ファイアーエムブレム 王の道   作:悪役

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乱痴気騒ぎ

 

 

 

 

 

「馬鹿ばっか………………」

 

 

ミリルは闘技場で行われているイベントの警護の一人として、空から天馬に乗りながら、乱痴気騒ぎに近い光景を見ていた。

天馬騎士になるのならば、五感の鋭さは当たり前に持っていないといけない。

天馬騎士にとって最も恐ろしいのは同じ天馬騎士やドラゴンナイトではなく、地上から撃たれる矢やなどこそが最も高い死因だからだ。

故に、空にありながら、一定の距離であるならば、地上を見れるくらいの視力や聴力が無いと、天馬騎士にはなれない。

そんな五感で見た光景は、正しく言葉通りであった。

王女殿下の分かりやすい言葉に引っかかって、馬鹿っぽく男共が突撃していく様は見ていて実に馬鹿っぽい。

男は幾つになっても子供、とか良く言うが、この光景を見ているとあながち間違いではない気がする。

恐らく、その中心になっているであろう、仮面の青年もその一員である事に対しても馬鹿っぽい、と呟こうとするのだが、何故だか口から吐き出されない。

自分の迷いに、女々しいミリルめ………………と自分で罵っていると、同僚の一人が近づいてくる。

何事か、と思っていると同僚の口元がにやにやしているのを見て、嫌な予感を膨らませる。

結果として、それは正しい予感であった。

 

 

 

 

「ミーーリーールーーー? 何を女の顔して下を見ているのさーー?」

 

 

 

槍を投げようとして止めた自分を褒めて欲しい所である。

幾ら親しい同僚とはいえ、唐突に女の顔をしている、とか言われて冷静さを保てるほど、年を取っていないのだ。

 

 

「………………誰が女の顔よ。私は普段通りの顔をしているわ」

 

「へーーー? その赤面顔が普段の顔なら、ちょっと常時興奮し過ぎじゃない?」

 

「だ、誰が常時興奮状態の痴女よ!? そんな特殊性癖持ってないし、これからも目覚めないわよ!!」

 

「じゃーーー、その赤い顔はなにかなーーーー?」

 

やっぱり、貫いてやろうか、と槍を握る手に力を籠めるとエルが小さく嘶く。

まるで、落ち着けーー、という風に嘶くものだからくっ…………! と唸って攻撃を止めるしかない。

流石に愛馬の戒めを聞かない程、信頼関係は薄くない……………………と思っているのだが、再び、目の前の同僚がにやにやするとなると話は別だ。

 

 

「………………何?」

 

「いやぁーー。そういや、その仔の名前、エルって言ったなぁって」

 

「別にいいでしょう? いい名前なんだから。エルも気に入っているみたいだし」

 

「確かに良い名前だねぇ────────あんたの片思い相手の名前から取った感があって素敵」

 

「……………………え?」

 

 

一瞬、何を言っているんだこいつは、と思ったが、数秒して気付く。

あ、確かに、見ようによってはそう見えなくもない、と。

 

 

 

「ち、違うわよ? エルの名前を付けたのは彼と出会う前に付けたんだから? 偶然よ偶然っ。ほら! エルも何か言って!」

 

 

無茶言うな、と言わんばかりに嘶く愛馬に対して、おどおどするしかない自分を自覚するが、実際、本当にエルの名前は偶然なのだ。

そこを突かれたのも今日が初めてだし、言われて本当に今、気付いた出来事である。

不覚とは正しくこの事であり、どうにか挽回しようと思って両手をわたわたさせていると、急に同僚がくすくす笑い出し

 

 

 

 

「────────片思いの相手っていうのはツッコまなくていいの?」

 

 

 

ミリルは完璧な不覚を悟って、エルに抱き着いた。

周りを警戒しつつ、もう完全に不貞寝したくなるモードに入るが、流石の同僚もからかい過ぎたと思ったのか、ごめんごめん、と苦笑して

 

 

 

 

「ほら。片思いかどうかはさておき、友人が頑張っているんだろ? 応援したら?」

 

「………………ふん。いらないわよ。あのメンバーには」

 

 

若干、まだ顔が赤いわね……………、と自覚している自分に腹立ちながら、ミリルは自分の言葉を改めて確認する。

そう、きっとあのメンバーには応援なんていらない。

何せ、騎士団メンバーにおいての生粋の問題児集団だ。

応援する方が馬鹿を見る────────どうせ色々やらかすのだ。

 

 

 

 

「馬鹿なんだから………………」

 

 

 

速度馬鹿のアインや女たらしのジーンは当然として、見た目優男のヴァイスも仮面で何もかもを隠せているつもりのエルスも。

唯一、ゼルさんだけがまともだが、戦闘力という意味ではまともではない。

だから、きっと下の乱痴気騒ぎは愉快なものになっているだろう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

「ほぅ………………」

 

エセルは感嘆の吐息を吐く自分の父を見た。

だけど、お父様? と問う理由もない。

何故なら、目の前の光景を見れば、そんな物は一目瞭然だからだ。

最初、代表として皆の前に出た騎士の号令の元、一気に彼に向かって人に雪崩れ込むかと思っていたのだが、それは違った。

戦いにおいて数は確かに有利な事を生む事が多いかもしれないが、密集地帯においてはそれは間違いだ、と示すかのように仮面の騎士に向かったのは一番、彼の近くにいた二人の騎士だけであった。

一人はアーマーナイトで、持っていた槍を彼の腹に突き刺すように突き出し、もう一人の騎士は剣を持って、上段から叩き割るように剣を振り落としたのだ。

お互い、何かコンタクトを取ったようには見えないが、連携を取れているという事は物凄く鍛錬をした事による成果なのだろう。

それだけで、十分に感嘆出来る事なのだが……………………父が、私が感嘆したのは残念ながらその事では無かった。

 

 

 

 

感嘆するべきはそれらの連携を────────まるで軽業師のように斬りかかってきた人間の肩や頭に足を乗せて避けた仮面の騎士を言うべきだろう。

己に対する攻撃に対して、まるで恐れなど知らぬと言わんばかりに、それらを逆に足掛かりにして跳び、そのまま人の頭や肩を足場にして跳ぶのだ。

煽った私が言うのもおかしいが、凄い、としか言えない光景である。

 

 

 

「あれもお前の仕込みか? フリード騎士団長?」

 

「いえ……………………あれはもう、本人の適性と才覚ですね。あそこのチームはもう体の羽後仕方も含めて独特で。もうベースとなった騎士剣術の欠片もありませんよ」

 

 

お父様が愉快そうに、騎士団長のフリード様にそんな風に問い、フリード様も王族に対しては少し砕けた言葉遣いで、しかし口調ではなくその言葉に込められた敬意に気付かされるような言葉で答えていた。

それに、お父様は楽しそうに笑うだけだったのだが

 

 

 

 

「………………フリード団長。王に対して不敬ですよ」

 

 

 

その事に冷ややかな言葉と共に指摘する声。

冷徹な一声に振り返るとそこにいるのは騎士団長であるフリード様と同じで、私やお父様の護衛の為にいる天馬騎士団を束ねる女団長────────ナタリア様がいる。

 

 

 

 

相変わらず綺麗な方です……………………

 

 

 

他人から見た自分に対する評価を棚に上げて、思わず同性でも見惚れる大人の女性を見る。

艶やかな緑の髪を腰辺りまで伸ばし、髪と同じ色をした瞳も綺麗な宝石のようで美しかった。

髪や瞳だけではなく、顔や体つきも同じ女性の視点でも、思わず羨ましいとしか言えないもので、時々、実は本当はもっと若い人なのではないかとつい、疑いそうになる。

年齢は本人が言うには30の後半と言っているし、何より

 

 

 

「おいおい、ナタリア。仮にも夫に対してそりゃないぜ」

 

「生憎と私は公私混同はしません。むしろ、身内がだらけているのを見れば、槍を握る腕にも力が入るという物。赤の他人を叩くよりかは罪悪感を感じません」

 

 

そう。

騎士団長であるフリード様とナタリア様は夫婦なのだ。

掛け合いからまるで熟年夫婦のようにも見えてしまうが、実は結婚したのはそう昔の話ではないという。

どういう経緯があったかは知らないが、お互い、独身を貫くみたいな態度を取っていたのに、気付けば付き合い、結婚をするという事になった、と知った時は私は当然としてお父様も、更にはヒューズ様も驚いていたのを覚えている。

電撃結婚とは正しくこの事である、と私も思ったものだ。

ちなみに、彼らには3歳になる子供がいたりもする。

 

 

「………………夫婦仲は良好のようだな。私も素直に嬉しい────────から、ここで惚気るでない」

 

「いや、すいません王よ────────私の嫁は世界一で」

 

「その喧嘩買った────────世界一の嫁は我が妻、アリシアだ! 異論なぞ認めぬぞ……………!!」

 

「ふっ……………………幾ら王でもそれだけは譲れません。ナタリア誇らずして誰が誇りまがっ!」

 

「────────何を馬鹿な事を言っていますか、フ・リー・ド騎士団長?」

 

 

ほのぼのした雰囲気から、修羅場になりつつあるので、私は密かに視線を切って、難を逃れる事にした。

決して、父とフリード様を見捨てたわけではない。

改めて闘技場を見れば、争いはもうエルス様だけを狙ったものではなく、正しくバトルロワイヤルになりつつあったので、特徴的な仮面の騎士を探すのも一苦労だった。

つい、あんな風に煽るような事を言ってしまったのは流石に失敗だとは思ったが、無事………………まぁ、無事試合になっているようで良かった、と思いつつ

 

 

 

「……………………頑張ってください」

 

 

 

つい、小声で応援するくらいは許して欲しい、と思った。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「────っらぁあああああああああああ!!!」

 

「ふんぬ………………!!」

 

アインはトレードマークである赤い鎧を着こなしながら、愛槍を自在に振り、突き刺していた。

相手は重騎士であり、その上、盾も装備していているから中々、その突き崩せなかったが、構いやしなかった。

 

 

 

 

アインにとって、強さとは速さであった。

 

 

 

単純な移動速度もそうだが、槍の取り回しや体術、反射速度も全て含めて一つの速さであり力だ。

敵が硬かろうが、怪力だろうが、速度を持てば貫く事も出来るし、斬られることも無いとアインは本気で信じている。

己が止まらなければ、例え騎士団長でもそう容易く負ける気も無い────────が、その純粋な信仰に待ったと物言いがあるのも武術の世界であった。

 

 

 

 

「ぬっ……………………!!」

 

 

天性の鋭敏な知覚が風切り音を知覚する。

周りの喧騒に比べれば、余りにも小さくて一瞬だったが……………………アインはそれを錯覚とは思わなかった。

何故なら

 

 

 

 

「勘だぁああああああああああああああ!!!」

 

 

 

叫びながら、アインは槍を引く動きに合わせ、背後に跳んだ。

瞬間、自分がいた場所に矢が4本、ついでに相手した奴の盾と鎧の隙間に吸い込まれるようにして首元に当たり、死亡判定を自覚した相手が悔しそうに舌打ちをするのを聞きながら、矢を放った相手が誰かを理解した。

 

 

 

 

「この出鱈目感………………ジーンだな!?」

 

 

 

乱闘騒ぎになっている闘技場の中で、口に出した名の青年を探したが、見当たらない。

 

 

 

 

出鱈目な……………………!!

 

 

 

自身も同等な事をしているのを棚に上げて、この開けた空間で隠形を保てる凄腕スナイパーには賞賛するしかねえ。

自分には間違いなく同じことも出来ねえって分かるから尚更に。

気配を消すとかまどろっこしくてやりたくねえし、そもそも弓自体が自分の足で走った方が速いんだよでおざなりである。

だから、やってくれる、と愉快で笑っていたら

 

 

 

 

「のわぁああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 

 

何やら人の塊が一気に空から吹っ飛んできた。

2,3人が空から落ちてくるのを見ながら────────誰が見ても嫌な顔をしている、という表情を浮かべている自分に自覚する。

何故なら、この珍事の下手人を考えさせる事無く理解させる出来事だったからだ。

 

 

 

「…………ヴァーーイーーース君ーーー? 人を空に飛ばしたらいけないって習わなかったのかなぁ?」

 

「おや? 3流チンピラ口調が地の君がそんな高等な事を理解出来ていたのかい? そこが君の知能の限界なんだろうけど」

 

 

相も変わらずむかつく陰険な喋りに、青筋を立てながら、問題の馬鹿が現れるのを見る。

優男には似合わない巨大な、斬馬刀に近い刃を肩に預けながらも、片手で持ち上げる緑色の鎧が特徴な野郎がそこにいるので、自然と槍に力が入るのを見ながら、いい感じに殺意が高まる────────が

 

 

 

「どけよ雑魚。3位には興味ねえんだよ。今日の俺ぁ、1位にしか興味無くてなぁ」

 

「ははは────────同感ではあるけど、目の前に現れてしまったなら、聞けるわけがないじゃないか」

 

 

3位とか1位というのはこの乱痴気騒ぎによるものではない。

これは、うちの小隊だけの特別ルールだ。

上位が当然、実力者であり、最下位が一番負けているという当たり前のルールだが……………………この順位の繰り上げと繰り下げは勝ったものが勝った順位にまで跳ね上がる事が出来る、下克上が非常にしやすいルールだ。

極端な例を述べるなら、5位が1位に勝てば、五位の人間が1位に、1位の人間が5位になったりもするのだ。

これが、意外にも俺達を焚きつけるのだ。

何せ、順位が低い、という事は弱い、という事だ────────単純な事故に、それに我慢出来ない人間には効果的だ。

現在の順位は1位がエルスで2位が俺、3位がこいつで4位がゼルの旦那、そして最後がジーンとなっているが………………順位の変動は毎度激しい。

何せ、あらゆる行為が死なない限りOKとなっているので、奇襲から夜襲などやりたい放題だ。

最初の方は、それはケースによっちゃあ一方的な展開になるじゃねえかと不満を漏らしたが────────ルールの考案者である我らが隊長は仮面で顔を隠したまま、小さく首を傾げ

 

 

 

 

 

「────────君達は戦場で、卑怯だって負け犬台詞を吐いて死にたいのかい?」

 

 

 

 

ありゃあ、本当にさいっこうに頭にくる台詞だった、と今でも思いながら、だからこそ、現3位の力馬鹿を精一杯見下しながら

 

 

 

 

「当たんなきゃ勝てねえって単純な理屈を何度でも教えて欲しいって言ったらどうだ?」

 

「当たっても、そよ風のような攻撃じゃ意味がないってそろそろ理解して欲しい所だね」

 

 

 

互いの言葉を聞いた俺達は無言で、槍と斬馬刀を構える。

更には意識を隠れているジーンにも割かないといけないが、知った事ではない。

思考にあるのはきっと、お互い同じ気持ちだろう。

 

 

 

 

 

こいつに地べたを舐めさせてやる、と

 

 

 

瞬間、槍と剣が交差した。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

空間を裂くように飛び跳ねながら、鞘から一瞬で剣を引き抜き、背に流れるマントを巻き込みながら回転し、そのまま敵の胴体を撫でるように刃を放ち、敵を敗北判定にするエルス。

地面に滑るように着地しつつ、止まらないようにしながら周りを見回す。

もう、5人くらいは倒したと思うが、やはり、それくらいになると周りの人数はかなり減ってきたようだ。

集団が集団と闘っているというよりも個々が孤立して戦っているような形になりつつある。

宴もたけなわという感じだ。

なら、自分も空気を読んで次の敵と接敵するか、と思っていたら、自分の前に影が出来た。

見たら、見覚えのある顔────────ゼルが丁度敵をタックルで倒したのか、肩を前面に相手を吹っ飛ばしている最中で、僕はその横に現れたような形であった。

 

 

 

 

「────────」

 

 

 

態勢としてはゼルの方は余りにも不利という状況だが────────当然、そこで仕切り直してからなどと言うつもりはない。

僕は持っている刃を即座に振り上げ、ゼルは躊躇う事無く、重騎士の分厚い鎧に覆われた籠手で弾いた。

鎧で覆われているとはいえ、刃に対して躊躇いなく拳を向けれるのは本人の勇気と経験によるものだと知っているから、危うく頼もしくて微笑みそうになるが、噛み殺し、弾かれた剣を無理矢理引き戻そうと態勢を取り戻している最中にゼルが片手に持っていたハルバードが勢いよく振り回され、こちらに迫ってきた。

いかん、と思い────────躊躇いなく、姿勢を崩す要因となっている剣を捨て、そのまま両断のように振り払われるハルバードの柄の部分を飛び越え、前宙する形で着地しながら、もう一本武器として携帯しているレイピアを引き抜く。

剣違って、打ち合うには心細いが、重騎士であるゼルからしたら軽い上に、鎧の隙間を貫くレイピアは天敵だろう……………が、それで引くような人ではない事も勿論知っている。

 

 

 

「…………現状、確か、私は4位だったな。ここで1位になれば、気分がいい」

 

「それは残念だね、ゼル。つまり、君の気分が良くなる事はないわけだ」

 

「妻がいる男に対して土産話をくれるつもりはないのか隊長殿は」

 

「義母さんの教えなんだ。戦うなら負けるつもりで戦うなって」

 

「いい教えだ。私も子供が出来たら、そう教えよう」

 

「…………奥さんに似たら、戦わずして勝ちそうな気が……………………」

 

「……………………」

 

 

ヒュゥ~~~、と冷たい風が自分達の間を通り抜けるのを感じ────────それを振り払うように一瞬で僕はゼルとの距離を詰めた。

 

 

 

 

「────────」

 

 

 

軽く5m程あった距離を即座に潰されたが、ゼルの瞳に一切の動揺が無いのは感じ取っている。

互いに手の内は知れている。

身体能力はおろか互いの武器の間合いすら知り合っている仲だ。

奇襲を行うには、最早ジーンのような隠形の達人以外には難しい仲になっている。

それを解決する方法は至って単純だ────────正々堂々真正面から倒せばいい。

 

 

 

 

「っ────────!」

 

 

 

漏れる呼気は最低限に。

必要最小限の動作を持って、刃というには細いレイピアを鎧の隙間……………今回は首の所に突き刺す。

決まれば一撃の致命打を、ゼルはほんの少し首を傾けただけで躱す。

正しく首の皮一枚という言葉を実演する部下に対して、見事とと思いながら、しかしエルスは躊躇わずに更に前に出る。

ゼルの武器は長大なハルバード。

如何に本人の怪力があろうと、振り回すのに適しているとは言い難い武器だ。

分かりやすい弱点を責めないわけがなく、そのまま至近距離で戦おうとし────────突き出していた腕が掴まれるのを悟った。

 

 

 

 

「…………おや?」

 

 

不審に思うのは彼が突き出した腕は左腕であり、これを掴むにはゼルは普通は右手を使わないといけないのだが、その手こそがハルバードを握っていたはずで、つまり、自分の腕を掴んでいるという事は

 

 

 

「切り替えが早いな……………………!!」

 

「何度も似たような攻撃をされていたらな……………………!」

 

 

左の怪腕が振りかぶられるのを理解し、無理矢理掴まれた腕を振り解こうとするが、解けない。

流石、と思う間もなくこちらも空いている腕でガードするが

 

 

 

「くっ…………!」

 

 

ミシミシ、と腕が鳴るのを耳で捉えながら、ガード事己が吹っ飛ばされる。

即座に受け身を取り、構えるがガードした右腕が痺れているのを悟り、舌打ちをしたくなるが、そんな余裕はない。

何せ、この距離はそれこそゼルの得意レンジ。

吹っ飛ばしたと同時にそこらに転ばしていたのであろうハルバードをもう振り上げ、そして振り下ろそうとするのを目視しながら────────即座に自分も己の体に速度を宿させた。

退くわけではない。

逆だ。

追い詰められているからこそ前に出る。

意地のようにも聞こえるが事実、意地だ────────敗北の際にただ背中を向けるような人間に先があるものか、という思いが自分を前に進ませる。

勿論、退き時を忘れるのはただの馬鹿だが……………………勝ち目から目を逸らすのはただの臆病者だ。

 

 

 

 

「…………!?」

 

 

追い詰めたと思っていた隊長が半身で前進してくるのは想定外だったのか。

ハルバードが自分の体の横、わずか1㎝程の距離を過ぎていくのを見るが、気にする必要はない。

今、必要なのは目の前の敵であるゼルを倒す事であり……………………諦めずにこぶしを握って攻撃しているという事実だ。

互いに唇を歪ませる。

お互いに必勝を願っているからこそ、勝った時の快感を自分達は知っているから。

己の攻撃が当たる事を疑わず、自分の勝ちだ、と言える瞬間を切望し────────互いの側頭部に矢が飛来している事に気付いた。

 

 

 

 

一瞬でそれを悟ったせいか、時間の感覚が遅くなる。

 

 

 

「うぉ……………………!?」

 

「くぅ……………………!?」

 

 

 

完全な奇襲を悟り、互いの勝利よりも生存を求める本能が働き、僕はそのままスライディングの態勢になる事により避け、ゼルは後ろにほぼ倒れこむ事によって避けるのを見ながら、即座に距離を離し、即座に下手人の方に向かう。

 

 

「ジーンだな!? どこだ!?」

 

「ご名答? だけど、気を付けた方が良いよ? 暴れ牛が二匹ほど近寄ってきているからね」

 

 

暴れ牛が二匹。

その言葉遊びに、僕も、恐らくゼルも同時に気付いた。

何故なら自分の視界に凄い速度で赤色────────アインが吹っ飛んできたからだ。

 

 

 

 

「────────」

 

 

 

視線が交錯される。

互いの瞳にあるのはやられた、という思いだが、だからと言って、目の前の相手から目を逸らすという事は出来ない。

逆にここまでされたら見事だ、と思いながら、即座にレイピアを突きこ────────もうとして

 

 

 

 

「しゃああああああああ!!!」

 

 

 

超反応で槍が突き込まれる光景が視界の全てとなった。

思わず、笑ってしまう。

最早、動物並みの超反応もそうだが、その反射に一瞬で肉体の全てを任せれるのは本気で羨ましくなる。

純粋戦士というのは正しく、アインのような人間を言うのだろうと思いながら────────フェイクで突き込もうとしたレイピアを手から離す。

 

 

 

 

「ああん!?」

 

 

 

こんな時までチンピラ風に驚くアインを無視しながら、そのまま突き込まれた槍の柄を握り、引き寄せる。

反射に全神経を注いでいたアインが対応できず、そのままこちらに引き寄せられる。

 

 

 

「こ……………………!!」

 

 

 

の野郎、とでも言いたかったのだろうが、もう遅い、

後は奴の鎧で掴み、足を引っかけ、体を捻る動きで奴の体を背で持ち上げれば、背負い投げとなり、そのまま地面に熱く激突する結果になる。

 

 

 

 

「くそ……………………!!」

 

 

心底からの悔しさの言葉を、敢えて無視して、周りを見回すとゼルとヴァイスがぶつかり合っているのが見える。

力という意味では同格の二人ならば、どう転ぶかは謎だな、と思いつつ、首を振って飛んできた矢を回避する。

 

 

 

 

「不用意に撃ち過ぎだ……………………!!」

 

 

 

如何に隠形が得意であっても、矢の軌跡までは消す事はどんな弓兵であっても出来ない。

即座に飛んできた方向に、疾走し、目を凝らす。

そこまでして、ジーンが今、倒れつつある兵の背後に立っていた事に気付く。

取る、という思いは殺意となり、それがジーンが弓では対処が難しいと判断し、即座に弓を捨てナイフを握る動作に移行する。

そして、そのまま目の前にいるのに、本当に体を消すのだから、暗殺者にも転向出来そうだなあの天才は、と考えながら、目を瞑る。

見えない以上、目に頼るよりは他の五感に頼った方がいいというもの。

それに────────隠形で自身の所作を隠す事は出来ても、物などの音までは消す事は出来ない。

 

 

 

 

 

例えば、抜き放ったナイフが風を切る音などは

 

 

 

 

瞬間、即座に首を捻ったのと同時に自分の後頭部の後ろからナイフを持った腕が突き出される。

頬が少し切れる感覚を得ながら、どうやって後ろに回ったんだと舌を巻きながら、突き込まれた腕を片手で掴みながら、後ろに肘を入れる。

 

 

 

 

「ごっ……………………!!」

 

 

 

鳩尾にめり込む感触を得ながら、油断せずに、そのまま逆に諸共後ろに倒れ込むように飛び、地面にジーンを縫い付ける。

これで、ようやく倒された、と思ったのか、ジーンが仕方なさそうに溜息を吐くのを見て、何とか勝ったか、と思い、直ぐに立ち上がると

 

 

 

 

「────────そこまで!!」

 

 

 

鋭い一声と共に、動こうとしていた体が止まるが、視線だけが動き何故なのか、と思えば

 

 

 

 

「…………あ」

 

 

 

何時の間にか、周りで立っているのは自分だけになっていた。

ゼルとヴァイスの方を見ると何やら互いに拳を顔面に入れて、そのまま倒れたみたいな形になっていた。

二人とも、武器はどうしたんだ、と思うが、まぁ、流れによるものだろう、と納得する。

観客の歓声も喜びや楽しみに満ちていたし、まぁ、見世物程度には頑張れたか、と苦笑して

 

 

 

 

「────────あ」

 

 

 

そういえば、勝ったら……………………姫様の手の甲にキスをする、とか言ってなかったか、と思い、つい貴賓席の方を見るとエセル王女殿下が嬉しそうに笑って手を振り、アルベルト王が楽しそうに笑いながら、親指を下に向け、何故かフリード騎士団長は倒れていた。

 

 

 

 

 

「…………後悔は先に立たず、か……………………」

 

 

 

ここ最近の自分の状況を表す言葉を口に出しながら────────とりあえず先の事を考えるのは放棄した。

つまり、現実逃避である。

 

 

 

 

 

 

 




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