個性社会の球磨川禊   作:黒箱BoX

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第18旋回 予期せぬ一撃

 

 

『あ、そうだ。ヒーローじゃないミリオ先輩なんてどうでもいいや』

 

 素晴らしいだの何だの言っておいて即座に否定する。彼が壇上に立つ――物理的に距離が離れているのに心が凍える。これが5人揃った過負荷の凶悪性。立ち向かいたくもなくなるような悼ましさの発露。

 

『いい機会だからマニフェストを発表しなきゃ!』

 

 などとうそぶく。もはや彼が良いことを言うなどと思えるようなお花畑がいるはずもなく――体育館を覆うのは絶望以外にあるはずがない。

 

『えーと。まずは授業及び部活動の廃止』

 

『直立二足歩行の禁止』

 

『生徒間における会話の防止』

 

『衣服着用の厳罰化』

 

『手及び食器などを用いる飲食の取締まり』

 

『不純異性交遊の努力義務化』

 

『奉仕活動の無理強い』

 

『永久留年制度の試験的導入』

 

『以上八点の実現に向けて一生懸命頑張ることをここに誓います! みなさん応援して下さい!』

 

 だが、これほどまでとは誰が想像できたか。思い描く最悪のさらにその下――負完全。多少の自負やポジティブなど誤差にしかならない闇の極致。

 

 というか、そもそも生徒に校則を作る制度など存在しないものは生徒なら誰でも知っている。というか、新しい校則を作る道筋そのものが存在しないのだ。雄英は自由な校風……何か縛りを作るなら先生が個人的に強制する。

 

『何かありましたら遠慮せずに何でも言ってください。24時間365日、誰の意見であろうとも無視させていただきます』

 

 もちろん、これも皮肉……もしくは社会風刺とでも呼べるものだろう。ヒーローは人の話を聞かない。助けを求める声は聴いても、ああしろこうしろだのと言った意見は受け入れらない。「点数にならないことはやめろ」と言われて、人助けをやめる奴などヒーローではない。

 

「「「……ッ!」」」

 

 誰も、生徒も教師も言葉が出ない。こいつは本当に頭が終わっているのだと心の底から理解して――

 

「「「………………」」」

 

 そう、黙るしかない。個性が消されると言うのが絶対の恐怖であるがゆえ。そしてもう一つ。ヒーローらしからぬことだろうが群集心理と言うやつだ。これだけいるのだから、誰かが何とかしてくれるだろうと言う責任の委譲。

 

「球磨川ァァ! 貴様は本気で言ってるのか! この雄英を終わらせるのか!?」

 

 声。

 

『もちろん』

 

 答えた。”答えてしまった”。声が出せたのは正義の発露ではなく、何とかできるなどと思ってしまった思い上がりのためであるがゆえ――この暗い絶望の中でも尻込みしなかった。

 

「かかった。止まれ!」

 

 叫んだ。そう、”個性”だ。むしろ自らの個性に対する劣等感があるからこそ動けた。だがそれは自分の能力に対する過信というものだろう。忌むべき能力と思っていたからこそ、それを過大に評価する。どうにかできると思ってしまう。それが銃にナイフで立ち向かうような愚行とも知らず。

 

 彼は心操人使……彼の問いに答えた者は支配される。それこそが彼の恐ろしい個性。

 

『……』

 

 そして、球磨川は言われた通りに止まってしまう。大嘘憑きの弱点――封印。死亡なら、すぐになかったことにできる。けれど、封印は違う。死亡はただの死亡だが、封印はRPGで言うと石化や時間停止などバリエーション豊か。なかったことにする因果を見定めることが難しい。

 

『……』

 

 だからこうして止まっている。もう首を飛ばしたくらいでは復活しているだけの時間は経っている。もちろん永遠に封印するのは無理だ――が、この選挙を収めるだけの時間は稼げる。と、思った……瞬間。

 

「しっかりしてくださいよ。球磨川先輩」

 

「ああ、エリートを皆殺すんだろ? あんたはこんなところで終わるタマじゃねえだろ」

 

 机に中身の詰まった肉を叩きつける音がする。そして、骨が折れる嫌な音。新顔の二人が球磨川の腕を折った上にその勢いのまま壇上に額を叩きつけた。常人なら死んでいた。けれど、このときばかりは”生きていた”。

 

『うん、世話かけちゃったみたいだね。ありがとう』

 

 額が割れて血がとめどなく溢れる。腕がぶらんと揺れて完全に折れているのを主張する。それでも立つし、生きている。その不条理こそが球磨川だ――スプラッタ”だから”死なないという逆説。生き返ってしまったら腕をぶらぶらさせながらしゃべれない、と言う頭のおかしくなるような虚言を現実にする。

 

『まったく、人を操るだなんて精神を疑うよ。君ほど人を人だと思わない人間は見たことがない。他人には心がないとでも思っているのかな。人間性が腐ってるんじゃないの?』

 

 客観的に見れば仲間に腕を折られてへらへら笑ってる方が異常者だ。しかも、そいつは額から血を流すスプラッタ。どこからどう見てもそんなことを言えた筋合いではないことを平然と言ってのける。

 

「……ひ!」

 

 だから、当然――心操は後ずさる。理解できない過負荷を前に、小鹿のように震える足でやっとのことで立っている。

 

『ねえ、どんな気分? 人を操る気分ってのはさあ。世界の頂点に立ったような気分がするのかい。人をゴミクズのように見下せるならそれはさぞ気分がいいことだろうねえ』

 

 その吐き気のするような冒涜的な過負荷を前に。

 

「――わあああああ!」

 

 逃げ出した。

 

『やれやれ。とんだ邪魔者もいたものだ。ああ、そうだ。彼みたいな人に迷惑をかける奴が居たら僕たちに相談してほしい。なぜなら、人に迷惑をかけるような輩をこらしめるのがヒーローなんだからねえ』

 

 そう、彼のやったことは全て無駄。ダメージを与えたところで球磨川がどうにかなるわけでもなく、ただ無駄に過負荷の過負荷らしさを皆に伝えるという悪手……では”ない”。

 

「――雄”鋭”塾。塾則第五十九項、塾頭解任請求ニ関スル項目」

 

 一人、声を上げた生徒。以前は過負荷に対して震えるしかなかった彼。彼が作った時間は無駄ではなかった。反撃の機会は訪れる。

 

『何を言っているのかな、緑谷君。というか、雄鋭塾って何さ?』

 

「この学園の前身となった雄鋭塾におけるリコールのルールだ。塾頭――つまり今でいう生徒会長に解職を請求する場合、塾頭側と請求側の決闘をもって次期塾頭を選出すると言う内容だ」

 

 短絡的に考えるなら妙手と言うべきだろう。必ず負ける過負荷に対して決闘を挑むのは間違っていない。勝負に負けて歪みを植える――それが球磨川だ。ゆえに、一回で勝負を決められるのなら勝つのはヒーローだ。

 

「当時は防具を付けずに互いに日本刀を持って5つの役職を奪い合ったらしい。だから、それに準じる形での決闘を挑む。生徒会長になりたいのなら、僕を倒してからにしろ。球磨川禊――お前は一度、僕に負けているじゃないか」

 

 そして、勝負は純粋に人間強度を競うもの。ここで陸上だのと一人で記録を作るタイプであれば楽だったのだが、そうはいかない。決闘とは、残酷な血の香りがするからこそ惹かれるものだ。

 

『……そんな文明開化以前に定められた野蛮な決まりごとが現代で通用すると思うの? 塾則なんて手続き上たまたま撤廃されてないってだけのルールでしょ? そもそもここは雄英じゃないか』

 

「……うぐ」

 

 つまる。緑谷はそこまで頭がいいわけではなく――というか、この世界には居ない黒神めだかと緑谷だけでなく他の誰かを比べるのはかわいそうというものだろう。人間らしく、すぐに答えは出ない。

 

「塾則第五十九項には過去三度の適用実績、前例がある。そもそも、君だって生徒会長になる資格があるわけでもないだろう。確かに君はここの学生だが、慣例となっている指名を受けられたわけではない」

 

 だからこそ飯田が援護する。仲間がいる。

 

『……オッケー! なるほどオールマイトの後継者は違うね。まさかカビの生えた塾則まで押さえているとは恐れ入ったよ。というか、別に普通に投票して選挙とか別の手もあったと思うんだけどね』

 

 そして、皮肉を忘れない球磨川だ。

 

「……あ」

 

 そして、緑谷がそれを言わなかった理由は簡単だ。――思いつかなかった、それだけ。

『まあいいや。戦いたいっていうなら戦ってあげよう。いや、本当は嫌なんだけどね? 戦いなんて野蛮なこと。痛い思いもするのも、させるのも心が痛むよ。けれど、君がそうしたいっていうなら付き合ってあげよう。いわゆるヒーローのお仕事は人を殴ることだからね』

 

「何とでも言うがいい。僕たちは悪に膝を屈することはない!」

 

 飯田が叫ぶ。

 

「――テメエごときにビビるかよ、ボケが!」

 

 今まで啖呵を切るタイミングが見つからなかった爆豪が親指で首をかき切るしぐさをする。

 

「うん、そうだね皆。――生徒会戦挙だ!」

 

 そして、緑谷もまた啖呵を切る。これ以上好きにはさせないと決意を込めて。

 

 

 






 かなり無理のある戦挙編の導入でした。めだかボックスの設定を強引にヒロアカに混ぜたらこうなりました。

 蛇とか色々残虐すぎて雄英としてありえないとは思いますが、個性があるから実はそんなに危険じゃないということにしておいてください。リカバリーガールが完全無欠な血清持ってるとかそんな感じで。

 あと、雄英の歴史とかもフラスコ学園のものを流用しました。

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