あの後、緑谷含む勝手に爆豪救出に向かったメンバーは相澤先生をはじめとする教師陣にこってり絞られた。それでも救出に手間こそかかったが、爆豪は無事に救出された。生徒と関係ないところで。
犯人も逮捕――やっぱりオールマイトは流石だと言いながら世間は日常に戻って行った。雄英もヴィラン連合がつぶれたことで一安心して授業に戻る。
クラスまとめて怒られて意気消沈していたAクラスだけども、そこはやっぱりヒーローの卵。立ち直りも早い。ヒーローが打たれ弱くては仕事にならないということだろうが、その辺の資質はばっちりと言えた。
「――転校生だ」
との言葉にA組は飛び上がるほど喜んだ。ヒーローを目指す者であるからには童心を忘れない……いや、まだまだ子供ではあるが。一々テンションが高いのもこのクラスの良いところだといえるだろう。ただ一人、馬鹿馬鹿しいものを見る目で見るやつがいるが。さらわれた爆豪である。
馬鹿馬鹿しい目というからにはもう一人のことも忘れてはいけない。相澤先生もまた、冷めた目で見ていた。
「おい、うるさいぞ。さっさと黙れ。合理的じゃないな。一人増えた分減らすぞ?」
ピタっと静かになった。冗談という雰囲気がないのだ、この人は。
「ええと……ご紹介に預かりました球磨川禊です。よろしくお願いします」
ごく普通の学生服を着た彼はぺこりと頭を下げた。クラスは受け入れる雰囲気だ――なぜなら、球磨川のマイナスな雰囲気はすっかり鳴りを潜めているのだから。こういうことも”できる”のが彼だ。
「――ッ!」
気に入らないのが爆豪だった。殺されたのを忘れていない……いや、生きているが。それが全く意味が分からない。なんで死んだのに生きているのか。うれしいどころか不気味なだけだった。
そして、その現象を引き起こしたと目星を付けた奴。あの訳が分からなく気持ち悪い奴が、いきなり現れて当然のようにクラスに転入してくるのも意味が分からないし、何より腹立たしいのはあの時自分が何をされたのかまったくもってわからないことだった。
「--クソが」
こっそりと毒づく。プライドの高い彼にはこの上なく気に入らないのだ。動ける状態でなかろうと負けたこと。わからないことがあること。だが、この雰囲気で仕掛けるほど直情的な馬鹿にもなれなくて。
『――あ、爆豪君じゃないか。テレビでやってたよ、ヴィランにさらわれたんだってね。手も足も出なくて大変だったね』
だから、そう話しかけてきた球磨川にブチ切れて――
「っテメエが!」
最大火力での爆破。体育祭での振る舞いを見ればわかる、彼ほどスペシャルらしいスペシャルはいない。気難しいのも、才能屋のテンプレート。つまりは球磨川の毛嫌いする”才能があるから努力できる
『っぐは!』
その球磨川はおもむろにパンチを受けて倒れこんだ。
「――ッ!?」
「やめろ、爆豪――除籍するぞ?」
つまり、これはイレイザーヘッドの”個性を殺す”個性。爆破が無効化されていた。それでも、爆豪の手から個性を使った名残、ぷすぷすと煙が出ている。
「お、おい爆豪……」
切島が話しかけるがその声は弱弱しかった。
『待って。無神経なこと言っちゃって怒らせちゃったんだね。ごめんね、僕が悪かった』
殴られた箇所を押さえて座ったままで球磨川は弱弱しく言った。
「--ッ!」
そして、球磨川は爆豪にだけ見えるように薄ら笑いを浮かべるのだ。
『思わないかい? ”馬鹿だろ、こいつら”って――』
その声はなぜか爆豪以外の耳には入らなかった。
そして。
「爆豪君! さすがにヒーローとして、いやそれ以前に人として話しかけてきただけで殴るのはどうかと思うぞ!」
委員長、飯田がおかんむりだ。
「そーだそーだ。乱暴すぎんぞてめー」
などと他のヤローどもからもヤジを飛ばされ。
「大丈夫でございますか、球磨川さん?」
八百万が手を差し出した。
『え? これ、夢かな? ありがとう。実は僕、美少女に手を差し出されて立たせてもらうためにヒーローを志したんだ』
喜色満面な球磨川に彼女は苦笑して。
「もう、冗談はやめてください。むしろヒーローならば手を差し出すほうにならなければならないのですわよ」
立たせてあげた。爆豪には茶番にしか思えない。なんでこのわざとらしい演技を信じているのか。”馬鹿だろ、こいつら”などと思い――背筋が凍った。先ほど言われた言葉は爆豪の感想を先取りしていた。
『いやあ、転校してきて良かったよ』
「っけ。ほんとーによーござんしたねえ」
黒い波動が放たれる。もっとも、それに力があるとすれば女子を寄り付かせないくらいだろうが。峰田だった。
「てめえ、わかってんだろうな? 八百万のおててに触れるということがどういうことか――うらやましいぞコンチクショー」
「はい、あなたは引っ込んでましょうね峰田ちゃん」
蛙吹がつまみ出そうとして。
「貴様ら、本当にクラスまとめて除籍されたいのか……?」
その目は本気だった。
そして、授業が終わる。拍子抜けするような一日だった――意外といえば転校生の頭が悪かったことくらいだろう。成績の悪さで除籍されそうなほどで、入学……というか転校できたのが不思議なほどだった。
「--質問があるようだな、蛙吹」
ただ一人、彼女だけは話を聞くために教室に残った。
「ええ、相澤先生。球磨川禊君って――何?」
「誰、ではなく”何”か。お前にはヒーローの資質があるよ。だが、それを言うなら爆豪は失格だな」
「それは……みだりに個性を使ってはならないから? 確かに今日のあれはどうかと思ったけど」
「それは違う。ヴィランに何もさせない、という点で思い切りは重要だ。攻撃されるまで手を出せないヒーローどもは多い、そういうやつらは総じてレベルが低い。が――あれは別だ」
「……別?」
「お前はそれを感じ取ったから話しかけてきたんだろう? 個性が個性だけあって本能が鋭いのか。アレはな”立ち向かってはいけない”敵だ」
「――――――それは、ヒーローでも? それとも、オールマイト先生に任せるってことかしら?」
「少なくとも、個人で戦うべきではない。そして、卵が相対していい相手ではない。お前は手を出すな、黙っていろ」
「でも、それじゃ……!」
「俺たちが何とかする。――信じられんかもしれんがな」
「そんな……そんなことは……ない……わ」
「いいか? じっとしていろよ。あの類は注意をそらすためだけに全く無関係な人間を手にかける。気づかれたと知った時点で凶行に出る可能性がある」
「……ッ!」
相澤先生は息をのんだ蛙吹を置いて去っていく。その瞳に決意を載せて。
「--」
けれど、蛙吹は安心感どころか泥をのんだような不快感と不安をないまぜにしたような気分が晴れないのだった。
球磨川、転校の巻。どの裏口を通ったかは次回で。