個性社会の球磨川禊   作:黒箱BoX

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第3旋回 ヴィラン連合

 

 

「おい、こりゃどういうことだよ――」

 

 死柄木が机に腕を叩きつけ、個性で粉々にしてしまう。ヴィラン連合にダメージはなく、捕えた爆豪もお眠り中。今はセーフハウスの一室に隠れていて不安要素はそうない、はず……なのだが。

 

「やれやれ、台無しにされてしまったね」

 

 オール・フォー・ワンが現れる。彼もまた傷はない、どころか――

 

「せ、先生――あんた……怪我は?」

 

 見知らぬ男、見知らぬ声。それもそうだ、彼の素顔は死柄木すら知らない。なにせ、文字通りに”潰れて”いたのだから。他の面々に至ってはそもそも存在を、名前すら知らぬ者もいる。

 

「治されたようだ。まったく、ああいう輩には関わりたくなかったんだがね――」

 

 ふう、とため息をつく。その様は本当に疲れているようで。

 

「――なあ、あんたは何者だ?」

 

 荼毘が口を開く。当然、いつでも個性を発動できるようにした状態で。そう”知らない”。彼を知っているのは死柄木で、彼はこのことを隠していた。

 

「いやあ、怖いね荼毘君。僕は君の味方さ――ヴィラン連合を裏切らない限りはね」

 

「黒幕はあんたと言う認識でいいのか?」

 

 冷たく睨みつける。ボスだと思っていた存在が見知らぬ人間に”先生”などと呼び頼るのを見たら疑いもする。基本、ヴィランは独立独歩……自分が部下の部下など認めがたい。今でも同志ということで、死柄木に下ったつもりはない。そう、荼毘だけではなく誰一人として膝を折った記憶などない。

 

「駄目だね。全然だめだ。確かに脳無を作ったのは私だし、いくつか私の指示で弔にやってもらったこともあるがね――ヴィラン連合は弔のものだ。彼が指揮し、彼が導く」

 

「あんたが導いてるようにしか見えないんだがな、”先生”?」

 

 むろん皮肉。荼毘は一度聞いた名前を忘れるほど鈍くはない。わざと先生と呼んだだけだ。

 

「もちろん先達として教えられることは教えるとも。けれど、何をやりたいかは弔が決める。君らも、彼に共感して集まってくれたのだろう? そういう意味では僕も君たちと変わらない立場と言える」

 

「では、違うのは?」

 

「同志、というよりパトロンになるのかな。僕の立場で言えば教師よりも黒幕よりも、もちろん部下ではなく出資者というのが一番近い。ま、そういう意味じゃ黒幕かもしれないね。けれど、君たちのリーダーは弔に他ならない。大体お金を出したから僕がボスだなんて、君たちも認められないだろ? 僕のことは裏方の一人と思ってくれればいいんだよ」

 

「……」

 

「納得してくれたようだね。他に質問はあるかい?」

 

 見渡すと皆が押し黙る。思いつかない、というよりも圧倒的なオーラに気圧されている。これこそが全盛期のオール・フォー・ワン。並の精神であれば向かい合うだけで心が崩壊する。

 

「じゃあ、次の話だ先生。あいつ一体何なんだ?」

 

「ふむ、そうだね弔。それの話をしなければならないね。ただ――僕としても知っていることはそう多くないと覚えておいてほしい」

 

 滔々と講義のように語り出す。

 

「まず、彼らの特殊能力は個性ではないと言うことだ。いや、では何なのかと言うのは分からないがね。入手した廃病院のデータによると”個性因子を攻撃する”個性によっても異常性の消去を確認できないと言う症例が記録されている」

 

「そのデータも残っているのはわずかでね。襲撃してきた彼、球磨川禊と言うんだがそいつが研究病院を廃墟にしてしまったんだよ。そういう研究を主眼とした病院はいくつかあったんだが、それも潰されてしまってね。彼ではなく、別の――そう、過負荷(マイナス)がやったと見ている。彼らの特異性は便宜的にそう名付けられていたようだ」

 

「いや、分からないけどね? そのデータが本当かどうかとか。ほとんど情報が入手できない。彼の危険度を鑑みて調査は常に行っているのだがね――分かったのは廃校になった学校のいくつかに彼の痕跡が見えたと言うことくらいだ」

 

「さて、ここまで言ったら分かると思うがね。僕が今まで言ったのは分からないことが分かったと言うツマラナイことだよ。質問はあるかね、と言いたいが聞かれても答えられないので講義はやめていいかな」

 

 言い切った。

 

「――あれは幻惑系の個性じゃなかったのか?」

 

 死柄木が口を開く。ヴィランとヒーローの優位性で最も大きいのが個性が知られているかどうか。それがどういうものか、知っていれば対策はたやすい。

 

「違うね。いつの間にか僕が治されていた。まったくもって、なぜこんなことをしたのか謎だけれど――これがどういう力なのかはさらに謎だ」

 

「治療系……ということもなさそうだが」

 

「いや、本当に何なんだろうね。螺子の生成、変形すらもやっていたけど――そもそも個性じゃないのだから能力としてひとまとめにできるようなものでもないかもしれない」

 

「何もわからないってことかよ。……くそが!」

 

 沈黙が下りる。ここで球磨川と戦えと言われて頷ける者はいないだろう。わけのわからない不気味さ、そして正体の欠片すら見えぬおぞましさがひたひたと押し迫ってくるように暗闇のとばりが下りる。

 

「――で、だ。弔、どうするかね?」

 

「どうするって? 先生」

 

「おいおい、君がリーダーなのだから君が決めてくれなければ困るな。ま、僕に言えることはこのセーフハウスは万全でもないから数日中に引き払ったほうがいいということくらいだよ」

 

「……ち。ヒーローどもか。一々こっちの邪魔をしてくれる……ッ!」

 

 そう、あくまでヴィラン連合の敵はヒーローだ。球磨川はあくまで横から出てきた意味の分からない第三勢力に過ぎない。本来の敵を忘れているとあっという間に叩かれる。

 

「さて、さらに悪い話だがね。出せる脳無がないんだな、これが」

 

 じとりと他の面々がオール・フォー・ワンをねめつける。その目は雄弁に「都合が悪くなったから切り離すつもりか?」というじっとりとした疑いを語っていた。パトロンとしてはよくある話だ、旗色が悪くなったと単に逃げ出すというのは。

 

「ああ、いや。違う違う。僕がどうのではなくヒーローだよ。悪いね、生産工場をつぶされてしまった。というか、実は危ないところだったらしい。僕が帰るときにオールマイトはじめ豪勢なメンバーが見えた。始めから突入するつもりでパーティを組んでいたらしいね」

 

「「「……ッ!?」」」

 

 今度こそ、雰囲気は地の底まで落ちる。あのままだったら窮地だった。本来であればヒーローにしてやられていたという事実は耳に痛く。

 

 そう、球磨川に滅茶苦茶にされて、ヒーローからは命からがら逃げ伸びる――そんな己のふがいなさに歯噛みする。「もう、自首してしまえばいいんじゃないかな」誰一人として言う者はいないが、その程度には弱気になっている。

 

「ふざけんな!」

 

 死柄木がもう一つ机をつぶす。

 

「お前ら、いい様にされたままで満足か!? 俺たちの、ヴィラン連合の目的を思い出せ! 俺たちはこのくそったれなヒーロー社会をぶっ潰すために集まった! まだ終わってねえだろうが!」

 

 激情の本流。だからこそ、沈んだこの場の雰囲気にしみて。

 

「傷が治った先生ならオールマイトなんざ敵じゃねえ。なら、俺たちが他のヒーローを抑えてやる。オールマイトを倒し、くそったれな平和を破壊してやろうじゃねえか」

 

 その熱意に感化され、否。初めから熱量はあった。ただ球磨川の気持ち悪さに心が折れかけていただけで。ゆえにこそ、この説得は多大な効果をもたらす。

 

「……ふ、その通りだ。さすがは弔。僕としたことが視野が狭まっていたみたいだ。あれをどうするかということばかりに思考が行っていた、初志貫徹こそ成功のカギなのにね。そこまで言われたら仕方がない――僭越ながら僕が主役を務めさせていただこう」

 

「だが、あの男がまた現れたら――」

 

「あの過負荷(マイナス)にヒーローと協力なんてできるはずないよ。ならば、無視してしまえばいいのさ。マイナスなどね」

 

 オール・フォー・ワンが断言する。意味不明のマイナスにおいて確実なことと言ったらそれだけだ。ヒーローを横から殴りつけはしても協力はない。

 

「頼むぜ、先生。それと、ついてきたくない奴は来なくていい。ここでヒーロー社会が終わるのを待っていろ」

 

「おやおや、弔。ここは俺について来いという場面だと思うのだけどね」

 

「足手まといはいらねえ。やるぞ黒霧」

 

「あんなこと言っておきながら私は強制参加ですかーー」

 

「なんだ。嫌だったか?」

 

「まったく、あなたという人は。仕方ありませんね、付き合ってあげましょう」

 

 死柄木は笑みを浮かべ、言う。

 

「さあ、ヒーロー社会の終焉ってやつを農的な阿呆どもに見せつけてやろうじゃねえか。なあ、爆豪君よ――」

 

 いまだ眠り続ける爆豪に嘲りを向けて。

 

 

 

 彼らは気づいてはいない。己たちは順調、どころか破滅に向かってまっしぐらだということを。確かに彼らは先だっての戦いで負傷を残していないし、球磨川に対して圧倒的にぶちのめして勝利を得たといってもいい。

 

 ゆえに気づくこともない。この勝利によって生き方が螺子曲げられてしまったことなど――露も。

 

 オール・フォー・ワンは表舞台に立つ気がなかったし、死柄木もまた”誰かに任せる”ことと”誰かに頼ってやってもらう”ことの違いは分かっていたはずだった。ことここに至って、初志が決定的にずれてしまった。

 

 ずれた歯車が回り出す。壊れた機械が動けばどうなるかなど明白なのに、当人だけは気付かずに。

 

 






 今回は球磨川に勝ったことによって、どう螺子曲がってしまったかの回でした。ちょっとつまらなかったかもしれませんが、破滅の足音を聞いてもらえたら書いたかいがありました。

 ヴィラン連合の行動を一言でいえば特攻です。彼ら、敗北感とか持っちゃいましたから。そして、それが過負荷と関わるということなのかなと思います。それと関われば破滅する、それが生徒会戦挙前の球磨川なのかな、と。

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