個性社会の球磨川禊   作:黒箱BoX

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第17旋回 生徒会選挙

 

 ――生徒会選挙が行われる。

 

 新入生が入ってきて、前期の中間試験が行われた辺りの時期……相応しいといえばそうだし、別の時期でやる学校とてあるだろう。そして、それは新入生が慣れたあたりにやろうなどというものではなく、単に学校側の都合だ。

 

 そもそもが雄英においては生徒会長は生徒が選ぶものですら、ありはしない。

 

 というか、基本的に雄英の生徒、しかも3年生となれば忙しいものだ。言ってしまえば就活の時期である3年の時分に時間があるものなどそうはいない。ゆえに、というわけでもないが生徒会長の仕事はない。そもそもが学校なんてものはサービス業で、サービスを受ける(生徒)に運営側の仕事を回せるわけがない。

 

 そう、生徒会長なんてものは雄英が選んだ”首席”と言うことだ。だからこそ、立候補の形式は取っていても学校側が選んだ生徒に立候補させて信任投票を問うような形になっている。

 

 そして当然、一位を取ったのならご褒美があるのは当然だろう。何が”おいしい”のか。それは目立つことに他ならない。実際、プロヒーローというのは人気がものをいう商売であるのだから。直截に言ってしまえば、それは記者会見でプロになるにあたっての決意表明ができるという特典だ。

 

 

 

「皆さん! 初めましての人は初めまして! 違う人はこんにちは! 僕の名前は通形ミリオと言うんだよね!」

 

 全校生徒の前で演説を行う。生徒会長に続き、副会長、書記、会計、庶務――5人がそれぞれ発表する。

 

 これは立候補の演説だからテレビ放映はされない。だからか、教師陣の中では球磨川も何かやらかしはしないだろう――仮にやるとしても、騒ぎになる前に終わると安心する雰囲気が強い。過負荷の襲撃事件……あれは強引にもみ消したが、消しきれるものではなかった。もう球磨川に影響力はほとんど残っていない。

 

 ――もっとも、それはイコールで”上”からの権力が弱まっていることも示す。シーソーではないのだ、”どっちも落ちた”結果として球磨川の権力はほとんど残っていない。上からではどうしようもない……学園として、そして卒業生の評判を考えたら最悪ともいえる警察の介入を除いては。

 

 そして、ミリオはそんな上の権力闘争を知らず、しかし雄英の暗い雰囲気を吹き飛ばそうと頑張る一人。

 

「――さて、僕はヒーローに絶対欠かせないと思っているものが一つあるんだよね」

 

 一つ、息を吸い込む。注目を集めておいて。

 

「それこそ、POWERRRRR!」

 

 する、と上着が落ちて同時にポージング。筋肉を見せつけるが……「いやいやパワーって言うんなら筋肉で上着破れよ」と空気をすかされて――

 

「おや? 上着がどっかいっちゃったんだよね」

 

 なんて首をかしげるものだから……誰かが吹き出した。

 

 それが連鎖するように伝わって行く。大爆笑とまでは行かなかったが、皆が唇に弧を描いている。暗いことばかりだからか、なんだか急にほっとしたような感触が広がっていく。

 

 

「――さすがだな」

 

「そうだね、やはり彼は素晴らしい。サーが気に入るのも分かる気がするよ」

 

 オールマイトと相澤。オールマイトがいるのは当然だが、絶対安静のはずの身体で気を張っている相澤は誰よりも球磨川の危険性を分かっていた。

 

「後継者候補でしたっけ」

 

「はは。それはサーが言ってただけだよ。でも、本当にいい子だ」

 

「ヒーローは敵を倒すだけの獣じゃない。人々を安心させることが第一条件。知ってはいても、実践できる者は少ない」

 

「そして、それを行動で伝えることができる者もね。本当に、お手本としてこれ以上ないね」

 

 ミリオの素晴らしさは理解できる。だが――それだけに二人には球磨川が恐ろしい。輝く(プラス)が大きいほど漆黒の(マイナス)は深くなる。影響力が落ちた? 他の先生方はそれで安心しているようだが、そんなことでどうにかなる球磨川ではないと知っている。

 

 

 

『――異議あり。彼は生徒会長に……いいや、ヒーローには相応しくない』

 

 ここに、極大の過負荷(マイナス)が堕ちる。無責任で無価値で無意味な笑みを浮かべながら、全てを台無しにする悪意の権化が舞台に上がる。

 

「……ッ!」

 

 そして、ヒーローの欠点。先制攻撃はできない――テロリストに対して何もやっていない時点で攻撃して叩きのめすと言うことができない。このように、息を呑んで相手の出方をうかがうだけ……

 

『なぜなら彼は己の両親を殺している』

 

 その衝撃的な言葉に生徒たちはざわついて――

 

『――と、いうのはもちろん冗談なんだけど』

 

 後ろの波動ねじれ、天喰環が詰問する前にネタばらしをする。

 

『あはっ! 今信じた馬鹿どのくらいいるー? 駄目じゃないか、尊敬するべき偉大な先輩を疑うなんてさー』

 

 その禍々しさ(マイナス)に生徒たちは黙り込むことすらできない。蛇に睨まれた蛙の方がまだましだろう。これこそが本来の負完全、球磨川禊――爆豪をいじめているときの手加減していたそれとは違う。

 

「――君は、何を?」

 

 ゆえにNo.1になると目されるミリオですら飲み込まれる。いくら実力が高くとも――実戦経験が少ない。いや、今現実としてNo.1になったエンデヴァーですら同じだ。なぜなら強大であろうとも、真に凶悪なヴィランなどAFOくらいのものであり……彼を倒したのはオールマイトだ。だからこそ負の極致に対しては誰も免疫がない。

 

『ミリオ君。駄目じゃないか、君はこの雄英に通う資格を持っていない』

 

「どういうことだい?」

 

『だって、君は無個性だから。知ってるかい――無個性にヒーローになる資格はないんだよ。努力とか、勝利とか……そんなものは全く関係ない。生まれで決まる大前提だろう? 誰でも知っているんだ、”それ”がヒーローになれないことくらい』

 

「……………………は?」

 

 理解できない。いや、だって、ついさっき個性なら使ったではないか。透過の個性で上着をすり抜けさせた。それがなんだって無個性だなんて話になるのか。

 

「……球磨川禊! 貴様ァ!」

 

『おや? あなたには分かりましたか、相澤先生。ええ、全ては僕の過負荷。そう――大嘘憑き(オールフィクション)で君の個性をなかったことにした!』

 

「――え?」

 

 ミリオは言われても呆然としたままだ。そもそも過負荷だなんて聞いたことがない。

 

「そこを動くなよ。……殺してやる!」

 

『はは。駄目ですよ、ヒーローが殺すなんて言っちゃうなんてさあ。あ、それと他の先生方……すみませんが彼を抑えておいてくれます? ほら、暴漢に襲われる可哀そうな少年を見捨てるなんて”ヒーロー失格”ですよねえ』

 

 相澤は取り押さえられる。というか、暴れてよいような体でもないのだ。簡単に、かつ優しく取り押さえられる。そもそも今の身体は激しい運動が、そのまま冗談ではなく死につながるのだから。

 

 さらに言うならば、球磨川の発言は心配ではなくただの脅しだ。個性と言うのはアイデンティティそのものと言っていいほど大きな割合を占める重要な”身体機能”だ。しかも、それを活用して飯を食っているプロヒーローとなれば、もはや命よりも大事なものと言える。大体、仕事が命よりも大事なんて、成功者なら珍しいことではないのだ。

 

 彼の言うヒーロー失格とはつまり、「個性を消して無個性にしてやるよと」の脅しだと、気づかないような鈍いプロヒーローは雄英にはいない。個性を失えばヒーローではいられない。

 

『あは。でも、たった一人の候補者が資格を失っちゃえば困りますよねえ』

 

 歪んだ笑みを浮かべ。

 

『だから、代わりに僕がやってあげますよ。ほら、立候補者は他に居ませんし?』

 

 生徒たちを睥睨する。もはや個性をなかったことにする大嘘憑きなど関係なく、彼の前に出ること自体が恐怖だ。正史でAFOに対して緑谷が立ち向かえなかったように、全校生徒が球磨川に対して立ち向かうことができない。

 

 ――否。

 

「なぜかは知らないけど、確かに僕は個性を失った。けれど! ヒーローの資格がなくても! 僕は依然としてルミリオンだ!」

 

 一歩を踏み出した者が居た。

 

『おやおや、ヒーローでない君が人に拳を振るったら犯罪だぜ?』

 

「残念だったね。個性を振るって人を傷つけるんじゃないんだ。無個性なら大した罪じゃないよ! それに、君はヴィランなんだよね!」

 

『ヒーローじゃない? ああ、そうだね。後ろを見ない君は確かにヒーロー失格……ぐあ!』

 

 殴り飛ばされた。あっけなく。

 

「――え?」

 

 けれど、後ろを見てみると――そこにあったのは怯える仲間の顔だった。

 

「……環? ねじれ?」

 

 怯えて、顔を横に振っていた。

 

『――この僕を殴るなんて』

 

 そして球磨川ははらはらと涙を流していた。

 

『なんて素晴らしいヒーローなんだ。意味の分からない能力を持つ凶悪なヴィランに立ち向かうなんてことができるヒーローいるなんて思いもしていなかった! あのヒーロー殺し、ステイの主張は間違っていた。なぜならここに真のヒーローがいるからだ!』

 

『ああ――もしかしたら僕はこんな風に僕を叱ってくれる人をずっと待っていたのかもしれない』

 

『そう、僕の間違いを命がけで正してくれる人を心から待っていたんだ』

 

『本当になんて嬉しいんだ――これで改心したぞ。ありがとう!』

 

 本当に感動したように見えるが――だからこそ気味が悪い。背筋が寒くなる。吐き気がする。”なんだ、この言いようもない最悪(過負荷)は”と目を覆いたくなる。あらゆる災禍の前にも恐れず人を助けに駆けつけることのできるミリオですら。

 

『だから、この痛みの恨みはルミリオン君に迷惑をかけないように君じゃなくて君の友達で晴らすとするね』

 

「……ッ!」

 

 後ろにいる二人の怯えが酷くなった。そして、候補者の残りの二人は耐えられないとでもいうように目をそらしていた。

 

『――なんて、ウソウソ。冗談! ねえ、仲良くしようよ。ほら、少年漫画じゃ一発殴られた後にへらへら仲良くなるのはよくあることだろう?』

 

 手を差し伸べた。

 

「…………」

 

 ミリオは自らの手を見つめる。殴られた直後に殴られた側が手を差し伸べる? それはどんな悪趣味な冗談だ――そいつは一切改心なんてしていないのに。というか、ヴィランの改心などヒーローの仕事ではない。

 

 だが、その手を払えるか?

 

 敵がただのヴィランで、そいつが自分の命を狙っているなら払えた。恐怖はもちろんあるが、それを踏み越えてこそだ。だが、”それ”が仲間の恐怖であるなら? それは仲間の心を踏みにじって先に進むと言うことであり――

 

「――あ」

 

 ゆえに進めない。行く先が自分の地獄ならよかった。だが、行った先にあるのは仲間の犠牲。それでも堕落というものを自分に許せるような男でもなく。

 

「ううう……!」

 

 行くことも退くこともできずにその場にとどまるしかなくなった。

 

『さ、のいて』

 

 ゆえにミリオは壇上から優しく押し出される。

 

『僕が――否』

 

 どこからともなく4人が現れる。そのうちの二人は相澤とオールマイトにすら正体不明。蝶ヶ崎蛾々丸と志布志飛沫。そして言うまでもなく江迎怒江と麗日お茶子だった。

 

『僕たちが生徒会だ』

 

 ここに凶悪(マイナス)極まる宣言をした。

 

 

 





 「無個性はヒーローになれない」は中々のアンチテーゼだと思います。二次の中でも扱っているのはあまり見ませんが。実際、個性よりも身体能力で戦っている人もいますが、それが認知されているかと言うと、作中では微塵もそんな感じがない。
 人気商売である以上、「個性はないけど喧嘩は強い」が通じるかどうか……

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