「此度は見事な剣舞を見せた。以降も、お前には期待させてもらう」
「────────はっ。有難き幸せ」
この会話を聞いた人間の大半は、部下が立派な働きをしたから、上の者が褒め称えている光景に見えるのだろう。
実際、形としては部下である騎士が上司である王に膝を着いて、言葉を貰うシーンなのだから間違ってはいない。
違うとすれば王が騎士を見る視線に、娘に触れたクソ野郎が、という怨念のような殺意が籠っているのと、睨まれている騎士の背には冷や汗が恐ろしいほど、浮かび上がっているという所である。
仮面を着けた騎士は………………エルスはその視線を理不尽とは思わない。
どう言い繕うとも自分は確かに王の一人娘と接触し、王を不安にさせる原因を作った人間ではあるから、甘んじて怒りを受け入れるのは当然である。
────────いや、その…………………その怒りが、今までの事ではなく今日………………あの乱痴気騒ぎで優勝した人間として王女殿下の手の甲に口付けをするという事での憤慨であるならば、多少、理不尽を感じないでも無いが、累積罪だ……………………と思い、無理矢理納得する。
そうだ、目の前の王が周りには見えない角度で、あ~~~ん、とかおうおうおう、とメンチを切ってきても、自分が悪いから仕方がないのだ。
何故なら、私は王の隣にいるとんでもなく分厚い本を掲げた王女殿下とまるで付き合いをするかのように接して────────接して?
「えいっ」
可愛らしい声とは裏腹なドギツイ打撃音が響き渡り、王はごっ、という短い悲鳴と共に、崩れ落ちた。
二度目の殺人事件に、真っ青になりそうだが、相手は王族……………王族なのだ……………………と思って、無言で頭を下げたまま、目の前の光景は見ていない振りをする。
視界に入れば、この状況にツッコまないといけないのは不味い。
「申し訳ありません、エルス様。父は持病が発症しまして………………」
これに、騎士としてどう答えるのがいい、というのだ。
お気になさらず、と答えれば王がちょっと口には言えない病気持ちである事を肯定してしまうし、否定すれば、では、何なのですか、と問われ、ただの親馬鹿です、と答える結末が待っている気がする。
どうするべきか、と悩んだ末に浮かんだのは
………………団長!!
他力本願による解決法であった。
顔を挙げないまま、視線だけを騎士団長の方に向け、アイコンタクトで助けを求める。
すると、フリード団長は通じた、という風に頷きながら、そのままハンドサインを送ってきた。
あ・き・ら・め・ろ
余りの役立たずっ振りに、殺意すら湧かない辺り、確かに諦めて来たのかもしれない。
ここまでか……………と人生を振り返りそうになってきた所で、クスクス、と上品に笑う声が小さく響く。
危うく顔を挙げそうになったが、自分がどう思っているのかを悟ったのだろう。
エセル王女殿下が楽しそうな笑い声と共に、顔を挙げてください、と指示をするので、顔を挙げると、やはりそこにはとても綺麗な微笑みを浮かべたエセル王女殿下と………………何時の間にか立ち上がったアルベルト王が仕方なさそうに苦笑していた。
一瞬、何事か、と思ったが、直ぐに嵌められた、と思い………………しかし表情は仮面とポーカーフェイスで隠しながら、溜息を吐きそうになる自分を抑えた。
しかし、それすらも見切られたのか。
エセル王女殿下は笑いながら
「申し訳ありません………………貴方は何時も飽きさせてくれなくて………………」
「…………いえ。エセル王女殿下がご満足であるならば、私も道化になった甲斐があります」
「騎士でなくていいんですか?」
「僭越ながら、騎士団長が既に型破りなお方でして」
おいこら、俺を売るな、という誰かの声を遠慮なく無視して言うと、今度は笑ったのは王であった。
愉快気に笑いながら、騎士団長に向ける視線には一切の怒りも無ければ悪意も無い。
「どうやら見事にお前の教えは教え子に根付いているようだな。フリード団長。先代に団長の座を譲られた時、押し付けられたと嘆いていたというのに」
「いやぁ………………これは私というよりは教え子たちの気質ですよ王よ。私からの教えをしっかりと心に刻んでいたら、こんな悪餓鬼にならんでしょう?」
「よく言う」
王に対しても、最低限の警護で話す騎士団長に、天馬騎士団を率いるナタリア団長が目を細めて、口を開けようとする気配をエルスは察するが、それよりも早く、王が手を挙げ、ナタリア団長の言葉を止めた。
「よい。公の場では無いのだ。私としてもその方が好ましいというものだ」
「しかし………………示しがつきません」
「つくとも────────君の夫はどうでもいい人間に敬語を使う人間でも無ければ、見る目がない男ではない事は知っているだろう?」
沈黙するナタリア団長に、小さく笑うフリード団長の両方の気持ちがエルスには少しだけかもしれないが、理解できた。
その言葉にはフリード団長に対する信頼が込められたが………………それと同時に、自分がフリード団長にとって使えるに値する主君である、という自分に対する自信も込められた言葉だ。
思わず胸が熱くなると同時に────────自分には言えない言葉だ、と自嘲する。
そんな己に対する嘲りを、仮面の裏に隠しながら、伏せていると、王は何か思いついたのか。
ふむ、と前置きを置き、
「折角だ。エルスよ。我らと食を共にするがいい」
「はっ────────は?」
王の言葉に頷き───────頷いた後に、今、この王が何を言ったのか理解した上で理解出来なくなり、今度こそ顔を挙げて王を見ると、王は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべているだけで、これに関しては周りも少し驚いており………………あ、いや、フリード団長だけが愉快そうに笑っている。
その笑いのお陰で、冷静さを取り戻し、直ぐに断ろうと口を開こうとして
「命令だ。拒否すると騎士の称号を剥奪するぞ?」
即座の脅しの言葉に抵抗する事が不可能であるという事実を得るのであった。
「どうだ。上手かろう? 何せ、王族が食べる料理であるからな。お陰で勝手に舌が肥える肥える。しかも、無駄に上手い故につい、手が出てしまう。そのせいか、前にエセルが自分のお腹を摘まみながら絶望したかがはっ!」
「お母さまの教えの一つに、女の体重を語る男性には容赦するな、というのがあるんですよ? お父様」
目の前に繰り広げられる王族ジョークに冷や汗を流しながら、エルスは何とかフォークやスプーンを使って、食事をしていた。
あの後、恐ろしいほどの手際で誘拐……………もとい招待された僕は、今、王族の方達と一緒に食事をするという栄誉という名の地獄にいた。
正直、庶民の出である自分には目の前のフルコースに対して、しっかりとマナーを守れているのかが不安過ぎて仕方がない。
一応、騎士として社交場での護衛などもあったりはするので、マナー自体は学んでいるのだが、それの実践など両手所か片手の数くらいしか無いくらいだ。
それも、今回は王族の方と一緒に食事だ。
お陰でさっきからご飯の味が全く感じれない。
恐らく、とんでもなく美味しい料理であるのは分かってはいるのだが、舌が緊張で機能していない為、意味がない。
止めてくださいよ団長達…………………!!
この国の代表的な二つの騎士団二人の団長の姿を思い浮かべるが、二人はこんな状況で、片方は腹抱えて笑い、もう一人は申し訳なさそうに佇みながら、笑っている方の男に拳骨を落としていた。
笑った男の方は無視するとして、ナタリア団長がこういう時に自分を助けないのは珍しいような気がする。
自他共に認められる厳格な方だ。
それなのに、たかだか一騎士でしかない自分が王族と食事を共にするという事について、咎めないというのはおかしい気がする………………。
そう思っていると
「何。簡単だ。あの二人もこんな風に勧誘して、団長にまで昇った口でな。自分がされた事で他人を咎めるのは難しいという事だ」
まるで、心が読まれたようなタイミングで聞きたい言葉を言われたので、危うくナイフを落としそうになったが、ぎりぎりで掴んで、落とす無礼をせずに済むのにホッとしながら、王の方を見ると
「顔に出ている。もう少しポーカーフェイスを磨くべきだな」
苦笑と共に、何か前にも聞いた言葉を言われて、思わず、エセル王女殿下の方を見ると、彼女はこちらから顔を逸らして……………………肩を震わせているので、もうどうしようもない、と思いながら、とりあえず何事も無いようにして、改めて聞く事にした。
「あの二人………………フリード団長とナタリア団長も、その…………王に食事に誘われて?」
「ナタリアはそうだな。フリードは私の鍛錬に付き合わせてだったが」
そうだったのか……………………、と上司とその妻の意外な過去のような物を聞けたので、流石に意外な声を隠す事が出来ない。
「知っての通り、二人は市井の出でな。しかし、才という事に関しては抜きんでいた故、当時の騎士団長と天馬騎士団の団長と相談しながらな。能力はいいから、後は人柄はどうだろう、と思って、思い切って、招待し、そして付き合わせたのだよ。フリードは昔から悪餓鬼ではあったが、私を前にしたら、ナタリアと同じくらい固くなりおったわ当時は」
くくく、と笑う口調には過去を慈しむ色が見える。
当時の二人を思い出したからか。それとも、単純に過去を思い返すのが楽しいからか。
どちらであっても、王が楽しそうに笑うのならば、それは良い事だ、と思い、自分も微笑を隠すことを止めると同じタイミングでエセル王女殿下と笑うタイミングが合う。
思わず、視線が合うとエセル王女はあら? と少しだけ硬直するが、次の瞬間、直ぐにまた微笑むので、自分も仕方なく笑ってしまう。
そんな風に笑っていると
「そうだ。エセル。最近、習っているという紅茶を私達に淹れてくれないか?」
王の言葉に、エルスは遂に来たか、と思ったが、声をかけられたエセル王女殿下は意図が読めなかったのか、一度、小さく首を傾げ、困ったような表情を浮かべる。
「まだ、そんな誰かに飲ませる程、上達していないのですが……………………」
「何。娘の紅茶を邪険にする父もいなければ、騎士もおらぬよ」
ここで、出汁にされるとは思っていなかったが、しかし、確かに騎士として答えるしかないのかもしれないと思い、慣れない口を頑張って利用する時だと思い、口を開く。
「王と、エセル王女殿下がお許しになるのならば、私も興味があります」
「…………もう。煽てても上手くなりませんからね」
苦笑しながら、出ていく王女殿下に何とかなったか、と少しだけホッとするが、出ていく前に、王女殿下が急にアルベルト王に振り返ったと思うと
「余り、エルス様を虐めないで下さいね?」
と、一言、残して出ていく中、僕と王は一緒に真顔で沈黙する。
ほんの数秒の間の沈黙ではあったとは思うが、酷く長く感じれた中、先に口を開いたのは王であった。
「…………最近、女の子の成長が怖いと思う事ないかね?」
「…………最近、実感しております……………………」
王と騎士というより男二人の感想になってしまった事に不敬を感じるが、しかし、同意するしかない状況だったが故に、つい口から漏れてしまったが、王は気にせず、うむ、と心底からの同意を一度しながら、ひらひらと手を振り
「娘からもああ言われた以上、私からこれ以上、何かを言うつもりはない、エルス。君は娘のお転婆に付き合った騎士、としておくがいい」
「いえ…………それではエセル王女殿下に傷が……………」
「物の例えだ。それでも思ってしまうのなら言い直そう。君は娘の憧れに付き合った一騎士だ。これ以上の口答えは聞くつもりは無いからな」
「は……………………」
正直、物申したい事は幾つかはあったが、王がそう言う以上、口を出し過ぎるのも不忠かと思い、頷くしかなかった。
それに………………こうして呼んだ上でその話はもう無しだ、という事は………………本題があるという事だと思い、改めて背筋を伸ばし、王の話を聞く事に集中する。
王もこちらの意識の切り替えに悟ったのか。
聡いな、と苦笑しながら王も背筋を伸ばし、紅茶で一度舌を濡らしてから………………改めて告げた。
「────────もう後継者を発表しなければいけない時期だ」
半ば予想した言葉であった為、驚く事はしなかった。
既にアルベルト王がご高齢であるのは周知の事実。
幾ら、アルベルト王が類稀な賢王であったとしても、積み重なる年月に勝つ事は人間には不可能なのだ。
だから、王が引退するという事は誰もが理解し、認め────────そして不安に思う事であった。
人間は誰しも現状維持を望む故に、こういうあからさまな変化が起きる、となると誰しも不安に思うものだ。
特に国民からしたら、自分達を守ってくれている天上の人間が変化するというのは先が読めない事で不安に思っている。
民が今、次代の安心を欲しているのは明らかであった。
そんな、王として最後の仕事を、自分に告げた事に理由を問う気は無かった。
自分は一騎士だ。
つまり、騎士として自分に何かを命じるからこそ、自分はここにおり、そして、それを行う為に、自分は騎士としてこの国に自分を捧げたのだ。
その覚悟を無言で、示しながら、王の次の言葉を待つ。
それを理解したのか、王も特に言葉を重ねず、必要な事だけを告げる為に息を吸う。
「娘は、エセルはその次代を支える皇妃とならねばならん────が、私が思う相手も、そして娘も若い。力が必要だ」
次代の王が誰かを告げる事はしなかったが、語り口から察するに、エセル王女殿下とそう年が離れていない者を選ぶような口調であった────────きっと自分以外の。
痛む資格なんて無い自分は黙って、その言葉に頷いた。
次期国王になる人間がどういう能力や人柄をしているかは分からないが、少なくともエセル王女殿下の事なら分かる。
王女殿下は聡明な方だ。
何れは王に負けない大器だと僕は信じているが……………当たり前だが、直ぐに何もかもが出来る人間はいな
い。
最初の10年は研鑽と苦労の時節となるだろう
つまり、その10年を超える為の人手が欲しい、という事なのだろう、と理解するが
「…………私は一介の騎士です。政略などに詳しいわけでは……………」
「流石にそこまでを求めているわけではない。あくまで騎士として、目となり、手となり、力となって貰いたいだけだ」
王の言葉に自分なりに理解を得る為に脳を回す。
つまり、国を保つ秩序を維持するために、次の王と王女殿下に情報を届け、時には手伝い、守護する…………………という形だろうか。
成程、確かにそれならば、騎士である自分でも力にはなれるだろう。
「当然、君一人に任せるわけではない。騎士団きっての問題児集団────────且つ最優秀とされている君の小隊メンバーも誘いたいと思っている」
「そうですね……………ゼルとヴァイス辺りを常駐とさせ、私やアイン、ジーンで外の情報を収集、且つ問題があった場合の排除などが一番、分かりやすい形でしょうか」
「そうなるな。便座上、親衛隊、とでも名付けようか。恐らく、次の代が軌道に乗れば、直ぐに解散されるような役職とはなるが………………甘やかし過ぎか、とは思うが、つい、大事を取ってしまう」
「いえ……………失礼を承知で言わせてもらうなら、石橋を叩く事は決して、臆病でも無ければ、不要でもないと思います。臆病となるのは、叩いた後、その上を歩けない事だと思います。勿論、叩いた後に崩れそうな石橋と気付いたなら、退くのも勇気ですが」
「…………上手い例えだ。成程、臆病と謗られるのは、安全と確認を得た後に踏み出せない事か……………」
成程、成程、と頷く王に、思わず、自分如きの言葉でそこまで深く感銘を受けなくても………………と思っていると
「────────では、今もその仮面を取らない君は臆病者の謗りを甘んじて受ける、と?」
─────顔面に冷水をかけられたような感覚が身を震わせた。
思わず、王と視線を合わせると、王の眼には決して非難の感情は無かったが…………………決して小さくはない失望の色が見えた。
「正直な事を言おうか。私は何度か血迷って、君をどうにか取り立てれないか、と思った────────が、その度に、私は君が一回の騎士であるという事実と───私はおろか、エセルにすら仮面を取らない男に、娘を預けれるか、という思いに襲われた」
語りかけられる言葉は、失望を抱いてしまった理由。
王所か、娘に──────想いを向けてくれる少女に対しても真正面から見れないのか、という糾弾であった。
思わず、仮面に……………顔に手をかける。
…………………王の言うとおりである。
別にこの仮面の裏には大きな怪我があるからとか、醜い素顔があるからでもなく────────ただ、比べられるのが嫌だったから隠しているだけだ。
無様でとんでもなく格好悪い理由があるだけだ。
たかだか、その程度の理由で俺は友人にも、忠誠を尽くす王に対しても…………………誰に対しても心を隠す恥知らずな事をしている。
もういいだろ、という思いを何度も抱いて………………しかし、という臆病風に吹かれ続けていた。
何て愚かな事だ。
刃を向けて、果てる覚悟は済ましている癖に、子供でも出来る顔を晒す勇気が持てないなんて。
だから、自分は何時まで経っても偽物なのだ、と────────
「…………落ち着きなさい、エルス。私が先に言い出したとはいえ、流石に自分自身を追い詰め過ぎだ」
王の言葉を受け、思わず、瞬きをすると目の中に汗が入り、慌てて拭き取ろうとすると、自分の体が何時の間にか汗だらけになっている事に気付く。
そんな自分の状態に、王は一つ溜息を吐き
「すまない。流石に踏み込み過ぎたな……………」
「…………いえ。王の言葉に何も間違いなどありません。確かに、私が未だ顔を隠しているのは周囲に甘えている私の無様さによるものです……………私は……………未だに勇気を持てない愚か者です……………………」
「────それは違うエルス」
一瞬にして、視線を引き寄せられるような言葉に、エルスは顔を挙げる。
そこには、先程までの失意を告げるような顔でも無ければ、エセル王女殿下に見せる親の顔でも無かった。
そこにいるのは人の上に立つもの。
王としての風格と威風を感じ取ったエルスは思わず、椅子から立ち上がり、膝を着こうと思ったが、王が手でいい、と指示されるとまるで意思を掌握されたかのように体が止まり、しかしその事に一切の不快感がない。
むしろ、ある種の全能感さえ感じながら、エルスは王の言葉を聞いた。
「君は自分の無様さを認めている。それは決して知も恥も知らない人間がする事ではない。君は少なくとも、己が正しさを貫けていないと認める勇気は持っているのだ────────だから、エルス。君はもう少し、君自身を許すことを覚えるがいい」
僕自身を許す
その言葉で思い出すのは………………死んだ己の義母であった。
女手一人で捨て子であった己を育ててくれた母は、死に抱かれる中、微笑みながら僕を抱きしめ
「────────少しは自分の事を許してあげなさい」
それを言われた時は、何を言われたのか全く理解できなかったが………………剣の腕くらいしか役に立つ物を持っていない自分は、せめて亡くなった親が生きたこの街を守ろうと思い、騎士になる事を決めた。
そして、今、自分に同じことを言う王がいる。
許すことを成せ、と言われた僕は…………………直ぐに返事をすることが出来ず、沈黙するしか出来なかった。
王も、僕の態度から直ぐには難しいと思ったのか、顔を少し緩め、ゆっくりやっていいのだ、と示し
「……………一か月後、何かあるのかは知っているな?」
「は……………………建国祭ですね?」
「それが終われば、私は国民に未来を語るつもりだ。まだ親衛隊は本格的に動かすつもりは無いが……………この一月には少しは動いてもらう事になるだろう………………うちの娘のお転婆に付き合ったりな」
つまり、建国祭を終えたらアルベルト王は引退し………………エセル王女殿下の婚約も発表するという事か。
もしかしたら、建国祭にて招待する誰かに意思を求めた後に、決めるのかもしれないが………………この偉大なる王が王を止める、という事はやはり、少し、辛い事ではあるが、でも
「分かりました………………まだ、早いかもしれませんが、国民を代表してお礼を────────王は、私達に生きる光をくれました。その事実だけは、例え誰が否定しようとも、どうか王が誇りとして頂ければ」
────────この齢まで王として国を、民を支えてくれた偉大なる人が、自由になる事を、幸いと思わない臣下などいてはならない。
自分の言葉に王は、一度目を開き、驚愕の表情を浮かべ………………苦笑を浮かべる。
その笑みには何故か、またか、という色が見えたが、王はそれについては一切触れず、やれやれ、と呟き
「────────10年早いわ」
などと、告げるのであった。
次回は、本文で語った一月後の建国祭まで一気に跳びます。
そこから序章の終わりが始まる感じです。