また新作を始めます。皆さん、出来る限り生暖かい目で見守っていただければ幸いです
闇が深く、鬱蒼とした森の中、一つの明かりが森を照らしていた。
そこには焚き木を組んで、夜を超えようとする一団があった。
テントを二つほど組み、その中央に焚き木の火を付けており、見る人がいれば旅人かと思うだろう。
夜も遅い故、テントからは近づけば寝息を聞くことが出来るが、そのテントの一つから長身の男性が出てきた。
背が男性の平均身長と比べても、高い事もそうだが、何よりもそれに見合った鍛え方をしているのか。
恐ろしいほどがっちりとした体を持った男は、それに見合う厳めしい顔…………とは言っても、そこまで年を重ねているようには見えないので、二つか三つくらい年を上に見れる程度の厳めしさだが。
ともあれ、その顔をぶら下げて、静かにテントから離れ、焚き木の方に歩み寄った。
勿論、それは単に起きてしまったから、とかではなく────────見張りの交代のタイミングだからだ。
否、厳密に言えば、それらを過ぎている、と訓練で作り出した体内時計が告げている。
今、見張りをしている人間の性格を考えると────────こちらの仕事を肩代わりにしようとしたか。あるいは…………と思いつつ、件の存在の傍に寄ったので、声をかける。
「エルス────────交代の時間だ」
エルス。
そう言われた人間は長身の男性に比べれば、背は小柄で、鍛えている事は確かだろうが、体質の問題か。
余り、表に出る事は無いような骨格をしており、見る目が無い人間が見れば、華奢という印象を持たれそうな姿であった。
しかし声をかけた大男はそんな事はないという事を良く知っていたので、そんな弱いイメージに惑わされることは無かった。
布団代わりにマントを体に纏い、利き腕の左に何時でも抜けるように剣を持っているのを見ながら、エルスが振り返るのを待った。
「ああ──────もうそんな時間か」
苦笑と共に漏れる美声に慣れている自分ですら、少し背筋が伸びるような気分を味わう。
何度も聞いていると音というか声というのも、一つの才能の一つなのだと考えてしまう。
透き通る声、という物を放つ、少年と青年の間のような音を放つエルスの顔は────────見えなかった。
何故ならエルスは顔を隠すように仮面を着けていたからだ。
顔全体を隠すようなものではなく、口元が露出した仮面ではあるが、当然、顔を見る事は叶わない。
付き合いは長いが、今まで一度もエルスの顔を見た事がないのだから、筋金入りだ。
何せ、水浴び中ですら外さないのだから、そこまで意固地になられたら、もう外したらどうだ、とは言えなくなった。
そんな風に思っていると最早、仮面程度で揺るがないくらいの信頼関係を結ぶに至ったのだから、奇縁と言うしかない。
そしてそんな事を素面で言い合えるような関係でもないので、本題の方を切り出すことになる。
「…………………余り俺達を甘やかすなエルス。他、二人はともかく速度馬鹿なぞテントを突き破って鼾をかいてうるさくてな…………」
「…………さっきから響いていた異音はそれか…………まぁ、明日には久しぶりに王都に着くんだ。態度には出さなかったが、やっぱり嬉しいんだろう」
「それはお前もか、エルス」
「そっくりそのまま返そうか? ゼル」
己の名を呼ばれた自分はうむ…………と言われた言葉に顎をさすり、早朝に髭を剃らなくてはと思いつつ
「…………確かに。それは否定は出来ないな。俺とて明日が楽しみな気持ちはある」
「生まれ故郷ではないんだけど……………………どうしても帰ってきた、と思ってしまうな」
「お前の場合は待っている人もいるからな」
からかい目的で告げると仮面に隠されている癖に、ポーカーフェイスはそうでもない男が唇を歪める。
仮面の利点を全く利用できていない男だ、と苦笑していると、実に不満たらたらに
「その言い方だと誤解を招く…………エセル王女はお優しい方だから、僕みたいな顔面不詳の不良騎士を気遣って下さるだけだ。余り、からかわないでくれ」
「不良騎士である事は自覚しているんだな…………」
「…………僕達の面子がまずそうだろう?」
「俺を一緒にするな。速度馬鹿に、腹黒馬鹿力、ナンパ小僧に仮面の騎士と個性豊かなお前らに比べれば、俺など影が薄い」
「ツッコミ所はキャラの濃さなのか…………」
お前らのドタバタ騒ぎを何時も見ていたら、悩みもする。
王都でも良くも悪くも知名度があるチームなのに、自分に関しての噂が、デカい、鎧……………………以上で終わるのだから、猶更である。
……………………まぁ、どちらも己、というものを表しているから不満を言うわけでは無いが。
「…………大体、待っている人がいるっていうのならゼルもそうだろ? 奥さん、待ち侘びているだろうに」
「む…………」
言われた言葉に、少しだけ顔を顰める。
別段、妻がいる事を恥じているというわけではないが…………からかった手前、同じ境遇のようなものだったと思い直しただけだ。
「土産も土産話も持ち帰れるな」
「…………帰ったら皆で家に来ないか。妻も何時もお前らが来ると子供が出来たみたいで嬉しい、とよく喜んでいたしな」
「ナチュラルに僕達を子供扱いしているな…………そんな大袈裟に年齢は離れていないのに…………」
少々天然が入ってるからな。
勿論、それを含めて、俺には勿体ない妻を迎えた、とは思っているが。
「…………いや、そうではない。本題が逸れた。余り、俺達を甘やかすな、と言いたかったのだ」
「ああ…………それは悪かった。星を見ていたら、時間の経過を見逃していた。今日は動物達も静かだったからな」
仮面から覗く口元から見える苦笑には演技の色は無い。
どうやら、本当のようだ、と呆れの色が多分に含められた吐息を吐きつつ
「…………やはり、お前も楽しみなのではないか」
「…………まぁ、それは否定出来ない」
勿論、責めているわけではない。
やはり、自分達にとってこれは帰郷なのだ、という思いが強いのだから。
「…………半年ぶり、か」
「"国を守るのならば、まずは国を知ろ"…………今のアルベルト王で無ければ言わないだろうな」
「争いこそ無いが……………………平和の世での英雄王の再来と言われた御方だからな」
「……………………でも、時々、密かに鍛錬に混じろうとされるからな。僕達もリアクションに困る」
「懐かしい…………その度に騎士団長が頭を抱え、お目付け役のヒューズ宰相が双戦斧を持って、激突していたな…………」
これだけ聞くととんでもない王に聞こえるが……………………しかし、命を懸けても文句が無い王だと誰もが知っている為、苦言を呈する者はいても批難をする人間など余り見た事が無い。
間違いなく、王という器に相応しい人だと臣下である自分達には断言できる。
……………………だからこそ、次代に悩んでおられるという噂が地方にまで届いておられたが……………………
王の責務としては最後の最後の問題。
次代に国を引き継がねばならない、という当たり前にして酷く大きな問題だ。
後継者……………………息子でもいれば、問題は無いのだろうが、王には一人娘のエセル王女しか子供がいない。
王女の例が無いわけでも無いが……………………それは、やはり特殊例だったり、才があったからこそ認められた例であるらしい。
エセル王女が才能が無い人というわけではない。
ただ……………………比べる相手が、賢王と名高き父親、アルベルト王になるのだ。
相手が悪過ぎる、としか言いようがない。
良い事にも問題が付随するという事なのだろう。
それ故に、エセル王女が次期国王というのが高いらしいが…………
「……………………」
仮面を着けている隣の騎士もその噂については知っている筈だが…………さて、どう思っているやら。
流石にそこまで踏み込む程、無粋でも無ければ、無礼になるわけにもいかない。
それに
待っている人が一人とも言っていないがな…………
天馬騎士団にいる少女の姿を思い浮かべれば、如何に相手が尽くすべき王女であるとはいえ、そちらを無下にする事も出来ない。
これは騎士としては不忠か、と思いつつ
「…………………見張りは俺が交代しよう。お前はそろそろ寝ろ」
「……………すまないな、ゼル。何かあったら何時でも起こしてくれ」
「非常時以外ならお前以外を起こすから気にするな」
最後にまた苦笑を見せて、テントに行く青年の背を見つつ、思う事はある。
短くはない付き合いだ。
青みがかかった少年のような青年の能力についても知れる所は知っている。
その上で上に行けるかどうかを考えるならば────────もう少し自分に自信を持てば化けそうなものを、と思いながら
「………………上から目線で語れる資格は持ち合わせていないか」
ただの一兵卒の人間が図る事ではないと己も苦笑しながら、エルスが見上げていた星空を自分も見上げる。
子供の頃から何も変わらない美しい星空だ。
幾年経とうと変わらぬこの星空のように、地上も平和な時だけ変わらぬ事があればな、と思い────────瞳を閉じる。
時期、夜が明ける。
何事も無ければ、明日の昼前には着く王都を夢想しながら。
王都、パレスティア。
アスティア王国において、最も活気づき、笑みが絶えない都。
誰も彼もが忙しそうに動き回りながら、しかしその顔には忙殺されているというより生きる為に動いているという笑みが浮かぶ街。
懸命に生きていく、という言葉を表現するような街の中で、一際大きな建物…………王宮の中でも懸命に生きていく人間の代表と言わんばかりに、一人の老人が書類仕事を行っていた。
豪奢な服を着つつ、華美ではなく、年を経ても、老いてはいても弱くなったとは見受けられない覇気を纏った老人────────現国王であるアルベルト王は一息を吐いて、書類とペンから手を離した。
「…………年を取ると書類仕事が面倒で溜まらん」
巷では賢王と言われ、民からも深い信頼を得ている王は、どこにでもいる仕事人のボヤキのような言葉を吐きながら、肩に手を置いてほぐしていると
「────────失礼、陛下」
酷く生真面目そうなノックの後にそれに沿った声が響いた。
聞きなれた真面目な声も、最早慣れたもので、即座に入れ、と言うと相手も直ぐに入ってくる。
入ってきた人間はアルベルトとほぼ似たような年齢の男であり、髪も自分と一緒で白髪に染まった老人であり────────自分と似たように老人になったというのに老いただけで、弱まった様子のない男であった。
名をヒューズ。
今でこそ己のお目付け役として、事務仕事をこなしているが、かつてこの国の元騎士団長を務めていた猛者である。
そして、ついでにアルベルトからしたら腐れ縁のような、信を置く友人でもある。
「ヒューズか。朝、届いていた書類は目を通しておいた。確認をしておいてくれ」
「はっ。後で必ず────────今日の報告は各地の警備に向かっていた騎士団の一部が今、門に到着したらしい、との事です」
「ほぅ…………確か今日帰ってくるメンバーは……………………我が王都において絶大な人気を誇っている悪餓鬼チームではないか」
「これが本当にただの悪餓鬼ならばいいのですが…………普通に真面目に取り組んだ結果、騒ぎを大きくしているのだから目も当てれません……………………」
不真面目であるのならば性格を矯正すれば幾らでも治る余地があるのだが、本気で真面目に取り組んだ上で騒ぎが大きくなるのだから、頭が痛くなるしかない。
目の前で大笑いしている王も含めてだが。
「ははははは!! いいではないか! 若いころは私も無茶無理無謀をしたものだ! そうした積み重ねこそが大人になって生きる! うむ! 私も負けていられないな…………これは書類仕事にかまけてばかりではいけない、という英雄王の有難き天啓…………!! では、ヒューズ宰相。私はこれから────────」
「勿論、午後も引き続き書類仕事に従事してください」
発現と共にどこに隠していたのか。
ドサドサドサ、という擬音と共に大量の書類が置かれた事に、アルベルト王は真顔になる。
何せその量は午前捌いた書類がまるで小山にしか思えない程の量だ。
山というよりその威容は最早、月に届くのではないか、と馬鹿げた感想を思わずにはいられない。
そんな一つの巨大な敵に対して、アルベルト王が次にした動作は……………………笑みを浮かべる事であった。
まるで、この程度取るに足りんわ、とでも言いたげな覇王の快笑。
もしも、ここが戦場で、兵がその笑みを見たならば、例えどれ程の絶望的状況であっても奇跡を信じられる程の輝き。
そして王はその期待に応えるかのようにゆっくり口を開き
「────────別に逃げてしまっていいのだろう?」
「いいわけないでしょうが」
数秒と持たずに惨敗した。
王の眼力でも語るが、お目付け役の眼力は完全に逃がさないと告げており、渋々と筆を握るしかなかった。
賢王アルベルト王
民から支持され、評価高き王とされている老人は、決して遊び心を失った堅物なだけの王では無いのであった。
勿論、それに慣れているヒューズは特別気にすることなく王の補佐をしながら、出来る限り王から楽しみを奪わないように話題だけは続けるのであった。
「今は入門の手続き中ですが…………天馬騎士の一人に使いを頼んだ為、恐らくそろそろ入れる頃かと」
「ほぅ…………天馬騎士の一人と言うと…………ははぁ。やるではないかヒューズ。お前も女心というのを理解してきたか。独身貴族には難しいと思っていたが…………!!」
「ええ───────亡き王妃に尻に敷かれていた王を思い出せば、何とかなるものです。あの時の絶望感漂う王の顔を思い出せれば、この年でも現役でいられるものです」
「貴様…………!!」
流石は長い付き合い。
容赦ない攻撃をしてくるものだ。
まぁ、これくらいウィットに富んだジョークが来ないと会話が定型化しがちだから、むしろ望むところなのだが、それはそれ。
後で、無理矢理脱走でもしてくれようか…………と思いつつ、頬杖をつきながら
「と、なると────────我が愛しの娘も突撃したかな?」
「………………いえ。エセル王女は聡明なお方です。そんな事をしたら自分がどう見られるか分かっているのでしょう。伝えはしましたが、今のところ外出する様子はないみたいです」
「…………そうか」
聡明。
確かに聡明なのだろう。
一国の王女が幾ら評価が良いとはいえ、仮面で顔を隠した自国の騎士と仲がいい姿を見せる事がどういう風に見られるかに繋がるかを考えて自粛するのは確かに聡明な判断だ。
一国の王の視点から見ても、正しいと言わざるを得ない。
別に仮面の騎士…………エルスを疑っているとかではない。
そこから疑う程、エルスの素行を無視しているわけでも無ければ、経歴を調べなかったわけでもないからだ。
ただ、少々経歴には不審な点が多々あるのは事実だが…………それでもこの国の騎士になる理由と態度が一致していると見極めたが故に、彼を騎士として迎えたのだ。
一個人としても気に入っているが故、娘の見る目は正しい、と自慢してもいいかもしれない────────が
「民には賢王。完璧な王と持ち上げられているが…………………勿論、私は自分が完璧であるなどと一欠けらも思っていない。これまでもそうだし、恐らくこれからであっても私は幾度も間違いを犯して生きていくのだろう。私に出来るのは完璧になるのではなく、完璧に近付けるよう努力するだけ…………人間にはこれが限界なのだろうな」
「…………」
唐突に始まった王の告解に、ヒューズは語らず、応じずの構えを取る。
今は己の言葉よりも王の言葉を聞く時だと思ったが故に、鉄のような男は不動の姿勢を己に強いた。
そんな対応に、礼を言わず、目礼のみで応じ、愚痴を続ける。
「しかしな…………完璧に近付けば近付くほど、人情味が薄くなっていく。王は民を優先するもの。より多くの人の幸福を考えながら、より少数の犠牲を求めている事に気付く。仕舞には最も大事な妻の形見である娘を国家の生贄だ────────王とは、残酷無残なシステムだな」
「────────」
確かにそういう面があるのは事実だ。
王の傍で仕事をしていれば、嫌でもその事実に気付く。
王とは決して華美でロマン溢れる立場に非ず
大多数の幸福の為に、如何に犠牲を少なくして資源を得れるか。
そんな現実とずっと戦っていたのだ。
こんな愚痴が零れるのを誰が攻められようか。
そう、戦っていたのだ。
大多数の為の少数の犠牲こそが現実と知りながら、王は決してその現実を妥協した事は無かった。
最後の最後まで苦しんでいたことを、臣下である自分は知っている。
その事だけは、例え何が相手であろうと私は声高らかに誇りであると叫んでいただろう。
だが……………………だからこそ、娘の、エセル王女の婚約相手についてはむしろ抗う事こそが許されない事だと思って、思い悩んでいる。
そんな王に対してヒューズも何も言えない。
言う資格が無い。
何故なら、己の理性もそれを是としていたからだ。
それが最も効率的で効果的だと────────冷めた思考が事実だと告げているのに…………何か言えるわけが無かった。
「…………ままならぬなぁ」
こちらからの無反応を、苦笑で返す主君に、臣下たらんとしているヒューズは何も返せなかった。
未熟、と老境になりつつある自分を、詰りながら、沈黙を貫くしかなかった。
王都の正門前で、ある集団……………………端的に言えばエルス達のチームが屯っていた。
騎士団とはいえ、当然、入るにはチェックが必要であるという事と……………………本来の到着時間よりも大幅に遅れた事が、今、こうして立ち往生の時間が長引いている原因であった。
「おっせぇーーーーーーーーーーー。ったくよぅ。少し遅れたくらいで大袈裟に待たせやがって…………もう少し柔らかく対処してくんねぇかねぇ?」
赤い鎧と赤い髪を乱雑に立たせている男が槍を適当に振り回しながら、現在の状況をぼやいている。
精悍な顔つきをしているが、その仕草と言動のせいで若干チンピラ感が出ているが、周りはそれを理解しているので、最早何も言わないが
「アインが朝に"肉だ! 肉食いてえな! 力出るからな!!"とか言ったせいで遅れたんだけど、馬鹿にはこのレベルは難しいか…………」
緑の鎧を付けた騎士はそんな男に躊躇わずにツッコミを入れた。
やれやれ口調の彼は顔つきはアインと呼ばれた男よりも爽やかさを感じる顔つきだが…………額に青筋が立っているので、ある意味で分かりにくいようで分かりやすい態度を作っていた。
己の愛馬の鬣を撫でながら────────その体には似合わない巨大な、斬馬刀に近い大剣を背に背負って、朝一の苦労に首を振っていた。
「ああん!!? ヴァイス。テメェだって、"肉かぁ。まぁ、あれば確かに欲しいねぇ"って同意したじゃねえか!」
「僕はあれば、とは言ったが、予定時刻を大幅にずらしてまで狩りをしたいとは一言も言ったないなぁ? あっれぇーーー? アイン君? 言葉通じているかなぁ? そっかぁーーー。いいかい? あれば、っていう言葉の意味は、あったら欲しいであって、無いから狩りに行くっていう意味じゃ無いんだよ?」
「良く言った見た目優男のキレキレ野郎…………! テメェの首から上はそろそろ見飽きてきたとこなんだよ…………!」
「おいおい────首から下の体は幾らでも見たいって事かい? まいったなぁ…………そんな趣味は僕には無いんだ…………」
「わざとらしく赤面して目を逸らすんじゃねえーーーーーー!!!」
ヴァイスと呼ばれた緑の騎士とアインの何時もの漫才を見ながら、エルスとゼルは笑って放置した。
「…………何時くらいに開くと思う」
「…………まぁ、そうは言っても愉快な二人がいるから、偽物にしてもこの漫才クオリティを真似るのは難しいと気付いてくれるさ」
「くらぁ!! そこの仮面野郎! 聞こえてんぞ!!」
「ははは。別に抑えてないんだから聞こえるに決まっているじゃないか? 皆の五感は優秀なんだから、聞き間違いでもないさ」
「堂々と言いやがったな…………!?」
アインのツッコミを全員総スルーして、それぞれ自由に時間を潰す。
今更過ぎた事を気にしても意味が無いのは全員理解しているので、もう後は中に入るまで何とか時間を潰すしかないのだ。
かと言って、流石に門の前で武器を振り回して鍛錬をするわけにはいかないので、馬の世話をするか、ぼーっとするか、談笑するか、もしくは
「~~~~~♪」
もう一人の隊員のように音楽を奏でるかのどれかである。
竪琴を使っての美しい調べ。
傍らに弓を置きながらも、竪琴と声を使って音楽を作り上げるその姿は実に様になっているとしか言いようがない。
先程まで、冗談とはいえ憤慨していたアインですら、響く音楽に完全に沈着…………とまではいかないが、それでも暴れようとする気を失い、適当に槍を振り回すに留まった。
そうして数分程、調べが続き…………曲が終わり、余韻が終了したと同時にエルス達はおろか周りで同じように立ち往生している人達からの拍手を受け、男は気障ったらしく一礼し、清聴を感謝した。
そんな男にヴァイスが最初に言葉を投げかけた。
「相も変わらず音楽関連は強いなジーンは。騎士団に入ったのが毎度不思議だ」
「なぁに。私は、音楽も愛していたが、弓も愛している。故に騎士団に入りながら、音楽も奏でている。凡夫なら二兎を追う者は一兎をも得ず、と言うのだろうが、私はほら。事、弓と竪琴に関しては天才だからね」
ジーンと呼ばれた青年は黒髪の長髪を先の方で纏め、ウィンク一つ投げかける。
仕草もそうだが、吐き出した言葉も酔っているようにしか見えないのだが、それが決して誇張に見えないのだから、チームのメンバー全員で苦笑してしまう。
何せ、事実だから否定しようがない。
弓にも音楽にも助けられているから、どちらも才能が無いとは口が裂けても言えない────が
「…………だからと言って、女を何人もナンパするのは良くないが」
「いい男には…………いい女も気付くっていう事さ」
愛妻家のゼルからのツッコミは柳に風である、と言わんばかりに流す馬鹿に全員が半目を向けるがジーンは気障な笑みを浮かべるだけで気にしない。
これだから、全員揃って不良騎士のチームと見られてしまうのである。
ゼルを除いて基本、何かしらの欠点がある為、場を混沌とさせる事だけは全員の特技である、
そんな光景を、仮面を着けながらもやれやれ、という顔を隠せていないエルスが
「…………ん?」
唐突に空を見上げる。
太陽が照り輝く以外で珍しいものなんてそうはない空だが……………………一つ大きな影がある事に気付いたのだ。
それに気づいた僕は微笑に近い苦笑を作る。
もう少しのんびりするかと思ったが、意外と早くに動かないといけないか、と思っていると周りも俺が空を見上げた事に気付いたのか、なんだなんだみたいな感じで俺を見る。
まだまだ空に対しての注意が足りないな、と思いつつ、冗談交じりに告げる。
「どうやら天使様が迎えに来てくれたみたいだよ」
チームの半分くらいがは? という顔と残りが痛々しい者を見る目で見てくるが気にしない。
そんな事を言っている内に、空にある影が急降下してくるのを見たからだ。
軌道を見る限り、僕には当たらないみたいなのでいいか、と思っていたが、流石に急降下してくると音が鳴るものだから気付いた者順に空を見上げ
「うわぁあああああああああああああ!!?」
一般人含めて批難するが、着陸地点は馬鹿二人の辺りなので一般人には被害は出ない。多分。
というよりは
「そんなヘマをするような子じゃないからな」
と、軽く問題を放棄して、そのまま立ち止まっておく。
周りが何故か正気を疑うような目でこちらを見てくるが、スルーする。
こういうのはフィーリングでいいのだ。
そう思っていると、まるで信頼に答えるように天から落ちてくる存在は、避けるように急降下から持ち上がるように角度を上に少しだけ向け。落ちる木の葉のように着地しようとする。
ちなみに着地点は丁度逃げようとしていたアインがいる場所であるのはさて、偶然か嫌がらせかなぁーーと思いながら、ま、いっか、と思う。
結果、ぐわぁーーーーと悲鳴が響いたが、余裕が有り有りだったので、特に問題なしだな、と思いつつ、空から降りてきたモノを見る。
単純に言って────────そこには突き抜けるような白さを誇りながら、それに沿う形で生えた翼を持つ馬……………………天馬がいた。
鳥と飛竜、天馬こそが空をかける事を許され、そして最も人に懐きやすい動物である。
まぁ、懐くと言っても何故か男は駄目であり、乙女だけに懐くのだが。
その事にアインが"なんだあの馬ども! 女の尻が目当てのセクハラ種馬か!!"などとダイレクトな言葉を言って折檻されていたが、案外、天馬もそれを知っていたのかもしれないなぁ、と思う。
ともあれ、天馬こそが、我が国が誇る天馬騎士の誇りにして戦友
当然、騎士団である以上、天馬の上には騎士が一人乗っているのは当たり前であった。
「こら。エル。余り馬鹿に触れていたら菌が移るわよ」
とても綺麗な青い髪を括って、ポニーテールに、凛とした顔と同じ色をした瞳が特徴的な綺麗な少女騎士がそこにいた。
天馬騎士として鎧と言うには軽装な物を装備し、槍を片手に持つ姿は誰が見ても騎士の一人に見えるだろう。
事実、外見はおろか中身も十分に騎士に相応しい人柄をしていると思うし、可憐な姿に見えて戦いは堅実かつ洗練された動きをするので、頼りになる少女だ。
そんな風にエルスが思っていると、エルと呼ばれた天馬に吹っ飛ばされた馬鹿が復活していた。
「くぉらぁ!! ミリルテメェ!! 天馬騎士には人を轢いてはいけねえっていう基本的な常識を教えられてねえのかぁ!!」
「何よ。こんだけ遅れたのはどうせあんたが馬鹿したせいでしょ。少しは責任感じてエルに轢かれなさいよ」
「可愛くねえ女…………!」
「あんたに可愛いと思われたくないから誉め言葉よ」
ふん、とアイン相手にも勇ましい所は他人はどう思うかは知らないが、僕からしたら美点だなぁ、と思っているとばっちり、と視線がかち合った。
僕は別にかち合っても、特に後ろめたさは無かったから、直ぐに軽く手を振ったのだが、少女────ミリルは一瞬、キョトンとしながら、しかす直ぐに少しだけ顔を赤らめつつ、髪とか服を気にするのだから、少し微笑ましく感じてしまう。
だけど、直ぐに自分の職務を思い出したのか。
一度だけ、咳ばらいをして間を置いた後、キリっとした顔を浮かべ、こちらに近付いて
「ひ、久しぶりエルス。馬鹿ばっかりのメンバーで苦労したでしょう?」
「まぁ、それは否定しないけど…………その分、力になって貰ったからプラマイゼロだったよ」
否定しろよ、とか俺との扱いの差とか周りから色々と声が聞こえたがお互い無視する。
「大きな問題とかは?」
「後で騎士団長にも報告するけど、どの町も今のところ、特別大きな問題は見当たらなかったかな。税の管理も民も不当に処されている所は見当たらなかった。食糧問題も今年も問題が特別あるわけじゃないらしい…………ただ……………………」
「…………次期国王が誰になるかで少し不安と期待をしている?」
ミリルから問われた言葉に、王都もそうなのか、と思いつつも、答えを返すことは出来ない。
ここは門の前とはいえ騎士団のメンバー以外にも人がいるのだ。
騎士である自分達が大きく民の考えている事を大きく口に出したら、それこそ緊張を覚えるかもしれないし、見張られているのかと不安に思うかもしれない。
幸い、ミリルからの問いはチームのメンバーにも聞こえないくらいの小さな問いだったから、ここで僕が大きく声に出しさえすれば広がらないだろう。
ミリルもそれを察したのか、特に返事を気にすることなく、音にはしない形で唇を動かすのを見た。
読唇術で読んだ内容が、ごめんなさい、だったのでますます見なかった振りをするしか無かった。
ともあれ、簡易的な報告は終わった。
本格的な報告は後で当然、報告書を作成したり、騎士団長に口頭で告げたりはしないといけないが、少なくとも門の前でする事はもう終わりだろう。
それをミリルも悟ったのか、また間を作る為に咳ばらいを一つし────次の瞬間には凛々しい騎士の顔つきでこちらを、チームのメンバー全員に視線を向け
「─────地方巡回の任務、ご苦労様でした。先の報告を持って、仮ではありますけど、任務の終了を団長の代わりに終わるのを見届けました」
右腕を折り曲げ、胸に平行するようにきっちりと持ち上げた綺麗な礼を前に、僕達のチームも自然と同じ構えを持って礼をする。
普段は馬鹿に見えるが、全員が全員騎士団である事を誇りにしているメンバーだ。
オンオフは激しくなるが、その分、仕事で手を抜かないと信じれるチームなので、そういう所は世辞抜きに頼もしいと思い、この隊の隊長である自分が代表として応じる言葉を吐き出した。
「了解しました。これよりエルス以下4名は隊舎に向かい、団長に改めて報告の上、そこで解散とします」
こちらの言葉の余韻が無くなる頃に、どちらともなく礼の構えを解く。
決めるところは決めるとはいえ、やはり、気心がある仲だとこんな風になってしまうのは怠慢だと罵られる所だろうか。
まぁ、でもうちの騎士団…………というより国の風潮が"自由たれ"だからな
これは別に何もかも好き勝手にしていい、という意味の自由ではない。
自由とは何をしてもいいという意味ではなく────確固たる己としてやりたい事、やらなければいけない事を成すのだ、という国という絶対的な物からの支援。
恥じる行為以外であるならば成せ、という応援なのだ。
それ故に、人々は堅苦しさよりも信頼と実績に重きを置くようになっているし、自然と上を目指す上昇意識を持っている人が多い気がする。
他国を良く知っているわけでは無いが…………それでも、アスティア王国は他の国に負けない王国であると自慢できる国だと思える。
だからこそ、次期国王に悩んでしまうのだろうけど。
「次期国王か…………」
現王家には子供は娘が一人しかいない。
女王の例が無いわけでは無いが、やはり、次の王も男である事を期待されているわけで、つまり王女である少女は王となる相手と番いになるのが決定されている。
王の娘という物にはそういう役割がある事を知っているし、自分が何かを出来る立場でも力があるわけでもないのは承知している。
自分には何も出来ないし、する気も無い……………………が、少女は…………エセル王女はどう思っておられるのだろうか?
それを問う権利も無いだろうに、と思いつつ、ミリアが門番と交渉して、開かれる門を見ながら下らない事を思う。
現状維持など、誰にも出来ない、という結論を。
また新作ですがよろしくお願いします。
ちょっと一話で詰め込み過ぎたか、と思いますが…………まぁ、二話目以降、逆にそういった部分がマシになるかと思い、いっそこうしました。
現状、平和の世におけるお話なので、荒れるのはまだもう少し先です。
感想・評価など宜しくお願い致します。