そして火の鳥は ある時期がくると われとわが身を火の壺の中へ飛びこんで焼き その中から新しいからだに生まれ変わるという――
≪火の鳥 黎明編 / 手塚治虫≫
見知らぬ天井の下で、目を覚ました。打ちっぱなしのコンクリートの天井で、すすけたシーリングファンが緩々と回っている。見覚えなどない。寝起きしている自室の天井は、もっと野暮ったい。
大儀そうに上体を起こした。昨夜の痛飲がたたったか、頭の芯には未だ酒気が感じられる。
――ラブホ?
頼りない記憶に見切りを付けて、妥当な可能性を模索した。一緒に飲んでいた相手は、パートナー、つまり配偶者だ。結婚2年目のお祝いと称して、アルコールに耽溺した結果か。お互いが大虎――酒好きであるため、本腰を入れて飲み始めると歯止めが利かない。手酌で好き勝手に酒精をあおる。あおる。あおる。記憶を失い、翌朝にホテルで二人して目を覚ますなど、二度三度の経験ではない。
だから年中行事よろしく、今回もまた二人そろってラブホテルで難を逃れたか――と思った。
隣を見るまでは。
キングサイズのどでかいベッドには、天井以上に見知らぬ相手がいたのだった。
最初に自らの浮気を疑った。現に知らぬ相手と素っ裸でベッドを共にしているのだ。
だが二人きりでの痛飲だった。余人が入り込む余地はない。いやいや、待て待て、しかし相手が潰れた後に第三者と出会い、過ちを犯した可能性が、ないとは言えない。言い切れない己が恨めしい。
そして、はたと気が付いた。ベッドを共にしている正体不明のやからが、同性であるということに。
猛烈に悩んだ。
生まれてこの方、自らのことをヘテロ・セクシャルだと思って生きてきた。それは今も変わらない。何が契機となって同性と一夜を共にすることになったのか。直面した現実に。どうしても想像力が追いつかない。何があった、分からないと答えのない自問自答に脳髄がよじれる。
「まあ、いっか」
懊悩の末、相手の覚醒を待つことにした。分からなければ聞けば良いのだ。昨夜、何があったのかと。
*
これが我々にとっての第二の人生の始まりだった。
二人は趣味の範囲で絵を描いたり、あるいは小説を書いたりする趣味人だった。
共通する趣味としてゲーム、とりわけコアな人気を博していたアーマード・コアというメカシュミレータをこよなく愛していた。
そして二人共に趣味が講じて、アーマード・コアを題材としたネットの創作企画「Original Vurtual Arena(OVA)」に参加していた。
今、OVAの世界に転生し、様々な思惑に流されるように生き抜いた夫婦の物語が始まろうとしている。