「ふぁぁぁ……」
授業開始の初日の朝、食堂に向かう途中にそんな
その理由は単純で、只今の時刻は午前四時半の少し前。なので眠いのも仕方ないというものだ。
しかも昨日は一日中を英語の勉強で頭を使っているので、普段の早起きの時より眠い。
なぜこんな早起きをして食堂に向かっているかというと――
「あ、修さん。早いですね」
「そりゃあ、バイトとして働かしてもらう初日なんだから早めにも来るよ。……というか、朝の仕込みにしては遅い方だと思うぞ。この時間だと」
――食堂で朝の調理の仕込みのバイトをするためだ。
実は昨日、勉強の合間にフラワーズにご飯を食べに行った時に、バイトを多く掛け持ちしている葵ちゃんに『良い仕事ない?』と聞いたのだ。
そしたら『朝の食堂の仕込みなんかいいんじゃないですか?』と言われたので、葵ちゃんのコネで食堂で面接をして、今日から週に何回か働かしてもらうことが昨日決定した。
「ほとんどは専門の方たちがやってくれてますから、わたしたちは簡単な料理を作るくらいなんですよ」
俺の事を食堂の入口で律儀に待ってくれていた葵ちゃんが、俺の疑問に答える。
そしてそのまま話しながら食堂へと一緒に入る。
「……ところで葵ちゃんは、俺の事を何分くらい前から待っていたんだ?」
「そんなに待ってませんよ。一、二分って所ですかね。十分前には着いておこうって思って待ってたら、すぐに修さんが来てくれました」
「そうだったのか」
姫乃を小さい頃待たせて怒らせて以来、女性を待たせると怖いものだというものが俺の中から消えないものとなってしまっているので、それを聞いて少しほっとしてしまった。
「でもなんでバイトなんてやろうと思ったんですか? こういっては何ですけど、風見鶏の学生でバイトをしている人なんてほとんどいませんよ? いても、前にやっていた人は勉強や魔法の研究も
「まあ一応……疎かになったらなったでそれから頑張ればいいかなぁ~、ってことで、今は少しでもお金を貯めておきたいんだよね」
「何か欲しい物でも?」
「いや、欲しい物はないんだけど……少しでも学費の足しになればなと思って。ここの学費って高いから払ってもらっているのも申し訳なくて……」
今葵ちゃんに言った一言は、バイトをしたい理由の全てである。
というかこれ以外にバイトをしたい気持ちになる理由が他にまだない。
なので恵子さんには内緒でバイトをすることにしたのだ。
ちなみにバイトについてはロンドンに来る前から考えていたので、魔法の遅れに関してもとっくに覚悟は出来ているので、葵ちゃんの言っている風にならないよう頑張るつもりだ。
「ということで、これからよろしくな。葵ちゃん」
「いえいえ、こちらこそです」
葵ちゃんと挨拶を交わし、俺は葵ちゃんと仕事場に向かった。
葵ちゃんに仕事を
葵ちゃんも今回だけは自分と食べるとのことで、一緒に席に向かう。……まあ葵ちゃんは食べ終わったらに仕事に戻るらしいけど。
「それで修さん。これから待ち合わせしている人というのはどういう人なんですか?」
前に約束していたメアリーとエドワードの分の食事も持ちながら席に向かう途中で葵ちゃんがそんなことを聞いてきた。
「えっと、一人はメアリー・ホームズっていう女の子で、もう一人はエドワード・ワトスンっていう俺と同じ『男』だよ」
エドワードが男というのを少し強めに言っておいた。
「あ、ホームズって名前は聞いたことあります。確か探偵の血筋の家系だとか……」
「へー、よく知ってるね」
「あはは。そりゃあ修さんより長くここに住んでますからね。そういう情報も入ってくるんですよ」
少し自慢げに話す葵ちゃんの話を聞きながら、葵ちゃんがメアリーの事を知っていた驚きと同時にメアリーが探偵の家系ということに驚かさせる。
(……探偵って性格じゃないよな)
失礼ながら本などで登場する探偵などとはメアリーがあまりに違う性格の為、そんな感想を抱いてしまった。
そうやって葵ちゃんの話を聞きながら食堂の席の多く並ぶ場所に出ると、すでに見知った顔が二人座っていた。
「あ、やっと来たわね。おそいわよ、シュウ」
「おはよう。修くん」
「おはよう二人とも。――急なんだけど、この子も相席させてもらってもいいか?」
席に座りながらそう聞くと、メアリーもエドワードも首を縦に振る。
「失礼します。わたしは陽ノ本葵といいます。いつもはこの食堂やフラワーズで働いでいるので、気軽に声をかけてください」
「僕はエドワード・ワトスン。よろしくね、葵さん」
「あたしはメアリー・ホームズ。よろしくね」
「えっと……はい。よろしくお願いします」
一瞬エドワードの名前を聞き不思議そうにするも返事を返す葵ちゃん。
……多分、先に俺がエドワードが男だと伝えているから戸惑ってるんだろう。証拠に葵ちゃんがこちらを向き俺に確認する目つきで視線を送ってきた。
なので葵ちゃんに首を縦に振り肯定と伝える。
すると、
「あの修さんから聞いたんですけど……男の子……なんですよね?」
とエドワードに半信半疑で確認をとる。よっぽど信じられなかったらしい。
「うん。正真正銘、男です」
「そ、そうなんですか……」
まだ驚いてはいるが、他人の俺が言うより、本人が肯定したことにより葵ちゃんも信じたらしい。
「ほらシュウ。これがエドワードを見た時の一般的な反応よ」
「うるさいなぁ。俺だって驚いてたろ」
「シュウは『男かどうか』じゃなくて『男がどうして女装しているのか』に驚いたんでしょ? なら
「えっ、もしかして修さん男の人だってすぐに分かったんですか!?」
葵ちゃんが今度は俺のことを驚いたように見る。
それから葵ちゃんになんで男だと分かったのかとか『授業はどんなものなのかなぁ』と想像を膨らませてみるなどをして楽しみ、そこから葵ちゃんに三人で朝ご飯のお礼を言った後(仕事の合間に特別に作ってくれた)別れ教室へ二人と一緒に向かった。
――ちなみに前日に二人から『日本の料理が食べていたい』と言われて持っていた、葵ちゃん特製の卵焼きやお新香などといった定食料理はかなり美味しかった。
久々の更新でした。……待ってくれてた人いるのかな?