名無し 作:名無しのR
「翠雨!!黒龍だ!!構えろ」
「はい!!」
綺麗な夜空を覆う黒い翼はまるで、希望を覆う絶望のようだった。そして絶望は口を開いた。口からは黒い炎が迸り、地面を覆った。
「っっ!!詠唱開始!!弓を引け、剣を構えろ!!」
「やりますよ!!」
翠雨と団長は炎が包む大地を駆け抜けた。後ろからは無数の矢と魔法が飛び交う。そして黒龍に直撃した。が、黒煙の中で悠然と立っていた。
「魔法が効かない!?」
それもそうだろう。黒龍の全身を黒い鱗が覆っていた。黒龍が攻撃するごとにどんどん人は減っていく。家屋が音を立てて燃え、戦士達は悲鳴すら上げずにどんどんと倒れていった。
またこの夢だ。昨日の続きだ。枕元から懐中時計を取り出して時間を確認すると長針はIVの文字を指していた。こうしては要られない準備をして部屋から出た。
「あ、時雨」
部屋からでた瞬間にアイズに遭った。
「どこにいくの?」
先ずはベルの訓練だ。そして終わったらダンジョンに籠ろう。ランクアップしたい。
「ある冒険者の訓練をしてからダンジョンに行きます」
そう言ってアイズに行ってきます、と伝えてから黄昏の館の窓から飛び降りた。朝日が照らす市壁へと駆けていった。
「うん。いい動きですね」
「ありがとう、、ございますっ!!」
ベルが漸く反撃出来るようになった。でも下腹部を蹴られて飛んでいく。
「受け身をとって?」
空を舞うベルに聞き掛ける。ベルは直ぐ様受け身を取った。
「反撃っ!!」
フェイントもしないで愚直に向かってくる。一見見れば単調だが、ナイフの持ち方、構え、力の入れ方、全てが研ぎ澄まされてきている。
「良いですね」
ベルの顔に回し蹴をする。
「ぐほぉっ!」
倒れたベルに手を差し出す。
「ありがとうございます」
お礼を言ってベルは僕の手を取った。
「僕、どうですか?」
「どんどん強くなっています。ナイフの持ち方、構え、力の入れ方が良かったです。だけど体術が少し甘いですね。次は体術の訓練をしましょう。正直ナイフの使い方はかなりいいですからあと体術を覚えられればレベル2の冒険者と渡り合えると思います」
ベルにそう言う。何だか嬉しそうにしている。市壁から飛び降りようとするが言うことがあった。
「今日も僕に刀を抜かせませんでしたね。次回は期待していますよ」
そして市壁から飛び降りた。一度本拠に帰ろう。それからダンジョンに向かおう。
朝食を食べて、歯を磨いて直ぐに本拠を飛び出す僕の手を誰かが掴んだ。
「時雨、私も行く」
アイズだった。でも今日はかなり無理をするつもりだ。
「すいまs「私も行く」」
一人では行かせない。そうアイズは言っているようだった。結局僕が折れてアイズと行くことにした。目的地に行く途中不意にアイズが聞いてきた。
「時雨が訓練している人ってだれ?」
「ベル・クラネルという僕と同じ白髪で兎みたいな人です」
そう言うと明らかに動揺した。
「その子が上達したら褒める?」
「?普通に褒めますが」
アイズは暫く俯いた。そして僕に言った。
「時雨、私にも稽古付けて!!」
いきなりどうしたんだろう。別に良いけれど。
「??良いですよ??」
アイズは嬉しそうな顔になった。絶対、フィンさん辺に教えてもらった方が分かりやすいと思う。勉強だって、僕よりリヴェリアさんに教えてもらった方が良いに決まっているのに。それで楽しくて分かるんだったらそれで良いのだけど。そんなことを考えているうちに大きな部屋に着いた。
白濁色の壁面に見えないくらい高い天井。アイズには待機を命じて、静かに足を踏み入れて空間の中心へ来たときに大きな地震が起こった。そして僕の前に階層主があらわれた。
「ウダイオス!!」
アイズが叫ぶ。手は出すなとハンドサインを送って、ウダイオスに向かっていった。
「
大太刀が雷を纏った。迅雷の如く、ウダイオスに迫っていく。そして肘の関節の赤く光る部分に刀を突き刺した。関節を刺されて痛がるウダイオスのもう片肘も潰そうかと思ったが僕の横から剣山が生えた。何処から剣山がはえて来るか、予測しつつ僕に襲い掛かってくるスパルトイを斬っていく。だが、片足が剣山に刺された。そのまま体を無数のが貫いた。
「時雨!!」
アイズの声が聞こえる。さらにもう一本、もう一本と剣が僕の体を貫いた。
「確かに時雨は強いけどっ!!、、でもっ!」
スパルトイが動けなくなった僕に斬りかかった。
「はぁー。やっぱり弱いなぁー。苛々する」
意識が切り替わる。体が自由になった。僕に斬りかかったスパルトイは吹き飛ばされ灰になった。
「久々の体だ」
異様な雰囲気。何とも形容し難い雰囲気で、アイズは震えた。そしてアイズは確信した。これは行き過ぎた恐怖だと。
突如ウダイオスが吼えた。
「
僕を追尾する剣山を避け、斬りかかるスパルトイを倒し、先程までと比べ物にならない速度でウダイオスに迫る。雷光迸る刀を構え、ウダイオスの関節に突き刺した。さらに鳴り響く咆哮と追尾する剣山。
「その
ウダイオスの赤く光目をみた。数秒間睨み合って動きだした。ただ剣山が追尾してこない。するとスパルトイの下から無数の刀が貫いた。
「!?」
アイズは動揺する。そんなアイズと僕にスパルトイが斬りかかった。僕はイメージする。死の戦士を。すると僕の前に大きな闇の渦が出来て、中から銀色の鎧を纏った。戦士が5体出てきた。どの戦士も尋常ではない殺気を放ち、その腰から提げた武器各々違えど不気味その物だ。
「狩れ」
端的にそう命令すると無数に沸くスパルトイを狩り始めた。
「一対一ですね。遺言は有りませんかぁ??その体じゃ言いたいことも言えないかぁ」
ウダイオスの体を貫いてる刀を更に奥深くまで食い込ませた。刀に悶え苦しんだ後ウダイオスが一瞬消えた。次の瞬間、爆音と共に現れた。その手のはさっきまで無かった筈の剣を持っている。
「本気になりましたぁ????良いですねぇ!!!!!!!!」
楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!!!!!まるで翼が生えた気分だ。僕は勝てる。目の前のこいつを動けなくして、遊んで、殺そう!!
武器を持ったが、自らを蹂躙する獣を前にウダイオスは動けずに攻撃を受けるだけになった。そして、頭骨を砕かれた。本来ならあり得ない光景である。ウダイオスの頭骨が砕かれる事など。そして灰になり、黒い剣と大きな魔石が鈍い音を立てて落ちた。だが、終わりではなかった。
「あああああああああ!!!!!!」
倒すものがいない。叫ぶ自分に近づくアイズに刀を向けた。刀を向けられたアイズは立ち止まって僕の顔をよくみた。
「今の貴方は時雨ではない。貴方は誰?」
「僕はっ!!僕は!!僕は!!僕は、、、誰?」
自分の状態が分からない。開かない左眼から涙が溢れる。そして倒れた。
「ん、、、」
見慣れた天井。間違いなくロキ・ファミリアのホームの天井だ。
「起きた?」
仰向けの僕の顔をアイズが除きこんだ。
「アイ、、ズ」
僕がアイズに刀を向けたことは確かに覚えている。
「済みません。済みません!!」
仲間に刀を向けた。本当に最低だ、僕は。
「ううん。良いよ」
気まずくなる。するとアイズが気まずい雰囲気を断ち切った。
「私は良いよ。でも時雨は大丈夫かな?さっきの時雨はとっても苦しそうだった」
そう言うアイズの顔は淋しそうで慈愛に満ちていた。アイズは立ち上がって部屋からでた。交代にリヴェリアさんが来た。
「どうだ、調子は?」
横になっている僕の隣にリヴェリアさんが座った。
「本来なら怒る筈だったんだが今のお前を見てそんな気にはなれない」
優しい顔でリヴェリアさんは話す。
「時雨、お前は休め」
僕の頭を優しく撫でた。
アイズもリヴェリアさんも居なくなった部屋で踞る。自分の醜さを呪う。するとまた部屋が開いた。
「時雨たん、起きたんやなぁ、どや?調子は?」
最悪だ。
「そんな表情するなって、何があったんかはアイズから聞いたで。時雨たんを37階層からここまで運んでくれたガレスにはお礼言っといてな」
挙げ句の果てに人に迷惑を掛けた。最悪だ。今の僕は酷い自己嫌悪に陥って頭に浮かぶのは、最低最悪の文字だけだ。
「そんなに思い詰めんといてな。時雨たんは仲間思いやからなぁ。今物凄い苦しいやろ?」
力なく頷く。自分を殺してしまいたい。
「あんま気に病むな。自分を嫌うな。わいが言えんのはこれだけやなぁ。それとリヴェリアにも言われたと思うけど少し休め。それとランクアップおめでとな」
ロキはそう言うと僕の頭を撫でて出ていった。先ずはアイズにもう一度謝ろう。そしてガレスさんにもお礼をしよう。そう決心した。