「そんな……なぜ……ッ!」
もはや両腕ともピクリとも動かせる状態でなく、そして体は枯れ木のように頼りない。もはやエネルギーなど寸分すらも残らぬ体のオールマイト。全力をさらに飛び越えて、倒したと思ったのに。
「はは、自慢するようなことじゃない。確かに効いたさ、あの一撃は。ああ――僕の体が治ってなければ、倒れていただろうねえ」
立ち上がったオール・フォー・ワンはぱんぱんと適当に服のほこりを払う。
「――ッ!」
絶望とともに理解する。始まる前から満身創痍のオールマイトと、なぜか傷が治っていたオール・フォー・ワン。その差だった。防げたわけではない、効いていないわけでもない、ただ削り切れなかった――
「さあ、さよならだ」
渦巻く衝撃波。それを避ける手段などオールマイトにあるはずもなく。すでに残り火は燃えカスどころか欠片すらも残ってはいない。
「……すまん!」
誰に謝ったのか、オールマイトの悔恨もろとも黒い渦が飲みこんで――
「おやあ?」
「え? なにが――」
外れていた。衝撃波が吹き飛ばしたのは木々だけだ。
「ああ、君の拳は痛かったからね。ふらついてしまったよ。けれど。二度はない」
もう一度。ダメージで狙いがずれたのなら、当たるまでやればいい話だ。もはやオールマイトは動けない。
「……諦めん!」
だが、そこにオールマイトは希望を見た。もう体力がない? 個性が消えた? 人を救うべきその両手はすでに折れている? それがどうした。そんなものは関係ない。なぜなら。
「なぜなら、私がヒーローだから!」
力のこもった両目でオール・フォー・ワンをにらみつける。
「はは。そういう目をしてくれないとね。憎い君が何かができるはずと信じて――むごたらしく何もできずに死ぬ有様が僕は見たい!」
衝撃波。二度目はない、今度こそ命中した。もちろんぶれてはいる、それでも広範囲な衝撃波はオールマイトを薙ぎ払った。そのはずだった。
「いや」
か細い声。ともすれば聞き逃してしまいそうな。多少ずれたところに彼がいた。幸運にも攻撃どころか余波も喰らわなかったらしい。
「なに!? いつの間に――だが、奇跡は三度も起きないよ!」
衝撃波。
「ヒーローはなぜ立ち上がるか知っているかい?」
もう一度。けれど声は消えやしない。
「……ッ! なぜだ、なぜ生きているオールマイト。ワン・フォー・オールを失った貴様に個性はない。かわすことなどできないはずだ!」
「それは助けを呼ぶ声が聞こえるから」
訳が分からなかった。今のオールマイトに戦う力など何一つないはずなのに……ッ!
「馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な――個性を使わずにヴィランと対峙する? そんなの、君が作り上げた個性社会に対する反逆じゃないか!」
「その声ある限り、ヒーローは負けないんだよ」
幽霊のように、実体がないかのように何度衝撃波を放っても倒せはしない。では接近戦に切り替える? そんな馬鹿な、先ほどはそれで手痛い反撃を食らった。つまるところはトラウマだ、自覚しないうちに接近戦を避けている。
「ふふ。ふははははは――ヒーローは負けない? 助けを呼ぶ声がある限り不死身? ならば、その声を断ってくれようじゃないか!」
遠距離戦でも接近戦でもダメ。ならば中距離なんてトンチはやらない、そんなものはしょせんどっちつかずだ。ゆえに、第4の選択肢を――そして同時に揺さぶりを。
「それは無理だよ、オール・フォー・ワン」
けれど、その声は冷静そのものだ。
「はは。確かに人里離れたここなら他人の姿など見えない! けどね、オールマイト。どうせ君のことだから助けを呼んでいる奴という言うのは! テレビを見て応援してくれる誰かとか、顔も知らない奴らのことを言っているんだろう!?」
「……」
「ならば、”ここ”から抹殺してあげるまでさ! そう、わざわざワープする必要すらもない! 毒の個性! さらに風を操る個性! その他もろもろを足して日本中の人間という人間を虐殺してくれよう!」
「……」
「どうした? 言葉もないかい? やると言ったら僕はやる。それともできないといいたいのかな君は――ッ!」
「ああ、無理だ」
それでも、オールマイトはまっすぐ前を見て――笑顔を見せるのだ。
「ッそんな屈辱を受けたのは初めてだよオールマイト。そこで後悔するがいい。こんなことになるくらいならさっさと死んでおけばよかったとね! 君のせいでみんなが死ぬよ! あは。あははははーーッ!」
「それをやっても声は消えない。なぜなら、君から聞こえたんだよ、オール・フォー・ワン」
「何を馬鹿な……! 僕の何が聞こえたと――」
愕然として、おかしさすら覚えて。憎み合う僕らが、何を今更と唾を飛ばす。
「助けを求める声が聞こえた。だから助けるだけさ」
「……ッ! とうとう狂ったか、オールマイト。そんな有様で引導を渡すのは気が進まないがね、さっさとくたばってしまえ」
けれど、当たらない。当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない――
「っぜ! ひゅ――」
個性の連続使用に制限があるわけでもない。けれど、個性が走るのと変わらない身体能力である以上は体力という限界がある。オール・フォー・ワンは限界に上乗せするスキルを持っているが、彼方に吹っ飛ばす能力は持っていない。「疲労をなかったこと」にできる球磨川とは違う。
「さあ、君は罪を償うんだ。大丈夫、恐くないさ――私がついている」
そして、オールマイトは疲労し膝をつくオール・フォー・ワンに手を差し出した。ぼろぼろの手を、笑顔で。
「ッその、へらへらとした笑顔が気に入らないんだよ!」
腕を肥大化、先の殴る一撃にさらにいくつもの個性を乗せる。究極絶対、もうかわすも何もない。文字通りに全てを壊す完全の一撃。先のオールマイトと同じ限界の先にある究極の一。差し出された手を払うように上に向けた攻撃でさえ、その一撃はこの土地すらも消滅させる。
「ずっと君のことを調べていた。ずっと君と戦い続けてきた。だから分かるさ、君にあるのが悪意だけなんじゃないってことは」
とん、と胸を押した。
「……あ! かは!」
それだけで、森林ごと消滅させるはずの一撃は無効化されてしまった。やっていることは集中をかき乱しただけだ。馬鹿馬鹿しいほどの数を複合した個性の融合、ならばいい具合に叩いてやれば集中を失い相殺して霧散する。もちろん張り詰めた水風船を突けば破裂するだけ。こんなものは努力や才能で到達できる域を超えている。
「ぐぐ……ぐーー」
そして、限界。オール・フォー・ワンは当たり前に疲労で動けなくなってしまった。限界を超えたのだ、それが普通。
「君の生き様、悪のカリスマと呼ばれたのはただ自分のためだけじゃなかったんだろう? 個性黎明期、まだ個性の認知がされず虐げられていた時代に君は立ち上がった。それが自分のためだけではなかったと、私は信じている」
「……違う。僕は。僕は――」
動けなくなった体でオールマイトを見る。誰にも理解されることがなかった。けれど、この男だけは。そう、思いかけて。
『改心とかうざってえな。どうせそれも同情狙いとかだろ? 貫けよ、男ならよ。情けねえ』
螺子が刺さった。
「………………あ?」
オールマイトが目を見開く。
「――」
オール・フォー・ワンの目から光が消える。
「ああ。あああああああああああああああ!」
明らかに致命傷だと見て取って。
『おいおい、そんな叫ぶなよ。まるで僕が人を殺したみたいじゃないか』
球磨川が笑っている。へらへらと――同じ笑うでも、人によってはこれほど違う。オールマイトのそれとは180度違う、ただ自分のためだけの笑顔。
「なぜだ。なぜ、君は――ッ!」
『よく見てよ、僕は君たちみたいなけったいなスーツは着ていない。つまりは一般人なんだ。だから、ほら――その人に螺子を突き刺したのも僕じゃない』
そう、両手に螺子を持って言う。”犯人は自分じゃない”などと恥知らずに
「分かり合えるかもしれないと思ったのに……!」
『だから、僕は悪くない』
そいつは言ってやったぜ、みたいな笑みを浮かべた。
「――ッ!」
思わず、こぶしを握り締めて。うめき声が聞こえた。
「……オール・フォー・ワン?」
突き刺さった螺子が跡形もなくなった彼があどけない瞳でオールマイトを見つめている。その姿におぞましい何かを感じて――
「オール・フォー・ワン……ッ!」
その彼が口を開く。
「……パパ? ママ? ここはどこ?」
「――あ。なあ……」
ただならぬ、どころではない。ふざけている様子は露もない。大の大人が、まるで親とはぐれた子供のように――
『彼の記憶をなかったことにした。ほら、改心したら犯罪の記憶に苦しめられてしまうだろう? だから解放してやったのさ』
そして、それは事実だ。今や裏社会のドンと呼ばれた最悪の人物はただの子供と変わりない精神に戻ってしまった。罪も罰も置き去りにして。
「なかったことにした。だと……ッ!」
『精々救ってやるといい。僕は君と関係ない場所で、無責任に応援しているよ。だって、僕は悪くないんだから』
「待て……!」
オールマイトは手を伸ばして。彼はどこかへと消えた。
ヴィラン連合編は終了です。他の人たちは元々特攻だったので、ヒーローにつかまって終わりでした。要望があるようなら司法取引とかで本編に出そうかなと思っています。基本、過負荷はアンチヒーロー的存在だと思っているので出さないとヒーロー側に戦力が足りない気が……
ちょっと破滅の道筋について解説
球磨川にぼこぼこにされて心が折れる → 居場所分からん、しかも球磨川は二度と勝ちたくもないほどおぞましいから会いたくもないし → じゃあ元々の目的だったオールマイト潰しやるか → オール・フォー・ワンにオールマイトを叩いてもらって連合は支援に来たヒーローどもを抑える係に別れよう → いつまで持つかとかより、それ以前に脱出手段考えてないからお縄についた
ということでした。黒霧はヒーローが対策済みです。ヒーロー側も特性知っていれば何とかできるでしょう。数が多い分ピンポイントに刺せるヒーローが居ても何もおかしなことはないし、そもそも一人で逃げたところでセーフハウスがなくて浮浪者としてしょっぴかれる羽目になるはず。