彼は「無個性」だった。
――球磨川禊と言う名で生まれた彼は誰もが受けるように個性の検査を受けて、当たり前のようにそれを持っていないと診断された。
「個性」。それはキャラ付けといった性格的な意味ではなく、実際の力を伴った超常能力がこの社会で個性と呼ばれるに至ったものだ。つまりはプラス的なものと言えるだろう。炎を出す力、速く走る力、持っていて損はないものばかりだ。
個性差別などと言う言葉があるが、そういったマイナスも実際にある。プラスだけではないと言うことだ。例えばヘドロの個性なら臭いから必然排他されることだろう。そして、悪い意味で有名な――例えば犯罪者が使った個性だとかと似たような個性であれば、血縁から犯罪者を出したような社会的地位を押し付けられる。
それだけ個性というものは社会に普遍的に広がっている。けれど、それは全てではない。個性は世代を増すごとに発現率が増えている。つまり子供にはほとんどいないとはいえ、大人には無個性がけっこういるのだ。
けれど、それでも――球磨川禊が個性を持っていないと言うことは関係者にとっては驚きとも言えた。
気持ち悪い。
探せばいくらでも嫌悪感を持たれるような姿になる個性というものはある。特に牢屋などにはたくさんいるだろう。彼の”それ”もそういったものであってほしいと、彼の両親は願っていた。彼はどこからどう見ても旧世代の人間の姿をしていたのに。
――だって、仕方ないだろう? 気色悪いんだから。親が子供を気持ち悪く思うなんて、とその両親が名前も知らない誰かに言われたことは数えきれないし、自分を責めたこともある。けれど、それは生理的に湧き上がり続けるものだ。そういうものなのだ。
むしろ、人として親としてできた類だと言える。その気持ち悪さがハンデだと知ることができたら受け入れられるかもしれないと……それはまぎれもなくプラスな気持ちだ。
彼を調べた者たちは藁にも縋る想いで医者に頼った。どうか彼の個性を、あの這い寄る混沌よりもマイナスなそれを特定し、日の元に曝し”どうということもない”と言ってくれと。実際、個性であればヒーロー「イレイザーヘッド」などがそれを打ち消せる。
その希望は打ち砕かれた。彼は無個性だった。
それが何を意味するかと言うと、破滅でしかない。
球磨川という姓の大人二人は狂ってどこにもいなくなってしまったし、禊を収容していた病院は廃墟としか呼べない有様になっていた。彼と関わり、生き残ってしまった不幸な人々は正気を失って今や自身が檻の中にいる。行方不明扱いになるのとどちらが幸運かは知れないが。
そう。個性治療の最前線、「箱庭総合病院」は一夜にして完全崩壊した。
そこは人生においてマイナスとなる個性を治療しようと言う試みが行われていた場所だった。
「髪が伸びる」個性を治療して、いつ何時車の車輪に髪が挟まり巻き取られて顔面をはぎ取られるかもしれない恐怖から解放してあげようという試み。
「フェロモンを出す」個性を治療して、密閉空間に居ない限り虫に集られてしまうという宿命から解放してあげようという試み。
軍事利用よりも真っ先にハンデ解消の方に動く日本は流石と言えよう。もっとも、成果は怪しい上にあったとしても瓦礫の下だが。
そう、個性とは違う異質な特異――
こうして、球磨川禊は解き放たれた。
オリ設定で過負荷に個性殺しの個性は効かないことにしました。なんとなくめだかボックスで過負荷は無効にできないイメージがあります。