ファイアーエムブレム 王の道   作:悪役

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最後の一日を

 

 

 

 

王都パレスティアは常以上の喧騒に包まれながらも、喧騒に混じる声には喜怒哀楽の内、喜と楽の感情が多分に込められていた。

 

 

 

 

何故なら、今日、この日はアスティア王国の建国記念日という祭りの日だからである。

 

 

 

普段仕事をしている者は休みを取って祭りを満喫する者もいれば、逆に今日、売り上げを伸ばす絶好のチャンスと息巻いている者もいる。

思惑はどうあれ、誰しもがこの祭りに対して、期待と喜びを持って迎えていた────────ごく、一部を除いて。

 

 

 

「らっしゃいらっしゃいーー! 今日は祭りにちなんで商品、安売り中だよーーー!! お! どうだい!? そこのお兄さん達! 何かいらないかい!?」

 

 

甘菓子を売っていた商売人の男は、連れ添って歩いている二人に声をかけた。

その声に、反応した男二人は笑顔でそれに対して、あーーちょっと、と断るにはどうすればいいかなぁ、という風に苦笑を浮かべ、応じていた────────声をかけられる寸前まで、まるで人形のような無表情を貫いていたのを隠して。

 

 

「いやぁーー。俺達、王都の建国祭に来たの久しぶりで。もうちょい、辺りを散策させてからにするから、今回は勘弁してくれ」

 

「おう? 何だ、あんたら他の街から来た奴らか。しかも、久しぶりに王都に来たのか。そりゃしょうがねえなぁ………………んじゃ、せめてうちの試食のを食ってから行ってくれよ。俺っちの店のは上手いから他のを見回しても、ぜってぇ帰ってくるって思わすぜぇ?」

 

 

商売人の男は人懐っこい笑みを浮かべながら、試食用に切り分けている甘菓子をもって、男二人に差し向ける。

男二人も困ったなぁ…………と頬を掻きながら、まぁ、折角という事で貰っていき、そのまま去っていった。

商売人の男は、それにとりあえず満足しながら…………………ふと違和感を感じた。

 

 

 

商売人の男はこの王都で、古株とは言えなくても、長い間、商売してきた人間だ

 

 

 

そうやって客商売をしていたら、物の味方や手段の検討などの経験を得る事もだが、もっと色々と分かる事がある。

それは、歩き方だ────────知らない場所を歩いているような人間と既知の道を歩いている人間の。

外から来た……………さっきの男達のような人間が来た場合、よく来ているとかで無い限り、大抵が、やはり、歩き方に迷いが生じるのだ。

知らない道、知らない街、知らない人間。

それらの要素が全て合わされば、大人であっても足取りに確かな物は生まれない。

 

 

 

 

しかし、先程の二人には、その迷いが無かったのだ。

 

 

 

あの二人は久しぶりに王都に来たという。

年齢は20代後半辺りに見えたから、久しぶりとなると子供の時か、それ以降のどこかと思われるが………………そんな古い記憶で足取りから迷いが消える事があるだろうか。

例え、地図を見ていたとしても、迷い足は無くならないものなのに………………勘が鈍ったか、と店主の男は疑問を感じながら………………しかし、次にターゲットになりそうな客を見て、直ぐに大声をあげて、客寄せをするルーチンワークに入ると、疑問はあっという間に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

────────もしも天が見ていれば、嘆かざるを得ない瞬間であった。

 

 

 

 

この疑問が広がっていれば、嘆きが生まれる事は無かったのに、と。

 

 

 

 

 

 

「…………暇だ」

 

「暇だねぇ……………」

 

 

アインと欠伸を、ヴァイスを溜息を堪えながら、現状を憂いでいた。

現在、アインとヴァイスはそれぞれのトレードマークの鎧を着つつ、しかし、何時もとは違う王宮にいた。

理由としては一か月前に、急に自分達……………エルスの小隊メンバーは急に親衛隊とかいうメンバーにされた事に起因する。

所属としては騎士団というより王家直属の私兵みたいな形になるらしく、命令系統も騎士団であるフリード団長ではなく、王家のアルベルト国王とエセル王女殿下、両名の直接の命となっている。

そんな物を作り出す理由は、これから先、アルベルト王が引退した時、王女殿下と、まだ見ぬ&知らぬ次期国王の直接の手足が必要になると思ったからこそ、という事らしい。

流石に、今回の人事に関しては小隊メンバー全員が驚き、アインは宮廷作法なんて常に赤点だぞ! と嘆い、他のメンバーが誰も期待していないから気にするな、の一言と共に乱闘が起き、何故かジーンが窓から叩き落とされた。ちなみに三階からであったが、ジーンは無傷で生還した。

ともあれ、騎士である以上、王の命令を承るのは当然としてまだ発足はしていないが、とりあえず、仮親衛隊として動いては見たのだが……………………当然だが、この一月で自分達が親衛隊らしい仕事など皆無であった。

 

 

 

 

当たり前と言えば当たり前

 

 

 

何故なら、まだアルベルト王が在位中であるから、まずそこまで自分達が必要になる事は無い。

時折、書類仕事から逃げ出そうとするアルベルト王を追い詰めるという仕事があったが、結果、アインが一本背負いで地面に叩き落とされる光景が生まれた。

当時の記憶を思い出した速度馬鹿は、後にこう語る。

 

 

 

 

「……………いや、あの人……………本当年取ってんのか? すっげぇ、腕してたぜアルベルト王……………………」

 

 

 

どうやら書類仕事に追われながらも、鍛錬は怠っていないらしい。

もしくあ書類仕事が逆に鍛錬になってるやもしれない、と親衛隊メンバーは戦々恐々としていたが、騒ぎを聞きつけたヒューズ宰相が直ぐに王にラリアットを食らわせて引きずる光景を見たら、自分達の修行不足である事実に矜持を傷付けられるのであった。

まぁ、それはさておいて、ならば、自分達の指揮権を持っているもう一人────────エセル王女殿下はどうかと問われたら、もっとする事が無い。

王女殿下も出来うる限り王の執政の手伝いをしているとはいえ、悪く言えば、未だ王の手伝いをしているような状態だ。

まだ、王妃になっていないのだから、十分なのかもしれないが、やはり、親衛隊を動かす程の事は無い。

精々、王女殿下の護衛をしたりするくらいである。

 

 

「平和の世の中っつうのもこれはこれで大変だなぁ」

 

「問題発言だよこの馬鹿。平和の世を嘆くなぞ、屑がやる事だ」

 

「わぁってるよ。俺らが暇って事は民が幸せに暮らせている照明だっつうんだろ? 流石の俺もそこまで堕ちねえわ────────単に仕事がねえってだけだ」

 

「さて……………案外、次の王になったら仕事が盛り沢山かもしれないよ? 開拓事業とか何かに手を出したりするような王かもしれないしね……………まぁ、保守的な王の可能性もあるけど」

 

「最低限、周りを気にする王なら十分なんだけどな……………まぁ、アルベルト王が選ぶんなら間違いはねえと思うけど」

 

 

それは確かに同意できるとヴァイスは頷き、アインはふぅ、と溜息を吐く。

……………………さて、頑張って、会話で間を持たせてみたが、流石に限界である、とお互い思い……………………視線を合わせる。

 

 

「……………………今、俺ら、エセル王女殿下の民衆への挨拶の護衛の為の待機だよな?」

 

「ああ。そして、今、その為のドレスの着替えの為の待ち時間で、野郎である僕らは空気を読んで離れていたけど、何故か途中でエルスだけが呼ばれ、かれこれ15分くらい待機しているね」

 

 

ちなみにゼルとジーンは国王の方の手伝いに駆り出されている為、この場にはいない。

エルスが呼ばれるまでで、大体、10数分。その後に、エルスが呼ばれて今、丁度15分。

ドレスを着る時間もそうだが、十分に、王女殿下が準備完了でここまで来て良い時間である。

となるとこれは

 

 

「嵌められたかなぁ?」

 

「あの王女さん、すっげぇ行動派だもんなぁ」

 

 

ケタケタ笑う馬鹿に不敬だろ、とツッコみながら入れられた紅茶を飲む。

速度馬鹿も出されたクッキーに手を伸ばして、食べるので、何となく声をかけてみる。

 

 

「アイン。護衛として探しに行かないのかい?」

 

「お前こそ。真面目堅物馬鹿は行かなくていいのかよ?」

 

 

これは茶番にすらならないか、と同時に溜息を吐き……………………互いに真似をするな、と視線でやり合いながら、とりあえず結論をヴァイスから出す事にする。

 

 

 

「エルスがいるから大丈夫だろう────────それに、これが王女殿下の最後の恋になるなら、邪魔をする方が不忠だよ」

 

「かーーーーっ、馬鹿は無駄に着飾った言葉を使い回しやがる」

 

 

躊躇わず、速攻でクッキーを取った手でそのまま馬鹿の顔面に叩きつけるが、持ち前の反射神経で躱したうえでクッキーを受け取るものだから、青筋が立つというもの。

しかし、その怒りも次の馬鹿の言葉を聞いたら、急速に冷めていった。

 

 

 

 

「結局、あの馬鹿はどっちを選んだろうな」

 

 

クッキーを片手で適当に弄っているアインを見て、この場合の馬鹿が、誰の事を言っているのかを理解し、一つ溜息を吐きながら、自分もクッキーを一つ手に取る。

 

 

 

「選ぶってどれを?」

 

「王女殿下か、夢か」

 

 

馬鹿はこの辺り、恐れ知らずに言えるから羨ましいような困ったような気分である。

 

 

「仮に、このまま王女殿下を選べば、彼は僕達の敵になるかもしれないんだけど?」

 

「自分で選んだ道だ。納得の上なら、あっちも俺も後悔はしねえだろ」

 

 

これだから馬鹿は……………………と本気で、ちくしょう、と言いそうになり、自制する。

知能云々ならば、この男は間違いなく馬鹿だが………………馬鹿故に大事な事柄だけはしっかりと理解しているから性質が悪い。

一握りの大事な事だけを選べる馬鹿はこれだから、と思いながら、ヴァイスはそれを隠しながら、何時も通りの対応をする。

 

 

「それは君の場合の話だろ? 言っては何だけど、二人の関係は余りにも厳しい。身分もそうだけど、そもそも────────」

 

「────王女殿下は態度で示しているけど、エルスの馬鹿は煮え切らない態度だしな」

 

 

そう。

今まで、王女殿下は誰が見てもという感じで分かりやすかったが、エルスの方は何時もそんな王女殿下に対して、一線退く態度であった。

良く言えば、騎士である自分が王女殿下に過ちを起こさない為、退いていると見えるかもしれないが………………

 

 

「あんなのただの逃げだろ。自分では分不相応だからってな。馬鹿らしい。んなの逃げる理由になるわけねえだろ。八方美人かましてる阿呆だわ」

 

「……………………まぁ、それに関しては同感かな」

 

 

確かに、そういう面もある。

煮え切らない態度で常に逃げているエルスも普通に悪い。

選ぶことが出来ないならはっきりと選べないというのも立派な恋や愛の対応だというのに、不器用というか………………どうすればいいか分かっていないという感じである。

 

 

 

 

…………………まぁ、相手が王女殿下であるならば、多少は理解は出来るけどね………………

 

 

 

尊き血筋の御方が相手だ。

ただ、否定するには余りにも苦しくなる、というのも理解は出来る。

この馬鹿はそこら辺、余り理解が出来ないのだろうけど、まぁ、アインの言う事も真実ではあるので敢えて伝える事もない。

それに…………………この話の場合、辛いのはエルスではない。

それを言うのは本来、不敬ではあるが………………目の前の馬鹿が余りにも正直だから、つい自分もポロリと口から本音を漏らしてしまった。

 

 

「……………………辛いな、エセル王女殿下も」

 

「………………全くだ。次期国王ってのがあの王女殿下に釣り合う男じゃ無かったら、エルスを殴りたくなる」

 

 

あんまり同意してばかりだと、気色悪いので、ヴァイスはクッキーを食べる事によって無言の代弁とさせて貰った。

 

 

 

 

 

 

「わぁ……………!」

 

エルスは銀髪の少女が特徴的な姿を帽子と眼鏡で隠しながらも、祭りの高揚感に声を上げるのを聞いていた。

エルスは正直、こんな事をしていいのか、とは思っていたが、その声を聞いたら、後悔が晴れていくのだから不思議である。

こんな事になってしまったのは約20分前の出来事である。

この祭りにおける、エセル王女殿下の挨拶の為の準備で、ドレスに着替える際に、別室で待機していた時、アインとヴァイスを置いて、自分だけが呼ばれたのだ。

最初は訝しんだが、もしかしてエスコート役かと思い、納得して、部屋に入ると

 

 

 

 

「似合います?」

 

 

 

ドレスではなく、何故か一般人が着るような服装をして、その上で眼鏡と帽子を着けて変装している王女殿下の姿であった。

予想外の姿に、呆然としながらお似合いです、とつい、本心ではなく本音が漏れてしまい、硬直しそうになって何とか取り直したが、少女が目を細めて笑う姿を見たら手遅れだった、と理解させられる。

仕方なく、諦め、何故、そんな恰好をしているのかと聞く。

当たり前の疑問を口にしただけだったが────────目の前に浮かべられた、あらゆる美女を置き去りにする程の美しい笑みを引き出せてしまった事に、本当に息を止められ、次の言葉で止めを刺された。

 

 

 

 

「────貴方に盛大に振って欲しくて」

 

 

 

余りにも完璧(つうれつ)な言葉に、反論所か、抗う事すら思い浮かべれなかったのであった。

結果、エルスは半ば強引に、街に連れ出され、お忍びの手伝いをしている。

ちなみに、自分も今までの目立つ仮面では直ぐにばれてしまうという事で、お祭りで出されている玩具用の仮面を着けさせられている。

ちなみに、アルベルト王顔のマスクである。

余計に目立つのではないかと思ったが、案外、一般人の大人も着けているから問題なさそうである。

それにしても

 

 

 

 

…………………じゃあ、王女殿下の挨拶はどうやって誤魔化しているのだろうか………………?

 

 

 

 

 

 

「民よ………………私の演奏を聴きに来てありがとう………………今回もまた、私は美しい子猫ちゃんの為に我が歌を捧げよう………………!!」

 

 

民衆の前、何時もアルベルト王やエセル王女殿下が挨拶に使っているバルコニーから出てきたのは、何時もから外れるメンバー…………………ジーンであった。

ジーンは誰にでも分かるくらい自分に酔った態度と表情で、楽器を掴んで、演奏を始めていたが…………………エセル王女を見るのを楽しみにしていたメンバー、特に男達はあっという間に怒りに支配され、野次が飛び交う結果に陥った。

 

 

「ふざけんなーーー!!」

 

「イケメンは帰れーーーー!!」

 

「テメ、うちの娘にも手を出した癖に、まさかエセル王女にも手を出したのか……………………!!」

 

「くそ………………イケメン死すべき法とか王様作ってくんねえかなぁ……………………!!」

 

 

見事の大批判にも、基本的に天才のジーンは耳を貸さない。

というか、そもそも野郎の野次には興味がない。

 

 

 

 

欲するは少女、女の声のみ

 

 

 

故にジーンは躊躇わず、この怒りと驚愕のライブ会場を支配するために、楽器を弾くのであった。

 

 

「………………これは、私にも影響を受けていないか、ゼル君」

 

「…………………失礼ながら。お祭り男っぽいという理由で、ジーンを選んだのが………………本当にお祭り男なので……………………」

 

「ぬぅ…………! 君達は本当に個性豊かだな…………………!!」

 

 

裏方で王と騎士がそんな風に叫んでいたりするのだが、当然、野郎の言葉だからジーンには届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

何やら城の方から凄い歓声が響いてきたが、もしかしたら王が何かしたのかもしれない。

アフターケアも完璧か、とエルスは深く頷きながら、小声で、王女殿下に語り掛ける。

 

 

「……………エセル王女殿────────」

 

「今はお忍びなので、王女殿下ではなくエセル……………でもばれますから、エルと呼んでください」

 

 

開幕から、とんでもない言葉を放つ王女殿下にぬぅ…………! と深く言葉を漏らす。

もしかして、僕は女の子に勝てない宿命にあるのではないのか、と思ってきたが、どうしようもない気がする。

それは流石に………………と否定しようにも、王女殿下はわざわざ上目遣いで駄目ですか? と言う風に見上げているので、これは男には勝てない……………………、と納得するしかなかった。

 

 

「……………………エル、お、お嬢様」

 

「………………聞こえませんーー。エルだけです。お嬢様は余計です」

 

天を仰ぎ見る僕は、実は神様に許されていないのだろうか。

有り得る被害妄想を信じそうになるが、もうここまで来たら自棄になれ、というお告げかもしれない、と思い

 

 

 

 

「……………エル。どこに行きましょうか」

 

 

 

諦めて、遠慮なくそう告げる事にした。

勿論、少女の顔を見る気は無い。

例え、耳に、嬉しそうに笑う声が入ったとしても、見る事だけはしたくない。

断固反抗である。

 

 

「そうですね。とりあえず、一通り色々歩きましょう。食べ物もそうですが、色々見て楽しみたいです」

 

「それはまた、責任重大ですね」

 

「男は女を楽しませる度量持たないといけない、ですよ?」

 

「お父上の言葉ですか?」

 

「いえ。お母様の言葉です。何時もお父様に強気で……………でも、私達に優しくて、格好いい人でした」

 

過去形で語られる事に、ツッコむ程、事情知らずでもなければ、無礼でもない僕は深くは聞かず、ただ頷き

 

 

 

「素敵なおかあ………………いえ、素敵なご両親ですね」

 

「はい。私の自慢で、誇りです─────エルス様のご両親はどんな人なのですか?」

 

「僕ですか? 僕は捨て子だったみたいなので、本当の両親は………………」

 

 

普通に、自分の事情を途中まで語って、あっ、と気付いた時には遅かった。

自分のそう言った話は一般………………というより普通の人には重い話であるという事を忘れていた。

他の小隊メンバーでこの話をした時、ゼル以外、ふーーーん程度で終わってたから油断していた。

チラリと振り返ると、やはり少女は聞いてはいけない事を聞いてしまった、という風に顔を歪ませているから、僕は慌てて、フォローの言葉を連ねる。

 

 

「あ、いや、そんな不幸とは思いませんでしたよ。拾ってくれた義母はとても良くしてくれました。こんな風に騎士になれるくらいに」

 

「……………良くして……………くれました?」

 

「う………………はい。騎士になる前に亡くなったのですが………………でも、本当に僕は僕自身を不幸だとは思っていないので、お気になさらず。義母は亡くなっても、義母がしてくれた事は、常に胸の内に残っています────────最近は馬……………仲間もいますしね」

 

「……………もう。そこまで言ってしまったのなら、最後まで言っても同じじゃないのですか?」

 

 

ようやく笑みを浮かべてくれたので、ホッとする。

どうも、女の子との会話を上手くこなせないなぁ、と思う。

ジーンとか、何時刺されてもおかしくない程、ナンパしているけど、口論になっている所を見た事がないという事は、少なくとも女の人に対する話術は凄腕という事なのだろう。

羨ましいとは思わないが、ある意味で生きていく為に必要なテクニックを磨きに磨いているという事か、と思っていると、エセル王女殿下に手を取られる。

 

 

「さぁ。見回りましょう。折角の祭りなんですから、出来る限り見回りたいんです」

 

「食べ物に限定しても、それだけ見回ったら、一日じゃ回り切れないし、太りますよ?」

 

「う…………………意地悪です………………」

 

お腹を押さえて恨めしそうに、こちらを見る姿は、服装も相まって本当にどこにでもいる少女だ。

……………………否、どこにでもいる少女なのだ。

ただ、王族に生まれただけの、普通の女の子だ。

特別な生まれが、特別な人間を生むわけではない事を知っている。

 

 

 

 

そんな普通の少女が……………………盛大に振って欲しい、と笑って言うのが………………どれ程の勇気だったか

 

 

 

本来ならば、それは自分が言わなければいけない言葉だ。

それを主で……………………少女である人に、先に言わせるなんて騎士所か、男としても不甲斐無い。

恥の上塗り、とは正しくこの現状だが……………………愚かな事に、エルスは更に恥を積み重ねる質問をしてしまった。

 

 

 

 

「…………………私は…………貴方を傷付けなければ、いけないのでしょうか?」

 

 

脈絡もない言葉に、エセル王女殿下は一度、瞳を大きく開くが、直ぐに理解して……………………またとても綺麗な微笑みを浮かべ

 

 

 

 

「────ええ。そして貴方も傷付いてもらいます」

 

 

 

 

────────笑みと共に告げられた言葉は断罪の言葉であり……………………許しの言葉であった

 

 

 

最後の最後に見せる優しさは時々、痛みへと変わる事を少女は知っていてやっているのか、やっていないのか。

どっちの可能性も十分にあるから口にしては言い辛い。

その上で……………………仕方がないか、と思う。

 

 

 

 

ずっと何もかもに逃げてきたツケが今支払われる

 

 

 

これは、そういう事だ、とエルスは苦笑し、少女の手に引かれるまま歩き出す。

そして思うは、またしても恥の上塗り。

もう何重に上塗りしているのだ、と内心で自嘲しながらも思う事は一つであった。

 

 

 

 

 

 

────────少女として相対する最後が、泣き顔で終わるのかもと思うのは………………とてつもなく辛い

 

 

 

 

 

 


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