名無し 作:名無しのR
ただ白い世界に一人だけ立っていた。いや、この際一人だけという言葉が正しいのか分からない。目の前には僕がいたから。声を発しようとするが喉も口も動かない。すると僕が話し出した。
「君ってさぁ本当に可哀想な人間だよねぇ」
「君を言葉にするなら悲劇の塊だよ。生まれつき家族もいないし、猟犬として活躍した軍にも見放され、捨てられ、また拾われた」
「この世に絶対と永遠が存在しないみたいにいつかはあの人たちも君を捨てるよ」
五月蝿い、黙れ。
「君が何れだけあの人たちを思っていようが其れは全て紛い物だよ」
五月蝿い五月蝿い五月蝿い。例え紛い物だろうとあの人達が僕を家族だと言ってくれたとき、僕は確かに嬉しかった。ならそれでいいじゃないか。
「違うね。それはただの安心だよ」
違う違う違う違う違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。
「本当に可哀想な人。でもそんな君を助けられる方法があるんだ」
助ける?僕は助けられたいなんて一言もいっていない。
「酷いなぁ。でもこんな夢を見ているってことはね、本当の君は助けを欲しているんだよ」
「方法は単純。全て壊せば良いんだよ。ねぇ早く僕と変われよ」
「ハッ!!!」
僕の目の前には普通の空間が広がっていた。あの嫌な夢は覚めたようだ。それでも未だに息が荒い。もう一度寝ようと思うが寝る気にもなれず早起きして鍛練しようと部屋を出た。
「時雨か。早いんだな」
誰も居ない静かな廊下を歩いているとリヴェリアさんに会った。
「少し嫌な夢を見てしまって」
リヴェリアさんはそう言う僕を見て、頭を撫でた。
「時雨に何があったかは分からない。だからいつか話してくれ。話せるときが来たら」
そう言って僕を撫で続けた。
そして鍛練場に辿り着いたときに物音が聞こえた。先客が居るようだ。先客がいるからどうということもなく普通に入っていって的に向かって弓を構えた。
「君の武器は弓なの?」
先客の正体はアイズだっらしい。弓を構える僕の横に寄ってきた。
「主武器は違いますけどサイドアームとして使えますよ」
話しながら的を射る。見事中心に命中して、次の的、次の的と続けていく。
「すごい、上手だね」
「おはようございます。有難う御座います」
忘れずに挨拶をしながら的に刺さった矢を抜いていく。
「君って何歳なの?」
「詳しくは分かりませんが18辺りだとロキさんも、リヴェリアさんも言っていました」
「じゃあ私と同い年なのか」
「そうなんですか」
矢を全て抜き終わると次は木刀を構えた。
「えっと、君の主武器は?」
そう聞かれて、手に持っている長い刀と小刀を指した。
「この二つですよ」
そして空を切ってみせた。一通り振ると目隠しをした。
「丁度良いので頼みが有ります」
「貴女の持っている木刀で僕を相手に戦って見てください」
あからさまに動揺するアイズを他所に、手加減は要らないですよとだけ言うと感覚を研ぎ澄ました。すると左から気配を感じて後ろに下がる。まだまだ動揺が見えるな。
「手加減は要りませんよ?」そう言うと攻撃が変わった。精錬された動きだ。僕に襲いかかる突きの猛攻を全て避けた。さらに驚いたのか、本気の剣術にかわった。いつの間にか朝になったようで人の気配も周囲に感じられる。
アイズの本気の剣術は今までと打って変わって速い。全てを捌ききるのは流石に無理で幾つか体に当たった。次の攻撃で決めようと考えて構えた。右、左、右と横に動いて感覚を鈍らせているのがよく分かるが、それすらも理解されているのなら意味の無いことだ。そして剣が僕の体に直撃すると同時にアイズの手を取って少し力を入れて剣をおとさせた。相手の無力化に成功して目隠しを取った。辺りを見渡してみるが訓練場には思っていたより沢山の人がいた。
「危なかったです。本当の剣だったら負けていたかも知れませんね」
そう言いながら地面に座り込むアイズに手を伸ばした。アイズが僕の手を掴んだのを確認してグッと引っ張った。
そんな微笑ましい光景を壊そうとする人の気配も認識しながら