re.真・女神転生 Ⅲ Biginning king of chaos 作:ブラック・レイン
たどり着くべき場所にたどり着けない。そんな旅路の何万回目のスタートを切った人修羅とピクシー。扉を開き、部屋から出ればそこは薄暗い通路だった。
ここは『シンジュク衛生病院』受胎の始まりの場所であり、人修羅にとっても始まりの場所。二人が今いるのはその地下通路である。
受胎の首謀者の1人、氷川はこの病院を拠点とし、この地下で受胎の準備を進めていたのだ。
人修羅の愛しき友である『新田 勇』曰く、元々この病院には『カルトの息がかかってる』だの『違法な人体実験が行われている』といった怪しい噂が後を絶たなかったそうだ。
恐らくは氷川も隠蔽工作はしていたのだろうが……噂になっている分どこかそれに詰めの甘さを感じざるを得ない部分がある。
人修羅は過去にこう考察していた。『恐らくは自分を止められる者などいないと考えていたのだろう』と。
氷川の持つ悪魔の軍事力は強大だ。夜魔や妖魔などの中級悪魔から魔王や邪神といった強大な種族の悪魔すら氷川の思想に賛同し、傘下にいるのだから。
軍としての力はいわずもがな、恐るべきは軍事施設とでも言える拠点を、受胎後に複数用意することが出来ているということだ。
対悪魔専用の大量殺戮兵器兼創生に必要なエネルギーである『マガツヒ』を大量に集める装置である『ナイトメア・システム』を有する拠点『ニヒロ機構』
そのナイトメア・システムの中枢である塔『オベリスク』
この2つは氷川率いる『ニヒロ』もしくは『シジマ』と呼ばれる集団の重要な拠点であり、その2つが存在する『ギンザ』『マルノウチ』『チヨダ』は氷川の領土と言っても過言ではない。
一応、氷川に楯突く勢力もいるにはいるが……彼らは言ってしまえばごろつきやならず者の分類に入る悪魔であり、軍としての機能は『ニヒロ』に大きく劣る。
『ニヒロ』に対抗出来る勢力は実質今は存在せず、今は氷川の独走状態にあるということだ。
一刻も早く、氷川の出鼻を挫くために人修羅はギンザに向かわねばならなかった。そのためには、この病院の急ぎ脱出が第一目標になる。
「まぁ、その前に……」
人修羅は通路を曲がった所にある1つの部屋に目を向けた。そこにはある男がいるのだ。
協力者であり、裏切り者である。哀れで愚かな男が。
「……別に会わなくても良くない?」
ピクシーがそう言うが人修羅は首を振る。
ヒジリはターミナル……正式名称『アマラ輪転鼓』の扱いに長けるようになる。人修羅もターミナルの扱いは出来なくもないが、簡単な操作しか出来ない。
ターミナルは『アマラ経絡』と呼ばれる巨大かつ複雑な回廊に繋がっており、そこからボルテクス界の様々な情報をヒジリは集めるのだ。
その情報収集能力は欠かせない。たとえ、裏切られるとしても。
人修羅はクッと拳を一瞬握った後、それを放し、扉に手をかけた。
人修羅がその部屋の扉を開けると部屋の中央にある巨大なオブジェを調べていたであろう男がビクンと体を震わせた。
「誰だ!!」
恐怖ゆえか顔をひきつらせていたが、人修羅を見るなりその顔を恐怖から驚愕のものに買えた。
「お前……公園であった小僧か……?」
「………あぁ」
ヒジリの問いかけに人修羅は一拍間を置いて肯定する。『公園であった』とヒジリは言うが、人修羅にその記憶はぼんやりとしか存在していなかった。
ぼんやりと光る人修羅の体の模様が気になるのか、キョロキョロと人修羅の全身を見るが、ふと人修羅の隣に飛ぶ者に気付き、ギョッと眼を剥いた。
「なっ、そいつは悪魔じゃないか!?なんでお前といるんだ!?」
仰天しながらヒジリはピクシーを指差す。その様にピクシーは堪に触ったのか、顔をしかめた。
「何よ。こんなプリティで愛らしいピクシーちゃんを見ておいて、まるで醜い怪物を見たみたいな反応するなんて失礼しちゃうわ!」
「お、おぉ……」
ピクシーの安い怒りの言葉にヒジリはどう反応して良いかわからない声をあげた。
このままだと会話に埒が開かない。そう判断した人修羅は話をもとに戻すように言葉を投げ掛けた。
「あ、あぁ……そうだな。こんなことしてる場合じゃなかった……」
見た目子供の人修羅に諭されたのが恥ずかしかったのか、ヒジリはばつの悪い顔をしながら話を進め始めた。
そこから先はヒジリに変化はなかった。多少の違いはあれど、ヒジリが人修羅に何が起こったのか問い、受胎が本当に起きたのかもと戦慄し、人修羅に調査を願う。この流れは、幾度のループの中で何度も何度も行われたことだ。
人修羅は調査に協力することを肯定した。普通の人間であるヒジリでは、最弱の悪魔であるウィルオウィスプにも劣る。
そして人修羅はターミナルのある部屋から出ていった。
「さて……ここまで来たわけだ……」
ヒジリの依頼を受け、人修羅はエレベーターの前にたどり着いた。
シンジュク衛生病院の地下から上階へと抜ける道は2つある。その1つがこのエレベーターだ。
もう1つ階段から上階へといくルートがあるが……そちらに行くには分院側からゲートを開けなければならず、人修羅が今いる本院側からは現在そのルートを使うことが出来ない。
今の人修羅にもっと力があればゲートをぶち抜く方法が取られるが……無い物をねだりしても仕方がないもの。行けるルートを取るしかないのである。
が、このルートに問題があった。
「また……仕掛けてくるんだろうな……」
人修羅は脳裏に車椅子に乗った老紳士を浮かべながら呟く。
「貴方なら簡単に突破出来るわよ。男でしょ?ビクビクしないで行くわよ!」
「……別にビビったわけじゃ……ないさ!」
ピクシーの安い軽口に返しながら人修羅はポチッとエレベーターの上に行くためのボタンを押す。エレベーターの現在位置を示す数字の点灯が2から1になり、そしてB1を指し示した。すると……
人修羅のピクシーは転移された。
人修羅とピクシーは病院の暗い通路から赤い通路にいた。
ここは【アマラ深界】幾多の世界を内包した【アマラ宇宙】その最果てである。
何回目になるか。ループを繰り返す人修羅を謎の老紳士がここに誘うようにここに転移させたのがここに来た始まりになった。
老紳士の正体も、目的も人修羅は理解していた。だがその道は人修羅の願いを踏み潰すものでもあった。
故に、人修羅はここの最奥までたどり着いたことは一度もなかった。
だが………
「運命の打倒か……」
脳裏に浮かぶは、その五文字。
「……その道を行くのもありよ。人修羅」
「……冗談」
諦めきれないように言うピクシーに頭をふる人修羅。だがその声は弱々しかった。
それは恐らくこの繰り返しを断ち切る道になるだろう。
その真実が人修羅に囁くのだ。復讐せよ。運命を打倒せよと。それしか、お前に道はない、と。
「そんなわけない」
脳裏に浮かぶそんな考えを人修羅は一蹴し、歩む。
通路を少し進むと床に水が溜まっているエリアに出た。水位もそれなりにあり、人修羅のくるぶしまで浸かってしまう。
「………」
それに構わず、人修羅は進む。ザブザブと音をたてながら進む人修羅は一見無警戒だ。そこへ……
「オオン!!」
悪魔が現れた。
ピンク色の靄のような体を持った最弱の悪魔、外道 ウィルオウィスプ。それが
「……援護はいる?」
指先に電撃を走らせながらピクシーは人修羅に問う。
「……お前の手を、煩わせる必要もないよ」
首を振りながら人修羅はウィルオウィスプの群れに歩んでゆく。
「ウゥゥウウウッ!!」
狂乱の叫び声をあげながらウィルオウィスプ達は人修羅に突っ込んでゆく。数で上回っているという事実がそれに拍車を掛けてゆく。
それが、死への片道キップであることも知らずに。
先頭のウィルオウィスプと人修羅の間合いが五メートルを切ったその時だった。
バァン!と床に溜まった水が弾け、
人修羅がウィルオウィスプの群れを駆け抜け、
そして人修羅とピクシーだけが残った。
バッシャア!!という音が9つ響く。1つは人修羅が駆けるときに蹴り飛ばした水が地に落ちた音。残りの8つはウィルオウィスプが弾けた飛んだ音だ。
「サヨナラ」
無意味な別れの言葉を、無感情に告げる人修羅。それはまさに殺戮マシンという言葉がふさわしかった。
「また速くなったわね、人修羅」
「これだけ殺ってりゃあな」
ウィルオウィスプ達を殴り殺した感触が残る拳をグーパーしながらも、人修羅は歩みを止めない。殺しも、歩みも、人修羅には変わらない。
続いて現れる悪魔。幽鬼 ガキと地霊 コダマが
「コダマは私にちょうだい」
ピクシーの言葉に人修羅はうなずくと再び駆けた。今度はピクシーの放つ雷撃とともに。
バッシャア!!バチィ!!
人修羅の速攻とピクシーの魔法の早撃ちは悪魔達に行動を一切許さない。現れたらその都度、殺す。
ウィルオウィスプとガキが同時に現れた。殺した。
コダマが5体現れた。殺した。
ガキが12体現れた。殺した。
殺した。殺した。殺した。
そして、静かになった。
「ネタ切れかね」
首を傾けて人修羅は言う。
「多分ね。フッ……」
電撃を放ちすぎて煙を上げる指先を、ピクシーは一息吹いて煙を消す。
その間も人修羅とピクシーは歩みを止めない。歩むその速さすら落ちてないのだ。疲れの色さえ、見せてない。
場数を踏みすぎた彼らにとって、この程度は障害にすらならないようだ。
もしそんな彼らに障害となるようなものがあるとするなら、それは……
「「…………」」
通路を抜けた先、そこにあの二人がいた。
謎の老紳士と喪服の淑女。このアマラ深界の主とその側近は二人を見て笑う。力強く、凶悪と言っても過言でない戦闘力を持つ二人が、まるで自分のことであるように楽しげに笑う。
そして老紳士は二人に指先を向ける。
すると……
二人はシンジュク衛生病院に戻っていた。
「………あの爺さんもさ。なんかくれないのかね」
「景品みたいなのが?」
「うん」
益体もない話をしながら人修羅とピクシーはエレベーターに乗る。その様はまるで学校のテストに愚痴る学生のよう。
普通戦闘をこなせば、勝とうが負けようが何がしかの心境の動きはあるはずなのだ。だが二人に落胆や興奮といった物は影も形もなかった。
彼らは壊れている。悪魔という破綻した存在の中でも、さらに壊れている。
山のように築き上げたキルスコア。大河の如く流した敵の血。
勝つのが当たり前、殺すのが当たり前。二人にとって殺しとは日頃から行われている作業なのである。
そこに感動などあろうものか。
人修羅とピクシーはエレベーターに乗り込むと一階に向かった。目指すは、この病院を現在我が物顔で占拠している哀れな悪魔。
名を、堕天使 フォルネウス