このシリーズは約2年10か月ぶりの更新となります。
黒鉄珠雫編、2話目です。
それでは、今回もよろしくお願い致します。
俺と葉山はノックし、理事長室に入る。
「顔大丈夫なのか?」
真っ先に理事長である新宮寺黒乃は俺の頬の腫れ具合を心配する。
「赤く腫れてますが何とか大丈夫っす」
「それはよかった」
「それよりもあの女は誰っすか?俺の部屋で着替えとかしてましたけど、不法侵入とかっすか?俺、1人部屋のはずですけど」
「その説明は後でする。お前は彼女について何も知らないのか?」
「そうですね。別に興味ないというか、俺自身トレーニングを優先してるんであまり外の情報は知りませんし、知ろうとは思いません」
「そうか....葉山は知ってるだろう?」
「知っています」
「無知なアイツに教えてやれ」
「はい。八幡、彼女はヨーロッパにある小国ヴァーミリオン皇国の出身で第二皇女にあたる人で名前をステラ・ヴァーミリオン様。破軍学園に首席入学でブレイザーランクもAという凄い人なんだ」
「マジかよ.....じゃあ、俺処刑されたりすんの?」
皇女の半裸を見たから処刑は免れない。いや、でも俺...まだ死にたくないんだけど。
「そこまではないんじゃないかな?理事長次第ってところじゃないかな?」
「処刑とかはないから安心したまえ。だが、お前には1つ頼まれたいことはある」
「はぁ....」
「ステラ・ヴァーミリオン、入って来たまえ」
「....失礼します」
怖い怖い、すげぇ...睨まれてる。
「理事長先生、この人の処遇はどうなるのでしょうか?当然、腹切りですよね?」
腹切りとは時代が古い。江戸時代とかだろアレ。
「ステラ・ヴァーミリオン。君は勘違いをしている」
「彼は部屋を間違えて、私の身体を.....嫁入り前の肌を汚したんですよ!!」
「まずはその勘違いを正そう。彼は部屋を間違えたりはしていない」
「まさか....」
「そのまさかだ。君達はルームメイト。同じ部屋でこれから過ごしてもらう。それが、お前に頼まれたい1つの事柄だ」
「!!」
「ちょっと待ってくださいよ。男女で同じ部屋なんておかしいでしょ」
「別におかしくはなかろう。去年までに前例がなかっただけのこと。今年から変えていく。私が今年、ここに赴任してきた理由をお前は知っているだろう?」
「改革ですよね?破軍学園は近年、めぼしい実績を挙げられずにいる」
「そうだ。年1回、7校合同で行われる七星武剣祭でも本校は負け続けている。私が掲げるのは完全な実力主義、徹底した実戦主義。今の学園の状況、状態を変えるべく私は部屋割りから変えていくつもりでいる。力の近しいものをペアとし、互いに切磋琢磨して技術を自分の武器を磨いてもらう。異論反論は一切認めないのでそのつもりで」
横暴過ぎる。
「俺と彼女の実力には近しいものはないでしょう?」
「ほう......なぜそう思う?」
「彼女は頂点であるブレイザーランクA、それに対して俺は最底辺のFランクです。あまりにも差があり過ぎると思いますが」
「アンタ、Fランクなの?」
「ああ、そうだ。それに留年もしてる」
「!?」
「比企谷に関しては与えられた機会がほぼなかったからしょうがないさ。しかし、その分....日々、トレーニングに励み腐らずにここまで耐え忍んで力を付けてきた。それだけでも凄いことだ」
「理事長は買い被りですよ。所詮俺は、バーストワン。ワーストワンとかバッドワンなどと呼ばれてもいる最底辺の男です」
「やれやれ、自己評価の低い奴だ。まったく....」
「八幡はもっと自分に自信を持った方がいいよ」
「葉山もこう言ってるじゃないか」
「はぁ....」
「という訳だ。ヴァーミリオンは反論などはないな?」
「条件があります」
「言ってみたまえ」
「話しかけない、目を開けない、息をしない。以上の3点を守れるならいいです」
「そんな条件、俺の人生詰んじゃうだろ....」
「理事長先生、この提案は呑めません」
「これは決定事項だ。ヴァーミリオン、皇国の皇女だからといって君を特別扱いとするようなことはしない。お気に召さないのであれば退学をお勧めする」
「退学はしません。ですが、この人と一緒だと身の危険を感じます」
「比企谷はリスクリターンの計算と自己保身に関してだけは、なかなかのものだ。そのような状況に陥る心配はない。私が保証しよう」
「ですが....」
「ならしょうがない。ここは1つ。勝負といこうじゃないか。古来より互いの意見と意見がぶつかった時は勝負で雌雄を決するのが通例だ。ヴァーミリオンと比企谷には始業式前に模擬戦を行ってもらう。ヴァーミリオンが勝てば彼を煮るなり焼くなりして構わない。アイツが勝てば、私の提案を呑んでもらうのと同時にアイツの言うことは聞くように」
俺にほぼメリットがない勝負....でも、反論は出来ないんだよなぁ....
「分かりました」
「では、健闘を祈る」
そして、ステラ・ヴァーミリオンと葉山は理事長室を後にした。
この場には俺と理事長のみとなる。
「という訳で、模擬戦頑張りたまえ」
「面倒くさいんですが......」
「そう言うな。これはお前にとってメリットが大きい模擬戦となるんだからな」
「むしろデメリットだらけですよ。ブーイングの嵐、体力・精神力を削られる。圧倒的敗北しかありません」
「そんなものは力でねじ伏せれば何の問題もない。それに短期決戦に持ち込めば体力の消耗は最小限に抑えられる」
「簡単に言いますけど、俺には無理ですよ」
「私との模擬戦で勝った奴にしては弱気だな」
「アレはハンデがあったから勝てたもんなんでノーカンっす」
「いい機会だと私は思うが?ブレイザランクAの実力を公式戦ではなく模擬戦で見れるだけでも十分価値がある。君の得意の観察眼で見定めをしたらいいじゃないか?」
「それはそうですけど....」
ぶっちゃけ模擬戦はやりたくない。疲れるだけだし。
「まだ闇剣の扱いに手こずっているのかね?」
「それもありますね。制御が難しいので」
「なら模擬戦で試すといい」
「いいんすかね?最悪、再起不能とかになりかねませんが」
「その前に私が止めに入るから安心したまえ」
「さいですか.....」
「もうあまり時間がない。いくぞ」
俺と理事長は模擬戦の会場となる訓練場に向かった。
ざわざわ......
ざわ.....ざわ.......
どこで話が漏れたのかギャラリーが多い。会場内は学園の生徒で埋め尽くされており、ざっと50〜80人以上はいるだろうか....
別に見せ物とかじゃないんだけどな。
まぁ.....俺の無様な姿でも拝みに来たか、皇女様を見に来たかの2択だろうがな。
「やっと来たのね。遅いから逃げたのかと思ったわ」
「本当はやりたくないが、理事長の命令だからな。仕方なくやるだけだ」
「これから模擬戦を行う。双方ともデバイスを展開するにあたって体力的、精神的ダメージは最小限に抑えること。危険と判断した場合は私が止めに入るのでそのつもりで.....」
「傅きなさい....【妃竜の罪剣】!!」
「来い、【闇剣】」
固有霊装で剣を出すが、闇のオーラが剣の周りを大きく包み込んでいた。
(まだまだ制御しきれてないか.....)
だが、その方が好都合。短期決戦に持ち込める。
俺のプランとしては様子を見つつ、アイツの力を俺の闇のオーラで吸収して戦闘不能にする。
よし、これでいこう。
【LET'S GO AHEAD!!!】
開始の合図が鳴り響き、双方動き出す。
「はあぁぁっ!!!!」
「ふっ!!」
まずは皇女様の剣技が炸裂するが、俺は闇剣で防ぐ。
訓練場には轟音が鳴り響き、いかに威力が凄いかが分かる。
Aランクなのだからこれぐらいは当然か。
キィィィーン!!
スッ...
ガッッ!!!
皇女様の剣戟が間隔を空けずに何発も俺の闇剣にあたるが俺は間一髪で躱す。
彼女の剣技、剣戟は中々のものだ。努力の積み重ねで得たものがそのまま剣に乗っかっている。これはかなり手こずりそうだ.....普通の人ならばな。
俺の闇剣はその力を吸収する。剣に当たれば当たるほどカを吸い取っていく。しかし、やりすぎると魂(命)さえも奪ってしまうため制御が必要不可欠。慎重にやらないといけない。俺が約一年かけて習得した新技、ソウル=アドソープション(パワー=アドソープション)
ネーミングセンスに関してはどうか目を瞑っていただきたい。
「中々、やるじゃない」
「どうも。さすがは皇女様、貴方の剣戟はさすがだ。血の滲む努力をした結果でしょうか」
「!」
「まぁ、最底辺の奴に褒められても嬉しくはないと思いますが」
「それではそろそろ決着を付けましょうか。始業式まで時間がありませんし」
「いい度胸ね。その度胸を讃えて私の持てる最大の力で貴方を倒すわ」
「それはやめておいた方がいい。戦闘不能か.....もしくは死ぬぞ」
「大丈夫よ。私、死なないから」
やれやれ、制御は難しいが....やるしかないか。
相手が本気ならそれに応えよう。
【蒼天を穿て、煉獄の焔!!!】
ゴオオオッッ......!!!
なんてオーラの量だ。1人を倒す量を遥かに超えている。
これがAランク.....ふっ。こんなとこで躓いてちゃ、俺の目標は到底叶わない。
【インフェルノ=ゲート】
「なんだ.....あの闇の魔力量、ハンパじゃねーだろ」
当たり前だ。戦闘不能となる加減の最大量の魔力量を剣に乗せてんだからな。
それと技のネーミングセンスについては....触れないで頂けると助かります。
「これで貴方を倒すわ」
「受けて立つ」
「はあぁぁっ!!!!」
2人の剣技と剣技が最大魔力量でぶつかる。
そして..........
「戦闘不能、勝者................
○○八幡!!!」
この模擬戦に決着がついた。
-ー
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「お疲れ様です。お兄様」
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結局、始業式は出られず.....HRから出席となった。
お互い、別のクラスがよかったんだが.......
「「..........」」
よりによって同じクラス、しかも隣同士の席。
そして、クラス内の雰囲気もあまり良くない。
気まずい空気が流れている。
まぁ、俺は慣れてるからいいけど...
「では、HRを始めたいと思います」
担任の先生は七星剣武祭の説明を詳しく行う。
前とは違って能力値からの選出から実戦からの選出となっている。
能力値の低い俺でも選出可能というわけだが、早々簡単に選ばれるわけではない。強い奴は山程いる。決して油断は出来ない。
「それでは、今日のHRは終了です。各自、寮に戻るように」
今日の日程は全て終わった。
早く寮に帰りたいところだが....皇女様と共に理事長室に行かないとなんだよな......
皇女様はもう理事長に向かってるよな。俺も行かないと......
「ちょっといいかな?」
理事長室に行こうとするが、声を掛けられる。
「ん?俺か?」
「うん。さっきの模擬戦、凄かったなって......」
「そうか?」
「うん!あのステラさんに勝ったんだもん!」
まぁ...ヴァーミリオンは皇女で有名人だから、そういう反応するのは無理ないか。
「運が良かっただけかもだけどな」
「そんなことないよ!あっ....自己紹介がまだだったね。僕は戸塚彩加。よろしくね」
「俺は........黒鉄八幡だ。出来れば下の名前で呼んでもらえると助かる」
俺の苗字はあまり好きじゃないからな。
「うん!じゃあ、八幡って呼ぶね!」
「おう。じゃあ、俺は理事長室に行かないといけないから」
「分かった。また明日ね」
俺は会釈をして、理事長室に向かった。
戸塚って可愛い子だったな。男だけど.......
「失礼します」
「やっと来たな」
「それでは.....先程の模擬戦の結果、八幡の勝利ということでヴァーミリオンには私の提案を呑んでもらう」
「分かりました」
「八幡からは何かないのか?模擬戦に勝ったんだ。何でも言っていいんだぞ?」
「いえ、特には....」
何もしないから......身構えるな、皇女様。
「本当にいいのか?彼女を思うがままに、好きに出来るチャンスなんだぞ?」
「理事長らしからぬ発言ですね。まぁ、皇女様は魅力的な女性ではありますが、俺には釣り合いが取れていません」
「っ!!」
「さすがは理性の化け物だ」
「ありがとうございます」
「褒めてなどいない」
「強いて言うなら.....平穏な生活が送りたいですね」
「欲がない奴め」
「よく言われます」
「というわけだ。ヴァーミリオン、うまく八幡とやっていきたまえ」
「....はい」
「八幡はもう退出していいぞ」
「うっす」
俺は理事長室を後にする。
「模擬戦、お疲れ様でした........お兄様」
すると向かい側から懐かしい声が聞こえる。
「.....珠雫なのか?」
「はい。4年ぶりですね........お兄様」
「なんか雰囲気が変わったな」
「そうでしょうか?」
「なんていうか.....可愛くなったな。久しぶりに会ったからかもしれんが。まぁ....それはともかく、会えてよかった」
「嬉しいです!私もずっとお兄様に逢いたかったです。これからはずっと一緒にいられますね」
「そうだな」
「この後は予定などありますか?」
「今のところないな」
「それでは.....今日この後、珠雫とずっと一緒にいてくれますか?」
「それぐらいなら構わないが、珠雫はいいのか?」
「何がですか?」
「ダメな兄貴と一緒にいたらアイツら(親父とお袋)になんか言われるだろ?」
親父とお袋は俺にはかなり厳しいが、珠雫には優しいからあんなグスと一緒にいるなとか言ってきそうだが.....それによく、俺と一緒の学校に行くことを許可したよな。何か企みが......そんなわけないよな。
「ダメ兄貴なんかじゃありません!!!」
「うおっ....どうしたいきなり?」
「お兄様は私にとって本当に.....本当に大切で......かけがえのない、お兄様なんです!2度と自分をそんな風に言わないでください!!」
「そうか....変なこと言って悪かったな」
「お兄様が謝る必要はありません。謝るべき人は父と母ですから」
「ああ......お詫びとして今日一日は珠雫に付き合うから」
「はいっ!それでは、行きましょう♪」
「そうだな」
俺は珠雫の手を取り、歩き出す。
(俺はとてもいい妹を持ったようだ。これからもっと強くならないとな。自分の為にも、珠雫の為にも.......)
ー side out ー
ー ステラ・ヴァーミリオン side ー
「理事長先生、お話があります」
「ほう?聞こうじゃないか」
「彼は一体、何者ですか?」
「何者とは?」
「とぼけないでください。ブレイザーの能力が不足していてランクFなのは分かりますが、彼の実力なら留年は免れるはずです。なのに、何故留年なのですか?」
「ふむ。知りたいか?聞きたいか?」
「はい」
「知りたいのなら、それ相応の覚悟がいるがいいか?彼の過去を......彼の味わってきた辛い過去を知って耐えられる覚悟が......ステラ・ヴァーミリオン、君にはあるかね?」
「はい」
「よかろう。だが、この話はアイツにはするなよ?私が怒られるからな」
「誰にも言いません」
「それでは、アイツの過去を語ろう」
私は、聞くべきではなかったかもしれない。
そんな、壮絶で辛い過去を彼.....黒鉄八幡が持ってたなんて.....
私は、理事長先生の話を全て聞いて絶句したのだった......
......続く
ここまで、読んでくれた方々ありがとうございます。
八幡の過去について深く掘り下げることはしません。
出来れば、明るい話を執筆したいので.....本当に必要な時になれば、少し振り返るぐらいに留めようと思います。
やっと珠雫ちゃんが本格参戦です。一輝くんは八幡の従兄弟として登場させる予定です。
それでは、次回もよろしくお願い致します。