個性社会の球磨川禊   作:黒箱BoX

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第2旋回 過負荷の意味

 

 

「お、お前――爆豪勝己と知り合いなんじゃないのか?」

 

 止める暇もなかった黒霧が思わず聞いてしまう。個性「ワープゲート」を使ってどこかに放り出せばこの惨劇は起きなかったのではないかと、わずかな後悔が心に生まれたことは彼自身気付いていない。

 

『え? なんのこと。僕があんな有名人《プラス》と知り合いな訳ないじゃん』

 

 あっけらかんとした態度。これを見て球磨川に罪悪感とか、嘘をついた呵責とかを感じるのは不可能だろう。

 

「「……な?」」

 

 友達だとか言ってたくせに、わずか数秒後にはそれを否定する。まったくもって何がしたいのかわからない――大体、ヒーローでもないくせに、知り合いでもないならここに来る理由がないではないか。

 

「し……死柄木――」

 

 頭がいいはずの黒霧がリーダーに助けを求めるように意見をうかがうのもむべなるかな。いや、本当にどういうリアクションをすればいいんだ、この場合……

 

「あ――え――」

 

 いくら何でも、ここですぐに答えを出せず空を仰ぐのは経験不足とか役者不足とかそう言うことではなく仕方のないことだろう。けれど。

 

『おいおい、リーダーがボケるんじゃないよ。皆を率いるのがリーダーの仕事だろ?』

 

 球磨川がその隙を見逃さずに螺子を死柄木の頭に突き刺そうとして。

 

「ふざけんな」

 

 彼の個性『崩壊』で粉々にしてしまった。球磨川は空になった手を不思議なものでも見るようにグーパーしている。

 

「ふざけてんじゃねえぞ……! いきなり来て、何もかも台無しにしてくれやがって――ッ! ぶち殺せ、てめえら」

 

 球磨川の身体は瞬く間に炎上し――

 

『お――うおっ……!』

 

「貴様はヒーローからもっともかけ離れた害悪。ここで粛清する!」

 

 大剣でぶった斬られてしまった。縦に半分になった死体が倒れて中身が転がり血臭が立ち込める。

 

「……だが、この後はどうしますか。死柄木。彼はこの乱入者に殺されてしまった」

 

「分かってるさ、黒霧。だが、こうなったもんは仕方ねえ。いくら先生でも死人は生き返らせねえ――こうなったら、爆豪くんは死体として活用するしかね……え――?」

 

 爆豪を見ると、寝ていた。潰されたはずの頭は血の一片すらも付いていない。普通に寝ていた――夢見は悪そうだが。

 

「……な、なんだこれは――ッ!」

 

 もう展開についていけない、というのが黒霧の正直な感想だった。

 

「まさか、『幻影』の個性か。なら、そいつも……ッ!」

 

 今、まともにものを考えているのは死柄木のみだった。他はもう展開に飲まれて何が何やら――自分が盤上を操る、そう決めたから”やる”。もはやこれは彼の意地だった。球磨川を見る。そういう個性なのだとしたら、転がっている死体も騙されているだけなのではないかと思って。

 

 逆に他の者は訳の分からない状況に考えることをリーダーに丸投げしている。

 

『いや、それは違うよ。僕のは君たちが言うような個性じゃない。というか、そもそも個性なんてプラス(都合のいい力)が僕にあるはずもないしね』

 

 無傷の球磨川がそこに立っていた。まるで、悪い冗談のように。

 

「……くそが! 先生……来てくれ。どうやら、こいつは俺たちの手には負えない――」

 

 ”助けを求めた”。考えに考えたからこそ――”素直に助けを求める”、リーダーに絶対唯一に必要な能力があるとしたらそれだろう。実はできる人間はそう多くないのだ。自分はやっていると思ったとしたら、それは大抵の場合、面倒ごとを他人に押し付けているにすぎない。

 

『おいおい、助けを求めて安心しちゃだめだぜ』

 

 だが、判断を誤らなかったところで気が抜けてしまえば世話はない。その一瞬でヴィラン連合はまとめて螺子で磔にされた。弱みを見つけることにかけて球磨川の右に出る者はいない。助けを求めた瞬間に負い目ができた。それを見逃すほど球磨川は甘くなかった。

 

「やれやれだ、まったく――意味不明にして脈絡もない。君たちと言う過負荷(マイナス)は、どうして”そう”なんだい? 全てを台無しにして、それで何をしようと言うのかな、何ができるというのかな」

 

 声が聞こえて、黒い爪が出現する。それは動けなくなったヴィラン連合をいたぶろうとする球磨川の足を止めた。

 

『いやあ、久しぶりだね。長い間会ってないから名前を忘れちゃったよ』

 

 それでも球磨川はへらへらと笑って、手を振る。親しい友人にでもするように。

 

「君は僕と会ったことがない。君と言う存在を知って興味が出て調査したが、分かったのは君と関わると碌なことにはならないと言う事実のみ。できれば会わないままが良かったんだけどね――」

 

『おいおい、そんなこと言うなよ。君と僕の仲じゃないか』

 

「だから、会ったこともないと僕は言ってるんだがね――」

 

 無限に伸びる黒い爪と螺子がぶつかり合う。軌道から外れた、いやわざと外した爪の一本が黒霧に刺さり――

 

「個性強制発動――」

 

『逃がさな……い!』

 

 黒霧に向けて螺子を投擲しようとした腕を新たな爪が切り落とし。さらに――

 

「マグネ、君もだ。個性強制発動……!」

 

 そして、三本目。トガヒミコをひっかけてワープゲートの中に放り込む。

 

『だが、彼らはすでに僕が螺子伏せた! 引力があろうと螺子が抜けなければ意味はない』

 

「そうかね? ならば壁の方を何とかしようじゃないか」

 

 オール・フォー・ワンは片膝を付き、爪のないほうの手を床に置く。

 

『何……?』

 

「『腐食』×3+『微熱』+『反応活性化』×2。螺子そのものが罠、という可能性を考えないほど僕は間抜けではないつもりだ。ゆえに土台のほうを崩させてもらおうか……!」

 

 崩壊した。螺子――ではなく、床……どころか建物全体を腐らせて。規模が違う。能力(個性)が違う。桁違いな強力さ、これこそがオール・フォー・ワン。

 

『ぐっ……! これじゃ、螺子が意味をなさない』

 

 結果は建物そのものの倒壊だ。床が、壁が腐って落ちる。倒壊と言うよりも、飴細工が溶けて流れ落ちるような破壊。

 

「さあ、これで君と僕の二人きりだ」

 

 崩れ落ちた建物の上で二人は対峙して――

 

『……』

 

 球磨川は死んでいた。腐った建材がクッションになったとはいえ、三階分からの転落だ。一般人でも悪くて気絶くらいのものなのに。この男――雑魚と言ったら魚に失礼と言われるほどの弱さ(マイナス)にはそれで致命傷だった。

 

「まあ、いい――死んでくれるなら、それで」

 

 『ワープ』の個性で飛ぼうとして。

 

『なるほど。素晴らしい力、そして信念だ。さすがはヴィラン連合としか言えないよ』

 

 球磨川が立ち上がる。

 

「馬鹿な……! 貴様は死んだ。『生命探知』で死亡を確認したのに」

 

『悪かったね、試すような真似をして。だが、これなら安心だ。今こそ言おう。僕がここに来なければならなかった理由。ヒーローにはできない、ヴィランにしかできない使命を――』

 

 拍手する球磨川の目にぎらりと光が宿る。

 

「使命……ッ!? 何のことだ、ヒーローにはできない……だと」

 

『そう、ヒーローでは無理なんだ。だから君たちに頼るしかない。君たちだってヒーローの限界はよくわかっているはずだ。君たちでなければ――』

 

 真摯な目が心を射抜く。真剣な話だ、この上なく。

 

「だから、襲撃をかけたのか。このヴィラン連合に」

 

『そう。その使命こそ――』

 

 たっぷり息をため、空を仰ぐ。

 

「その、使命――」

 

 ごくりとつばを飲み込む。オール・フォー・ワンにはもはや口などと呼べる場所はないとはいえ。しかし、それくらいの緊張度だ。

 

「……っが!?」

 

 だしぬけに心臓に螺子が突き立てられた。

 

『ええと、なんだっけ。使命だっけ? ああ、あれだ。刑務所で臭い飯食うとかじゃない?』

 

 へらへらと馬鹿にするように指をさす。今までの真剣な態度が一変、人を食ったような馬鹿にした笑いを浮かべている。急転直下、人としてどうなのだろうと思うレベルの変わり身だ。もっとも、”人でなし”ということに関して彼の右に出る者はいない。

 

「貴様――」

 

 ここで、解説を入れるとすれば……オール・フォー・ワンは別に愚かではないということだ。

 

 騙された。それは事実だが――どこに存在する? ただ事態を滅茶苦茶にできればいいだけの人間など。筋道の通る説明、ならば現実的なのは何かしらの”敵”……クトゥルフとかBETAとかでもいるから”悪役(ヴィラン)”に頼ると言うことが本命。というか、力試しそのものは彼らもやっていた――その結果としてムーンフェイスやマスキュラーの投獄がある。襲撃そのものに不自然さはまるでない。

 

 別にヴィランは現社会の崩壊は望んでいても人類皆殺しなど間違っても望んじゃいないのだ。

 

 ゆえにやはり、ここで騙し討ちは”ない”。そんなものに意味はない。いや、オール・フォー・ワンを憎んでいるから、ならいいが球磨川にはそんな恨みはない。それは裏社会のドンといわれた彼であれば見れば分かる。どこをどう考えても、ここは手を取る場面だった。オール・フォー・ワンから拒むことはあっても、球磨川から騙すのはどう考えても意味がない。

 

 そして、それがヴィランと過負荷の違いである。

 

『まったく、君たちはあれだね? ヒーローとヴィランとか言っちゃって、憎み合っている。ヒーローにできないとか言われるだけで舞い上がっちゃってさ、僕から見れば過負荷(弱点)でしかないよ』

 

「ならば、球磨川禊――君の目的は何だと言うんだね?」

 

『うん? 僕の目的……そうだ、僕は昔爆豪君に燃やされたことがあって復讐しに来たんだ、あれしっくりこない。じゃあ、昔死柄木にイジメられたんだよ、うん、これも違う。ええと、思いつかないから明日メールするね?』

 

「……は?」

 

 ヒーローとヴィラン、それはどちらもプラス(強者)だ。信念を胸に灯し、見定めた目標に向かってたゆまぬ努力を続ける。――その境界は社会にとって都合がいいか、悪いかだ。

 

 ……過負荷に目的などない。信念などない。

 

『じゃ、さよなら』

 

 球磨川が止めを刺そうとして。

 

「目的など、ないのか……! 僕をこれだけ邪魔しておいて、確固たる信念も、目的すらもないだと――」

 

 その螺子は半ばから真っ二つに。

 

『え……あの……』

 

 オール・フォー・ワンが愚かではない証拠をもう一つ。ああ、確かに不意打ちで一撃を貰ったとも。けれど、それで不利になったわけでは実はない。

 

「『衝撃吸収』+『身体液状化』。君の攻撃は効かなかった」

 

『あ……やべっ』

 

「今度こそ、死ね。もう手加減はなしだ『空気を押し出す』個性、+『筋骨発条化』+『瞬発力』×4+『膂力増強』×3」

 

 崩壊した建物が地下にまで叩き潰された。もちろん、それには球磨川の体も含まれる。

 

『……あは。いや、すごいね。こん――』

 

 もう一度。

 

『あの』

 

 もう一度。

 

『あ』

 

 もう一度。

 

『』

 

 何度も何度も。

 

「残念だったね、球磨川禊君。殺せないなら、死ぬまで殺すだけさ――」

 

 その一か所だけ完全に陥没し、どこかの秘境にありそうな大穴になるほど衝撃波を叩きこんだ。例えオールマイトでもまともに喰らえば耐えられないであろう程の破壊。

 

『殺せないから殺し続けるって、頓智(とんち)かよ』

 

 螺子がオール・フォー・ワンの頭に突き刺さった。今度こそ、個性を使う暇もなく。まるで因果を無視している。油断したわけでも、大穴から這い上がるのを見逃したわけでもないのに球磨川は隣のビルの屋上に立っている。

 

『けど、あれだけ殺されちゃ勝利とは言えないな』

 

 くるりと踵を返して路地へと消えていく。周囲にはもはや人影はない。

 

『また勝てなかった』

 

 残されたのは、自分が生きているどころか――見えていることに戸惑い、自らの顔を触っては輪郭があることに驚愕するオール・フォー・ワンだった。彼の体の惨状と言ったら一秒先には死んでそうだったのに。それが生きているどころか怪我が治ったのだ、終わって見ればこれ以上良い結果はないはずだが。

 

「なんだ、これは――」

 

 その胸にあるのは気持ち悪さしかなかった。集まって遠巻きに見ているヒーローどもを虐殺するような気は起きるはずもなく、ワープで逃げた。

 

 






 ヴィランとヒーロー。よく対極として語られる言葉です。町を破壊するヴィランと人々を守るヒーローといった具合に、確かに対立して戦っています。けれど、その見方はものの一面でしかないと思います。
 これを過負荷視点で見れば両者とも、溢れる才能を使って好き勝手しているだけの才能ある人間(スペシャル)でしかない。つまりエリートで一括りにできてしまいます。

 と、いうわけで球磨川君のエリート潰しの話でした。

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