東方のあべこべモノ(仮)   作:滅菌精製水

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どうして誰も書いてくれないんだ……


何で続いてしまったん第二話

 ――妖怪と人間が対等に相対する新たな時代の到来。

 

 だというのに、幻想郷を包む紅い霧は、大地を妖怪の血で染め上げて来た霊夢の行いを暗示しているように思えて仕方なかった。(霧雨魔理沙)

 

 

 

 

 

 茹だるような夏の暑さは魔法の森にも等しく牙を剥く。霧雨魔法店の看板を掲げる家屋もその範疇から逃れることはない。

 家主の収集癖を窺わせるように統一性に欠けた雑多な物で溢れている部屋には、金髪の少女が乱雑に書籍が積まれた書き物机に向かい、額を流れる汗を腕でぬぐいながら研究の考察を書きなぐる音だけが響いていた。

 

「熱の発生は簡単なんだがなぁ……冷気の発生ってのは根本的にアプローチが間違ってる気がする」

 

 嘆息と共に溢れた言葉には分かりやすく暑さに辟易としているのが見て取れた。現在進行形で行き詰まりの真っ只中にある研究のテーマは、ズバリ室温を下げるための冷気の発生である。熱力学、あるいは魔術的資料があれば容易にブレイクスルーを得られる車輪の再発明な課題だが、ブッパ脳よろしく攻撃系魔法が9割を占める手持ちの資料は応えてくれなかった。

 

 スランプと暑さに脳をやられ、ちょっと太陽滅びてくれないかなーなどと項垂れて譫言を言い出した辺りで、それに呼応するが如く陽が陰った。お、これは冷気を通り越して天候を操作しちゃったかー、流石魔理沙さんはスケールが違うなーと冗談を言うと同時、窓の外を視認する前に魔法使いとしての感覚が外界の魔力の変化を捉えた。

 

 慌てて窓辺に駆け寄り仰ぎ見た空は紅く染まっていた。

 

「何だこの霧、魔力を帯びてやがる。それも間違いなく人為的なものだ……まさか異変か!?」

 

 異変の二文字に紅白巫女の姿が頭に浮かぶ。あの妖怪デストロイヤーの存在を知りながら異変を起こそうとするやつがいるとは新参かな。惨たらしく撲殺された首謀者の死体が一瞬脳裏を過ぎるが頭を振って消し去る。

 

「いやいやいや、スペルカードルール!弾幕ごっこだから大丈夫!!……たぶん。うわなんか不安になってきた」

 

 スペルカードの練習がてら霊夢に試合を挑んでいる最中、こちらの服が破れるほどギリギリの回避を見せると、霊夢は一瞬だけ鋭い眼光を見せるのだ。よく見なければわからないほどの表情の変化だが、何かを逡巡し自制しているのが窺える。もしかしたら身体に染み付いた習性を理性によって押さえているのだろうか。

 これまで霊夢にとっての闘いとは、相手にとどめを刺すことだったのだろう。一度だけ妖怪退治の現場に立ち会ったことがある。そのときの彼女はまるで聖者のように純粋な瞳で淡々と妖怪を処理していった。妖怪を殺戮する機能がそのまま少女を模ったような姿は、神性すら思わせる美しさと、そのありようの歪さが酷く印象に残っている。

 スペルカードルールの制定から、霊夢は少し窶れ、何処か悟りを開いたような目をする時が増えた気がする。類稀なる豪腕で新たな時代を創り出した張本人こそが、自身の力の不要と不適合に苦悩しているのかもしれない。だとすればなんという皮肉だろうか。

 

 この紅い霧の元凶へ乗り込む前に、顔を覗きに行ってもいいだろう。愛用の箒を手に取ると、博麗神社へ向かうことにした。

 

 

▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎

 

 

 ――博麗霊夢の朝は早い。

 

 巫女の勤めを遂行するのに必要な儀式を行うためだ。

 脇をさらけ出した巫女服に大ぶりのリボンを髪に結んだいつものスタイル。相違点を挙げるならば支給されたドロワーズ(局部の可動域を確保するための新たに改造がなされた)ではなく、当初肌触りが良いという理由で使用していた紫と同じ下着を身に着けていることだ。

 

 これは己が獣に堕ちず理性を維持するための儀式、そう、必要な儀式なのだ。なのでやましいことなど何もない。ないったらない。

 

 誰に聞かせるでもなく呟くその顔は紅潮し息も少し荒げだ。

 霊夢は姿見に向き合うと、スカートの淵を咥えることでたくし上げ、儀式を開始した。

 

 儀式の具体的な描写は運営削除案件になるので婉曲表現を使わせていただくと、アンサイクロペディアで言うところの『野球』*1的サムシングである。野球も神主打法とかあるくらいだし巫女がしても何もおかしくないね。

 

 多大な霊力と若さがもたらす身体の猛りを艶のある嬌声と共に存分に吐き出すこと数回、霊夢は心地良い虚脱感に身を任せ意識を放棄した。

 

 例の敗北後、自身に起きた身体の異変を理解できていなかった霊夢は紫の胸に飛び込み硬くなったものを押し当てながら泣きついた。八雲主従はそろって錯乱し色々と壊れかけたが、鉄の意志、鋼の理性で平然とした振る舞いを装い霊夢へ自己処理の手法を授けたのであった。

 ちなみに時を同じくして地霊殿で紅茶を飲んでいたさとりは助けを求める何者かの魂の絶叫に驚きティーカップを割ったという。

 良い歳した男が股を濡らした色欲の概念を知らない美少女に「身体の火照りを沈めてほしい」とか言われて抱きつかれたら興奮するどころではなく第一声が「誰か助けてくれ」になると思う。要するにそういうことだ。

 そして八雲紫の名誉の為に注記しておくが、あくまで手を用いた手法のみを教えたのであり、決して女装コスニーをしろなどとは言ってない(白目)

 

 再び目を覚ました霊夢は汚した衣類を洗ってから念入りに身を清める。そうしなければ嗅覚の鋭い種族には容易く気付かれてしまうと藍に忠告を受けたためだ。実際、雑に水浴びをしただけでは様子見に来た藍から気まずい顔で指摘されてしまったのでそれからは気を遣うようにしている。

 

 紫からやりすぎは身体によくないとは聞いているが、どうにも控えることができない。そして疲れからか黒塗りの湯飲みを相棒に縁側でお茶を啜るだけの日々を過ごしてしまっている。どうも自堕落なのは否めない。今日とて何やら紅い霧が湧いて来たのは確認したが、特に危機感知的な勘も働かないので放置している。正直言って洗濯物が乾くかどうかの方が気がかりだ。

 

 紅く染まった空をぼんやりと眺めていると、見慣れた影が視界に入ってきた。

 

「あれは魔理沙ね、今日もドロワーズが眩しい」

 

 近頃、魔理沙がやって来ては弾幕ごっこを挑んでくる。境内が散らかって掃除をしても無駄になってしまうとか色々と言いたいことはあるけれど、グレイズで服が破れて露わになる下着や生肌がチラつくと何かどうでも良くなる。

 

 軽やかに境内へ舞い降りる友人の少女を下から鑑賞しながら迎え入れた。

 

 異変解決はまだ始まらない。

 

*1
屈強な男たちが固い肌色の棒を手で握りしめ力強く速く振り、白いものを柵より遠くに飛ばして点を入れるスポーツ

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