必要があるだろう。帰りに店にでも寄るか。学校内には学食もあるようだ。自炊が出来ない私にとっては助かる。そんな事を考えていると、また後ろから声が聞こえてきた。どうやら、いきなり10万を与えられた事に不安を抱いているようだ。

 私がふと天井を見上げると、先程発見したカメラが視界に入った。ここまで、自由にさせておいて監視する。これはどういう事だろうか。そして、このカメラは人間も気づいているのだろうか。やはり不安だ。

 

 皆が色めき立ち、五月蝿くなった教室の中、そんな中皆に呼び掛けた生徒が1人。

 

「ちょっと話を聞いてもらってもいいかな?」

 

 その言葉に、全員の視線がその生徒に集まる。

 

「僕らは、これからずっと同じ教室で過ごすことになる。だから、自己紹介を行って、出来るだけ早く、友達になれたらと思うんだ。」

 

 ……凄いな。普通あのような事は思っても言えないのが常である。私はそもそも思いもしなかったが。確かに、3年間一緒に過ごす人間の名前を知らないのは居心地が悪いな。

 

「賛成ー! まだ、皆の名前、何にも分かんないし!」

 

 1人が賛成する事で、続々と賛成者が現れる。勿論私も賛成派だ。

 

「僕の名前は“平田洋介(ひらたようすけ)”。中学では、洋介って呼ばれる事が多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でもサッカーをする予定なんだ。よろしく」

 

 余り、人間の事を知らない私の目でも、非の打ち所が無い自己紹介だという事が分かる。

 次の自己紹介は、内気そうだな。他の人間に助けられている。

 

 その後は、不良が教室を出ていったり、高飛車な奴が高飛車な自己紹介をしたり、後ろの男子生徒の隣の女子が教室を出ていったりしたが、何事も無く、私の番になった。

 

 

「じゃあ、次、お願いできるかな?」

 

「どうも、ごきげんよう。私はレミリア・スカーレットよ。名前から分かる通り、私は日本人では無いの。だから、様々な事を教えてくれると助かるわ。宜しく」

 

 私の自己紹介を聞いてクラスがまたもざわついた。まぁそれはそうだろう。クラスメイトに正真正銘の外国人がいるのだから。私の自己紹介はそこまで長いものではなかったが、名前は皆覚えただろう。それで十分だ。

 私の次は、無気力な奴だ。

 

「えー……えっと、“綾小路清隆(あやのこうじきよたか)”です。その、えー得意な事は特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー……、よろしくおねがいします……」

 

 ガタッと勢い良く座る。その後、頭を抱える。周りは静寂に包まれている。……どう見ても、失敗している。大丈夫だ。悪い意味で印象に残ったぞ。……それにしてもまともに友達が出来なくても、大丈夫そうな人間に見えるが。

 こうして、1人の人間が大きな傷を負った自己紹介は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辛すぎる。何故周りの人間は平然と立っていられるのだろうか。慣れているのか? しかも話は心底どうでもいい物ばかり。何のために行っているのだろうか。

 

 私は今、体育館で入学式に出ていた。

 息苦しさと、暑さで倒れそうになったが、何とか持ちこたえる。何とか耐える事が出来た。

 入学式が終わると、敷地内の説明を受けたら皆が一斉に帰り始める。私は一足先に、教室を出ていた。下駄箱に行き、靴を履き替えて日傘を差し、ショッピングモールに向かう。いくら、日焼け止めで直射日光を防げるといっても、完璧ではないのだ。まぁ、肌が荒れるぐらいなのだが。周りの視線も日光も痛い。

 

 タオルや歯ブラシ等の生活必需品を買い終えた私は寮に歩を進めていた。他にも、小説を何冊か購入したが。残りポイントは96487。失ったのは、3513だ。寮の玄関についたので日傘を閉じ、エレベーターなる物に入る。私の部屋は、8階にある。つま先立ちをしてギリギリ8階のボタンに指先が届き、エレベーターの扉は徐々に閉じていった。

 

「おーい! 待ってくれー!」

 

 そんな声が。急いで開ボタンを押し誰だと外を見ると、声の主は、綾小路だった。

 

「はぁ……間に合った……」

 

「大変そうね。綾小路……と言ったかしら?」

 

 綾小路が4階のボタンを押すと、エレベーターの扉が今度こそ閉まりきり、上へと向かう。成る程、綾小路の部屋は4階なのか。

 

「……あぁそうだ。お前は……、何て呼べば良いんだ?」

 

「そうね……。スカーレット様、かしら」

 

「何で様付け何だよ……」

 

 私の自然な冗談に綾小路が飽きれ気味に突っ込む。そりゃそうだ。いきなり初対面の女を様付けで呼ぶ男はヤバい。

 

「ふっ……冗談よ。レミリアで良いわ」

 

「そうか……」

 

 そんな会話をしていると4階に着いたのか、ぴんぽろーんと、音が鳴った。

 

「着いたみたいだ。じゃ」

 

「ええ、また明日」

 

 短い挨拶を返し、エレベーターの扉が閉まる。エレベーターは昇る。

 ぴんぽろーんとまた鳴った。どうやら8階に着いたみたいだ。開く扉の間からするりと出て、私の部屋を目指す。えーと、私の部屋はっと。ここだ。端末をかざすと、ガチャンと鍵が開く音がした。扉を開け、内装を見ると、中々の出来だった。

 

「赤味が無いけれど、まぁ兄弟点ね」

 

 机の上に、鞄と荷物を置き、制服から楽な服へと着替える。ちゃんと、制服はハンガーにかけるのも忘れない。そして、整えられたベッドに飛び込む。うーむ、紅魔館には劣るな。しかし、十分だ。

 私は、ベッドの上で、寛いでいた。

 うーん、まだ昼過ぎだけど、寝てしまおうか。と言うか、元々私は吸血鬼。夜行性だ。……まぁ夜は外出禁止だけど。夕方、夕飯を何処かに食べに行こう。

 私はそう決めて、睡眠に取り掛かった。





色々ヤバかった

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